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それは“あの夏”から続く道(乃木坂46「真夏の全国ツアー2024」スタートによせて)

※「真夏の全国ツアー2024」大阪公演の内容について、全編にわたって言及しています(セットリストそのものも掲載しています)。ネタバレを気にされる方は、どうかご注意ください。



■ 36thシングル期と“真夏”の到来

 乃木坂46「真夏の全国ツアー2024」が、7月20-21日の京セラドーム大阪公演からスタートした。今年のツアーは「5年ぶりのドームツアー」として、8月24-25日の愛知・バンテリンドーム ナゴヤ公演、および9月2-4日の東京・明治神宮野球場公演の計7公演で行われる。
 7都市16公演という規模で行われ、“史上最大規模”と銘打たれた「真夏の全国ツアー2023」と比べると、公演数は半減以下となった形だが、非常にざっくりと計算したところによると、のべ観客動員数は同規模といってよいだろうか。
 ドームツアーの形であることに加え、幸運にも千秋楽公演のチケットが抽選でおさえられたこともあり、筆者はこの「真夏の全国ツアー2024」全7公演に現地で立ち会うことができる見込みだ。ひとくちにツアーといっても規模や形態はさまざまだが、ともあれツアーの「全公演に立ち会う」ことは、ある種ファンとしての夢のひとつでもある。ひと夏をかけてグループの息づかいがどのように変化を遂げていくのか、楽しみに見守ることにしたい。

 これに先立ち、7月14日放送の「乃木坂工事中」#471では36thシングルの選抜発表の模様が放送されている。2回目の表題曲センターを務めることになった井上和は、“夏曲”のセンター、つまりいわゆるツアーの“座長”を前年に続いて務める形となった。その両隣にはともに初フロントとなる池田瑛紗と小川彩が並ぶ。小川は今シングル初選抜でもある。昨年にリリースされた3枚のシングルでは、この年に表題曲のセンターを務めた5人のみでフロントメンバーが構成されていたことを考えると、「新たな手を打った」という印象のある布陣である。
 ほか、選抜メンバー全体についていえば、前作で初めてアンダーメンバーとして活動した菅原咲月と筒井あやめ、および冨里奈央が2作ぶりに選抜に復帰、金川紗耶も3作ぶりに選抜入りし、中西アルノが29thシングルでの“抜擢センター”以来7作ぶりの選抜入りを果たした。選抜メンバーから外れたのはグループ卒業の阪口珠美・山下美月と、伊藤理々杏・佐藤楓・中村麗乃・向井葉月・吉田綾乃クリスティーで、山下の卒業シングルとして3期生全員が選抜入りする形がとられた前作が例外的な布陣であったとするならば、全体的な傾向は差し戻しつつ変化をつけたような印象を受ける。

【乃木坂46 36thシングル「チートデイ」選抜メンバー】
筒井⑪ 菅原④ 田村⑪ 中西② 川﨑⑤ 弓木⑦ 冨里② 金川⑤
与田⑱ 五百城⑤ 久保⑮ 梅澤⑯ 一ノ瀬⑤ 岩本⑬
遠藤⑬ 小川① 井上⑤ 池田④ 賀喜⑬

丸囲み数字は選抜回数

 7月15日には阪口珠美が、7月17日には清宮レイがグループを卒業し、総所属メンバーは33人となり、活動休止中の掛橋沙耶香を除く32人でツアーに臨む形となっている。グループの人数規模がここまで小さくなるのは1期生のみの時代であった2012年以来のことである。
 “後輩だけ”となった2023年、5期生が加わった2022年、いわゆる“新4期生”の初ツアーであった2021年、4期生が加わり遠藤さくらが新センターとして指名されて迎えた2019年、と思い出していくと、メンバーの卒業こそあれ、今年のツアーは昨年と同じ3・4・5期生の体制で臨まれている、という点の意義深さに思い至る。
 並走する6期生オーディション(「夏組」)が間もなく応募締め切りを迎えるというタイミングでもあるなかで、(あえていえば)“2回目の夏”を迎えた現行のチームが、何を見せ、何を見い出し、何を変えるのか。ニュースターの登場を期待または演出するのではなく、そうした地に足のついた試みとして、ツアーが滑り出したように見える。

■ 前年との共通と差異

 京セラドーム大阪公演初日は、36thシングル表題曲「チートデイ」のフルサイズでの初披露からスタートした。前年の33rdシングル「おひとりさま天国」もこれと近い形での初披露であり、シングルのリリースは8月下旬、選抜発表の模様の放送はツアー開幕の前週、というスケジュール面も共通だが、「おひとりさま天国」は4会場目の沖縄アリーナ公演での初披露だったが、「チートデイ」は初演からぶつけられた形となる(公演数の違いも大きいけれども)。
 「おひとりさま天国」がタイトルまで含めて完全にライブ会場での初解禁であったのに対し、「チートデイ」はすでに楽曲の先行配信がスタートした状態での披露であった。

