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祓い、護る者たち 40話


━━東京支部 第一会議室

新人研修の該当エリアに特級霊魔が一体、ならびに大量の霊魔が出現。

この観測班からの報告に、白石の指示を待たずに温は支部長室から飛び出して行った。

奈々未:もう、あのシスコン共は.....

白石:とりあえず、私達もーー

その時、白石の言葉を遮るようにスピーカーから一つの報告が届いた。

"観測班より、再び緊急連絡です! 第26エリアにて一級術師の中田花奈、ならびに中元日芽香の霊力消失を確認しましたっ!!!"

先程の報告から間隔が空くことなく、二度目の観測班からの報告に、全員が言葉を失った。

霊力は、術師が生きている限り消失することは無い。

それは、心臓が全身に血液を送り続けているように、肺が空気を送り続けているように、霊力は霊核から送られ、全身を駆け巡っている。

しかし、先程の観測班からの告げられたのは、霊力が消失したという報告であった。

それはすなわち、その術師が死亡したということを示している。

白石:えっ......花奈とひめたんが?

奈々未:.....死んだってこと?

飛鳥:っ....

柊真:マジかよ.....

仲間の死亡報告。

今の白石達を絶望に叩き落すには十分な情報であった。

深川:私達も行かないと!

そんな中、少しでも仲間を助けようという深川の合図で一斉に会議室を飛び出して行く。指揮を執るために支部長の白石は会議室に残った。





衛藤:作戦は?

柊真:飛鳥がひたすら隕石落とすってのは?

奈々未:却下。そんなの味方も全員死ぬよ

柊真:んな事、言ってる場合じゃねぇだろ!

衛藤:たしかに。状況も状況だし、柊真の意見も一理あるよ

すでに甚大な被害が出ているのが現状。

柊真と衛藤の二人は、いち早く霊魔を倒し、これ以上の被害を抑えるためにも多少の犠牲は構わないと考えていた。

そして、この二人の頭の中には「最悪の事態を回避する」という共通の考えがあった。

すなわち、術師達が全員敗北し、この国が霊魔によって滅ぼされるということ。

が、深川はそれを正面から否定する。

深川:それはダメ! 大丈夫....いざとなったら、私の術式でーー

「それはやめてほしい」

どこから聞こえた一つの声が、深川の言葉を遮る。

直後、深川達の目の前に黒いモヤが出現し、それが形を成してゲートを創り出した。

衛藤:○○....?

奈々未:いや、○○のゲートは青色

柊真:なら、敵だな!

目の前の少年を秒で敵認定した柊真は、一切無駄のない動作で抜刀。鋒が少年の首を捉えようとした、その時ーー柊真の姿が廊下から消えた。

飛鳥:は?

奈々未:柊真が消えた?

「アンタ達には、用はないから適当に飛ばすね」

奈々未:しまっーー

飛鳥:くそっ....

衛藤:おっと....

創り出された三つのゲートが飛鳥、奈々未、衛藤を取り込み、三人の姿も消える。

深川:(一瞬でみんなを転送させた。〇〇と同じ空間の属性使い.....)

瞬時に相手を分析。すぐさま対策を立てた深川は反撃の体勢をとる。

「〝原初の女神〟の貴女には、少しの間消えていてもらうよ」

深川:そうはいかない! 術式展開〝森らーーうっ....

深川が言い切る前に、背中に痛みを感じ顔を歪ませる。ゆっくりと振り返る深川。痛みを感じたその背中には、十手のような形をした短刀が刺さっていた。


特級霊具「天逆鉾あまのさかほこ

千年前に存在した霊具であり、その効果は〝術式の強制封印〟。

この刃に刺された者の術式を強制的に封じるという代物である。

しかし、これは模造品レプリカであるため、本来なら永久に封じる力も、その効果は一時的なものである。


が、それでもできた、最強術師の一瞬の隙。

「今のうちに....ーー絶対隔離〝封緘〟!!!」

瞬間、黒い半透明の膜が深川を取り囲むように、四方八方に展開。そのまま深川を囲い込み、一気に圧縮されて手の平サイズまで小さくなる。

一分にも満たない、僅かな時間で最強の術師が封印された瞬間だった。

「ふぅ....時間稼ぎにしかならないけど、上手くいったな」






柊真:チッ、転移させられたのか......

