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人は必要なときに、必要な人と出会う(乃木坂46・36thSGアンダーライブによせて)

※「36thSGアンダーライブ」の内容について、全編にわたって言及しています。ネタバレを気にされる方は、どうかご注意ください。
※本記事は愛知公演と大阪公演のあいだの時期に、筆者の記憶に頼って書かれており、今後の公演などをふまえて加筆・修正する可能性があります。


■ 2年ぶりの全国Zeppツアー

 乃木坂46「36thSGアンダーライブ」が進行中である。今回のアンダーライブは5都市11公演の全国Zeppツアーの形式であり、本稿執筆時点では2都市目の愛知公演までを終えたところである。筆者はどうにか予定をやりくりして、福岡の2公演目から始まり、愛知・大阪・北海道の各2公演と、神奈川の2公演目、合計8公演に立ち会うことができる見込みである。
 全国Zeppツアーの形式でのアンダーライブは、2022年12月に開催された「31stSGアンダーライブ」と重なる。1公演を除いて平日の開催であるということも当時と重なる状況であるなかで、チケットを求めるファンの熱は前回を上回っているように見受ける。いま確かめたら、北海道の2公演目を除き、全公演がソールドアウトしていた(北海道以外は即完売だったはずである)。

 筆者は「31stSGアンダーライブ」に思い入れがある。何を隠そう、このnoteを始めたのはあのときのアンダーライブがきっかけである。当時はブログ「坂道雑文帳」で北野日奈子のキャリア全体について書き綴っていたシリーズ記事「その手でつかんだ光(乃木坂46・北野日奈子の“3320日”とそれから)」が思った以上に長期化してしまっている状況で、でもとにかく何かが書ける場がほしい、できればもう少しざっくばらんに、という思いで始めたのであった。
 結果的に、間もなく「月に1本は(メモでもいいから)何かnoteを出そう」という形を継続することになり、そのときどきで自分が見てきたこと、考えていたことが形に残る、得難い場として機能するようになっている。

 上掲noteにも書いたところではあるが、当時は齋藤飛鳥が卒業を控えた状態で最後のシングルの活動をしていて、その後年明け早々には秋元真夏が、これに続く形で鈴木絢音が卒業発表。グループからはオリジナルメンバーが去り、現在につながる“3・4・5期生”の体制がスタートすることになった。
 これに先んじる形で、「31stSGアンダーライブ」は3・4期生による“新体制”で臨まれることになった。新たな時代に直面するメンバーの決意を象徴するかのように「三番目の風」「4番目の光」が演じられ、公演ごとにメンバーひとりが「決意表明」をするパートも設けられた。
 筆者はこのときのセットリストが本当に好きである。通常のOVERTUREを用いず、1曲目の「アンダー」につながるピアノの旋律で代え、OVERTUREはアレンジを加えたうえで終盤のブロックにつながるダンストラックで用いる特殊な構成をとりつつ、ユニットコーナーや“お歌のコーナー”というアンダーライブの定番といえるパフォーマンスもあれば、クリスマスアレンジを加えての「初恋の人を今でも」やくじ引きによるプレゼントコーナーなど、硬軟とりまぜた演出がなされていた。そして最後にはアンダー曲を連ねて畳みかけたうえで「悪い成分」で締め、アンコールでは表題曲を演じる。そんな引き出しの多さを見せつけられた帰り道、そこにあったのは「“乃木坂46のすべて”だ」、と感じたのであった。

 「真夏の全国ツアー2024」の愛知公演で「36thSGアンダーライブ」の日程が告知されたとき、筆者はちょうど会場で立ち会っていた。一昨年の12月の記憶がいまだに色濃かったから、これは全力で臨まなければならない、と思ったのであった。
 同じように平日中心の日程が告知されたあの日、筆者は神奈川公演にしか申し込まなかった。両公演とも落選し、一般発売でも競り負けてしまった。まあ、Zeppの規模だから仕方ないかな、と思っていたら、しばらく経っても地方公演(土曜開催の大阪公演2日目以外)がソールドアウトしていないことを知った。
 自分も自分で先行抽選に申し込んでいなかったくせに、「そんなことがあっていいはずがない」と思って、その場で3公演ぶんチケットをとった。あの日の衝動のおかげで、2024年のいまがある。あのときも結局、スケジュールの調整に自信がもてなくて福岡や北海道には赴かなかったのだけど、その点についての後悔もふまえて、今回の8公演があるのだ。

■ 658日ぶりの「アンダー」

 もうひとつ、やはり触れておかなければならないのはアンダー曲「アンダー」のことだ。2017年の夏に北野日奈子と中元日芽香のダブルセンター曲として世に出て以降、さまざまな経緯を経て、その「31stSGアンダーライブ」以来披露されていない状況であった。そして、その前の披露機会は、2022年3月24日の「北野日奈子卒業コンサート」であった。
 今回もこのフレーズを用いるが、筆者はこの楽曲に執着がある。坂道シリーズについて文章を書くようになったのもこの曲と「アンダーライブ全国ツアー2017〜九州シリーズ〜」がきっかけであるし、その後も文章を書くという行為を通して、追えるだけの経緯を追ってきたといってよい。誇張ではなく、人生でいちばん聴いたといえる曲でもある(記録が残っているだけで2000回ほどは聴いてきたらしい)。

(この3本の記事で、時系列的には「31stSGアンダーライブ」までを網羅することになる。)

 「31stSGアンダーライブ」のセットリストの1曲目として演じられた「アンダー」だが、前日譚といえるものがあった。公演に先立って配信された「31stSGアンダーライブ全国Zeppツアー開催記念特番」(2022年11月22日、乃木坂配信中)。そこではアンダーアルバム「僕だけの君〜Under Super Best〜」の特典映像であった「The Best Selection of Under Live」を全編、31stアンダーメンバーが視聴するという場面があった。
 同作品は“1・2期生”時代のアンダーライブの印象的な場面をおおむね時系列順に編集したものである。そしてその最後の1曲が、九州シリーズでの「アンダー」であった。そこまでは「この衣装かわいい」「こんなパフォーマンスしてたんだ」みたいなことを言い合いながら、ややリラックスした様子で映像を見ていたメンバーたちが、フルコーラスで披露された「アンダー」の約4分間は、誰もひと言も発さなかったのが印象的だった。
 このときアンダーセンターを務めた中村麗乃は、配信内で「私たちしかいないから、守んなきゃいけないじゃん」と涙ながらに語った。その中村がリードする形で、歌唱中心でまっすぐに伝えられた「アンダー」から、“すべてを継承する”かのような迫力を、筆者は当時感じとっていた。
 しかしそこから2年近く、日数でいえば658日のあいだ、乃木坂46は「アンダー」を披露することはなかった。歌詞がもつメッセージよりはるかに多くの記憶が塗り込められたような楽曲が長らく披露されてこなかった日々のなかで、あれは“継承”ではなく、むしろリスペクトを込めた“区切り”であったのではないかと思うようになっていた。

 しかしそうしたなかで、36thシングルでは北野と紐帯の深いメンバーである奥田いろはがアンダーセンターを務め、しかも“座長”として臨むことになるアンダーライブがZeppツアーの形ときてしまえば、「アンダー」の披露を予想する部分がまったくなかったといえば嘘になる。しかしもう少しいうならば、予想はしていても、期待をしていたわけではなかった。
 それをいくぶんか予想はしていたから、1公演でも多くと現地で立ち会う予定を立てた部分も大いにある。でも、「アンダー」が演じられなくても、一切の後悔はなかっただろうということは確実にいえる。むしろ、「『アンダー』が演じられるかもしれない」と明確に感じた、けれど演じられなかったライブにこそ、自分が満足に立ち会えなかったとき、ずっと後悔するような気がした。
 間違いなく熱烈なファンであると、一般には評価されるような行動様式をしているとは自覚している一方で、筆者はもう、グループやメンバーに対して、「こうあってほしい」とか、「自分が応援してこうしたい」とか、そんな思いは一切ない。大きな川が流れているのをずっと見つめているだけのような気持ちでいる。
 大した熱がないのにライブのチケットをかき集めていると誹られても仕方ないし、それで構わない。でも、それでもリアルタイムで追いかけるからには、どこまでもグループの息づかいに鋭敏でありたい。そんなふうに思うようになって、もう何年もの時間が経っている。