 “夏曲”中心のブロック(「裸足でSummer」「太陽ノック」、および「君に叱られた」と「僕だけの光」)でステージ全体を使ったのち、西洋風の城をかたどったステージとプリンセス風の衣装という世界観のもと、メンバーが期ごとにいがみ合うコントが始まる。久保史緒里を先頭に、グループ内外でメンバーが培っている演技力がこういうところで生きてくる(ネットスラングでいえば「ムダ使い」だろうか)場面はいつも楽しいし、弓木奈於や一ノ瀬美空が勢いよく話し始めたら「これは笑うところだ」とわかるのもおもしろい。
 そこからは期別楽曲のブロックがあり、各期ごとに1曲が披露された。昨年同様といえるフォーマットであるが、であるからこそ、それが確実にグループの武器になっていることを思い知らされる。大阪公演で披露されたのは、「バンドエイド剥がすような別れ方」と「17分間」、「I see…」と「ジャンピングジョーカーフラッシュ」、そして「三番目の風」と「トキトキメキメキ」である。これほど客席の熱を高める選曲ができることに改めて驚かされた。

 続いて各期の“プリンセスバトル”のていで、フロートカー・トロッコを用いてフリバラシの形で披露されたのが「Threefold choice」で(対決はドローで終わったことが宣言され、わかりやすい“茶番”で終えられた)、これに「Am I Loving?」が続いた。いずれも1・2期生をオリジナルメンバーとするユニット曲である。
 昨年のセットリストで特徴的だったのは、ユニット曲のブロックや合唱の形で披露された「シンクロニシティ」なども印象的ではあったものの、原則としては「現メンバーの武器で戦う」というコンセプトが見てとれたことであった。一方で、「Threefold choice」と「Am I Loving?」は演出先行の選曲であったといえ、すでに現メンバーは楽曲のオリジナルメンバーにこだわらなくても、すべての局面で自明に「乃木坂46」なのだ、ということを感じさせる。
 このブロックは「ジコチューで行こう!」で締められ、ようやく通常のMCへ。ここまでですでに11曲が畳みかけられていた。

 これに続いたユニット曲のブロックでは、初日公演では「ぶんぶくちゃがま」「あと7曲」「Never say never」という比較的近年の、ライブでの披露回数が多くない楽曲が連ねられたものの(「Never say never」は昨年の明治神宮野球場公演でも披露されているが、球場で披露するにはやはり適合的な選曲であろう)、2日目公演では似た傾向の楽曲である「甘いエビデンス」に加え、「せっかちなかたつむり」と「他の星から」という定番中の定番といえる2曲が披露されている。
 昨年のユニットブロックで披露された12曲には近年寄りの楽曲は少なく(3期生以降をオリジナルメンバーにもつ楽曲は「パッションフルーツの食べ方」のみであった)、初日公演を終えたのちには(ここ数シングルのユニット曲はライブでの披露機会があまりない状況もあるので)「現代のユニット曲をライブで披露する」コンセプトなのかなとも感じたが、その判断についてはもう少し措くことにしたい。

 このブロックではさらに1曲ずつが、ストリングスの演奏を加えて歌唱中心で披露されている。初日公演では「ここにはないもの」を井上和がソロ歌唱、2日目公演では「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」を遠藤さくら・賀喜遥香・池田瑛紗・小川彩が歌唱した。この5人は、36thシングルのフロントメンバーにそのまま重なる。

■ 全開、全力の“夏”

 セットリストの曲数でいうと、アンコールを除けばほぼちょうどここで折り返しという形になる。ここまででも十二分に“夏のライブ”を楽しんだというくらいの思いだったのだが、ここからそれはさらに加速していくことになる。
 ひらたくいうと、ここから“夏”のブロックが3回にわたって展開されるのである。

 これも「真夏の全国ツアー」の定番ともいえる、日本の夏をイメージした一人称のミニドラマ風のVTRが挟まれたのち(「プリンセスだって夏を満喫したい!」という一ノ瀬美空のナレーションが良いアクセントとなっていた)、メンバーが浴衣を着て登場する。「あらかじめ語られるロマンス」では七夕、「ロマンティックいか焼き」では夏祭り。そして「君が扇いでくれた」ではうちわを持って花火を眺める。
 いずれも夏を中心とするライブの定番曲であったり、あるいは過去にも近しい演出がつけられたことのある楽曲である。それでも毎年の夏のツアーだから、定番のものを、定番として出す。それを風物詩として楽しむ。そんなブロックであるといったところであろうか。
 しかし一方で、「あらかじめ語られるロマンス」「ロマンティックいか焼き」ではメンバーがグラウンドまで下り、「君が扇いでくれた」はメインステージのセットにプロジェクションマッピングで花火が投影される形がとられるなど、会場の規模・特徴を活かした新規性のある演出も取り入れられてもいた。

 これに続いたのが、またしても“夏曲”のブロック。「自惚れビーチ」では浴衣を脱ぎ捨てた奥田いろはがそのままセンターに立ち、「スカイダイビング」「ガールズルール」では再度トロッコ・フリバラシで客席を巻き込む。山下美月のグループ卒業でひとつの関心事となっていた「ガールズルール」のセンターには、卒業コンサートでは山下の隣のポジションに立ち、自身も5期生での披露の際にセンターを務めたことのある一ノ瀬美空が立つ形となった。
 メインステージに戻ったメンバーは、さらに「ひと夏の長さより・・・」を披露。ダブルセンターに立ったのは、今作新フロントの池田瑛紗と小川彩であった。
 「自惚れビーチ」「スカイダイビング」「ひと夏の長さより・・・」は、明確に夏をモチーフとした楽曲であり、過去の「真夏の全国ツアー」でも少なくない回数が演じられてきた。しかし、シングルの表題曲でないこともあってか、「夏曲として必ず列せられる」といえる状況ということでもない。
 そのようななかで、ユニットコーナーやアンコールの扱いでもなく、ライブ本編の1ブロックでこの3曲が(しかも「ガールズルール」との並びで)演じられたことは、「とにかく“夏曲”を演じるライブなのだ」という印象を強く抱かせた。

