祓い、護る者たち 1話
時は現代
ここ日本には、遥か昔から〝霊魔〟と呼ばれる怪物が存在する。
霊魔は生きた人々の魂を糧とし、人間を襲う危険な存在とされていた。
そんな中、霊魔と戦う存在ーー〝術師〟と呼ばれる者達がいた。
彼らは、〝霊力〟と呼ばれるエネルギーと〝術式〟と呼ばれる戦術を使って霊魔と戦う。
彼らは、時代が変わる毎に呼び名が変わり、
ある時は、〝陰陽師〟と
またある時は、〝呪術師〟と呼ばれていた。
そして彼らは、霊魔と戦うための組織として〝日本術師統一協会〟を立ち上げ、東京と大阪に一つずつ協会の支部を設置。
これは、彼ら術師達と霊魔の戦い
そして、世界の終末までの物語。
━━東日本支部 通称・東京支部
「あぁあああ!! もう! なんでアイツは電話でないの!?」
白を基調とした東京支部の廊下を歩きながら、スマホにむかって悪態をつく堀未央奈。スマホからは、無機質な女性の声で相手が電話に出ない事を知らせてくる。
未央奈:ホント何してんのよ、アイツは!?
何度電話をかけても一切応答しない相手に、イライラが頂点に達しようとしてる未央奈。そんな彼女に声がかかる。
「未央奈さん、お疲れ様です」
未央奈:あっ、梅ちゃん。お疲れ様〜
向かい側からやって来たのは、未央奈の後輩にあたる梅澤美波。彼女の手には、これからの会議で使う書類が乗っていた。
梅澤:何か怒ってたみたいでしたけど、どうしたんですか?
未央奈:ちょっとね。アイツが電話にでなくて
梅澤:あぁ....今日でしたね。あの人が帰ってくるの
未央奈の口から出た〝アイツ〟という単語に、梅澤は僅かに顔を歪ませる。その表情から、梅澤はその相手に対して好意的ではない事が感じられた。
未央奈:そうなの。それなのに、まだどこにもいなくてさ。電話かけても全然出ないし
梅澤:それ大丈夫ですか? もうすぐ会議始まりますけど.....
未央奈:それまでには、なんとかして見つける!
そう言って、未央奈はその場を後にした。
梅澤:あっ、私も早く飛鳥さん達呼びに行かないと!
術師になった者達は、一部の例外がいるが、基本的には〝隊〟を結成、または所属する決まりとなっている。
また、各隊には〝隊室〟呼ばれる専用の部屋を与えられ、術師達はそこで一日を過ごす者も多い。
未央奈と別れた梅澤は、隊長を呼ぶために隊室まで来ていた。
━━齋藤隊 隊室
齋藤隊の隊室には、部屋中にびっしりと小説が並べられていた。ミステリーからSF、恋愛モノなど様々なジャンルが揃っている。
これは全部、齋藤隊の隊長の趣味で集められた物であり、何故かそのほとんどの結末がバットエンドとなっていた。
梅澤:飛鳥さん、そろそろ時間です
飛鳥:.....ん。分かった
部屋の中心に置かれていたソファーの上で足を伸ばしながら読書を嗜んでいる齋藤隊の隊長ーー齋藤飛鳥を呼ぶ梅澤。声をかけらられた飛鳥は、読みかけの本を閉じてテーブルの上に置く。
何となく、飛鳥が読んでいる本が気になった梅澤は横目でチラッと視線を向けると、顔が引き攣った。
梅澤:な、何ですか....この本
そのタイトルを見て、心の声が思わず漏れる。
本の表紙には、『名探偵ロミジュリ 〜愛と憎悪の殺人事件簿 Ⅳ〜 アーサー王とアズカバンの囚人 モンタギューよ永遠に』と妙に凝った文字でタイトルが印字されていた。
飛鳥:....ん? あぁ....私のお気に入りのシリーズの最新刊
梅澤:お、面白いんですか?