 結果として、「アンダー」は今回のアンダーライブにおいて、セットリストの中盤で、奥田いろはをセンターに置く形で、アンダーメンバー全員で披露されることになった。
 ここに加わった奥田および岡本姫奈は5期生として初めて「アンダー」を披露した形となり、「北野日奈子卒業コンサート」および「31stSGアンダーライブ」の参加メンバーではなかった柴田柚菜(彼女も北野と紐帯の深いメンバーだ)も、今回初めて「アンダー」を披露したことになる。

■ 個人フィーチャー企画の最高到達点

 ここまでは「アンダー」ばかりを粒立てるようにして書いてきてしまったが、今回の「36thSGアンダーライブ」は、ほぼ全体として平時のライブよりはかなり変化をつけた構成であった。
 リハーサルの時期の収録であった「ベルク presents 乃木坂46の乃木坂に相談だ!」で、松尾美佑はセットリストについて、「初めて見るセトリすぎて、最初見たときにみんなポカーンってしてた」と語っている。

松尾:いつ来てもね、楽しいよ。いろんなことする。
田村:美佑が目立つ日みたいなのとかもあるの?
松尾:そうだね。でも、どこに来ても割とおもしろい……初めて見るセトリすぎて、最初見たときにみんなポカーンってしてた。
田村:「珍しい!」って感じだったの?
松尾:「どうやって進めるのこれ」みたいな。
田村:つながりが、ってこと?
松尾:どういうことなんだろうって思ったけど、内容聞いて、こういうコンセプトで今回はこうやって進めるよみたいなのを聞いたら、やっと「あー、なるほどね!」みたいになる感じだった。
田村:えー、ちょっと気になるんだけど。

「ベルク presents 乃木坂46の乃木坂に相談だ!」
2024年10月11日放送回オープニングトーク

 まずもって1曲目、OVERTUREより前に「日常」が演じられる、という時点で、これまでに例のないセットリストであるということができる。アンダーライブでは長らく定番の人気曲であり、それ以外のグループのライブでも多く演じられてきた「日常」であるが、その強い曲調とパフォーマンスから、特にアンダーライブではほぼ例外なく、ライブ後半の熱が高まったところで必殺技のように繰り出される形がとられてきた。
 そこからはメンバーの語りで、今回のアンダーライブではひとり3曲のステージが与えられ、1曲目は「思い入れ」を表現し、2曲目は「新たな一面」を見せるためのパフォーマンスを見せ、3曲目は「個としての魅力」を伝えるためにソロでのパフォーマンスを行うという構成が説明される。
 やや定かではないが、その後のMCでのメンバーの語りから伺えるところによると、1曲目はメンバーによる選曲で、2・3曲目はおおむねスタッフが選曲して演出をつけているように伺えた。

 福岡公演、大阪公演の模様をもとにすると、この構成で各都市での2公演でそれぞれ6人・5人のフィーチャーステージが設けられるということのようであり、3公演が行われ、中村麗乃と吉田綾乃クリスティーも加わることになる神奈川公演では、ここにもうひと展開加わる、ということになりそうだ。
 ここからは登場順に、各メンバーのフィーチャー楽曲をざっくりとなぞっていくことにする。

(各公演1日目)

 OVERTUREを経て最初に登場した林瑠奈は、1曲目に「嫉妬の権利」を披露。アンダーライブとして初めての日本武道館公演が行われた13thシングルのアンダー曲であり、その曲調も含めてアンダー曲の象徴的な取り扱いを受けてきた楽曲のひとつである。アンダーライブに足を運ぶ際にいつも期待する通りの、情熱があふれるようなパフォーマンスを見せる。林自身も幾度も披露してきた楽曲であるが、センターに立つのは初めてであった。強く憧れた堀未央奈と、サイリウムカラーを“継承”している形である中元日芽香のダブルセンター曲でもある。そうした部分への「思い入れ」も、ファンとしては読み取ってしまう。
 そこからの2曲目では、松村沙友理の“卒業ソロ曲”である「さ〜ゆ〜Ready?」を「る〜な〜Ready?」として披露する。確かに「新たな一面」ではあったが、林自身による語りで、「クールなのが得意だと思われがちだけど、本当はかわいいものが大好き」とも説明される。同曲がステージで披露されるのは松村の卒業コンサート以来初めて。コール動画も制作されたものの当時はコロナ禍の“声出し禁止”の状況であり、客席からはこのときの“幻のコール”も聞かれた。
 3曲目は前シングルアンダー曲の「車道側」。筆者の体感としては、ファン人気が非常に高い楽曲という印象があるが、センターの筒井あやめ、フロントの菅原咲月・冨里奈央は揃って選抜メンバーに移っており、披露されるイメージの湧きにくい状況でもあった。しかしここで、特別なアレンジを加えたうえで林がソロ歌唱するという形で、セットリストに加えられる形となった。林のソロ歌唱にはロックミュージシャンのような独特の色彩がある。前シングルから大きく体制の変わったアンダーライブが「車道側」に新たな解釈を加えたような、そんな印象設けた。

 続いて登場した矢久保美緒は、1曲目に「生まれたままで」を選曲した。これは矢久保がオーディションの歌唱審査で歌った曲であるといい、「思い入れ」をまっすぐ表現した選曲となった。のちのMCでもそのことについて言及するとともに、「大事なものが少ない方が/楽だと思う」という歌詞が好きで、ずっと励まされていた、と語っていた。必ずしも明るいだけではない歌詞を、しかし明るく笑顔で伝える。そうした部分もふくめて、彼女らしいな、と感じた。
 2曲目として選曲されたのは「雲になればいい」であった。生田絵梨花・衛藤美彩・桜井玲香をオリジナルメンバーとする、高い歌唱力で聴かせるタイプの曲であり、同期メンバーのなかではやはり歌唱力に定評のある柴田柚菜と林瑠奈とともに演じられた。どちらかというと、メディアではコミカルなキャラクターが、ライブでは明るくも落ち着いたMCの進行が目立つ場面が多い矢久保だが、ここでは「新たな一面」として、確かな歌唱力を発揮していた。「得意なことは諦めないこと」、歌詞のメッセージにもやや重ねつつ、矢久保はそう語った。
 そして3曲目は「口ほどにもないKISS」。阪口珠美がオリジナルのセンターを務めたアンダー曲であり、阪口自身の(1曲きりの)選曲で、7月15日の卒業セレモニーで演じられた記憶もまだ色濃い。このときは3期生による披露であった一方、これを含めて阪口以外をセンターに置いて披露されたことは(「樋口日奈卒業セレモニー」で樋口とともにセンターで演じたことはあったものの)なかったのではないかと思うが、阪口の卒業からあまり間をおかずに、新たな形でライブでの披露がみられたことになる。キュートで、ちょっとお姉さん。そうした主人公のモチーフが、現在の矢久保のたたずまいにいかにもマッチしていた。

