「青春の馬」と金村美玖(日向坂46「4回目のひな誕祭」によせて)
■ 「約束の卵」から1年
2023年4月1-2日、日向坂46のデビュー4周年を祝う「4回目のひな誕祭」が横浜スタジアムで開催された。前年の「3回目のひな誕祭」は、グループの悲願であった東京ドーム公演として開催。二度の延期を経た「約束の卵」でのライブは、そのすべてが現在でもあまりにも鮮明な記憶として残っており(Blu-rayを何度も見直したからかもしれないが)、あれがもう1年前の出来事なのかと思うとびっくりしてしまう。
とはいえ、この1年間はグループとして変化が大きい年でもあった。「3回目のひな誕祭」と同時期に募集があり、オーディションを経て加入した4期生がグループに合流。渡邉美穂と宮田愛萌がグループを卒業し、影山優佳も卒業を発表しているという状態である。ライブのたびにメンバーが口にするように、12人の1期生で走り出したグループは本日時点で32人を数え、大所帯といえる編成になっているものの、いまの状態もまた永遠ではないということは、メンバーもファンもわかっているところであろう。
「4回目のひな誕祭」で筆者の心に強く残ったことのひとつは、小坂菜緒が“完全復活”を印象づけた、ということだっただろうか。2021年6月より体調不良による休業に入った小坂は、約8ヶ月の活動休止期間を経て、「3回目のひな誕祭」からライブのステージに復帰した。しかし、本人も周囲も「自分のペースで」と繰り返していたように、体調を考慮しながら徐々に活動を戻していく方針がとられ、ライブでも曲数を抑えて参加する状況が続いていた。
ライブ復帰の場であった「3回目のひな誕祭」では特に重要な場面のみの参加という印象で、その後「渡邉美穂卒業セレモニー」「W-KEYAKI FES. 2022」「Happy Smile Tour 2022」「ひなくり2022」と、おおむね順調に参加曲数を増やしていたものの、オリジナルのポジションがセンターの曲でも出演しないものが残っていたという状況でもあった。
しかし今回の「4回目のひな誕祭」では、オリジナルのポジションがある楽曲には基本的に参加していたはずで、小坂が参加していなかった6thシングルからの披露曲は「ってか」(1日目)のみであったということも重なり、不在を感じさせる局面はほぼなかったといっていい。特に両日で披露された「こんなに好きになっちゃっていいの?」は、休業以来初めての披露であり、演じずに残っている楽曲はほぼなくなったのではないだろうか。そのくらい、ひとつの区切りといえる状況であった。
あるいは“完全復活”とは、単純な出る/出ないのみの問題ではない。フロートカーや高速トロッコでスタジアムを駆け巡りながら笑顔で演じる、圧倒的な存在感と華のあるパフォーマンスは、ファンの期待すら上回るほどの“小坂菜緒”であった。
■ “代役センター”へのスタンス
いまさら語るまでもないことだが、日向坂46は小坂菜緒を“不動のセンター”に据えるような形でその歩みを始めた。したがって、小坂が不在のパフォーマンスでは、当然ながらそこに“代役”を立てることを迫られた。
(必ずしもすべて“代役”が必要というわけではなく、例えば「JOYFUL LOVE」は小坂のポジションを詰め、両サイドの渡邉美穂・上村ひなの[卒業の柿崎芽実ポジション]のダブルセンターのような形で披露されてきた経緯もあるのだが、すべてこのような形でいくのは無理があっただろう。)
このような場合、後列などのメンバーをセンターに抜擢のような形で据え、フォーメーションを再編成することも考えられるが(欅坂46はそのような形をとることが多かった)、日向坂46はその“代役センター”について、ほぼ一貫してセンター脇のメンバーが入る形をとってきた。
単独センターで披露されたものでいえば、「キュン」は加藤史帆、「ドレミソラシド」は丹生明里、「キツネ」は河田陽菜、「こんなに好きになっちゃっていいの?」は齊藤京子、「ソンナコトナイヨ」は東村芽依、そして「青春の馬」は、金村美玖である。
フォーメーションの力学に変化を与えず、あくまで“日向坂46”としては変わらずパフォーマンスしよう、という意志があるようにも読み取れる。
