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君とこの世界を 〜from to ZAMBI〜 3話


さくら:ん....ふわぁ〜、あれ?....ここは?

自然と目が覚めたさくらの視界に入ったのは、初めて目にする部屋。

さくらは欠伸をしながら辺りを見渡すと、椅子の背もたれに寄りかかり、腕組みをして寝ている○○がいた。

さくら:そっか....○○君に助けられて、そのまま寝てたんだ

まだ寝ぼけている頭でこれまでの自分の状況を整理しながら、さくらはゆっくりとベッドから降りる。

外ではすでに太陽が昇っていて、窓から眩しい朝陽が部屋に射し込んでいた。窓を開けると、朝のそよ風がさくらの頬を優しく撫でるように吹き抜ける。

ここだけを切り取れば、ごく普通の一日の始まりの場面と勘違いする程の爽やかな朝だったが、視線を下に向けるとそれは一気に取り払われる。

朝の爽やかな陽射しとそよ風の中を、目的もなく彷徨っている無数の人影。

それを見るだけで、昨日起きた出来事は夢ではなく、現実なんだということを改めて突きつけられた。

○○:んん....ん? なんだ、起きてたのか、さくら

さくら:あっ、○○君。おはよう

○○:ん、ふわぁ....おはよ

起きた○○に気づいて優しい声音で朝の挨拶をするさくらと、欠伸と背伸びを同時にしながら挨拶を返す○○。

○○:さて、体と意識がしっかりと覚醒したら動くとしますか

さくら:うん、そうだね


二人が起きてから一時間ほど経った頃、○○とさくらはそれぞれ部屋を出て校舎を探索する準備をしていた。

○○:バックに入れておくのは、最小限にしとけよ?

さくら:分かってるよ

○○から借りたリュックに次々と物を詰め込んでいるさくらに○○が声をかける。

さくら:うん、準備OK

○○:よし、それじゃあ行くか

さくら:とりあえず、最初は食料だよね?

○○:ああ、購買にある物を片っ端から持っていくぞ

○○とさくらがこれから目指すのは、寮の隣に位置する校舎一階の購買。

弁当やパン、飲み物、菓子類は勿論のこと、文房具やノートなどの授業で必要な物や日用品や漫画など幅広く取り扱っており、コンビニと遜色ないレベルである。

○○:一日しか経ってないから、ほとんどの物は大丈夫なはず

さくら:でも、購買までそれなりに距離あるよね?

○○:まあな。だから、道中気を付けろよ? 基本は俺が守るようにするけど、いざとなったら、さくら自身でどうにかしてもらわないと

さくら:大丈夫、心配しないで

○○:よし、行こうか

さくらの逞しい言葉で自然と頬が緩んだ○○はリュックを背負ってドアを開ける。

○○は、ドアを開けた隙間から廊下の様子を確認し、誰もいないのを確認すると、さくらを促しながら部屋を出る。

さくらも○○に続いて静かに廊下に出ると、今まで感じたことのない緊張感が一気に身体中を駆け巡った。

○○:おい、落ち着け。大丈夫だ、俺がついてる

音を立てないように静かにドアを閉めた○○は、緊張と恐怖で体が震えていたさくらの肩に手を置いて優しい声音で落ち着かせる。

さくら:う、うん.....ありがと

二人は離れないようにとお互いに近い距離を保ち、周囲を警戒しながら、慎重に、しかし足早に目的へと向かっていた。

途中、遠藤を襲っていた男子生徒と同じような姿の生徒達が徘徊しているような感じで辺りを彷徨っていたが、○○とさくらは物陰に身を潜めてやり過ごしていた。

○○:ハハハ....レオンやクリスって、こんな感じだったのかな

さくら:○○君って、外国人の知り合いがいたの?

○○:さくらって、ゲームとかしないのか

さくら:???

どうやら、さくらに某ゾンビゲームのネタは通じないようだ。

その後、〝奴ら〟との遭遇を避けるために遠回りしたため、普段よりも時間がかかったものの、○○とさくらの二人は無事に購買に辿り着くことができた。

○○:さてと、さっさと詰めて戻るぞ

さくら:うん!

二手に分かれて、○○は飲み物を、さくらはパンやお菓子などの食料を、それぞれリュックに詰め込んでいく。

さくら:○○君! うすしおとのりしお、どっちがいい?