 続く岡本姫奈が1曲目に披露したのは「三角の空き地」。近年は披露機会がアンダーライブにほぼ限られ、それも珍しくなってきた楽曲であった。「34thSGアンダーライブ」では歌唱中心のアレンジでの披露であり、ストレートなパフォーマンスで披露されたのは「31stSGアンダーライブ」以来であったことになる。岡本を含め、メンバーが着用していたのはオリジナルの衣装。「34thSGアンダーライブ」での披露にも加わっておらず、このときが初めての披露であった岡本は「やっと演じることができた」と喜びを語った。
 2曲目に披露されたのは「その先の出口」。9thシングル所収のユニット曲であり、長らく披露機会が限られてきた、ライブで見るには珍しい楽曲であった。“全曲披露”時代のバースデーライブでしか披露されていないような状況であった時期を経て、「29thSGアンダーライブ」で吉田綾乃クリスティーが「思い出セレクション」コーナーで選曲して以来2年半ぶりに披露された形となった。バレエと対極にあるヒップホップダンスへのチャレンジであったとともに、聴く者をストレートに勇気づけるような楽曲をセンターで演じることが、岡本にとっての「新たな一面」への挑戦である、という説明であった。
 3曲目は「自由の彼方」。アンダーライブらしい強さが発揮される曲であり、「33rdSGアンダーライブ」では新規の振り付けがなされたうえで1曲目で演じられたことが記憶に新しい。岡本にとっての無二の武器といえばやはりバレエであり、ジャンプやターンがふんだんに取り入れられたソロパフォーマンスであり、均整のとれた立ち姿が照明にあてられて、会場の壁に影をつくる様子が美しかったことが印象に残っている。バレエ風のパフォーマンスの機会があると、岡本はいつも「バレエをやるのは久しぶりで」と、遠慮がちな様子を見せる。今回も同じように語ったうえで、「クオリティを落とさないようにこれからも頑張ります」と口にした。

 次に登場した向井葉月の1曲目は「ブランコ」であった。オリジナルのセンターである寺田蘭世がグループを離れて以降は特に披露機会が限られてきた楽曲で、同期の北野日奈子が卒業コンサートでセットリストに加えて以降は、前回の「35thSGアンダーライブ」において、日替わり楽曲の位置づけで小川彩のセンターで演じられたのが2年以上ぶり、という状況であった。このときのアンダーライブにも向井は参加していない。ストレートな思い入れを表現した選曲において、向井がグループで培ってきたパフォーマンスの表現力が光っていた。
 2曲目は「Threefold choice」。衣装はそのままに頭に大きなリボンをつけ、柴田柚菜・岡本姫奈とともに、オリジナルと同じ3人で演じた。「真夏の全国ツアー2024」ではフリバラシの形でメンバー全員が披露した記憶も色濃いが、こうした形で向井が披露したのはおそらく初めてである。キュートに振ったパフォーマンスの機会が意外と少ない向井にとって「新たな一面」であったともいえる一方、誰よりも憧れた星野みなみの参加曲でもある(真ん中のポジションは堀未央奈のそれだったが、向井がつけたオレンジのリボンは、星野のカラーでもあった)。必ずしも得意ではなくても、なりたい自分、「本当の自分で乃木坂にいたい」、かつてそう綴った彼女の思いを叶える選曲だったのではあるまいか。
 そして3曲目では「My rule」が演じられる。オリジナルの振り付けをベースにしたしなやかなダンスを際立たせる形でパフォーマンスが展開された。向井は現在のグループのなかで最も小柄なメンバーである(公式プロフィールによれば、152cmは単独で最小)。しかし両腕を開く振りでのダイナミックな踊りが、スクリーンもないZeppホールにおいて、その体躯を大きく見せていた。

 これに続く松尾美佑の1曲目は「錆びたコンパス」であった。4期生の合流直前であった27thシングルのアンダー曲であり、この時期の「アンダーライブ2021」以降、ほぼすべてのアンダーライブでセットリストに加えられてきた、現代アンダーライブのアンセムである。29thシングル限りでオリジナルのセンターである山崎怜奈がグループを卒業して以降、「30thSGアンダーライブ」「31stSGアンダーライブ」「34thSGアンダーライブ」と、松尾がセンターを務める場面が多く、アンダーライブではオリジナル以外のセンターを固定しない傾向があることをふまえると、これはやや珍しい現象といえる(松尾が参加していない「32ndSGアンダーライブ」では吉田綾乃クリスティーが、「35thSGアンダーライブ」では筒井あやめがセンターを務めている)。その松尾が“座長”であった「33rdSGアンダーライブ」ではセットリストに加えられていなかった一方、その前の時期に行われた「真夏の全国ツアー2023」では全公演で演じられ、このときのセンターも松尾が務めていた(休演時は吉田)。
 それよりもさらに記憶として色濃いのは、清宮レイが7月15日の卒業セレモニーにおいて、1曲限りの最後の披露として選曲したことであっただろう。清宮は「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」DAY4での披露の際にはセンターを務めてもいる(このときのライブは選抜/アンダーをあまり区別しないメンバー編成で演じられる場面が多く、直前の「命の冒涜」を歌唱していた松尾は「錆びたコンパス」には参加していない)。回数としては自らが最も多くセンターに立ってきた楽曲である一方、それ以外の機会にも(オリジナルの山崎を含めて)紐帯の深いメンバーを先頭に演じられてきた楽曲。それはあまりにもストレートな、松尾の「思い入れ」の表現であった。
 2曲目は「もう少しの夢」。西野七瀬のソロ曲であり、リリース年以降は“全曲披露”の文脈でしか演じられることがなく、「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」以来4年半ぶりにセットリストに加えられた形であった。松尾は「温かい気持ちで聴いてくれたら嬉しい」と前置きをしたうえで、歌唱中心のパフォーマンスを展開する。長身の体躯や高い身体能力から繰り出されるダンスの表現力や、独特の落ち着きやリーダーシップでアンダーライブを、そしてグループを牽引してきた松尾だが、個人の歌声がフィーチャーされる機会はあまりなかったということだろう。落ち着きのなかに甘さも感じる独特の声で聴かせる安定した歌唱は、確かにわれわれに見せる「新たな一面」であったかもしれない。
 3曲目は「滑走路」であった。この曲は「31stSGアンダーライブ」以来の披露で、このときもセンターは松尾が務めている。ソロでのパフォーマンスにあたり、バンド風のアレンジがつけられたことに加え、冒頭ではスポットライトを利用したコミカルな動きで歌唱までのストロークが設けられ、間奏では短くダンストラックが挿入されてもいた。アンダーライブで近年よく感じることなのだが、松尾は明るい曲を演じているときも、あるいはハードな曲を演じているときも、ずっとどこか「楽しそう」で、それがステージでの彼女の温度感となっているように思う。具体的なストロングポイントというよりは、そうした雰囲気が「個としての魅力」として前面に出ていたような、そんな印象をもった。