タイトルからして、あまりにごっちゃな内容が予想できた。
飛鳥:まあね
梅澤:あっ、そういえば、あの人まだ来てないみたいですよ
飛鳥:○○か....アイツの事は今に始まった事じゃないでしょ
梅澤:飛鳥さんも、他の人も甘すぎますよ!
と、梅澤が○○に対して怒りを爆発させているところに同期で同隊のメンバーである山下美月が話に入ってきた。
美月:梅はホントに、○○さんの事嫌いだよね
梅澤:術師としては認めるけど、人としては一ミリも尊敬できない
美月:アハハハッ、さすが梅!
「あの〜、その○○さんって誰ですか?」
三人の会話に、少し申し訳なさそうな声音で加わったのは同隊のメンバーで一番の後輩である遠藤さくら。
梅澤:そっか、さくは知らないか。簡単に言えば、術師としては最強。人としては下の下!
さくら:そ、そうなんですね
飛鳥:おい、そろそろ行かないとしーさんに怒られる
梅澤:今行きます! ほら、2人とも行くよ!
さくら:はい!
美月:は〜い
━━研究室
東京支部の一角に位置する〝特別開発技術班〟専用の部屋ーー通称・研究室。しかし、そこは班長である山崎怜奈の私室と化していた。
現在、怜奈はパソコンのディスプレイと睨み合いながら研究資料をまとめていた。すると、怜奈の集中力を途切れさせるドアの開く音が部屋に響いた。
勢いよくやって来たのは、怜奈の同期である未央奈。彼女の額には汗が浮かんでいて、息切れもしており、ここまで走ってきたのが分かる。
未央奈:怜奈! ○○知らない!?
怜奈:ちょっと、急にどうしたの?
あまりの未央奈の慌てように怜奈は作業の手を止めて驚いた。
未央奈:○○がいないから、ここにいると思って
怜奈:えっ? ○○君まだ来てないの?
未央奈:そうなの! 電話にも出ないし
怜奈:私は知らないけど。蓮加かあやめちゃんに聞いたら?
未央奈:あの二人、今任務中なの
怜奈:なら、絢音は?
未央奈:それだ! どこにいるか知らない?
怜奈:今日の会議に呼ばれてたから、今の時間なら会議室じゃない?
未央奈:ありがとう!
怜奈:未央奈も大変だな〜笑
慌てて研究室を出ていく未央奈を見て、そう呟く怜奈であった。
一方その頃、当の○○本人は......
○○:美味ぇー! やっぱ串カツは大阪だよな!
大阪の食い倒れの街ーー大阪の道頓堀に来ていた。一時間ほど前に羽田空港に到着した○○だったが、あまりの空腹と恋しくなった日本食からによって、本場の串カツ屋に来ていた。
この串カツ屋の店主が○○の古くからの知り合いのため、大阪に来た際には必ず来ている。
「ホント、お前はよく食うよな!」
それがこの男ーー伊達康虎。屈強な身体に渋い顔のザ・おっさんといった男であり、五年前に術師を引退しているのだった。
○○:おっさんの串カツはうめぇからな! 術師辞めて正解だったんじゃね?
伊達:ガッハッハッハ! たしかに死ぬ心配ないからな!
○○:ハハッ、間違いねぇな!
と、盛り上がっている二人のところに不快な気配が漂ってきた。
伊達:おい、○○......
○○:おっ、おっさんも気づいたか
伊達:辞めても霊魔ぐらい感知できるわ。それよりも行かなくていいのか? それなりに近いぞ
○○:まっ、霊力からして低級だし。大阪の術師に任せておけば大丈夫だろ
伊達:....ったく。適当なのは変わってねぇな
○○:んな事より、おっさん! 串カツ追加!
伊達:はぁ...はいよ!
━━東京支部 第一会議室
支部内で一番の広さを誇る一室に、東京支部の幹部達が一堂していた。そこに、東京支部のナンバー2である副支部長ーー橋本奈々未が欠伸をしながら、眠そうな目でやって来た。
奈々未:ふわぁ....おつかれ〜
白石:ちょっと、ななみん! 遅刻っ!