(ただし、“代役センター”での披露が後の時期になった「ときめき草」[佐々木美玲]、「川は流れる」[河田陽菜]などは、やや傾向が異なるようにも思う。)
特にこれらのメンバーについては、小坂の休業期間以降の披露機会でかなりセンターとしての印象がついている面もあるだろう。ただ、小坂のライブ欠席と、それにともなう“代役センター”という形については、その端緒は2019年8月25日の「@JAM EXPO」(水ぼうそうによる)であり、その後も2020年2月4-5日の「日向坂46×DASADA LIVE&FASHON SHOW」(小坂が個人で出演した映画「ヒノマルソウル」の撮影難航による)があった。
後者は4thシングル期に入る頃のイベントであり、小坂にとって次の全体曲でのセンターは2年後の7thシングルでのことになるので、このときに“代役センター”は全員揃ったような形となった。
■ 「青春の馬」のセンターポジション
例によって話が遠回りして、記事のタイトルに反してなかなか「青春の馬」の話にも金村美玖の話にもたどり着かなかったことをご寛恕いただきたい。
このときの「日向坂46×DASADA LIVE&FASHON SHOW」(2020年2月4-5日)について、小坂の欠席がわかったのは「数日前」であったと、直後の時期のインタビューで金村は明かしている(公式サイトでの告知が1月31日であり、これに近いタイミングであったということだろうか)。
時期としてはまだシングルの発売前で(2020年2月19日発売)、MVが1月15日に公開されていたが、パフォーマンスの披露は「SDGs推進 TGCしずおか 2020 by TOKYO GIRLS COLLECTION」(1月11日)に一度行われていたのみであった。しかもこのときは濱岸ひよりが不在の状態で披露されており、本来であれば単独イベントでもある「日向坂46×DASADA LIVE&FASHON SHOW」が、本来の形での初パフォーマンスとなるはずだったのである。
このときの「青春の馬」は、ライブパフォーマンスパートの1曲目。ドラマ「DASADA」の主題歌として、作品をコンセプトとしたライブの冒頭での披露であった。それを託されたのが金村だったのである。
もうひとつ、このときのライブは、体調不良による約半年間の休業を経た濱岸の復帰のタイミングでもあった。小坂の欠席の経緯まで含め、このときの様子は映画「3年目のデビュー」で詳しく描かれており、「青春の馬」の披露の様子は映像化もされている。
「青春の馬」のCメロには、濱岸のそうした経緯もふまえ、センターの小坂が濱岸の手を引いて3列目のポジションからセンターに連れて行き、ふたりで真ん中で踊る振り付けがある。MVは当然オリジナルの形で撮影されているが、(結果的に)この役割をライブの場で最初に務めることになったのも、小坂・濱岸と同じ“2002年組”の金村であったということになる。
■ 楽曲の位置づけ
「青春の馬」は、カップリング曲である一方、グループとして主演したドラマ「DASADA」の主題歌であったこともあってか、それまでのグループの作品とはやや変化をつけた形で制作されていたように思う。
改名以降、日向坂46は「キュンキュンダンス」「ドレミダンス」「チョキチョキダンス」に象徴されるような、CRE8BOYの手がけるポップ・キャッチーな路線のパフォーマンスを引っ提げて活動してきた。それはグループに新たなアイデンティティを与えることになったが、ひらがなけやき時代からは少し断絶を感じさせるものにもなっていた。
欅坂46のほぼ全曲の振り付けを担当してきたTAKAHIROは(櫻坂46の現在に至るまで同様である)、ひらがなけやきの振り付けについても一貫して担当していた。しかし日向坂46に関しては、1stシングル所収の「ときめき草」は振り付けを行っていたものの、「デビューカウントダウンライブ!!」については「けやき坂サイド振付を担当」としており、一時期日向坂46からは離れた印象があった(その後の「3rdシングル発売記念ワンマンライブ」「ひなくり2019」は、CRE8BOYが全体のステージングを担当している)。
しかし「青春の馬」で、約1年ぶりに日向坂46の楽曲を再び担当する形となったのである。