 続くブロックではハードなパフォーマンスの楽曲が連ねられる。36thアンダーメンバーにより「日常」が披露され、フォーメーションのセンターにはまたしても奥田いろはが立つ。「Wilderness world」は、“ダンス選抜”(的なニュアンスが映像で表現されていた)による披露で、これに「Actually…」が続く。センターはもちろん中西アルノであり、英語のパートを清宮レイから引き継いだのは池田瑛紗であった(池田は「11th YEAR BIRTHDAY LIVE〜5期生ライブ〜」でもこのパートを務めている)。

 ここで再びライブは“夏”に戻り、井上和によるVTRを挟んで「おひとりさま天国」を披露、さらに「好きというのはロックだぜ!」「夏のFree&Easy」が続き、“夏曲”といわれる楽曲は網羅されたといってよいところまでくる。
 初日公演と2日目公演でともに演じられた楽曲が、仮に全公演を通じて演じられるとするならば、ここまで網羅的な取り扱いがされたことは、さすがに過去になかったのではないだろうか。
 少し気になったので、過去のセットリストを確かめてみることにした。

■ 歴代「真夏の全国ツアー」を振り返る

 横道にそれる形となるが、ここで各年の「真夏の全国ツアー」について振り返っていくことにしたい。
 「真夏の全国ツアー」は今年で11回目になる。曲数は増え、ツアーの規模は拡大し、メンバーは入れかわってきた。いまこのタイミングで、10回分のセットリストを改めて概観することによって、見えてくるものがあるのではないか。
 (逆にいうと、ここからしばらくは「セットリストをざっと見直した」というだけの話なので、適当に読み飛ばしていただければ幸いである。)

 というわけで作成したのが、この筆者が“横長の表”と呼称しているフォーマットのPDFである。ひらがなけやき・日向坂46、および櫻坂46について、歴代のセットリストを網羅して、これに近いものを作成している。

 ただ、通常ありえない大きさのPDFファイルを好んでご覧になる方は絶無であるということもわかっているので、以下に画像でも貼り付けていくことにする。

□ 2013年・2014年・2015年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2013 セットリストまとめ
乃木坂46 真夏の全国ツアー2014 セットリストまとめ
乃木坂46 真夏の全国ツアー2015 セットリストまとめ

 感覚的には、これらの2013〜2015年くらいが「真夏の全国ツアー」の“初期”にあたる、といえるだろうか。筆者はリアルタイムのファンではないものの、Zeppツアーの形で始まったものが現在はドームツアーの形となっているというのはいかにも感慨深い。
 セットリストを眺めていると、もちろんその年々の“夏曲”でライブのハイライトシーンを形づくられてはいるが、現在ほどには夏が強調された印象を受けない。10回にわたる“真夏”を経験したことで、夏をモチーフとした楽曲が積み重なっていることが、現代の「真夏の全国ツアー」のセットリストに反映されているのだな、と改めて気づく。
 そのなかで、すでに「真夏の全国ツアー2013 FINAL!」の時点で、生田絵梨花のピアノ演奏とのコラボレーションの形で、ストリングスの演奏が加えられていたことは見逃せない。現在に至るまで多くのライブで生演奏による演出は導入されており、「真夏の全国ツアー2015」では、それが“乃木坂らしさ”の一端であるとも説明された。

□ 2016年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2016 セットリストまとめ(1)
乃木坂46 真夏の全国ツアー2016 セットリストまとめ(2)

 深川麻衣の卒業コンサートがツアーに列せられ、明治神宮野球場公演は全曲披露の「4th YEAR BIRTHDAY LIVE」とされたため、「ツアーのセットリスト」とみなせるのはほぼ地方公演のみ、というところだろうか。
 “夏曲”はこの年の「裸足でSummer」で4曲目を数え、冒頭に“夏曲”ブロックを設けつつ、ライブ本編を「ガールズルール」で終える(終盤にも“夏曲”の披露がある)のは、近年まで続く形の端緒であったといえる。

 セットリスト表からは読み取れないが、序盤のブロックで明確に「メンバーシャッフル」の形がとられた点には新規性がある。「世界で一番 孤独なLover」のセンターを齋藤飛鳥が、「嫉妬の権利」のセンターを白石麻衣が務めるなど、かなり強い印象を残す人選がなされたことに加え、当時は“オリメン”の存在感が強かった(卒業メンバーが少なく、メンバーを替えてあえて演じられる機会も限られていた)ことにも目を向けるべきであろう。
 一方でこの時点では全国ツアー(地方シリーズ)をスタートさせ、すでに評価を定着させていたアンダーライブが、構造上「オリジナルメンバー以外が楽曲を演じる」ライブであるという側面を一部にもつものであったことにも留意したい。