○○:いや、そこはコンソメ一択だろ。てか、ポテチなんかよりも腹にたまる物選べよ

さくら:大体の物は、もうリュックに入れたよ

○○:ホントか?

そう言って、さくらが見せてきたリュックの中身を確認した○○は部屋への帰還の準備をする。

○○:よし、じゃあ戻ーー


「うわぁあああああ!!!」


突如、辺りに響いた悲鳴にハッとした顔になる○○とさくら。

二人の間には、さっきまでの緩さは一切感じられなかった。

さくら:今のって、人の悲鳴....だよね?

○○:ああ、十中八九そうだろうな

さくら:私達以外にも、無事な人がいたんだ

○○:よいしょっと....さくら、少しの間だけここに隠れててくれ

リュックを置いて立ち上がって言う○○の言葉に、さくらは耳を疑う。

さくら:待って! もしかして、助けに行くつもりなの!?

○○:当たり前だろ。助けられるなら絶対に助けてやる

さくら:.....なら、私も行く

○○に感化されたのか、さくらは強い眼差しを向ける。

○○:待て、なんでそうなる? さくらはここで大人しくしてろ

さくら:○○君だけを行かせるわけないでしょ? それに、一人よりも二人の方がいいに決まってるじゃん

さくらを危険から遠ざけるために一人で行こうとしていた○○だったが、さくらの固い意思の籠った言葉に考えを変える。

○○:はぁ....分かった。ただ、絶対に無理はするなよ? 危ないと思ったら、俺を置いてでも迷わず逃げろ

さくら:うん。分かった

○○:えっ、もう少し躊躇ってくれてもよくない?

さくら:えっ、何が?

○○:.....いや、何でもない

そんな軽口を叩きながら、二人は購買をあとにして悲鳴の聞こえた方へと向かう。

少し進んだところでもう一度、今度はさっきよりも大きな悲鳴が聞こえてきて、○○は走り出し、さくらもその後を追う。

○○:あそこか!

ひと足早く辿り着いた○○が目にしたのは、廊下の隅で三体の〝奴ら〟に追い詰められている男子生徒だった。

それを見た○○は迷わず走り出し、今にも男子生徒に掴みかかろうとしている〝奴〟に渾身の飛び蹴りを食らわせる。

○○の蹴りによって〝奴〟は体勢を崩し、隣にいた〝奴ら〟を巻き込んで横に倒れ込んだ。

それを確認した○○は、腰が抜いて座り込んでいる男子生徒に駆け寄る。

○○:大丈夫ですか!?

男子生徒:えっ、あっ、うん! ありがとう....

○○を見て驚愕の色を浮かべながらも顔を上げてお礼を言う男子生徒。

人の顔と名前を覚えるのが苦手ではなく、むしろ得意な方である○○。しかし、この男子生徒のことは初めて見た顔であり、少なくとも一年生ではないと瞬時に判断する。

○○:立てますか? 早く、ここから離れないとーー

男子生徒:君、後ろっ!!

男子生徒の必死な顔から発せられた声に、咄嗟に後ろを振り返ると、さっき飛び蹴りで倒した〝奴〟のうちの一体が目の前まで迫っていた。

○○:くっ....!

反応が遅れ、回避が間に合わない○○の目の前をブンッという風を切る音と共に何かが横切ると○○に迫っていた〝奴〟の顔に当たり、そのまま吹っ飛ばした。

さくら:○○君!

少女の声と共に、〝奴〟の姿が消えた○○の視界に入ってきたのは、リュックの肩にかける部分を両手で持って、肩で息をしているさくらだった。

さくら:はぁ...はぁ.....大丈夫?

○○:ああ、大丈夫だ。助かった

さくら:それなら良かーー

○○:さくら! 後ろっ!!!

○○の無事を確認してホッとするさくらだったが、その後ろに〝奴ら〟の内の一体が、迫っていた。

それにいち早く気づいた○○は、咄嗟にさくらの体を押し飛ばして、新たに現れた〝奴〟からさくらを守る。

さくらに噛み付こうとした〝奴〟の口は、空を切ったが、即座にさくらに向き直る。

ので、さくらから自分に注意を向けるために○○は叫んだ。

○○:こっちだ! クソ野郎っ!!!