この「青春の馬」の振り入れの際のエピソードはかなり著名で、TAKAHIROによる振りとその指導、そして彼が率いるダンスクリエーションチーム・INFINITYによるパフォーマンスのあまりのエモーショナルさに、メンバーが次々に涙してしまうという出来事が起こっている。
「3年目のデビュー」には、このときメンバーが口々に、「見失っていたものが見えた」(松田好花・富田鈴花)、「日向のさ……進む道が決まった気がする」(丹生明里)と言い合う様子も収められている。
このとき改めてカメラを向けられた丹生は、「今回の曲を聴いて、こういう熱い思いを届けるっていう……なんか、誰かの支えになる、希望とかそういうものを届けるというのが、日向にできることなんじゃないか」とも語っていた。楽曲やグループ活動に関するこのような思いは、現在に至るまでずっと持ち続けられているように思う。
結果として、このような強い思い入れをもちながら臨まれた「日向坂46×DASADA LIVE&FASHON SHOW」のパフォーマンスで、金村は高い評価を得ることになる。
オリジナルのセンターではない曲だし、表現として適切かはわからないが、「青春の馬」は金村の“出世作”になったような、そんな気がしている。
「18人バージョンでいいパフォーマンスを見せたい」「生で観てほしい」と語っていたのは富田鈴花。全員でこの曲を届けたい、という思いは、きっとメンバーに共通していたことだろう。
しかし、いわゆるコロナ禍に突入し、東京ドームでのライブが延期となるなど、グループとしても運命に翻弄されていくなかで、「青春の馬」についても、一筋縄ではいかない道のりをたどっていくことになる。
■ 「青春の馬」歴代披露を振り返る(前編)
「青春の馬」は、披露回数がそこまで多いとはいえない楽曲であるように思う。カップリング楽曲であるため音楽番組での披露はほぼなく(2020年12月9日の「2020FNS歌謡祭 第2夜」のみ)、4thシングルの全国握手会は2020年3月以降に予定されていたためコロナ禍ですべて開催中止となり、ミニライブでの披露もなかった。
この時期にはライブイベントの開催ができなくなり、3月から5月にかけて予定されていた「春の全国アリーナツアー2020」は全公演中止となる(秋に延期振替公演が設定されるが、結果としてこれらもすべて中止となっている)。
こうしたなかでオンラインライブの試みが始まっていくことになり、ツアーの福岡公演が予定されていた2020年3月31日には「日向坂46デビュー1周年記念 スペシャルトーク&ライブ!」が配信され、このなかのライブで「青春の馬」は約2ヶ月ぶりに披露されることになる。無観客・配信形式で、普段のライブからするとやや簡素なステージでもあったが、オリジナルメンバーが全員揃ってフルサイズで披露する初めての機会となった。
“ステイホーム”の要請が最も強かった、一度目の緊急事態宣言の時期を経て、2020年7月31日には「HINATAZAKA46 Live Online, YES! with YOU! ~“22人”の音楽隊と風変わりな仲間たち~」が開催される。
これは「春の全国アリーナツアー2020」のセットリストや演出をベースとしつつ無観客・配信ライブとして演じられたもので、「青春の馬」はワンハーフサイズ・フルサイズの形で計2回披露されている。
2020年の秋以降は、前述の振替延期公演の中止(9月11日告知)や、10月24日に告知された東京ドーム公演延期のように、有観客公演の再開をにらんで準備を進めつつ、しかしなかなか実施には至らない、ということが繰り返されるような時期が続いた。
12月ごろには一時、席空けを含む感染対策を行えば有観客公演が実施できる時期があったが、2021年1月8日に再度緊急事態宣言が発出されたことで状況は逆戻りとなる。緊急事態宣言の発出は結局4回にわたることになるが、この年の夏場あたりからは有観客公演が(緊急事態宣言の発出とかかわりなく)再開されるようになり、客数の制限・声出しの制限が、それから2年近くをかけて徐々に緩和されてきた、というのは記憶に新しいところである。