 また、「乃木恋リアル」のコーナーもこれに近い印象になる。メンバーがひとりずつ(各公演2人)がフォーカスされ、この年に配信がスタートした「乃木恋」になぞらえる形で寸劇を行ったあと楽曲を披露する形で、完全日替わりで、かつ楽曲のオリジナルメンバーとも対応していない。
 全曲披露の「4th YEAR BIRTHDAY LIVE」で演じられたのは計112曲。メンバーがさまざまな経験を積み、グループが大きくなっただけでなく、オリジナルの楽曲数も増えたことで、ライブの演出にもいっそうの幅が生まれるようになった、といえるのではないだろうか。

□ 2017年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2017 セットリストまとめ

 3期生にとって初めての全国ツアーとなる。日程的に離れていた明治神宮野球場公演は18thシングルの体制に移行する前(選抜発表放送の前週)に行われ、地方公演とはまったく違うセットリストで展開されている。
 当時は「“期生別”のライブ」という言い方がよくされていたが、冒頭から3期→2期→1期の順で期別のブロックが大々的に設けられる形であった。3期生の加入によって「1期生」「2期生」の枠組みに対するまなざしも強まり、グループはこの時期以降、加入期を主要なストーリーのひとつに加えていくことになる。
 翌年のツアーでも「3期生ブロック」は設けられ、さらに翌年にはそれが「3・4期生ブロック」となる。期別楽曲も後輩の期を中心に継続的に制作されるようになり、この傾向は現在に至るまで続いている。

 また、地方公演の中盤、君の名は希望〜おいでシャンプーのブロックは、「乃木坂シアター」として、大胆なアレンジを加えた上で1・2・3期混成のチームを編成して演じられたものである。
 期別の枠組み、およびそのストーリーを強調することは、一方でその枠組みを取り払う場面を要請するし、そこに特別な印象を与えることにもなる。これ以降、ツアーに限らず、あえてわかりやすく各期のメンバーをとりまぜてパフォーマンスが展開される場面も増えていく。

 3rdアルバムの発売が5月下旬、18thシングルの発売が8月上旬と、このツアーにあわせてリリースが重なったこと、かつ18thシングルはタイアップ楽曲も多かったため、一気に夏をモチーフとした楽曲が増加することになる。
 主要なところでは「スカイダイビング」「ひと夏の長さより・・・」であり、「逃げ水」も“夏曲”と強調される向きは強くないが、地方公演の軸となったという意味では、少なくともこの年の夏においてはそのような性質をもっていた。「泣いたっていいじゃないか?」も、高校生クイズの応援ソングとされたことから、夏のモチーフは直接登場しないが、夏を想起させる楽曲となっていく。
 3期生までの全員を歌唱メンバーとした「設定温度」も夏の楽曲であり、その後の経緯もあいまって、ツアーのイメージが色濃くつけられていく。「君が扇いでくれた」も、この時期の楽曲である。明治神宮野球場公演では本編最後のブロックで“夏曲”をぶつけきったのち、アンコールでは「オフショアガール」を全員で演じるという場面も設けられており、“夏曲”に準じる扱いを受けた。

□ 2018年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2018 セットリストまとめ

 アリーナクラスの会場から、スタジアム・ドームクラスの会場にスケールアップして臨まれたのがこの年のツアーである。
 恒例の明治神宮野球場公演は「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」として、秩父宮ラグビー場との2会場同時開催の形(「シンクロニシティ・ライブ」)がとられた。地方公演も4都市8公演という規模であり、「真夏の全国ツアー」としてのべ観客動員数が過去最も多かったのがこの年であると考えられる。

 「シンクロニシティ・ライブ」はかなり特殊な形のライブであるが、地方公演のセットリストもこの流れをくんでおり、アンダー曲や3期生曲の披露曲数の多さにつながっている。
 地方公演のセットリストは日替わりの幅が大きいのが特徴的であった。かなりの自由度をもって演じられた「ジコチュープロデュース企画」のほか、日替わりで過去の楽曲が演じられたブロックでは、過去のライブの映像も一部に用いられるなど、「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」が全曲披露でなかった分をいくぶん補完するような色もあったと記憶する。
 野外の会場では放水の演出も取り入れられるなど、夏ならではの演出もあったが、各ブロックがバリエーションに富んでいるぶん、セットリストそのものがそこまで“夏”を強調しているかというと、そうではないようにも思う。地方公演で「太陽ノック」が演じられていないのはかなり特徴的な現象である。

 メンバー編成はある程度安定しており、新加入のメンバーを迎えてのツアーでもなく、“座長”を務めたのも自身2回目となる齋藤飛鳥で、会場がスケールアップしたタイミング……と順を追って考えていくと、「真夏の全国ツアー2024」との共通点が多く見いだせる。
 さらに2018年当時は3期生がまだ新メンバー的な扱い(本格合流がこの年の20thシングルからで、ざっくりいうと現在の5期生よりキャリアが1年短い)であったことを考えると、現在のグループの充実ぶりにも改めてうなずける部分が多い。

□ 2019年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2019 セットリストまとめ

 4期生(2018年加入の11人)にとって初めての全国ツアーとなる。スタジアムの設定はなくなり、ドーム3会場+明治神宮野球場、という形となった。
 遠藤さくらが24thシングルのセンターに抜擢されたのはこの夏の出来事であるが、選抜発表の放送は愛知公演より後である。「夜明けまで強がらなくてもいい」にも“夏曲”の色はなく、この年のツアーには“座長”がおかれなかった、という点にひとつの特徴がある。
 また、桜井玲香の卒業発表も愛知公演より後であり、大阪公演(2日目は台風接近により中止)では秋元真夏の2代目キャプテン就任が発表されており、またこの日には「夜明けまで強がらなくてもいい」の初披露も行われている。千秋楽公演は桜井の卒業公演扱いとなり、全国の映画館でのライブビューイングも行われた。ツアーの期間にグループの体制が大きく動くというのも、珍しいケースである。