ゾンビは音に敏感。

数々の作品の中で、ゾンビの聴覚が異常に発達していることが共通であったことを思い出した○○。

見た目がゾンビなだけで、本当にそうかは分からないため、一か八かの賭けだったが○○は見事にその賭けに勝ったのだった。

○○の声に反応して、勢いよく向かって来た〝奴〟の力を○○はそのまま利用して、合気道の要領で投げ飛ばす。

○○:さくら! 大丈夫か!?

さくら:う、うん!

○○からの安否確認に、即座に返答したさくら。

それを確認した○○は、次に襲われていた男子生徒に視線を向ける。

○○:結構ヤバい状況なんで、早く逃げますよ!

男子生徒:あ、ああ。分かーーうわっ!!?

立ち上がって、走り出そうとしていた男子生徒の姿が○○の視界から消えた。

さくら:○○君、下!

さくらの声に従って、視線を下に向けるとうつ伏せで廊下に倒れている男子生徒がいた。

よく見ると、彼の足首を〝奴ら〟のうちの一体が掴んでおり、それによって転んだということが瞬時に分かった。

○○:くそっ! 離しやがれっ!!

男子生徒を助けるために、〝奴〟の顔に蹴りを入れようとしたその時、

ビュンっという風を切る音と共に○○の目の前を何かが横切る。そのすぐ後に、今度はボキッという骨が折れる鈍い音が耳に入ってきた。

○○:あっぶなっ!!

すんでのところで蹴りを止めていた○○は、驚きの声を上げてその場から後ろに飛び退いた。

一歩間違えていたら、自分の脚が折れていた事実に○○は冷や汗をかく。

そして、そんな○○の目に入ってきたのは、

○○:は? 千速先輩!?

茶髪のロングヘアを一つに束ね、ジャージ姿で木刀を振り下ろしていた美女ーー木内千速の姿だった。

千速:○○! お前、無事だったか!

○○:は、はい! って、何で先輩がーー

「木内先輩! 奴らが!!」

信頼する先輩に、今何が起こっているのかを尋ねようとした○○の言葉は、ある男子生徒の焦りの叫びに遮られる。

○○:太陽!?

朝比奈:よぉ、○○! 数時間ぶりだな!

○○は、目の前に現れた親友ーー朝比奈太陽の登場に目を見開く。

千速:朝比奈、掴まってた奴は?

朝比奈:しっかり助けましたよ!

先程の音は、男子生徒の足首を掴んでいた〝奴〟の腕が折れたものであった。千速によって開放された男子生徒は、別の男子生徒に肩を借りながら、いつでも逃げられるような体勢でこちらを見ていた。

千速:○○、話は後! 今は逃げるよ!

○○:了解です! さくら、行くぞ!

さくら:う、うん!

○○は呆気に取られていたさくらの促して、千速達の後を追ってその場を離れる。

しかし、〝奴ら〟はすぐに立ち上がり、○○達を追って来る。

最初は、○○達を追っていたのは男子生徒を襲っていた三体だけだったが、どこに身を潜めていたのか分からない程の大量の〝奴ら〟が現れて、その数は三十を超えていた。

何者か分からない〝奴ら〟の大群から全速力で逃げる○○達だったが、

さくら:はぁ...はぁ...はぁ....

息切れをし、限界が来ているさくら。

他の者達よりも、明らかにペースが落ちていた。

○○:太陽! これ頼む!

朝比奈:いきなりなーーって、重っ!! 何入ってんだよ!?

○○は、隣を走っていた朝比奈に水が入ったリュックを投げて渡すと、

○○:よっと....

さくら:きゃっ!

さくらの腕を引っ張り、そのままお姫様抱っこの形でさくらを抱き上げる。

さくら:ちょっ、○○君!?

○○:いいから、口閉じてろ! 舌噛むぞ!!

突然の出来事に慌てるさくらを少し強めの口調で黙らせる○○。

女子だとしても、人一人を抱えて走る○○だったが、その走力は落ちることなく走り続けていると、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下に差し掛かった。

千速:朝比奈! 先に行って扉を開けさせて!

朝比奈:了解っす!

陸上部、短距離走の期待の新星である朝比奈が持ち前のスピードで一直線の渡り廊下を走り抜ける。

背中に水のペットボトルを背負っているとは思えない程のスピードを出す朝比奈。

○○:先輩、もしかして.....

千速:ああ、みんな体育館にいる

千速の言葉に○○とさくらは、互いに歓喜の色を浮かべる。

朝比奈:先輩! ○○! 早くっ!!