有観客公演が実現しない一方、オンラインライブはコンスタントに試みられていくことにもなり、10月15日には 「日向坂46×DASADA Fall&Winter Collection」が開催される。また、外部の音楽イベントもオンライン形式で再開され、11月19日にはグループとして「MTV VMAJ 2020 -THE LIVE-」に出演。前者では「DASADA」の主題歌として、後者では「MTV VMAJ」の最優秀振付賞受賞作として、それぞれ「青春の馬」が披露されている。
一方で、グループはこの頃から、メンバー全員が揃って活動する難しさに直面していくことになる。この時期には影山優佳と、いわゆる“新3期生”3人を含めた全メンバーの編成で1stアルバム「ひなたざか」が制作されたが(9月23日発売)、その一方で9月21日には松田好花が入院と活動休止を発表し、11月21日には宮田愛萌が体調不良による活動休止を発表している。
こうした状況にともない、「青春の馬」も再び、オリジナルメンバー全員での披露が実現しない状況が続くことになる。1stアルバム「ひなたざか」のリリースにともない、公式YouTubeチャンネルで新コンテンツ「ひなリハ」がスタートしたのもこの時期であるが、11月30日に公開された「青春の馬」についても、松田と宮田を欠く16人が出演した形であった。
東京ドーム公演の延期にともない無観客・配信形式での開催となった「ひなくり2020」(2020年12月24日)で松田が活動に復帰するが、宮田は欠席となる(アンコールでの「青春の馬」の披露には松田も不参加)。宮田が復帰した「日向坂46 デビュー2周年記念 Special 2days 〜MEMORIAL LIVE:2回目のひな誕祭〜」(2021年3月27日)では富田鈴花が欠席となる(「青春の馬」の披露には宮田も不参加)。
「2回目のひな誕祭」は、きわめて限定された形ではあったが、有観客公演を再開する端緒となった(客席と対面して涙するメンバーの姿は記憶に新しい)。その後、グループとして本格的に有観客公演を再開する契機となったのは「W-KEYAKI FES. 2021」(日向坂46の出演は7月10日・11日)であるが、この直前から、前述のように小坂菜緒が休業に入ることになる(その前の時期には佐々木美玲も、比較的短期間で復帰したものの、入院と活動休止を経験している)。
活動が制限され、ファンと対面できず、メンバーもなかなか揃わないというもどかしい状況が続いた1年と数ヶ月の時間を経て、その状況がなんとか上向こうとしていた、そんな風に思えた矢先の出来事。
小坂の活動休止を受け、金村美玖は、再び「青春の馬」のセンターに立つことになった。
■ 「青春の馬」歴代披露を振り返る(後編)
「W-KEYAKI FES. 2021」は、メンバーにとってはかなり苛烈なライブであったことがよく語られている。特に日向坂46の単独公演であった2日目は開演が15時で、フルサイズの野外公演を行うことは考えにくいような気候のもとでの挙行であった(1日目の櫻坂46単独公演は18時、3日目の合同公演は17時開演。前身の公演にあたる「欅共和国」を含めても、15時という開演時間は異例といえる)。
その舞台裏の様子は映画「希望と絶望」にも収められているところであるが、開催直後の時期からすでにメンバーはその様子について明かしてもいた。
メンバーも「しんどいピーク」だったと認める「青春の馬」。しかしそのセンターに立った金村は、堂々たるパフォーマンスでそれを踊りきる。3日目の合同公演でも「青春の馬」は同様に披露され、櫻坂46のファンにもこの曲でセンターに立つ様子を印象づけることになった。
この時期は、明確に理由が語られたわけではないし、これと特定できるものがあるということでもないと思うのだが、グループにとっては気持ちをひとつにするのが難しく、苦しい時期であったということが映画「希望と絶望」で印象深く語られている。
コロナ禍のもどかしい時期はひとつ山を越え、よりいっそうアクセルを踏んで何もかもを取り戻していきたい時期であっただろうか。どうしようもない運命に翻弄されたからこそ、気持ちが体力を追い越してしまうような、そんな風に見えてしまうこともあった時期だと記憶している。
小坂の活動休止を含め、そうした難局にあって、6thシングル「ってか」でグループのセンターを託されたのが、金村美玖その人であった(フォーメーション発表の放送は2021年8月29日)。