 この日最後に登場したのは、“座長”の奥田いろはであった。1曲目として選曲されたのは、「初恋の人を今でも」。以前に奥田がこの曲を披露した「新参者 LIVE at THEATER MILANO-Za」では、5期生全員で歌唱中心で楽曲が届けられるパフォーマンスにあって、五百城茉央とともにギター伴奏を担当した形であった。そうした点も含めて「思い入れ」のあるのであろう楽曲を、今回はセンターポジションに立って歌唱を届ける形で披露した。
 2曲目は「コウモリよ」。革のジャンパーを羽織り、移動式の高いステージに立って、スタンドマイクを用いて披露した。グループのなかでは後輩かつ年少のメンバーであり、キュートで爽やかな雰囲気を常にまとっている奥田にとっては確かにメタルの歌唱は「新たな一面」といえるパフォーマンスであったが、そこにはさらにミュージカル「ロミオ&ジュリエット」でジュリエット役を務めたという形でも先輩後輩の関係となった生田絵梨花のイメージが重なる。生田はこの楽曲のオリジナルメンバーではないが、「真夏の全国ツアー2018」のジコチュープロデュース企画において、今回と同様に伊藤理々杏・向井葉月を引き連れるような形でこの楽曲を披露している。その理々杏と向井は「31stSGアンダーライブ」でこの楽曲を演じてもおり、さまざまなイメージが重なりあい、現センターの奥田の向こうで合流するような、そんな選曲とパフォーマンスであった。
 そして最後の3曲目は「左胸の勇気」。加入当初から一貫して、奥田のひとつの武器として繰り返し披露されてきたギターの弾き語りの形で披露された。弾き語りはおろか、歌唱を前面に出して披露されることも珍しい、ポップで明るい楽曲であるが、奥田は「グループの歴史にとっても、そして私にとっても、とても大事な楽曲」というように、選曲の理由を説明した。「左胸の勇気」はいうまでもなく、1stシングル所収の“最初のアンダー曲”である。なおかつ、奥田を含む5期生が初めて参加した「32ndSGアンダーライブ」では3期生の「新しい世界」、4期生の「マシンガンレイン」に続く形で披露されており、5期生にとっては“初めてアンダーライブで演じた楽曲”ということでもあった。

(各公演2日目)

 各公演2日目の最初に登場したのは佐藤璃果。1曲目に演じられたのは「〜Do my best〜じゃ意味はない」である。璃果は冒頭の語りで、「加入した頃より歌もダンスも好きになった、自信をもって演じられるようになった」とした。岩本蓮加が3期生として初めてアンダーセンターを務めたときの楽曲である一方、岩本にとってはこのときが現状最後のアンダーメンバーとしての活動ともなっており、特に近年は披露機会が限られてきた。そのなかで「30thSGアンダーライブ」では、6公演ともで璃果がセンターに立つ形で披露されてもいた。アンダーライブに加わってまだ1年目というなかでセンターに立った楽曲は、思い出深く記憶されているということだろう。生き生きとしたパフォーマンスから、この2年間に彼女が積み重ねてきたものが見てとれた。
 2曲目は「曖昧」。率直なところを書くと、最初にイントロがかかったときは「何の曲だっけ?」と一瞬わからなかった、そのくらいライブでの披露が珍しい楽曲である。オリジナルメンバーは生田絵梨花・松村沙友理の「からあげ姉妹」で、両名の卒業コンサートでも「無表情」が優先されたような形で演じられておらず、オリジナルメンバー以外が披露したこともこれまでなかった。全員センター企画などの個人フィーチャーの場面では、璃果は可愛い・甘い系のパフォーマンスを繰り出すことが定番であるが、そのなかでミステリアスな「曖昧」が選曲されたことは、それが「無表情」に続く「からあげ姉妹」の2曲目であったことと同じように、璃果の振れ幅を「新たな一面」として表現していた。
 3曲目はさらに雰囲気ががらりと変えられて、「シークレットグラフィティー」が披露された。楽曲の世界観通りにダイナーのウェイトレスに扮してパフォーマンスを展開するなかで、客席にダイナーの宣伝チラシとしてメッセージを投げ込む、Zeppレベルの会場ならではの場面も設けられた。限られた時間のなかでバラバラとチラシを撒き、最後にはお立ち台に上って紙飛行機にして投擲する(リハの香盤表には「璃果が紙飛行機を練習する時間」が設けられていたらしい)。キュートな雰囲気のみにベットするのではなく、あえていうならばちょっと雑な、肩の力が抜けたさばけた感じが、(「らじらー!」リスナーとしては)彼女の魅力のひとつだな、とも思った。

 2人目の黒見明香がこれに続く。1曲目は「ここにいる理由」であった。黒見は自分が“ここにいる理由”はファンとその応援であると説明した。そしてオリジナルのセンターである伊藤万理華と「はじまりか、」に言及し、「見ていてくれた、ブログ読んでくれた、声援くれた、まりっか(くろみん)タオル、緑と紫のサイリウム」という歌詞を引用して客席に感謝を伝えた。黒見はこの楽曲を「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」では万理華とともに演じている経緯もあるし、サイリウムカラーが共通なのは偶然の奇縁であるようだ(黒見によれば、紫は乃木坂ファンを表し、緑はそこに寄り添う自分自身を表しているとのことである:公式ブログ)。
 2曲目は「ここじゃないどこか」。独特のカラーのあるいかにも印象深い楽曲のためそんな気がしていなかったのだが、オリジナルメンバーの文脈を離れて演じられる機会はほとんどなかったようだ(「真夏の全国ツアー2014」明治神宮野球場公演では生田不在の演出のために高山が加わり、「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜2期生ライブ〜」では生駒里奈への敬愛を表現するために鈴木絢音が選曲し、「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜1期生ライブ〜」ではユニット曲を入れかえる趣旨で秋元真夏・高山一実・松村沙友理の“お姉さん組”が演じたが、そのくらいだろうか)。どこかで天然のふわふわした部分をもつ黒見にマッチした選曲とも感じたが、確かにステージ上では表現されてこなかった一面でもあったかもしれない。
 3曲目は「その女」で、カンフーの剣術を取り入れたパフォーマンスが展開された。楽曲としては寺田蘭世のグループ卒業以来長らく披露されておらず、「35thSGアンダーライブ」での日替わり楽曲として演じられたのが約2年半ぶりという状況であったが、アップテンポでクールな曲調にはアンダー曲らしさもあり、黒見の強いまなざしとあわせて剣術のパフォーマンスともよく馴染んでいた。香港出身の黒見は加入後もたびたび剣術を含めたカンフーに取り組む場面があったものの、ファンの前で披露する機会は2019年の「坂道グループ合同 研修生ツアー」以来であったといい、愛知公演では「ここZepp Nagoyaが、みなさんの前で剣術を披露した最後の場所であった」と説明していた。

 続いて登場したのは伊藤理々杏で、1曲目は「別れ際、もっと好きになる」。「嫉妬の権利」や「不等号」とともに、往時のアンダーライブの空気感を形成した楽曲であるように思うが、近年は披露機会が減っている。愛知公演2日目に22歳の誕生日を迎えた理々杏のキャリアはすでに9年目をかぞえ、アンダーライブを負ってきた時期も長いが、理々杏がセンターで演じるのは初めてだったのではないだろうか(3期生では佐藤楓・中村麗乃・吉田綾乃クリスティーがセンターに立って演じられた例がある)。直近での披露機会は「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」の3期生ライブで、翌日にグループを卒業する秋元真夏に贈る楽曲という位置づけであった。
 2曲目は大きく雰囲気を変えて「ファンタスティック3色パン」であった。オリジナルメンバーである齋藤飛鳥と山下美月が卒業コンサートで演じ、「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では梅澤美波・山下美月に小川彩を加えた編成で披露されていたが、理々杏がこの曲を演じるのは初めてであった。間奏で定番のルーレットはくじ引きに代替され、「くじに書かれた言い方で理々杏が好きなパンを発表する」という企画が取り入れられる。飛鳥を先頭にオリジナルメンバーへの敬愛をにじませつつも、自分らしく理々杏が演じ切る様子が印象的であった。また、ここに加わった奥田いろはと松尾美佑が着用していたのは、オリジナルの“映像研衣装”であった。
 そして3曲目は「涙がまだ悲しみだった頃」。曲前には語りのパートが挿入され、理々杏は「歌うことは好きだけれど、グループ内にも上手なメンバーがたくさんいて、なかなか自信がもてずにきた」という逡巡を口にする。アンダーライブを筆頭に、グループのライブでは理々杏の歌唱がクローズアップされた機会も一度や二度ではないし、個人での歌唱の仕事も経験があり、ミュージカルへの出演もある理々杏にそうした思いがあることにはやや意外に感じた。だけど、それでも、と移動式の高いステージに立った理々杏は、ロック調のアレンジが加えられた楽曲をパワフルに歌いきった。なお「涙がまだ悲しみだった頃」は、センターがオリジナルの伊藤寧々から伊藤万理華へ、そして「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」以降は理々杏に引き継がれ、“伊藤リレー”でつないできたという経緯がある楽曲でもある。