 セットリストの編成については、これまでの流れを十二分にくんだものという印象をもつ。“夏曲”を序盤と終盤に配することや、「3・4期ブロック」を設けたこと(このあとの時期には「3・4期生ライブ」も開催されることになる)、完全日替わりではないがメンバープロデュースのコーナーを設けたことなど、「ツアーのセットリストってこういう感じだよな」という理念型のようなものを感じる(筆者はこの年のツアーに公演数としてはあまり足を運べたほうではないのだが、それでも)。
 あるいは、「僕のこと、知ってる?」をドキュメンタリー映画の主題歌として強調しつつ全公演で演じ、しかも全メンバーによる歌唱の形としたことや、著名なアンダー曲を選抜・アンダー混成のチームで演じたこと(「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」「ここにいる理由」「不等号」のブロック)なども、その印象に寄与しているだろうか。

□ 2021年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2021 セットリストまとめ

 コロナ禍を経た2年ぶりの全国ツアーであった。「坂道合同新規メンバー募集オーディション」および坂道研修生での活動を経て2020年2月に加入した、いわゆる“新4期生”5人にとっては、加入後初めての全国ツアーである。
 “声出し禁止”はもちろん、観客数の上限の規制など各種の制約のあった状況下での開催であり、東京ドーム公演は9月上旬の開催予定だったものが延期されている。
 27thシングル「ごめんねFingers crossed」は6月のリリースであり、“夏曲”と扱われることもないように思うが、地方公演では毎公演遠藤さくらによる語りのパートが設けられるなど、このときは“座長”の扱いであった。

 グループが結成10周年を迎えるタイミングであったことから、「夏ツアーで聴きたい曲トップ“10”」と題してファン投票が行われ、特に地方公演ではこれをもとにしたセットリストが組まれたことから、かなり特殊な形となっている。
 ファン投票は表題曲(アルバムリード曲を含む)/カップリング曲/アンダー曲/ユニット&ソロ曲の4部門で行われており、それぞれ上位10曲、計40曲を網羅して2種類のセットリストが組まれた。ランク外の楽曲から本編で演じられたのは「ごめんねFingers crossed」のみであり、投票結果をかなり尊重したセットリストであったといえる。
 全体として、オリジナルメンバーが残る楽曲、ないし近年寄りの楽曲が強く、一方で「インフルエンサー」「シンクロニシティ」などライブで披露されることが多い楽曲が外れている。「サヨナラの意味」「ありがちな恋愛」など、曲調やリリース時期の関係もありツアーのセットリストには入りにくかった楽曲が“引っ張り出された”ような印象も受ける結果である。
 東京ドーム公演はこれをある程度もとにしつつも、別のセットリストが編成されている。10周年記念セレモニー・東京ドーム公演で演じられて以降、急激に存在感を取り戻してきた印象のある「きっかけ」が、トップ10に含まれていなかったというのも、興味深い現象である。

 こうした経緯と位置づけのセットリストでありながら、期別のブロックは維持しているという点にひとつの特徴を見いだすことができる。地方公演では各期1曲ずつの披露のみでなく、「空扉」は2・3期生、「ひと夏の長さより・・・」は1・4期生によって披露され、VTRでは「垣根を越える」ことが強調されてもいた。東京ドーム公演でも日替わりの期別ブロックが設けられている。
 全期のライブが行われた「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」に象徴されるように、この時期までのグループは1-4期横並びの活動が多くみられたが、東京ドーム公演に参加したメンバーでいうと1期生が7人、2期生が4人という状態であり、この取り扱いはこの時期でほぼ終わる。翌年2月の5期生加入時には1期生4人・2期生3人、「真夏の全国ツアー2022」は1期生4人・2期生1人で臨まれることになり、3・4・5期生を“後輩”とくくり、“先輩”から“後輩”へどのようなものを受け渡すかが明確な課題とされるようになっていく。

□ 2022年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2022 セットリストまとめ

 5期生にとって初めての全国ツアーとなる。5期生は加入から約半年というタイミングであり、(29thシングルでの中西アルノを除き)選抜/アンダーへの合流もまだであったが、日産スタジアムでの「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」を経て、このときのツアーではユニットのブロックにも加わるなど、先輩メンバーとおおむね一体となってツアーに参加していた。
 そのユニットのブロックは、「これからの乃木坂46を担う3・4・5期生をもっとみなさんに知ってもらえるように」と、先輩メンバーがスタッフと話し合って設定したものと語られている。

 賀喜遥香がセンターを務める「好きというのはロックだぜ!」は、典型的な“夏曲”としては4年ぶりであったといえる。選抜発表の放送は初演直前、リリース日は8月末と、まさにリリースまでの期間すべてをツアーに重ねる形がとられ、賀喜は明確にツアーの“座長”と位置づけられた。
 歌詞をつぶさに読むと夏のモチーフは登場しないのだが、こうした経緯とツアーの記憶、そして曲がもつ青春のイメージやジャケットなどのアートワークなどもあいまって、現在に至るまで“夏曲”として取り扱われている。
 このときの30thシングルでは「バンドエイド剥がすような別れ方」「ジャンピングジョーカーフラッシュ」「僕が手を叩く方へ」という3曲の期別楽曲が制作され、この年のツアーで順次披露されていくことになる。
 加入期のストーリーが再び強調されていくなかでこの3曲の存在感はきわめて大きいといってよく、3年にわたって全国ツアーで披露され続けている。“後輩”に何を残すか、“後輩”は何を受け取るか。それが焦点となったこの夏に制作された楽曲を武器に、各期はそれぞれに走り続けている。