そうした状況のなかで、日向坂46として初めての全国ツアーとなる「全国おひさま化計画2021」が、9月15日の広島公演を皮切りに、10月まで全13公演の日程で挙行される。日程としては6thシングルの発売(10月27日)に先行する形ではあったが、初演前日の緊急生配信とともに表題曲「ってか」はMVが公開されており、全公演で本編最後に演じられるなど、新曲を引っ提げて金村が引っ張るような形のツアーとなった(ただ、この「ってか」のダンスの難度や激しさも、一時はグループの"難局"の一部を形づくっていた様子も、いくぶんかはあったのだが)。
そのなかにあって、「青春の馬」はOvertureの直後という重要な位置で演じられている(Overtureより前に「NO WAR in the future 2020」が演じられるセットリストであったので、披露楽曲としては2曲目にあたる)。
ツアーを終えたのちの11月5日には、オンラインイベント「日向坂46×KOEHARU LIVESHOW!」が開催。ライブのコーナーと企画のコーナーが取りまぜられた構成がとられ、ドラマ「声春っ!」の主題歌「声の足跡」はアンコールに置かれ、劇中歌「レントゲン眼鏡」(「まりりん&るびー」:松田・富田)、「HELL ROSE」(「チョコラショコラ」:河田・東村・濱岸)も織りまぜられる特別なセットリストにあって、1曲目は「青春の馬」、本編ラストは「ってか」という形で、金村がグループのセンターとしてひとつの軸となっていた。
これに続く披露機会が、「3周年記念MEMORIAL LIVE ~3回目のひな誕祭~in 東京ドーム」の1日目(2022年3月30日)であった。小坂のライブ復帰がこのときであったというのは前述した通りである。「青春の馬」は、冒頭に「ひらがなけやき」と「キュン」が披露され、MCを経たあとの3曲目であり、新型コロナウイルス感染によりこのライブを欠席した濱岸ひより、および体調をみながらの参加であった小坂と宮田愛萌を欠く15人での披露となった。
筆者はこの「青春の馬」の映像を、誇張ではなく100回は見たと思う。そのくらい思い入れのあるシーンだ。それまで以上にエモーショナルな1番のパフォーマンスを終え、2番のBメロで金村がフォーメーションを飛び出していく。5万人の客席の海を、高速トロッコで駆けていく。「君はずっと信じるんだ/いつか見たあの夢」。「約束の卵」の初披露からはすでに4年近く。最初の開催発表から2年3ヶ月を経たグループの悲願。コロナ禍以降、東京ドームで満員の客入れをしたライブは初めてだったともいう。そこに最初にひとりで進み出ていった金村美玖を、センターと呼ばずに何と呼べるだろうか。
しかしおそらく、本来であればもうひとり、下手側のトロッコで濱岸もともに行くはずだったのだろう。Bステに到達し、Cメロが始まる。「夜が明けていく 遠い地平線の彼方/世界はこんなに広かったと知った」。これはソロダンスではない。金村がそこにいない濱岸の手を引き、目線を送る。いないはずの濱岸がそこにいる。その様子を正面からとらえる映像の抜けには、メインステージで踊るメンバーが映る。小坂のことも濱岸のこともひっくるめて、グループのすべてを背負って、あるいは大言壮語的にいえば、あらゆる人の希望までもを背負って、金村美玖が軽やかに踊る。「蒼ざめた馬が大地を駆け抜けて行く/希望の光を浴びながら」。
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金村美玖は不思議なアイドルだ。キャリアは5年、年齢は20歳を超えても、ちょっとのことで緊張するようなところはずっとあまり変わらないのに、いつからか、タフな状況であればあるほど、どことなく涼しげに見えるようになった。
でもそんな彼女の様子をつぶさに見ていると、指先まで緊張感を張りめぐらせてそんなふうに見せているような印象を受けることもある。経験や才能だけを振り回してスポットライトを浴びているのではない。「本当に努力家」と小坂が語る一端が見てとれる部分だ。
そして彼女はおそらく、そうやって指先まで努力が満ち満ちている自分に、確かな自信をもっている。もちろんそれもすべて筆者の印象にすぎないのだが、でも、これを読む方にも同意してもらえるかもしれない。そしてそんな金村美玖のことが、筆者は好きなのだ。
