あにの 未熟が故の話
どうも。あにです。
今回のお題は「未熟が故」の話だそうです。
普段から、絶好調時の押尾学くらい謙虚に控えめに生きているあにですが、大厄を迎えてなお未熟がゆえの失敗ばかり。反省しきりの毎日です。
さて、あにがまだ幼稚園児の頃。ぎり昭和の時代。
あに一家が住んでいた2K風呂付きトイレくみ取り式の借家の前には栗林がありました。
地元の地主の持ち物なのでしょう。
今思うと大した広さではないのですが、当時幼稚園児であったあにと幼なじみの悪ガキ集団にとっては富士の樹海もかくやという巨大な森のように感じておりました。栗森林。
もちろん栗の木なので、秋になるとたくさんの栗の実がなります。
甘味に飢えた幼稚園児集団。
旬の栗。
これはもう、栗拾いでしょう。
しかし幼稚園児から栗泥棒へと身を落とした集団に対し、地主もただ手をこまねいているわけではありません。
栗泥棒たちの前に立ちはだかるのは、今は懐かし有刺鉄線の垣根です。
栗林の隣りにある、幼稚園児の目には空き地の原っぱにしか映らない芝畑には、ヒイラギの生け垣のトゲトゲの葉っぱを長袖長ズボンで防御して飛び越えて侵入する栗泥棒たちも、有刺鉄線相手ではそうはいきません。
しかし幼少の頃から聡明なあに少年。杭と杭の間隔が長い場所の有刺鉄線は他の場所に比べてたるみが多く、広げれば子供一人が通ることができる程度の隙間を開けられることを見抜きます。
突破方法さえ発見されてしまえば、そこにあるのはただ少々出入りがし辛いだけの玄関です。
癌から奇跡の復活を果たした小橋建太選手の復帰戦で、リングインを助けるためにトップロープとセカンドロープをぐいーっと広げるタッグパートナーの高山善廣選手のように、有刺鉄線の棘のない部分を手足で広げるあに少年。それに続く栗泥棒たち。全員侵入したのを確認すると、先に入った栗泥棒の助けを借りてあに少年もリングインします。
入った先はあちこちにバックリと開いたイガグリが散らばる、まさにこの世の天国。泥棒たちは各自持ち寄った野球帽いっぱいに栗を集めます。
そして帰り。
入るときと同じように、三沢光晴と武藤敬司の2人の天才が電撃タッグを組んだ際に先にリングインした武藤敬司が相棒の三沢光晴を迎え入れるときのように有刺鉄線を広げて栗泥棒たちを逃がすあに少年。
全員が脱出を終え、あとは入るときと同じように、あにも他の栗泥棒の手助けを受け脱出すれば今回の狩りは大成功です。
しかし狡猾な栗泥棒と言えど所詮は幼稚園児の集まり。
大量の収穫物を手にし、立入禁止区画への侵入という緊張から開放された幼稚園児たちは、一人取り残されたあに少年の脱出の手助けなど、いともかんたんに忘れてしまうのです。
駆け出し、みるみる離れていく栗泥棒たち。
「まってー! てつだってー!」
叫ぶあにの声など耳に届きません。
どうしよう。
このままではこのまま栗林の中で生きていかなくてはなりません。
食べるものが栗しかないこの栗林の中で、あに少年は齢をとり、そして死んでゆくしかなくなってしまいます。
それだけはなんとしても避けなくてはならない!
もっとしょっぱいものも食べたい!!
聡明なあに少年は考えました。
足でサードロープ(有刺鉄線)、手でセカンドロープ(有刺鉄線)を支えているから身動きがとれないのです。
右手でサードロープ(有刺鉄線)、左手でセカンドロープ(有刺鉄線)を支え、できた隙間からレイ・ミステリオJr.の619のように足から外へと抜け出せばいいのです!
理論が完成されればあとは実践あるのみです。
両手でロープ(有刺鉄線)を広げ、あに少年、脱出!
ぞろる
右足から聞き慣れない音が骨を伝って聞こえてきます。
聡明なるあに少年、そこで気づきました。
いかに理論が完璧でも、読書と怠惰をこよなく愛するあに少年には、レイ・ミステリオJr.のような運動神経が兼ね備わっていなかったということに。
恐る恐る右足に目をやると、兄少年の細くて白いむこうずねが、足首から膝までパッカリ……
ああ…以前テレビで鰻をさばいているときに見たことがあります。武家社会であった関東では腹を切ることが嫌厭され背開きにするけども、関西では腹から開くっていってたっけな。しろいうなぎの腹を包丁ですーっと割いていったときの、アレです。
もちろん号泣。
あにの号泣に異常事態を悟った栗泥棒たちは慌てて戻ってきます。
さすがに反省をしたのでしょう。ある者は手をつないで「だいじょうぶ!早くかえってくすりぬってもらおう!」と励ます者や、落とした栗を拾ってくれる者など、さっきまでの薄情さはどこへやらです。
そんな中で一人、すこしだけ年上の栗泥棒が青い顔で言います。
「おれ、聞いたことある。錆びたバリ線で怪我をすると……毒で死ぬって」
なんということでしょう。
栗林で一生を過ごすことを拒否して脱出したあに少年、まさかこんなところでその一生を終えることになるとは……。
「だいじょうぶだよ! さっき出てきたところのバリ線はまだ新しいやつだったから!」
別の栗泥棒がフォローしてくれます。
確かに他の出入りできない部分の有刺鉄線は元の色がわからないくらい真っ茶色に錆びていましたが、我々が出入りに使っていた部分は最近張り替えたばかりでまだピカピカしていました。
しかし栗泥棒の集団が全員出入りする間ずっと間近でトゲを観察していたあに少年は知っているのです。
一見ピカピカの新品のように見える有刺鉄線ですが、よく見ると先の方からサビが出始めていることを……
もう…… だめだ………
あには栗泥棒たちに最後の別れを告げると、家で内職をしている母の元へと向かいました。
先立つ不幸を詫びるために……
「おかあさん、そこのバリ線で足切っちゃった……もう、毒が入って……死んじゃ」
「あーもー、また怪我したの?! そこにマキロンあるからかけときゃなおるよ!」
結局残り少ないマキロンをぶひーぶひーいわせながら吹付け、ティッシュで押さえつけることで、あに少年は今も生き延びております。
あにが生まれる何十年も前から破傷風トキソイドの接種を進めてくれた厚生省には足を向けて寝れないあにの、イガグリとの思い出の話でした。だって前のおとおとの話の下読みしたとき、絶対タイトルはイガグリの話だと思ってたんだもん!
追伸
プロレス好きのあにですが、有刺鉄線系デスマッチとか有刺鉄線ぐるぐる巻バットとかは生理的に受け付けません。なんででしょうね!
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