 次に登場した佐藤楓は、1曲目に「新しい世界」を選曲した。自身が参加した初めてのアンダー曲であることをイントロで説明したうえでのパフォーマンスであった。そうした区切りの楽曲であることから「32ndSGアンダーライブ」では1曲目として演じられたこともあったが、楓が座長を務めた「29thSGアンダーライブ」では本編最後で演じられたことも印象深い(「届かなくたって…」はこのとき、最後のブロックの1曲目であった)。このときも楓は同様の説明を加えたうえでセンターポジションに立った。「自分はセンターというものには縁のない人間だと思っていたし、センターっぽくもないと思っていました」(「29thSGアンダーライブ」3日目公演スピーチ)、そんなふうに思っている人間は、楓本人を含めてもう誰もいない。
 2曲目は「17分間」。伊藤理々杏・奥田いろは・黒見明香・松尾美佑と、ナレーション役に矢久保美緒を加えた寸劇「告白までのカウントダウン」として披露された。筋書きとしては「楓がバスに乗り合わせる相手に告白をしたいが、棒読みのせいで気持ちが伝わらないので練習をする」というもので、楓の棒読みが客席の笑いを誘うとともに、舞台経験の豊富な理々杏と奥田が手本を見せるなど、ゲストメンバーの個性も引き出されていた。楽曲披露は歌詞の内容を受けて、2番からのワンハーフという変則的な形でもあった。楓によれば「17分間」の披露は念願であったとのことである(「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では全メンバーで披露されているが、大部分がフリバラシで、3・4期生はトロッコおよび客席登場での歌唱であった。ほか5期生以外による披露は、「33rdSGアンダーライブ」のジコチュープロデュース企画で吉田綾乃クリスティーが5期生メンバーを引き連れる形で演じた例と、「山下美月卒業コンサート」で山下が加わった例のみ)。
 3曲目に披露されたのは「不等号」。「17分間」のパートはコミカルかつ長尺、しかも楓による告白セリフで締められる形であり、切りかえが大変と本人も語るような構成であったが、ダンス中心で見せるパフォーマンスを見事にやり遂げていた(報われない恋を歌詞のモチーフとする楽曲でもあるが、その点でつながりをつくっていたわけではなさそうである)。楓は特に近年、グループ全体のライブを含めてダンスパフォーマンスを引っ張るような場面も目立つし、アンダーライブの個人フィーチャー企画などでもさまざまなダンスに挑戦してきた。今回もその一環として、ソロでのパフォーマンスに挑んだような形となった。

 そしてこの日最後のフィーチャーメンバーとして柴田柚菜が登場する。1曲目は「マシンガンレイン」であった。4期生合流のタイミングのアンダー曲であり、柴田もオリジナルメンバーのひとりであるが、次シングルから選抜での活動が長く続いたこともあり、柴田自身は長らく遠ざかっていた楽曲である(「真夏の全国ツアー2022」ではセットリストに加えられていたものの、期別縦割りの日替わりブロックでの披露であり、柴田はここにも参加していなかったのではないかと思う)。オリジナルのポジションはフロントで、センターの寺田蘭世の隣。さまざまな意味で「思い入れ」のある楽曲として披露された、ということだろう。
 2曲目は「深読み」。29thシングルの選抜メンバーによるカップリング曲で、センターは齋藤飛鳥。同シングル所収の「好きになってみた」や「Actually…」と対置される部分もあり、飛鳥のしなやかでセクシーなパフォーマンスが印象的だった曲でもある。柴田はオリジナルメンバーではあるものの、確かにキャラクターと楽曲のギャップとしては「新たな一面」であったかもしれない。センターポジションで踊る姿に加え、冒頭のソロパートの歌声も印象的であった。この曲が飛鳥以外のセンターで披露されたことはほぼない(「33rdSGアンダーライブ」のジコチュープロデュース企画での阪口珠美のみ)。柴田は歌唱力にも定評があり、声にも特徴がある。比較的よく聴いてきたつもりの楽曲ではあったけれど、柴田が歌うとこんな風に聴こえるんだな、と思った。
 そして3曲目として披露されたのが「誰よりそばにいたい」であった。もともと歌唱のみで届けられるスローテンポの楽曲であり、アンダーライブおよびバースデーライブでは客席に思いを伝えるための曲として重要な場面で演じられてきた印象も強いが、これも柴田による披露としては、初めて加わった「28thSGアンダーライブ」以来であったということになる。前述したように柴田は歌唱力に定評があり、それをふまえての選曲であると見受けるが、柴田自身はMCで「歌を通じて思いを伝えよう、という歌い方をしたのは初めてで、うまくいくか不安もあった」のようなことを口にしていた。しかしパフォーマンスを通して、「新しい歌い方ができて、ひとつ成長できた」ともいう。そんなソロ歌唱から、彼女のスキルや魅力が伝わるとともに、歌詞がモチーフとした「愛」も、客席に向けて届いていた。

(11人ぶんを振り返って)

 地方公演で披露されている、11人ぶんのフィーチャー楽曲としては以上の通りである。「ざっくりとなぞっていく」と書いておきながら、かなり長大な分量になってしまったが、そもそも各日のセットリストの過半をこのフィーチャー企画が占めているのである。2日で計33曲と改めて考えるとかなりの分量であるし、ソロパフォーマンスである各メンバー3曲目以外は参加メンバーを入れかえながら披露されるものでもあり、「総力戦」のような色も多少感じる。
 アンダーライブでは、初期から「全員センター企画」などの形で、個人をフィーチャーする形がとられることは一般的になっているといえる。しかし今回の、ひとり3曲という規模、個人に応じた選曲(=「表題曲を全曲やる」みたいなことではない)、それを1公演きりではなくツアーという形で5都市で演じる、という形態は、過去最大規模、最高到達点であるといえるのではないかと思う。
 公演数を含むライブの規模がそうさせたという面もある一方で、それは確実に、メンバー個人とアンダーライブ総体が積み重ねてきたものの所産でもあるだろう。

 そのような部分をコンセプトに含む、ということは直接説明されていなかったものの、振り返っていくと、各メンバー1曲目および3曲目はアンダー曲、2曲目はカップリング曲(=表題曲でもアンダー曲でもない楽曲)、という形で選曲がなされていることに気づく。ライブのセットリスト全体に目を移すと、本編はこのフィーチャー企画とアンダー曲のみで構成されているということにもなる。
 一方で、アンダー曲を網羅するような形までには到達しないようにも見受けられる。現段階でアンダー曲と取り扱われる楽曲は41曲あるが、2日ぶんのセットリストをあわせても披露されていない楽曲が10曲あり、神奈川公演では中村麗乃と吉田綾乃クリスティーが加わるとしても、“全曲”までにはまだ距離がありそうだ。

※披露されていないアンダー曲(リリース順):春のメロディー、13日の金曜日、扇風機、あの日 僕は咄嗟に嘘をついた、君は僕と会わない方がよかったのかな、風船は生きている、君が扇いでくれた、自惚れビーチ、悪い成分、思い出が止まらなくなる

