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妊娠出産の話 - 2015⑤ そこに嘘があるとすれば

綾野剛と源ちゃんがいないこと。
うちの産科にはイケテルメンズ不在、泣ける。
TVドラマ『コウノトリ』のリアリティについてである。

絵理子先生はシャカシャカと手を動かしながら、そう答えた。
ただいま、予定帝王切開の手術中である。

用いられた麻酔は局所麻酔(脊髄くも膜下・硬膜外併用麻酔)につき、下半身はおねんね中だが、意識は鮮明である。

妊婦にその気があれば、雑談とともに手術が始まり、雑談とともにお産が進む。事前に2先輩に聞いていた通りであった。

出産の際にかける音楽をリクエストできるというから、オーソドックスに「ハッピーバースデートゥーユー♪」のあの歌をお願いしておいた。手術中のBGMもご一緒にいかがですか?とバリューセットの提案もあったが、単品にした。

陣痛とはまったく異なる産前の苦労がそこにはあった。手術用の太い点滴針は昨夜から継続的に手首をズキズキと痛め続けており、麻酔の針を背中に刺す瞬間の感覚はズルっと不快。手術そのものは、あちこちを切ったり引いたりするものだから、胃から上がってくるようなムカムカした気持ち悪さがある。私にとっては、それらを紛らわずための雑談ともいえた。


「乃木さん、そろそろ生まれますよ。それでは音楽スタンバイ〜」

「あ、すみません!CDが隣の手術室に置きっぱなしです!」

お坊ちゃんは、手術室付きのスタッフが慌ててCDを取りに行って戻るまでの間に産まれた。数分遅れのハッピーバースデイトゥーユー♪となった。


待機していた小児科医がホヤホヤの赤ちゃんを受け取ると、すぐクベースに収容して処置に入った(※母子手帳によると)。
ホニャアホニャアという小さな泣き声が聞こえた。

ひと通りの処置後、「おめでとうございます!かわいくてかっこいい男の子ですよ!」と連れてこられた男の子は、色白で金髪の天使だった。

私は、あーうちの子だー!と思った。

そう。私はここでPWSの赤ちゃん出産名物①「色素が薄すぎて異変を感じる」をスルーした。

なぜなら、私の家族は皆、父由来の遺伝で色素が薄い。姉妹は全員、中学校進学時に「茶髪にカラコンのイキッた1年がいる」と怖い先輩にシメられかけ、もっとも色素の薄かった妹は「地毛の証明書(母の一筆)」を学校に提出している。
夫も幼少期は色白茶髪だったという。今でもところどころに明るいオレンジ毛が残る。
アラートは鳴らなかった。

その後、切った箇所を縫合中にいよいよ吐き気が強くなり限界を悟った私は、吐き止めを所望し、「今から黙ります…」と自己申告してから黙って腹が閉じられるのを待った。
切って取り出すのにかかった時間の倍、縫って閉じるのに時間がかかった感じだと思う。


その晩から、私は地獄の術後を過ごす。

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トイレでは激痛に耐えながらの排泄ダヨ♡

何が… 何が帝王切開は自然分娩よりラクだと言うのだろう… 

この時の私にそのように吐く者がいたなら、一生呪った。もしも私の方がその者より先に死ぬなら、逝きがけの駄賃にあらゆる手をつかって社会的に抹殺し、さらに死後は祟ってやったに違いない。違いないのだ。断定する。

幸いにして、そのような者は周囲にいなかったので、誰かを呪うことに生涯を捧げずに済んだ。感謝である。


さて、お坊ちゃんはというと。

私がベッドの上で七転八倒の日々を過ごす間に、保育器の中で鼻にチューブを差し込まれていた。

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