 ほか、セットリストのなかで特徴的なのは、キャンプファイヤーを囲んでの歌唱の形で披露された、「泣いたっていいじゃないか?/孤独な青空/羽根の記憶」「Sing Out!/ひと夏の長さより・・・」のブロックである。特にこれ以降、こうした形の歌唱中心のパフォーマンスが取り入れられることが増えた。
 それまでのライブにも歌唱をしっとりと聴かせる場面はもちろんあったわけだが、5期生の加入を経て歌をストロングポイントとするメンバーがさらに増加したことも背景にあるだろうか。

□ 2023年

乃木坂46 真夏の全国ツアー2023 セットリストまとめ

 ようやく2023年までたどり着くことができた。筆者はこの年のセットリストにかなり執着があり、詳細版のセットリストも作成しているので、よろしければご覧いただきたい。

乃木坂46 真夏の全国ツアー2023 セットリストまとめ(詳細版)

 「史上最大規模」といわれたこの年のツアーは、井上和を“座長”としてスタートするが、「おひとりさま天国」の初披露は4都市目の沖縄公演まで待たれることになる。
 その間にも井上は前に出る場面が多かったものの、地方公演のセットリストでは本編最後に置かれた「人は夢を二度見る」に対応し、ダブルセンターの久保史緒里と山下美月が日替わりでスピーチをする場面もつくられるなど、いくぶんか折衷的な、井上にすべてを背負わせきるのではないような、そんな印象をもたせる部分もあった。
 以前にも書いたことがあるが(「思い出という名の守護神(2023年夏の坂道シリーズに思う)」)、このときのセットリストからは「あくまで現役メンバーの武器をもってツアーを戦う」というような意志が明確に感じられた。オリジナルのセンターがいる表題曲は網羅され、期別楽曲を全員で披露する場面もあった。“新体制”への思いがほとばしるような構成であったと、いま眺めてみても思う。
 こうしたなかにあって、「シンクロニシティ」はセットリスト表のなかで異彩を放っている。“夏曲”でもなく、オリジナルのセンターがいる楽曲ではない。通常の披露ではなく歌唱中心の披露で、久保史緒里と中村麗乃がそれぞれリードするチームが日替わりで歌唱したのち、全員が揃うという構成がとられた。

 “夏曲”という点では、地方公演の冒頭でメドレーで5曲が披露され、網羅的ではあるもののやや圧縮された印象があった。筆者は初演の北海道公演に立ち会うことができたのだが、「“夏曲”はもちろん外せない一方で、もっと見せたいものがあるのだろうな」と直覚したことを覚えている。
 地方公演では「おひとりさま天国」は「ジコチューで行こう!」に差し替えられる形がとられ、東京公演ではこれが本編最後に動く。“夏曲”のメドレーの形はとりやめられるが、「夏のFree&Easy」(および「走れ!Bicycle」)はアンコールでの日替わり披露の形に移行している。ほか、地方公演でメドレー披露だった楽曲のうち、「ガールズルール」と「太陽ノック」はアンコールで日替わりでの披露もなされていた。

 こうした“夏曲”にかかわる変更のほか、大阪公演には早川聖来の卒業セレモニーが設定され、愛知公演からはアンダー曲「踏んでしまった」がセットリストに加わり、東京公演では野球をモチーフにした「Never say never」に加え、歌唱中心の「誰かの肩」「設定温度」がセットリストに加えられたほか、日替わりの期別楽曲披露にも新たなパターンが加えられるなどの変更があった。
 16公演という規模をふまえて、バランス良く展開がつくられていたように思う。

■ 昨夏から続く道

 さて、だいぶ回り道をしてしまったが、「真夏の全国ツアー2024」大阪公演についての話題に戻ることにしたい。ここで過去のツアーを振り返ったのは、今回のセットリストの終盤に込められた意味の大きさを感じたからだ。

 幾度も折り重ねられるように繰り出された“夏曲”のブロックを「夏のFree&Easy」で終えると、メンバーはオーケストラによる「設定温度」の旋律に乗せ、Bステージから花道を歩いてメインステージに戻る。そのまま「設定温度」の歌唱に移行するのかな、と思いながら見ていたが、披露されたのは「シンクロニシティ」であった。
 オーケストラによる演奏に乗せて、歌唱を前面に出しての披露。前年のツアーで16回にわたって重ねられたパフォーマンスがオーバーラップする。しかし異なっていたのは、(近年ではこの曲のセンターとして定着している)梅澤美波がセンターに立ち、冒頭から全メンバーで披露され、かつダンスも取り入れられ、平時のパフォーマンスとの折衷的な形で終えられたということであった。
 これに続いたのが「僕が手を叩く方へ」。前年のツアーでも本編最後の1曲前で演じられており、同じようにセットリストのクライマックスに置かれたということになる。一昨年の明治神宮野球場の風景も想起されてくる。この間、3期生が引っ張ってきたものは、あるいは背負ってきたものは、いかばかりだっただろうか。
 そしてこれまでと違っていたのは、オーケストラによる荘厳な演奏に乗せた歌唱で、客席に向けての煽りはなかったにもかかわらず、自然と、あるいは当然のように、客席からクラップが起こったということであった。間違いなく、“あの夏”の続きに、いまがある。