 しかしそれでも、近年のアンダーライブのなかでも特に網羅性が高いということはいえるだろう。振り返っていくと、長らく披露をみていなかったアンダー曲がここまであるんだ、という新鮮な驚きがあったし、しかしそうした楽曲の多くが今回披露されたということでもある。
 さらにいえば、全体ライブもあわせると、上掲した未披露10曲のうち「春のメロディー」と「君は僕と会わない方がよかったのかな」以外の8曲は、2024年に入ってからライブでの披露機会があったという状況でもある(「春のメロディー」の現状最後の披露機会は2022年3月の「29thSGアンダーライブ」であり、やや時間が経っている。「君は僕と会わない方がよかったのかな」は、2023年9月の「33rdSGアンダーライブ」のジコチュープロデュース企画で奥田いろはが選曲している)。

 ユニットコーナーは「真夏の全国ツアー」などでも設けられるし、バースデーライブでは楽曲を通してグループの歴史が振り返られる形がとられるものの、“全曲披露”は「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」で区切りがつけられており、個別の楽曲をみればほぼ披露されていない楽曲も散見される。こうした状況のなかで、今回に限らず、アンダーライブでは多く行われている個人フィーチャー企画が、グループのライブとしてそれを補完する役割を長らく担ってきている。
 ひとくちに個人フィーチャー企画といっても切り口はいくつかあり、今回でいえば1曲目のような、「メンバーの思い入れや思い出を表現する」形のものが最も多いし、直感的でもあるだろうか。過去の例でいえば、「29thSGアンダーライブ」での「思い出セレクション」や、「33rdSGアンダーライブ」での「ジコチュープロデュース」」のコーナーなどがそれにあたる。「34thSGアンダーライブ」の「新春!おみくじユニット!」も、ユニット単位ではあるが、同様のものとみなせるであろう。
 一方で、ダイレクトに「過去の楽曲に改めて光を当てて披露する」という形がとられることもある。「30thSGアンダーライブ」で設けられた「プレイバックファクトリー」は明確にそれがひとつのコーナーとなっていたし、今回でいえば2曲目において、そのような色をもたせた選曲も多かった。
 ただ、ここでいうふたつの類型は、必ずしも明確に切り分けられるわけではないということにも留意しておきたい。「思い出セレクション」における「その先の出口」(吉田綾乃クリスティー)など、「最近はライブで演じられることが少ないから」という角度からメンバーの「思い入れ」が直接表現されることもあるし、そうした説明がつけられるわけではなくとも、同様の印象を受ける選曲がなされることも多い。
 あるいは、メンバーの「やりたいこと」が先にあって、それにつけられる楽曲として、披露機会が少ない(限られる状況の)曲があえて選ばれている、という印象を受けることもままある。それは必ずしも、楽曲に対するメンバーの思い入れが強くないということを意味しないことにも注意しなければならないが、「33rdSGアンダーライブ」では「釣り堀」(佐藤楓、コンテンポラリーダンス)、「君は僕と会わない方がよかったのかな」(奥田いろは、ギター弾き語り)、「アナスターシャ」(清宮レイ、自ら手がけた英訳詞を歌唱)など、そうした印象を受ける選曲が散見されたように思う。

 いろいろと振り返っていると長くなってしまうが、ともあれ近年のアンダーライブに対して感じるのは、ライブの回数や内容の自由度を背景に、楽曲のバリエーションを幅広くとることで、グループの連続性を担っている(古い楽曲、独特のコンテクストのある楽曲もできるだけ置いていかない)ということだ。
 (この傾向は櫻坂46の「BACKS LIVE!!」についても明確に見てとれるようになったし、日向坂46の「ひなた坂46 LIVE」も同様の方向に進んでいくのではないかと感じているが、そのあたりについて書くのはまたの機会にしたい。)

 そしてもうひとつ重要なのは、そうした試みを可能にしているのは、アンダーライブには独特の色があり、過去のライブの積み重ねと40曲をこえるアンダー曲という強力な縦軸が存在するからだ。
 個人フィーチャー企画を終え、「36thSGアンダーライブ」のセットリストは後半戦に突入する。ここからはアンダー曲だけが連ねられ、一気に本編終了まで駆け抜けていくような形になる。ここから改めてセットリストをなぞる形で、振り返っていくことにする。

■ 「アンダー」は「雰囲気を変える曲」

 ここでいったん、個人フィーチャー企画を総括するMCのパートが全員で展開される。直前のフィーチャーメンバーは、柴田は遅れて合流し、奥田は終わるのを待ってステージに戻るような形だっただろうか。冒頭のライブの趣旨説明はメンバーひとりずつの語りの形式で行われていたため、メンバーが横並びでトークをする通常のMCはここが初めてであった。
 ワイワイとした雰囲気でトークが展開されたのち、いったん照明が絞られ、メンバーがポジションにつく。センターポジションには奥田いろはが入り、あのイントロが流れる。「アンダー」だ。

 「アンダー」のライブ披露は「31stSGアンダーライブ」以来であったと書いてきたが、このときはピアノアレンジで歌唱中心での披露であったため、オリジナルのアレンジ・振り付けをベースに演じられたのは「北野日奈子卒業コンサート」以来であったということになる。
 あのイントロがかかると、客席にいるだけでもやっぱり緊張してしまう。ぐっと身が引き締まり、目を見開く。誇張ではなく、短いイントロを経て歌唱が始まるまでのあいだに、過去に立ち会った披露機会のことをすべて思い出すのだ。

 オリジナルのセンターのひとりであった北野日奈子は、間もなくもうひとりのセンターであった中元日芽香のグループ卒業を見送り、ある時期からは「アンダー」を“自分の曲”として抱えてグループ活動をするようになっていったような、そんな印象がある。自らが“座長”を務めた「アンダーライブ全国ツアー2018〜関東シリーズ〜」では、他でもない北野自身の判断で、「アンダー」がセットリストに加えられた経緯があったと語られている。

——ソロのダンスパートがハイライトだったと思いますが、自分的にはどうですか?
北野 今回、スタッフさんに呼ばれて、セットリスト作りに携わらせてもらったんです。「『左胸の勇気』はどうしてもやりたいです」とか、「この曲のセンターは○○さんがいいと思います」とか意見を言わせてもらって。そこで、『アンダー』を入れるか入れないかについての話になって、私は入れたほうがいい、と言いました。
——どうしてですか?
北野 いつまでも自分の中でコンプレックスにするのはよくないからです。ダンスブロックの前に置くことで、『アンダー』がより深いものになって届いてくれたらいいなっていう思いもあって、そこに入れてもらいました。

『BUBKA』2019年3月号 p.18-19

 モチーフも経緯も特殊な楽曲であることから、このときもセットリストにおいての置きどころにはやや迷う部分があったようである。こうした楽曲の性質について、北野は「雰囲気を変える曲」と評している。

北野:セットリスト考えててさ、『アンダー』って曲が私のセンター曲であるんだけど、結構雰囲気を変える曲だから、やるかやらないかって言われて、私はもうやらなくてもいいかなって思ったんだけども、「やった方がいいんじゃない」ってスタッフさんの声もあって、じゃあ頑張ってやってみますって言ったんだけど、入れどころを考えるじゃない。消化の仕方が難しい曲っていうのかな。

久保:どこに入れるかで、意味が全然変わってきますもんね。

のぎ動画「久保チャンネル #16 アンダーライブ全国ツアー2018 〜関東シリーズ〜 中編」
[2021年9月24日配信開始]

 正直なところ、筆者はこの曲のことを追いかけすぎてきたし、思いを込めすぎてきた。こうなったとき、“オタク”のメンタリティはいつも面倒くさい。いつかまたステージで演じられることを期待する気持ちはあったけれど、雑な言い方をすれば「ヘタな使い方はしないでくれ!」のような思いも確実にあった。
 「奥田が北野の思いを受け継ぐ」みたいなことを過剰に演出されても(自分自身はそういうふうな見方をしているのに)違和感があっただろうし、「Zeppツアーだからまたやりました」のような扱われ方でも抵抗感があっただろう。
 でも結果として、セットリストのなかで、ライブのなかで、そして大げさにいえば乃木坂46のグループ史のなかで、きわめて意味のある、適切な形で演じられたのではないかと感じた。