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一列になって踊るメンバーたちのもとに金村が駆け戻っていく。センターポジションに走り込んで間もなく、ソロダンスが始まる。「どこまで行けるか?/走り続けよう」。Blu-rayで挟み込まれた、早くも額に汗が光る渡邉美穂のカットがたまらない。「The easy way has no meaning」。そう歌いきり、満面の笑顔で点を指さして、暗転して曲が終わった。
東京ドーム公演を終えて間もなく、渡邉がグループからの卒業を発表する。濱岸の公演欠席を知らされたときに地に伏して誰よりも泣いていたことの答え合わせのようでもあった。2期生として初めての卒業メンバーとなり、同期であるその濱岸や、あるいは小坂や宮田とのパフォーマンスには余白を残すことにもなりそうであったが、6月28日に開催された「渡邉美穂卒業セレモニー」では、その3人を含めたオリジナルメンバー全員で「青春の馬」が披露される。もちろん、センターには小坂が復帰。オリジナルメンバー全員による、有観客でのフルサイズ披露(Cメロのペアダンスは小坂と渡邉の形であった)。初披露のときから2年半近く。渡邉美穂のグループへの愛情と執念が最後にそれを叶えた。
■ 受け継がれるもの
その後「青春の馬」は、オーディションを終えて研修期間に入った4期生に課題曲として与えられる。グループの進む道、と丹生明里がかつて表現したように、見る者を勇気づける力強いパフォーマンスは後輩メンバーにも受け継がれていくことになった。加入後、「ひなくり2022」(2022年12月17-18日)での先輩メンバーの披露を経て、4期生は「四期生『おもてなし会』」(2023年2月11-12日)で披露することになる。センターは清水理央が務め、Cメロのペアダンスは渡辺莉奈とであった。
そして今回の「4回目のひな誕祭」では両日ともで、これと同様の形で4期生によって披露されることとなった。衣装はオリジナルのブルー系のロングワンピース衣装。メンバーによる全員の曲への思いがVTRに載せられ、「私たち四期生は、何を伝えられるだろう?」と掲げられた上での披露であった(けがで出演がかなわなかった山下葉留花を欠く11人でのフォーメーション)。
グループ全体でのライブはオリジナルメンバーに準拠したフォーメーションでの披露が原則で、そこから外れることはほとんどなかったグループの歴史において、特異点といえるような状況ではある。しかし、グループの節目を先輩メンバーとともに祝った、1年前はまだ加入していなかった4期生が、“本当に日向坂46になった”みたいな、そんな象徴的な瞬間だったかもしれない。
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これまで見てきたように、「青春の馬」はカップリング扱いの曲ではありながら、グループが大切にしてきたものがたくさん込められた、重要な曲にもなった。
一方で、全員で演じるようなタイプの曲ではなく、筆者の把握している情報が正しければ、いわゆる“新3期生”および影山優佳はこの曲を演じたことはない。あるいは「ライブに欠かせない曲」とも言い切れず、直近でいえば「W-KEYAKI FES. 2022」や「Happy Smile Tour 2022」では演じられていない。そうした意味でも、独特の存在感のある曲である。
これからのライブで、グループはどのようにこの曲を披露していくのか。それはまだわからないけれど、小坂菜緒の不在期間にセンターを務め、この位置に至るまで楽曲を守ってきたのは金村美玖だったのだと、これからも筆者は覚えておこうと思う。
もっと書きたいことがあった気もするのですが、だいぶ長くなりましたので、このへんにしておきます。金村さんの、特に東京ドームでの「青春の馬」は、どうしても文章にしたいテーマだったので、「4回目のひな誕祭」の熱量のまま、それに引っかけるような形で書いてみました。
ブログは日向坂46の記事がやや少ないですが、自分としては射程に置いているつもりです。いつかブログのほうでもまとまった記事を書きたいなと思っています。よろしくお願いします。