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あにの なんも言えねぇの話
「なにも言えねぇ!」
みなさんもご存知でしょう。水泳界のレジェンド北島康介が2連覇2冠を達成した時の言葉ですね。
どうも。徐々に投稿間隔が開いている兄弟の兄のほう、あにです。
かねてからご案内の通り、あには産声を上げて以降常に運動が嫌いでしたが、中学に入ったらなにか運動部に入って体を動かせという母の圧に負け、以前話したとおり就学前に2年間スイミングスクールに通っていたので多少は泳ぐのが得意であったのと、シーズンオフは週一しか活動のないというのに惹かれ水泳部に所属していました。これまで培ってきたあに像を裏切ってしまうようで申し訳ありません。
実際に入部してみると、我々兄弟が通っていた地元の公立中学校の水泳部は、地元のスイミングクラブに通っている生徒が大会に出るために設置されている部という感じでしたので、特にそういった志もなく何故か所属しているあには顧問の先生にとって、えっちなビデオ屋さんが諸々の体裁を整えるためだけに売っている洋画の中古VHSを買っていく客のように思われていたことでしょう。
部活動であるという建前のためだけに行う月に二回のトレーニングは2時間で終了。オンシーズンでも毎日プールにはあに一人という始末で、わりと伸び伸びと部活ライフを過ごしておりました。
そんなあに以外全員幽霊のような水泳部ですが、大会となると話がかわってきます。前述の通り地元のスイミングクラブに通っている生徒が大会に出場するためにある水泳部ですので、大会となるとどこからともなく湧いて出たクソ早い先輩たちが、限りある出場枠をモリモリと埋めて行く中、唯一皆勤賞という実績が認められ、あにも1種目だけ出場することが決まりました。
50m平泳ぎ
もちろん出場標準記録はギリギリアウトですが、この日からあにの得意種目は平泳ぎになりました。
なんやかんや多少は練習して大会当日。
大会とはいっても市内の大会ですので、会場は普段友達と行くごく普通の市営プールに、普段は見られないコースロープが張られ、いつもは使われていないアスファルト製観客席では市内各校の水泳部員たちが陣取り合戦を行っております。
そんな中前年の優勝校であった我が校はゆうゆうと一番高い場所を確保し、全員がなれた感じに着替えを始めます。
初めての大会で右も左も段取りもわからないあにもそれに倣います。
熱くて固いアスファルトのベンチに荷物を置き、そうだ、着替える前にトイレに行っておこうと思って観客席をおり始めた一歩目、足元に違和感を感じました。なにやら硬くて丸い棒状のものを踏んだようです。
前年度の優勝校であった我が校に預けられた優勝旗の旗竿でした。
大変な物を踏んでしまいました。市レベルの大会とはいえ、何十人という市内の水泳部員達が、1年間の努力と修練の成果をぶつける大会。その優勝旗を踏んでしまうとは。
……バチがあたったんでしょうねぇ。
観客席を降りる勢いで踏んだ旗竿。
丸い旗竿は回転します。
全体重がかかった左足が、回転する旗竿とともに前にくるりんっと…
その下はアスファルト。
左足の親指から伝わってくる「ぞりっ」という感触。
親指の爪が半分なくなっていました。
もう着替えどころではありません。
あわてて救護所へ駆け込むと、幸いそこに詰めていたのは副顧問の体育教師。
訳を話して怪我の状態を見せます。
「これは…今日は泳げないな。なんでこんなことに……」
「何も言えねぇっす……」
その後なんやかんやいって都の大会で北島康介と戦うことになるあにの最初の大会の話でした。