 特に振りかぶるでもなく繰り出された「アンダー」は、客席に渦巻くファンそれぞれの記憶に呼応し、確かに「雰囲気を変えた」。ライブの構成としては、個人フィーチャー企画のお祭り感や、その後のMCの楽しい雰囲気をいったん区切り、終盤の畳みかけるようなアンダー曲のブロックに接続させなければならないタイミングだったといえる。
 その雰囲気を1曲で、なんならイントロの一瞬で変えることができるのは、「アンダー」をおいてほかになかったように思う。「奥田がセンターに立ってくれるなら」「あの日の記憶がまだ色濃いZeppだから」というのも、やはりそこに至る背景としてはあったかもしれない。でも、ストーリーを振り返る、もしくは積極的につむぐためではなく、あくまでライブのなかで明確な役割をもって、“いまを生きる楽曲”として演じられたことが、ただただ嬉しかった。

 また、これは書くか迷ったことなのだが、愛知公演1日目の披露時に客席からコールがあったことに対して、ファンからはさまざまな反応があったようだ(筆者はファンコミュニティの反応を一切目に入れないように努めているので、詳しい機微はわからないが)。2日目には揺り戻すような形でコールはなくなったので、割と大きな話題になったのかもしれない。
 「アンダー」とコールの距離感についても、再掲する以下の記事で経緯を追っているので、詳しくはそちらを参照されたい。

 直近から披露機会を遡ると、「31stSGアンダーライブ」「北野日奈子卒業コンサート」「アンダーライブ2020」は、コロナ禍の“大声禁止”の時期であり、通常のレギュレーションのもとで演じられたのは「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」となる。当時は確かにコールなしの状態がおおむね定着していたと記憶するが、もう4年半前のことであり、当時の雰囲気が現在の客席を直接縛るような状況ではないように思う。
 筆者もコールなしの客席について、独特の美しさのある光景だと思ってきたけれど、その発端を思い出してみると、それは「アンダーライブ全国ツアー2017〜九州シリーズ〜」の初演(大分・佐伯文化会館昼公演)、歌詞の朗読から始まるあまりにもシリアスな演出に対する“絶句”であったように思う。自分自身がどのような行動をとるかは別として、コールが飛びうるような雰囲気のなかで「アンダー」が演じられる時代がきたということは、ある意味では喜ばしいことなのではないかと思う。
 あえていえば、客席を盛り上げるための曲でもなければ、ステージと客席がコミュニケーションをとる曲でもないし、コールがあったとて(なかったとて)さして意味のある曲ではないようにも思う。今後どのような状況になっていくのかはわからないけれど、どちらに転んだとしてもそれは草木がそよ風に揺れるくらいのことで、どうしようもないし、どうあっても何かが変わるわけでもない。
 それよりも筆者はステージ上で起きていることに対して鋭敏でありたいと思うから、この話題についてはあまりかかずらわないようにしたい。

 パフォーマンスについて印象的だったのは、落ちサビに向かう間奏である。特に振り付けはなく、メンバーが横一列に並んで客席を見つめる形での披露が多かったところだが、オリジナルバージョンを思わせるペアダンスがなされたうえで、最後にはセンターの奥田に「北野日奈子卒業コンサート」での北野と同じように、ソロダンスに近い振りがつけられていたことである。
 あるいはしかし、奥田は北野のパフォーマンスをそのままなぞっていたわけではない。筆者の記憶が正しければ、あのとき北野は頭上の光に向かって力いっぱい手を伸ばすようなアクションであったはずだが、奥田は前方に差し出した右手を握り、自分の方にたぐり寄せるようなアクションをしていた。
 誰がそれを決めて、あるいはそこにどのような思いがあるのかは、わからない。でも、「アンダー」という楽曲が、さらに新たな色を手に入れて、また一歩前に進んだような、そんな気がした。

■ 純度の高い「アンダー曲ブロック」

 「アンダー」が一気に雰囲気を変え、会場に“アンダーライブの空気”が満ちたのち、次に披露されたのは「さざ波は戻らない」であった。5期生合流の32ndシングルのアンダー曲であり、比較的近年の曲ではあるものの、披露機会がダブルセンターの伊藤理々杏と林瑠奈が揃うライブにのみ限られており、毎回必ず演じられるような状況にはない。
 ハードな曲調ではあるがスローテンポでもあり、アンダー曲のなかでも独特の雰囲気をもった曲である。イントロがかかり、ダブルセンターにひとりずつスポットライトが当てられ、徐々に客席の熱が高まっていく。理々杏と林はともにアンダーライブを牽引するような存在で、高いパフォーマンス力にも定評があるが、期も違えばキャラクターも異なり、並びで見ると「タイプの違うふたりだ」という印象にもなる。しかしそのふたりがダブルセンターで先頭に立つことで、独特のケミストリーを生み出している。

 これに続いたのは「届かなくたって…」。佐藤楓のいるアンダーライブでは必ず演じられる、近年の定番曲であるといってよい。ペンライトの色を揃えきるというよりは、メンバーに寄り添いつつもややばらついている印象の客席であったが、この楽曲ではやはり(愛知公演でなくても)赤色が強くなる。アンダーライブにおける楓の存在感は、やはり唯一無二だ。
 続く「Hard to say」では、センターに黒見明香が立つ。「さざ波は戻らないい」以降のこのブロックでは最もリリースが古いが、「齋藤飛鳥卒業コンサート」まで約1年半、ライブでの披露が一切なかったこともあり、それよりはやや新しい印象を受ける。オリジナルのセンターのいない楽曲はそれにかわるセンターを固定しない傾向通り、黒見はこの曲のセンターは初めてである。しなやかでスタイリッシュなパフォーマンスの真ん中に、黒見の立ち姿が映えていた。

 さらに「Under's Love」が連ねられる。和田まあやの卒業以降、あくまでオリジナルのフォーメーションに準拠したダブルセンターの形(和田のポジションを詰めているとも解釈できる)がとられて披露される機会もいくつかあったが、「33rdSGアンダーライブ」で向井葉月がセンターに立って以降は他の曲の扱いに近付きつつある。今回のセンターは林瑠奈であった。パッション溢れる力強いパフォーマンスが林のたたずまいや表現力と合流し、新たな色を増し加えていた。
 続いて披露されたのは「踏んでしまった」。このブロックのクライマックスである。アンダー曲のなかでも最も激しく、最もテンポが速いともいえる楽曲。リリースからのこの1年、たえずステージを盛り上げてきた。センターを務める松尾美佑は、振り付けの先生に「『日常』くらい暴れていいよ」と言われたことを明かしている(33rdシングル配信ミニライブ・コメンタリー)。そのくらいの激しさがあるにもかかわらず、松尾の表情にはやはりどこか余裕を感じる。「希望なんて探すなよ/踏んでいたじゃないか」と歌い上げたあとの不敵な笑み。センターに立つときの松尾は、いつもステージを制圧している。

 曲が終わるとメンバーが横一列に並び、“座長”の奥田いろはによるスピーチが始まる。「アンダーライブはいろいろな感情をぶつけられる場所」、「ファンのみなさんにも、まわりのメンバーにも、パフォーマンスで感謝を伝えたい」。公演によってメッセージは違っていたけれど、どれも大切に準備されてつむがれた言葉だったように思う。
 そして自らが初めてセンターを務めるその曲については、「勇気をくれる、背中を押してくれる曲」と表現し、本編最後の1曲へ。「聴いてください、『落とし物』」。