そんな奈々未の姿を見て、東京支部のトップである支部長ーー白石麻衣が叱咤の声を上げる。
奈々未:眠いんだから、仕方ないでしょ。大目に見てよ
白石:それだと、他のみんなに示しがつかないでしょ!
奈々未:しーちゃんは厳しいな〜
飛鳥:奈々未がルーズ過ぎなだけでしょ
奈々未:おっ、飛鳥も言うね
白石:梅ちゃん、今回はこれで全員?
梅澤:任務に出ている部隊を除けば全員集まっていますが......
白石:どうしたの?
梅澤:一人だけ、まだ来てない人がいて
白石:来てないってーー、はぁ...アイツか
奈々未:ん? アイツ?
樋口:○○君のことでしょ?
梅澤:そうです
奈々未:あー、そっか。帰ってくるの今日だったっけ?
と、そこに研究室からそのまま急いで走って、未央奈が息を切らせながら会議室に飛び込んで来た。
未央奈:失礼します! 絢音いますか!?
絢音:ん? 未央奈?
白石:未央奈、○○は?
未央奈:まだ来てませんよ!
散々走り回っていて、少々キレ気味に答えた未央奈。
白石:飛行機は、もう着いてるんだよね?
未央奈:はい、それは確認済みです。到着が二時間前なので
白石:ったく....あのバカ
絢音:それで? 私に何の用?
未央奈:○○に電話してくれない? 絢音からなら出ると思うから!
絢音:い、いいけど....
未央奈:お願い!
━━大阪 道頓堀
○○:ふぅ....食った食った
伊達:食いすぎだ馬鹿野郎。ほら、土産用の串カツ
○○:おっ、サンキュー。おっさん
伊達から串カツが入った袋を受け取った○○。その時、上着の内ポケットに入れていたスマホが鳴った。
○○:誰からーーって絢音さん?
スマホの着信画面に表示された名前は、○○が気を許している数少ない人物ーー鈴木絢音だった。
○○:あ〜、もしもし
絢音:『あっ、出た。○○君、今どこにいるの?』
○○:大阪で串カツ食ってました
絢音:『えっ、大阪?』
『はぁ!? ちょっと、絢音! 電話変わって!!』
絢音:『えっ、あ、どうぞ』
○○:ちょっと絢音さーー
白石:『○○っ!!!』
○○:ゲッ....白石......
白石:『あのね! もう会議始まってんだけど!!!』
○○:分かったから。今からーー
と、その時、○○がいる串カツ屋の目の前で、爆発音と共に付近の建物が倒壊。土煙が立ち上る。
○○:....おいおい、マジかよ....悪い切るわ!
白石:『はぁ!? ちょーー』
電話を切った○○の視線の先には、ボロボロな姿で倒れている術師が一人。
○○:おい、お前大丈夫か?
"俺は大丈夫だ。それよりも一般人は逃げろ...."
○○:逃げろって、お前ボロボロじゃん。はぁ...ここは俺に任せろ
"なっ!? お前のような奴には無理だ!"
伊達:無理すんな。こいつに任せとけ
"部外者は黙っーー伊達さん!?"
伊達:おっ、俺の事知ってんのか
"そ、それはもちろんです。でも、この人は?"
○○:俺、一応こういうもんなんだんだけど
そう言って○○が術師に見せたのは、クレジットカードサイズの術師証明書だった。そこには、○○の本名。そして、その上に〝特級〟の表記が。
"えっ、特級!?"
○○:ということだ。お前は下がってろ
"は、はいっ!!"
○○の目の前には車一台分の大きさの蜘蛛型の霊魔が十体程。
○○:うわぁ.....気持ち悪ぃな
伊達:手伝うか?
○○:大丈夫っすよ、俺一人で余裕余裕
そう言うと、顔の前で右手の人差し指と中指をクロスさせる。
○○:術式展開〝皚〟!!
……To be continued