突如として視界が切り替わり、周りを見渡すと見覚えのある景色が広がっていた。

ひとまず状況を整理するために、煙草に火をつける。

刹那、柊真の動きが止まった。

全身の血が凍ったと錯覚するほどのプレッシャーを肌で感じ、手に持っていた煙草が地面に落ちた。

柊真が視線を向けた先にいたのは、小さなおじさん。

130センチほどの小柄な体躯。後頭部が肥大していること以外は、人間の老人となんら遜色のない姿。

それはかつて、妖怪の総大将とも称された存在。

神格級霊魔ーー〝ぬらりひょん〟

神と同等の格を持つ最強の霊魔が大阪支部に続いて、東京支部にも現れた。

身の毛もよだつような圧倒的なプレッシャーを前に、刀を持つ手が震え、額には脂汗が滲んでいた。

久しく感じていなかった、生存本能から来る〝恐怖〟が全身を駆け巡る。

柊真:(くそっ....ビビってんのか、俺.....)

震える手を必死に抑えながら、心の中で自問自答する柊真。

ふと、視線を前に向けると、黙ってこちらを見ているぬらりひょんが。

その表情からは、一切の感情が読み取れない。

ぬらり:なんぞや....なんぞや......

ただ、無機質に、壊れたステレオみたいに「なんぞや」という一つの単語をひたすら繰り返していた。

柊真:(迷っても仕方ねぇ....やるしかねぇんだ!)

覚悟を決めた柊真が、鋒をぬらりひょんに向けて刀を構える。

と、その時、

「ーー〝壊劫えこう〟」

凛とした涼やかな声を柊真の耳が捉え、その直後にぬらりひょんが上からの見えない力によって押し潰された。

柊真:えっ....は....?

呆気に取られて言葉が上手く出てこない柊真の前に、空から一人の少女が降りて来た。

「貸し一つね、ヤニカス君?」

イタズラっ子のような笑みで振り返った少女ーー飛鳥の登場に内心ホッと胸を撫で下ろす。

柊真:お前、よくここに来たな

飛鳥:私が飛ばされた場所がアンタに近かったからね。それに、一人であれは流石にヤバいでしょ

地面の染みと化したぬらりひょんを指差しながら言う飛鳥の言葉に、柊真も心の中で同意する。

飛鳥:油断すんなよ、柊真。あんなので終わるわけないんだから

柊真:.....分かってる

すると、飛鳥のその言葉を待っていたかのように潰されたぬらりひょんの残骸が蠢き始める。

そして、それは形を成していき、柊真が初めて見た時と同じ姿で復活した。

柊真:やるぞ、飛鳥

飛鳥:....ん

一気に霊力を解放させる柊真と飛鳥。そして、己の術式を叫ぶ。


柊真:術式展開〝天灼流焔陣てんしゃくりゅうえんじん〟ッ!!!


飛鳥:術式展開〝堕天ノ御前だてんのごぜん


カッと光が爆ぜ、飛鳥を中心に純黒の光が円状に拡がる。それに同調するように、紅の業火が波紋を描いて柊真を囲い込む。

飛鳥の絶対領域と柊真の炎の円陣が出現。

最初に動いたのは、飛鳥だった。

重力操作によって、自分の身体を中に浮かして口を開く。

飛鳥:ーー〝禍天かてん

戦いの火蓋を切るように、凛と響く声音。

そして、創り出されたのは漆黒の禍星。

重力を押し固めて創成した、直径五メートル程の漆黒の球体は真っ直ぐにぬらりひょんへと向かって行く。

触れたあらゆる物を問答無用で押し潰す黒の禍星だったが、ぬらりひょんはそれを難なく避ける。

が、そのことは折り込み済みであるかのようにニヤッと笑った飛鳥は、指揮を振るうように右手を動かす。

すると、〝禍天〟はギュインっと曲がって回避したぬらりひょんの左半身を抉りとる。

そして、それを待っていたかのように半身を失ったぬらりひょんの目の前に現れた柊真は、構えていた刀を右斜め上に振り抜く。

柊真から放たれた炎を纏った斬撃は、ぬらりひょんを水平に焼き斬る。

しかし、これだけで攻撃は終わらない。

柊真:ーー〝千切焔華ちびりひばな〟ッ!!!

すかさず追撃をかける柊真の斬撃は、炎の軌跡を生んでぬらりひょんを襲う。

絶えること知らない柊真の斬撃は、手元が霞む程の速度で繰り出されており、紅の軌跡を描きながらぬらりひょんの身体を木っ端微塵に斬り刻む。

そして、刀が纏う炎が斬り刻んだ肉片を包み込み、片っ端から燃やしていく。

飛鳥:やるじゃん

漆黒の重力球を背中に携えながら柊真の隣に降り立つ飛鳥。

柊真:当たり前だろ。てか、倒せたか?