半分程開いたスライド式の扉の傍で、叫んでいる朝比奈。

その後ろには、ハッキリとは分からないが数人の人影が確認できた。

○○:さくら、しっかり掴まってろ!

さくら:うん!

その言葉に従って、さくらは○○の首に腕を回して落ちないようにしっかりと固定する。

それを確認した○○は、最後の力を振り絞り、残り十メートル程の廊下を全速力で走り抜け、開いた扉から体育館に飛び込む。

最後だった○○が体育館に入ったのを確認すると、○○が視界に捉えていた数人の人達が瞬時に扉を閉め、鍵をかける。

さらに、その後ろで待機していた者達が慣れた手つきで、折り畳み式の長机やパイプ椅子などでバリケードを作っていく。

○○:はぁ...はぁ...はぁ...はぁ.....

さくら:ま、○○君、もう降ろしてちょうだい

○○:あっ、ああ....悪い

さくら:ううん、ありがとう

○○は申し訳なさそうに降ろすと、さくらは眩しい笑顔で感謝の言葉を口にした。

○○:あぁ〜、疲れたぁ〜!!

着ていた制服の上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になってその場に大の字で寝転がる○○。

それを微笑ましそうにさくらが見ていると、そこに、足音と共に駆け寄って来た何かが、体を起こしたばかりの○○に飛びついた。

「○○っ!!!」

○○:あ? なんーーぶへっ!?

避けることも受身を取ることもできなかった○○は、抱きつかれたまま、為す術なく床に押し倒された。

○○:痛たたた.....ったく、おい、随分手荒いお出迎えだな、遥香

○○は、軽く床に打った頭を擦りながら、抱きついてきた相手の名前を呼ぶ。

しかし、○○の言葉に反応を示さずに、遥香は○○の胸に顔を埋めている。

○○:お、おい、遥香? 遥香さぁ〜ん? 重いからどいてくーーって、痛い痛い痛いっ! 腕を抓るな!!

遥香は何も言わずに○○の胸に顔を埋めながら、○○の腕を抓りあげる。

するとそこに、

「「「○○っ!!」」」

聞き馴染みのある三人の少女の声が○○に耳に入ってきた。

○○:柚菜! 真佑! 聖来! お前らも無事だったか!

揃ってジャージ姿の真佑、聖来、柚菜を見て安堵の表情を浮かべる○○と、無事な○○を見て泣きそうな表情になる三人。

○○:おいおい、何で泣きそうになってんだよ...笑

真佑:仕方ないでしょ。スマホは通じないし、生存者探しに行っても見つからないし、ダメかと思ってたんだから

○○:いや、だとしてもさ.....

聖来:かっきーは、もう泣いてるで

柚菜:ね? かっきー

柚菜の問いかけと共に顔を上げた遥香はすでに涙腺が決壊していて、目元から大粒の涙を流していた。

○○:は、遥香....?

遥香:バカっ! 無事なら早く知らせなさいよ....!

○○:いや、それは悪かったって...笑

遥香:もう、ホントに! ホントに....無事でよかったよ.....

目元から涙を溢れさせて、緊張から解き放たれたように○○の体に身を預ける遥香。

○○:ちょっ、おい、遥香...笑

○○の顔にも、安心感からいつの間にか笑みがこぼれ、そんな二人のやり取りを傍で見ていた真佑達の顔にも笑みが浮かんでいた。

そんな○○達に近づく一人の男子生徒が。

「○○、無事でよかった!」

○○が声のした方へと視線を向けると、そこにはアイリス学園の生徒会長ーー藤堂龍虎がいた。

○○:会長! 会長も無事でよかったですよ

藤堂:うん、お陰様でね。それで、急で申し訳ないけど、少し来てくれないか? あっ、そっちの君も

藤堂は、○○とさくらを呼び寄せる。

○○:えっ、いいですけど....さくらもですか?

藤堂:うん、すぐに終わるから。あっ、そう身構えないでもいいよ

真佑:あっ、もしかして身体チェックですか?

○○とさくらの頭には「?」が浮かんでいる中、真佑の口から出た言葉に○○は納得した表情を見せる。

藤堂:そうだよ、二人ともいいかな?

○○:もちろんですよ

さくら:私もです

二人の返事を聞いた藤堂は、体育館の奥に向かって行き、○○とさくらもその後に続いた。



……To be continued

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