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君とこの世界を 〜from to ZAMBI〜 1話


日本の首都、東京にある高校ーーアイリス学園の午後の授業の時間、一年C組の窓辺の席で、甲斐○○は外を眺めていた。

校舎の二階から見下ろすグラウンドに、まだ夏の暑さが残る秋の陽射しが降り注ぎ、その中を体育の授業でサッカーをしている生徒達。

その光景を見ながら、○○は欠伸を一つ。

昼休みを終え、満腹感から来る眠気が襲う午後の授業。

しかも、どの学校でも眠気が誘われる授業ランキングトップ3に入る日本史の授業でもあるため、○○の眠気は頂点に達しようとしていた。

○○はその今にも閉じそうな目を擦って、寝ないように努力する。

○○:ふわぁ、眠っ.....

グラウンドの光景を見続けながら、そう一言呟く○○。

そんな○○の背中に痛みが走る。

○○は体を少し後ろに傾けて、熱心に江戸時代について語っている初老の教師に聞こえないように小さい声で後ろにいる生徒に話しかける。

○○:なんだよ、遥香

遥香:○○が眠そうにしてから起こしてあげたんだよ

水色のシャーペンを片手に悪戯っ子のような笑みを浮かべる賀喜遥香。

○○とは中学からの同級生で三年間同じクラスで、高校でも一緒のクラスになった。

ほとんどの学校は名前の五十音による出席番号で席順が決まる。

○○の中学校やアイリス学園も例外ではなく、この二人の並びもこれで四年目になる。

○○:ほっといてくれよ

遥香:だって、退屈だったんだもん

○○:あのなぁ....だったらお前の隣にいる奴にしろよ。俺を巻き込むな

遥香:それは無理だよ。ほら、柚菜寝てるし

遥香の隣の席には、気持ちよさそうな顔で夢の中にいる柴田柚菜がいた。

柚菜は遥香同様、○○と中学からの同級生。

遥香とは、小学校から一緒で超がつく程の親友。

○○:ったく、なら、遥香も黙って寝てればいいじゃん

遥香:授業中に寝ちゃダメでしょ

○○:はぁ....ホント、変なところで真面目だな、お前は

普段は陽キャのような振る舞いをしている遥香だったが、真面目な一面もあり、テストも毎回上位に入る程成績優秀であった。

遥香:それにしても、柚菜の寝顔可愛いなぁ。グヘヘヘ....ホント、天使みたい

○○:おい、お前顔ヤバいぞ

柚菜の寝顔を見た感想がそのまま口から漏れる。

遥香の顔は笑うことを必死に抑えようとしていて、そのせいで、整った顔が気持ち悪さで染まっていた。

遥香:あっ、そういえば、あれ知ってる?

急に話のタネを思いついた遥香がさっきまでの気持ち悪い顔から一転して、ハッとした顔になり、○○の肩をポンポンと叩く。

○○:あれって、何だよ?

遥香:人を襲う化け物がいる、っていうは・な・し

○○:なんだそれ、明らかなデマだろ。今時、そんなオカルト話流行らねぇぞ

遥香:つまんないなぁ〜 ○○のお姉さんなら食い付いてくれるのに

○○:姉さんは、そういうオカルト好きだからな

○○は一つ上の姉の顔を思い浮かべながら、そう口にした。





"はい、それでは、今日の授業はここまで"

結局、あれから○○は遥香とたわいもない話をし続けそのまま授業が終わり、放課後の時間となった。

○○:ふわぁ....ようやく終わった

退屈と眠気に支配されていた授業から開放された○○は、大きな欠伸と一緒に目一杯体を伸ばす。

その後、机の上に広げていた教科書やノートを鞄の中に仕舞い、帰る支度をする○○にクラスメイトの田村真佑が話しかける。

真佑:○○〜 京華先輩から「○○を連れてこい」ってLINE来たんだけど

トーク画面を見せながら、甘ったるいアニメ声でそう言う真佑。

○○:はぁ....先輩も執拗いなぁ

真佑:それは、いくら経っても○○が入部しないからでしょ! ね、聖来?

真佑は、自分の後ろにいたクラスメイトの早川聖来に同意を求める。

聖来:そうやで、○○。ええ加減、入部したらええやん!

○○:俺はどこにも入らないよ。部活やりたくないからさ

遥香:すごい運動神経良いのに、勿体ないじゃん

○○:俺はゆったりのんびり過ごしたいんだよ

○○は帰り支度が済ませた鞄を持ち、席を立つ。

遥香:ちょっと、どこ行くの?

○○:どこって、部屋に行くだけだよ

真佑:あっ、○○! 部活終わったら、聖来と一緒に部屋に行っていい?

○○:どうせ、また宿題教えろって言うんだろ?

真佑:せいかーい! ね、いいでしょ?

グッと顔を近づけて、○○に食い気味に迫る真佑の迫力に白旗を上げる○○。

○○:どうせ、ダメって言っても来るんだから好きにしろ

真佑:はーい!

元気良く返事する真佑や遥香達を置いて○○は教室をあとにした。

遥香:ちょっと、まゆたん!

○○がいなくなった教室で、頬を膨らませた遥香が真佑に詰め寄る。

真佑:か、かっきーストップ! もう、そんなに怒らないでよ〜

詰め寄られた真佑が遥香のあまりの迫力に苦笑いを浮かべながら、遥香を宥める。

聖来:そうやで、かっきー。まゆたんもせーらも○○のことは狙っとらんから安心しぃや

遥香:....ホントに?