 2ヶ月ほど前の「真夏の全国ツアー2024」愛知公演からすでに披露が重ねられていた「落とし物」は、激しいフォーメーション移動をともないながら、情感のこもったパフォーマンスが繰り広げられる楽曲である。ドームクラスの会場で見るよりも(当然ながら)パフォーマンスの全容がよく見え、これをZeppで何度も、しかもフルコーラスで見られるのは貴重な体験になるな、と感じた。
 大人になるにつれて汚れていく「純情」を嘆くような歌詞は奥田のパブリックイメージとは距離があるようにも思うが、2サビではそのすべてを受け止めるような形で、主人公の強い決意が表現される。「できることならば 誰も傷つけず/泥水 自ら飲もう」、「何度でも手を伸ばせばいいさ/一番欲しかったものをいつの間にか道に落とすな」。笑顔と輝きの裏で、挑戦と失敗が無限に続いていくような毎日。この歌詞に「励まされる」と口にすることこそが、あらゆるものにまっすぐ向き合う奥田のたたずまいを象徴している。

 「落とし物」を演じ終え、メンバーみな一様に息を切らしながらライブ本編が終えられる。最後のブロックを振り返ってみると、オリジナルメンバーが多く揃う楽曲を中心に、近年寄りのアンダー曲のみで固められているということに気づく。ひとくちにアンダー曲といっても幅が広いが、明るめの楽曲は個人フィーチャー企画に譲るような形もとりつつ、純度の高い“アンダーライブ”を表現していた。
 セットリストの過半を個人フィーチャー企画に割くという挑戦的な取り組みのあと、「アンダー」からの7曲をもってここまでのステージをつくりだしたのは、見事であるというほかない。それはセットリスト自体がよく練られていたということと同時に、もちろんそれを表現しきることのできるメンバーの力量と練度があってこそだろう。

 アンコールは「狼に口笛を」で滑り出し、フィーチャーメンバーがひとり少ない2日目パターンのみで「シャキイズム」が演じられたうえで、「指望遠鏡」ではステージを隅から隅まですべて使って客席を盛り上げる。メンバーどうしの仲のよさやチーム間の伝わるMCで会場の温度がさらに高められたのち、「乃木坂の詩」でライブが締められた。
 公演時間は約2時間。もっと長かったのではないかと思うくらいに、盛りだくさんの内容であった。

■ 「人は必要なときに、必要な人と出会う」

 筆者が最初に立ち会ったのは福岡公演の2日目だったのだが、せっかくなのでと情報を遮断した状態で臨んだので、終演後にはしばらく興奮が止まらなかった。1曲目として「日常」を演じ、「アンダー」をセットリストに加える。2024年のいまになって、そんなライブがあり得るとは、少し前までは想像することすら難しいくらいだった。
 あるいは奥田いろはのサイリウムカラーである黄緑×ピンクは、北野日奈子のものをそのまま引きついだものだ。奥田と北野は活動期間が少しだけ重なっているが、5期生がサイリウムカラーを決めたのは北野の卒業直後の「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のタイミングであり、ちょうど入れかわるようにして黄緑×ピンクを定めたということにもなる。この2色のサイリウムを、これほどまでに思いを込めて振るライブは北野の卒業コンサート以来だった。

 北野は新加入の後輩から「憧れのメンバーだった」というようによく言われるタイプのメンバーではなかった(久保史緒里が「アンダーライブ東北シリーズに行ったことがオーディションを受けたきっかけ、そのとき買ったグッズは日奈子さんのものだった」と言っていたくらいだろうか)。
 そんな北野がグループとしてのキャリアの最終盤で出会ったのが奥田だったと考えると、それは運命的な巡りあわせだったと思う。もちろん、その後もずっと奥田が、北野への憧れを表現し続けてくれていることも含めて。

 奥田が北野に最初に惹かれたポイントはルックスの第一印象だったという。筆者とてそうだったはずだが、彼女のさまざまなストーリーを知り、リアルタイムで追ううちに、その頃のことは忘れかけていた。でも、奥田のまっすぐな物言いから、自分が北野を知ったときのことも思い出すことができた。

「うちの親は、私が決めたことをなんでも許してくれて。子役を始めるときもやめるときも、ギターを始めたいと言い出したときも自由にさせてくれました。常に私の意思を一番に考えてくれた家族にはすごく感謝してます」

 そう語る彼女が次に気になったのは、北野日奈子(卒業生)。

「高校1年のある日。テレビで見た北野さんを、『すごくかわいい!』って好きになっちゃったんです。その日はひと晩中ネットで乃木坂46について調べていました。
で、次の日。朝起きてSNSを見ていたら、五期生オーデションの広告が流れてきて。夢かと思いました。私、オーディション募集の前日に夢中になって調べてたんだって......。
『これは運命だ。受けなきゃ!』って思いました」

週プレNEWS「岡本姫奈・五百城茉央・奥田いろはの世界を変えた"決心"
『乃木坂46物語~ほんの一歩で変わる世界~』」(2024年4月5日)

 引用した記事と同じような内容のことが「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」の5期生ライブでのインタビュー映像でも語られている。そしてこのとき奥田が初めてセンターに立って披露したのが「日常」であった。奥田のキャリアも3年目をかぞえ、後輩を迎えるのも遠くないといえる時期になってきたが、あの日から続く一本道を、奥田は確かに歩み続けている。
 卒業後の北野は、現役メンバーとのかかわりをよくもっている(ことが伺える)タイプではあまりない。それでも奥田のアンダーセンターが発表されたときはInstagramで祝っていたし、奥田も北野の出演舞台の観劇に訪れるなど、かかわりは続いているようだ。

 「人は必要なときに、必要な人と出会う」という言葉を思い出す。グループと芸能界に別れを告げて去って行った橋本奈々未が、最後の最後にわれわれに言い残した言葉である(「GIRLS LOCKS!」最終出演回、2017年2月23日)。出会いと別れがわかりやすく連なるグループの歩みのなかにあって、それはずっと印象深いフレーズであり、北野も卒業写真集のインタビューの最後で引用していた。

——そうかもしれませんね。それでは最後の質問です。乃木坂46はどんな場所でしたか?
北野 答えになっていないかもしれないですけど、奈々未さんが「人は必要な時に必要な人と出会う」と言い残して、卒業していきましたよね。それが今になってすごく響いています。私はここに入らなかったら人間として弱いままだったんじゃないかなって思うんです。他のメンバーを見ていてもそうで、プレッシャーに押しつぶされそうになっている子たちを見ても、「今は大変かもしれないけど、ちゃんとここに入った意味はあるんだよ。だから、頑張るんだよ」って思います。わたしの場合はたまたま入った場所ではありましたし、他にもそういうメンバーはいると思うけど、それでも私は人生観がいい方向に変わりましたし、出会うべくして出会った方ばかりでした。みんな、きっと来世も乃木坂46なんだろうな(笑)。

『希望の方角』北野日奈子インタビュー

 それは必ずしも奥田と北野が出会った、という意味のみで思い出したのではない。北野の卒業後も途絶えることなくファンを続けてきた筆者自身もまた、必要なときに必要な人に出会えたのだと思う。

 今日は2024年10月20日。くしくも、「アンダーライブ全国ツアー2017〜九州シリーズ〜」千秋楽、宮崎市民文化ホール公演からちょうど7年である。あるいは愛知公演1日目が行われた10月14日は、その九州シリーズの初演の日でもあった。
 明日からは大阪公演である。これからもグループの時計の針は進み続けていくし、それはもちろん、メンバー自身が進め続けていくということでもある。


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