飛鳥:それ、フラグ 順位ランキング上位でしょ

そんな軽口を叩く飛鳥の予想通り、再び復活し始めるぬらりひょん。

飛鳥:ほら、アンタが余計なこと言ったから

柊真:おいおい、俺のせいかよ

軽い言い合いをしている二人だったが、次の瞬間、二人の表情が驚愕に変わった。

蠢いた残骸が再び形を成していき、ぬらりひょんは体躯が二倍の三メートル程となり、筋骨隆々の姿で復活した。

そして、放たれる圧倒的なプレッシャーと霊力。

飛鳥:っ...!!

柊真:チッ....第二形態ってやつか.....

すぐに、戦闘態勢に入る二人。その顔には、先程よりも強い警戒心と緊張感が滲んでいた。

柊真:飛鳥、飛びっきりの頼むぞ?

飛鳥:....ん

その返事を合図に、ぬらりひょんに向かい走り出す柊真。

上段に構えた刀を振り下ろし、両断にかかるが、ぬらりひょんは身体を半身にズラして回避する。

初撃が躱された柊真は、すかさず二擊目に移行。

柊真:ーー〝紅蓮焔車ぐれんひぐるま〟!!!

振り下ろた刀を身体を回転させる事で慣性の法則に逆らい、今度は振り上げる。火炎を纏った刀は、紅の車輪の如き軌跡を描いてぬらりひょんの右腕を斬り落とす。

そして、そのまま三撃目。

柊真が刀に霊力を集中させると、陣を形成していた炎が刃に集まり出して、巨大な炎刀を創り出す。

柊真:ーー〝旭焔刀きょくえんとう〟ォオオオ!!!

メラメラと炎を立ち昇らせながら、柊真の二倍程の大きさとなった炎刀。

柊真:おりゃぁああああああっ!!!

気合の雄叫びを上げながら、再び刀を振り下ろし、残りの腕も斬り落とした。

しかし、持ち前の再生能力ですぐに斬られた腕の再生を始めるぬらりひょん。

と、その時、上空から飛鳥の声が響く。

飛鳥:柊真っ! こっちは準備OK!!

柊真:よしっ、てめぇはここにいろ! ーー〝縛焔鎖ばくえんさ〟ァアアア!!!

柊真が詠唱を叫ぶと、両腕を失っているぬらりひょんの身体を炎の鎖が拘束した。

そして、すかさずその場から離れる柊真。離れ際、上空の飛鳥に向かって叫ぶ。

そして、一拍。

雲一つない晴れた青い天の一部が、一瞬キラリと光り、刹那、炎の鎖で動きを封じられたぬらりひょんが、凄まじい轟音と共にその姿を消した。

それは正しく、天から降り注ぐ鉄槌。

飛鳥が術式を発動した際に限り使用可能となる、神の鉄槌の如き大技ーー〝星堕せいだ〟。

重力操作によって浮かばせた大地の塊を、自分の術式範囲内に自由落下に任せて地上へ降り注がせる。

流石に宇宙空間からの落下では、爆発範囲が尋常ではないため、今回は成層圏内から落下に調整している。

が、それでも半端ない威力には変わりなく、ぬらりひょんを中心に広範囲を潰していた。

ただし、これだけでは終わらない。

初手の〝壊劫〟で得た結果をしっかりと省みた飛鳥は、間髪入れずに再び隕石を落とす。

その数、三十にも及ぶ隕石の乱れ撃ち。

安全な場所まで退避していた柊真は、顔を引き攣らせながらその光景を見ていた。

柊真:ハハハ....えげつねぇな...笑

鼓膜が破れそうな轟音が響き、隕石の余波が衝撃波として柊真の身体にまで襲ってくる。

飛鳥:ふぅ....ざっとこんなもんかな

準備した隕石を全部落とし終えた飛鳥が、柊真の隣にゆっくりと降り立った。

これで戦いに幕が下りることを願う二人。

しかし、相手は神と同等の格を持つ存在。

飛鳥:....っ!!

柊真:チッ....やっぱ、そう上手くはいかねぇか

そう言う二人の目の前には、三度目の復活を果たしたぬらりひょんの姿があった。



……To be continued

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