 客席が拍手に包まれ、井上和のスピーチに移行する。去年のツアーでも、どこか心身の震えと向き合うようにしながら語った初演の様子や、「おひとりさま天国」の初披露後に涙を流す様子をふまえて見ると、東京公演での語りはずいぶんと落ち着いて見えたものだが、そのときと比べてもだいぶ落ち着いた様子で、自身とグループのありさまについて語っていた。
 筆者が強く記憶にとどめているのは、1日目公演で井上が「乃木坂らしさ」に言及し、それに対して腰を落ち着けて向き合っている様子が垣間見えたことである。2回目の“座長”だからこそ語れる言葉だったな、と感じた。
 2日とものスピーチを、井上は「誰かと肩を貸し合いながら進んでいきたい」というような言葉でまとめた。本編最後は「誰かの肩」。それは昨年の地方公演12公演ののちにたどり着いた場所で、そこからさらに歩みを進めてきたことがわかる歌唱であった。

 しっとりと本編を終えたあとは、池田瑛紗と小川彩が客席にアンコールの指導をするくだりがあったのち、「ハウス!」/「ロマンスのスタート」(日替わり)と「他人のそら似」で明るくライブが再開される。メインステージに戻ると、2公演共通で「Monopoly」が演じられた。ライブでの披露機会がまだ多くない曲であるが、遠藤さくらと賀喜遥香のいかにも楽しそうな様子を見ていると、これからもたくさんライブで見たいなと思うと同時に、アンコールでの披露もこれはこれで良いな(本人たちのテンションが高いので)と感じた。
 そしてMCを経たのち、「乃木坂の詩」でライブが締められる。ステージから去るメンバーをいつものように見送ってから時間を確認したら、公演時間が3時間に迫るほどになっていてかなり驚いた。盛りだくさんの内容だったのに、駆け抜けるように終わっていった2日間だった。

■ “あの夏”との距離

 何度も繰り返してしまうが、筆者は「真夏の全国ツアー2023」が、セットリストや公演内容、もしくはグループ史における位置づけなど、多くの側面にわたってかなり好きである。
 だからこそ過去のツアーをふまえて振り返りたいなと思ってこのような体裁のnoteとしたのだが、しかしそれだけが理由ではない。“夏曲”をぎゅっと詰め込んだような今回のライブから、いろんな人がいろんな“あの夏”を思い出しただろうな、と思ったからだ。
 バースデーライブやアンダーライブ、もしくはかつての「Merry Xmas Show」など、グループが定番とするライブは他にも数多い。しかし最も多くのファンが現地で触れてきたのは、この「真夏の全国ツアー」であるはずである。

 2013年の「ガールズルール」、2014年の「夏のFree&Easy」、2015年の「太陽ノック」、2016年の「裸足でSummer」。それぞれの年のツアーを思い出深く覚えているファンもいるだろうし、特にこの4曲は“夏曲”のテッパンとして、近年はほぼひとまとまりにされている。リリース年以降の時期の思い出として、これらの楽曲を記憶しているファンも多いだろう。
 あるいは「裸足でSummer」のカップリング曲であった「僕だけの光」は、その歌詞もメッセージ性もあってか、リリース当時よりはここ数年、よくライブのセットリストに入るようになったという印象だが(去年も東京公演のアンコールで披露されている)、ダンスパフォーマンス中心の本来の形で披露されたのは珍しかったのではないか。これもまた、2016年夏の記憶でもあったかもしれない。
 「ジコチューで行こう!」(2018年)や「好きというのはロックだぜ!」(2022年)も当然にセットリストに加えられており、さらに「君が扇いでくれた」(2017年)、「スカイダイビング」(2017年)、「自惚れビーチ」(リリースは2018年1月)までも本編で網羅したことは、ありがたいというよりほかにない。このあたりの楽曲は、リリース年よりあとはアンコールや日替わりの扱いになることも多く、“あの夏”のことを思い出したとともに、きっと2024年夏の思い出にもなるのだろうな、という予感がある。

 あるいは、ストリングスやオーケストラを加えての歌唱も、かつては「君の名は希望」を中心としながら、2013年以降ずっと、乃木坂46のライブの重要な部分を担ってきた。その端緒は「真夏の全国ツアー2013 FINAL!」であり、「真夏の全国ツアー2015」では全公演でこの形がとられている。「真夏の全国ツアー2018」の端緒であった「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」で、2会場から見える位置で指揮者がタクトを振っていた風景が、筆者にはすごく印象深い。
 もっといえば、「真夏の全国ツアー」で「日常」が披露されたことも、2019年のことを思い出させる。今回の着用衣装はオリジナル衣装(MV衣装)で、「真夏の全国ツアー2019」の際とは異なっていたが、しかしそれでもあの頃のことを、“あの夏”を、思い出したことは間違いない。
 「他人のそら似」も、夏に聴くと10周年イヤーであった2021年の福岡公演での初披露を思い出す。フル尺で披露されることはなくなり、フリバラシでの披露が多くなった。ダンスを見るのはアウトロだけ、という状況も多くなってきたが、その終わりはクロスフィンガーのポーズのまま、“あの夏”と変わらない。