聖来:うん。な、まゆたん?

真佑:そうだよ、かっきー。てか、かっきーはホントに○○のこと好きだよね

聖来:乙女なかっきー、ホンマ可愛いわぁ〜

ニヤニヤした真佑と聖来に茶化されて、遥香の頬がみるみる紅く染まっていく。

それを見て、二人のニヤけ具合に拍車がかかる。

遥香:もう、何なのよ二人共!

柚菜:あれぇ....かっきー、何で顔赤いの?

さっきまで気持ちよさそうに寝ていた柚菜が眠気が残る半開きの目を擦りながら、優しい口調で声をかける。

遥香:ゆ、柚菜....起きたんだ

柚菜:うん、さっきね。それよりも何で顔赤いの? てか、あれ? ○○〜、私の○○は〜?

遥香:もう、柚菜!!





アイリス学園の第一グラウンドには、部活に励む生徒達で溢れ返り、活気に溢れた声が響き渡っていた。

汗を流しながらゲーム形式で練習をしているサッカー部、打球の処理練習をしている野球部、タイム測定をしている陸上部などアイリス学園運動部の第一線で活躍している部活が揃って汗水を流している。

グラウンドから少し離れた水道では、ボトルを洗ったり、選手の飲むドリンクを作っているマネージャー達の姿があった。

そんな中、突然、マネージャーの一人である女子生徒が手に持っていたボトルを落として、胸を抑えて苦しみ出した。

落ちたボトルからは、入れたばかりのスポーツドリンクが零れ、乾いたアスファルトを濡らしていく。

女子生徒:ちょっと、奈緒子! 大丈夫?

隣でドリンクを作っていた同じマネージャーの女子生徒が慌てた表情で奈緒子と呼んだ女子生徒の体を揺する。

後輩女子生徒:先輩、どうしたんですか?

女子生徒:それが、奈緒子が急に苦しみ出して

異変に気づいた後輩の女子生徒が作業の手を止めて心配そうな表情を浮かべる。

後輩女子生徒:えっ、大丈夫なんですか!?

女子生徒:「今日は生理痛が酷い」って言ってから多分そのせいだと思うんだけど

後輩女子生徒:そうなんですね

女性にしか分からない痛みに、ますます後輩の女子生徒が心配の色を濃くする。

女子生徒:かなり辛そうだから保健室連れてくよ

後輩女子生徒:分かりました。後のことは私達に任せてください!

後輩からの頼もしい返しに、女子生徒は思わず笑顔を浮かべる。

女子生徒:奈緒子、立てる? 保健室行くよ

肩を叩いて呼びかけるが返答が無く、その代わりに呻き声のようなものが聞こえてくる。

女子生徒:奈緒子....?

心配になった女子生徒が蹲っている奈緒子に顔を近づけると、奈緒子が顔を上げた。

女子生徒:....っ!!

奈緒子の顔を見た女子生徒は、驚きのあまり目を見開き、そして言葉を失った。

後ろにいた後輩達も女子生徒と同様の驚愕の表情を浮かべる。

それもそのはず、奈緒子の目は瞳孔が極限まで収縮していて、黒目の周りが赤く染まり、頬には血管が紫色に変色し浮き上がっていた。

その直後、

奈緒子:グワァァアアアアアア!!!

よもや人間からは発せられる筈のない、野生動物のような声を上げた奈緒子が、目の前にいた親友だった女子生徒に躊躇などなく飛びついーーいや、噛み付いた。





○○:ふわぁ....まだ眠ぃな。昨日、徹夜したのがマズかったかな

アイリス学園は、毎年、インターハイをはじめとした大会で上位常連。

また、国体選手を多く輩出しており、世間ではスポーツ有名校として知られているが、この時代では珍しい全寮制の高校としても知られている。

○○は、校舎の隣に建設されている学生寮の廊下を学園指定の鞄を肩に担いで、今日何度目かの欠伸をしながら歩いていた。

すると、元気な声で○○を呼ぶ女子生徒ーー清宮レイが軽快な足音と共に○○に駆け寄ってきた。

レイ:やっほー、○○〜!

学園の名前に使われている〝アイリス〟の花の色である紫を基調とし、白のラインが入ったジャージを身に纏い、エナメルバッグを肩に掛けているレイ。

○○:なんだ、清宮か。って、体操部って今日は休みじゃなかったか?

レイ:そうなんだけど、大会が近いから今は毎日部活だよ! あっ、○○も大会見に来てね!

○○:お、おう....

純粋な笑顔で話すレイの元気さに圧倒された○○は、若干引き気味に答える。

その後、「じゃあね!」と言って部活に向かったレイの後ろ姿を見送った後、○○は自分の部屋に着いた。

○○は、机の上に鞄を放るように置くと制服姿のままベッドに身を投げた。

体の重さと飛び込んだ勢いによって沈んだベッドは、持ち前の程よい反発力によって○○の体を少し押し返す。

○○:さてと....真佑達が来るまで少し寝るか

スマホのロック画面で時間を確認した○○は、スマホを無造作に投げ、そのまま顔を枕に埋めて静かに瞼を閉じた。

これから起こる、地獄のような日々など知る由もなく......


……To be continued

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