【 たびびと 】 いつも幸せ過ぎた僕たちだったのに。 ふたりはそのことに今まで気づけなかった。 最後に交わした言葉は「おやすみ」だった。 それはたわいもない、 いつもと何も変わらない。 今までと何も変わらない。 たったその4文字だけだった。 僕は机の上に手紙を置き、静かに家の扉を開けた。 外はまだ暗さが残る、まるで夕暮れの空。 さっきふと見た君の寝顔は、本当に幸せそうだった。 僕は、旅立つには少なすぎる荷物を抱え、静かな砂利道を独りで歩いた。 まだ何の