ごめん

その日は金曜で、コロナ禍のため世間では在宅ワークが浸透していた時期でした。
検査は午後からであり、在宅ワークだった私は家内を送り出しました。
本当は不安から一緒に検査に同行してもらいたかったと、後になって聞きました。

以下は家内から聞いた内容です。

クリニックで血圧を測ったところ上が200を超えており、検査で何かあるのではと予感して動揺したのではと思ったそうです。
それから検査が終わり、カメラ画像を見ながら医師から説明を受けました。
大腸の奥から直腸に向かってしばらくきれいな状態が続いていましたが、直腸に差し掛かった付近に異変が見つかり、医師の見解はかなりの確率で悪性とのことでした。
診察が終わって待合室で会計を待っている時、看護師が家内の顔色を見て心配されたようです。この時の家内の気持ちとしては、どう私に伝えようかと考えていたようでした。

家内が帰宅したのは夕方。おかえりと出迎えた時、家内は部屋に入ってしばらく立ちすくんだまま、暗い表情で一言。

ごめん

何のことか分からず、?と頭の中を巡りました。説明を聞いて、茫然としました。
詳しくは翌週切り取った組織の病理検査結果が出ないと確定できませんが、ほぼ悪性とのこと。
自然に涙が溢れてきました。この2年間、母に続いて父を亡くしたばかり。今度は家内なのか。一体どこまで天は試練を与えるのか、と思わざるを得ない瞬間でした。

家内は私を心配させないため、夕食に向けてノンアルコールビールを買ってくると言って外に出ました。検査後だからアルコールを控える必要がありましたが、週末前なので私と乾杯するためにわざわざ買いに出掛けて行きました。
その配慮が嬉しくもあり、悲しくもあり。

夕食は消化の良いうどんすき。この時から、うどんすきは私たちの重大なイベントの日に登場します。ビールを飲みながらたわいのない会話をしつつも、アルコールが入ると涙腺が緩んでしまいます。
なぜもっと早く分からなかったのか、毎年受けていた人間ドックでの便採血も問題なかったのに。過去を振り返るときりがありません。
更年期あたりに一度は大腸内視鏡検査は受けた方がいいと、家内はある肛門クリニックの先生から言われていたようでした。早めにこの検査を受けていれば、と思っても時は戻りません。
なんとかこの状況を乗り越えていくしかないのですが、この時は何をどうしたらいいのか、先がまったく見えない暗闇の中で光すらない世界でした。

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