 だんだんこじつけのパズルのようになってきたが、どのタイミングの“あの夏”も、どこかにかぎ取れるようなライブだったな、と思うのだ。
 そしてそれはきっと、筆者みたいな人間がネチネチと回顧できて楽しいというところに良さがあるのではない。たまたま両隣の席からそのような会話が聞こえてきたというだけなのだけど、会場が大きく比較的チケットがとりやすかったことを考えると、「乃木坂のライブに久しぶりに来た」という人もそれなりにいたはずだ。
 あるいは、他グループのペンライトが振られているのが目に入ることもあった。首都圏でのライブやアリーナクラスでのライブだと最近はあまり見なくなった現象のような気がして、今回は東名阪だけではあるけれど、「ドームツアー」を挙行することにはそういう意味があるんだろうな、とも感じた。
 そういう、現役どまんなかのファン以外にも訴えかけられるような、「ああ、これが乃木坂46だ」と思わせるような要素が散りばめられたライブだったな、と思う。

(余談だが、筆者の目に入った「他グループのペンライト」のうちのひとつに、欅坂46の初ワンマンライブ[2016年]のペンライトがあり、やたらと懐かしい気持ちになってしまった。ただの勘だが、そのペンライトを持っていた彼にはたぶん、乃木坂46についても思い出深い“あの夏”があったはずだ。)

【「真夏の全国ツアー2024」大阪公演(2024/7/20-21)セットリスト】
OVERTURE
①チートデイ
②裸足でSummer[C井上]
③太陽ノック[C久保]
④君に叱られた
⑤僕だけの光[C井上]
⑥バンドエイド剥がすような別れ方/17分間
⑦I see.../ジャンピングジョーカーフラッシュ
⑧三番目の風[C与田]/トキトキメキメキ
⑨Threefold choice
⑩Am I Loving?
⑪ジコチューで行こう!
⑫ぶんぶくちゃがま/甘いエビデンス
⑬あと7曲/せっかちなかたつむり
⑭Never say never/他の星から
⑮ここにはないもの/僕が行かなきゃ誰が行くんだ?
⑯あらかじめ語られるロマンス
⑰ロマンティックいか焼き
⑱君が扇いでくれた
⑲自惚れビーチ[C奥田]
⑳スカイダイビング[C梅澤]
㉑ガールズルール[C一ノ瀬]
㉒ひと夏の長さより・・・[C池田・小川]
㉓日常[C奥田]
㉔Wilderness world
㉕Actually...
㉖おひとりさま天国
㉗好きというのはロックだぜ!
㉘夏のFree&Easy[C与田]
㉙シンクロニシティ[C梅澤]
㉚僕が手を叩く方へ
㉛誰かの肩

アンコール
EN1ハウス!/ロマンスのスタート
EN2他人のそら似
EN3Monopoly
EN4乃木坂の詩

 しかしもちろんそれは、筆者がそのようなものを勝手にかぎ取っているというだけで、「懐かしいやつをやります!」というたてつけでライブが展開されているという意味ではまったくない。
 主にバースデーライブという形で、グループの来し方への眼差しを強く保ち続けてきて、今年の「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では改めて、現メンバーでグループの全活動期間をなぞる形もとったからこそ、それが自然な形でなし得ているのだと思うし、あるいは「真夏の全国ツアー」という営みを10年以上続けているというその構造自体がもたらしている深みでもあるだろう。

 そしてまたあるいは、大きな会場でライブが行われるということは、乃木坂46のライブに今回初めて参加したというファンも、きっとそれだけ多いということでもある。そうしたファンにとっては、この夏こそがきっと“あの夏”の筆頭になっていく。
 5年ぶりのドームツアーに訪れた、筆者を含むできるだけ多くのファンが、これからも長い時間の先、たくさんの“あの夏”を手に入れられるといいな、そういうグループであってほしいな(そしてたぶん、心配はまったく要らなそうだな)と思う。


 いつものように、あまりまとまらない文章になってしまいましたが、この記事にアクセスしていただいた奇特な方のうち9割くらいの方は、なぜか2013年からツアーのセットリストをなぞり始めたあたりで振り落としているという自覚があるので、思い悩まないようにしたいと思います。

 2年連続で“夏曲”のセンターに井上さんを起用し、今年も“座長”としてツアーを回るという構図は、最初はやや意外に感じましたが、大阪公演を2日間見たら、「これ以外にはなかっただろうな」と思いました。むしろ、またとないチャンスだったんじゃないかなと。明らかに去年の続きを走れるからこそ、特有の見えてくるものがあるはずですが、それができる巡りあわせってレアだと思います。
 あと5公演、この夏のグループのこと、そしてその真ん中に立つ井上さんのことを見ていられるのが幸せですし、夏の終わりがすごく楽しみです。

 筆者は何かあるとすぐ「これを全期間で振り返ってみよう!」という発想になってしまい、容易に爆死してしまうのですが、今回もほぼそれでした。そしてその極致が、12年分のフォーメーションを振り返った(そしたらフォーメーション以外のことも何もかも書くことになった)この記事です。
 14万字ほどあります。約237分で読めるそうです。よろしければお読みください(よろしくねえよ)。

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