Ayase進行に日和ってる奴いる?
注:コード進行はその楽曲の印象をある程度左右しますが、それ以上でも以下でもありません。楽曲には他の多くの要素も絡み合うため、このnoteで触れる共通点は画一性を生むものであるとは考えていません。これを通じて音楽をより楽しんでいただければと思い執筆しています。
ご無沙汰しております。nogiです。
普段はボカロ曲を作ったり、ボカロ曲を聴いたりしております。
本noteは、「#ボカロリスナーアドベントカレンダー2021(第2会場)」参加作品と言いはることによって、脳内にあったものを吐き出しました。
今回は、「Ayase進行」「Ayase終止」という恐らく筆者が命名したコード進行について解説します。
現在これらのコード進行は「ものすごく新規性がある」類の物でもないため、文献等が見つかりにくい状況です。そのため、わんさか漏れがあると思われ、Twitter等で使用例を教えて下さるとめっちゃ嬉しいです。
Ayaseさんのボカロ新曲楽しみだ〜
MIKUNOYOASOBI2もぜひくれ〜〜
0.先行研究
VOCALOID曲でも人気のマイキさんは「Ayase進行」の丸の内進行部分に注目しており、こうした文献も散見されます。
文面だけだと伝わりにくいので、コード自体の雰囲気を掴むにはだっとさんのこの動画がとてもわかりやすいと思います。
1. 「Ayase進行」の定義
文字通り、ボカロP兼YOASOBIのコンポーザーであるAyaseさんが楽曲、特にサビにて使うコード進行を指します。
メジャーキーで書くと
IV→Ⅴ→Ⅲm→VIm→IV→Ⅲ→VIm
を基本とします。
とは言ったのものの、曲によって応用パターンは数多く存在します。
最後にツーファイブワンを入れる
IVをⅡmに変える
Ⅴをsus4にする
など
手短に言うと
「王道進行の後に丸の内進行」
です。
丸の内進行については、散々noteで書いてきたのでそちらを読んでくださいませ。
あるいは検索して
ちなみに「ラストリゾート」のサビはずっと丸の内です。
さて、定義はさておき概要へ行きます。
王道進行は、ボカロ曲に限らず邦楽で多く、本当に多く使われてきた進行です。
こちらのVOCALOIDのミリオン曲についての先行研究でも、トップに君臨しています。
(今やったら丸の内が1位になるかも???)
個人的な感想を言えば、無味乾燥。
いわゆるSDTの基本の動きを守っており、多く使われていることを差し引いても安定感のある情緒を感じるコード進行ですね。
そして丸の内進行。
言うまでもありません。J-POPシーンを含め飽和しつつあるコード進行です。もっと言うとジャズの定番進行です。
その2個をドッキングしたのが、"Ayase進行"という訳です。
2. 使用例(Ayase)
サビのみに限定します。
あと、YOASOBI楽曲も入れたかったのですが、長くなるし「vocanote」と銘打ってるのでボカロ限定にしようかと。
(YOASOBI曲もボカロ曲だろって?それはそう……)
・先天性アサルトガール
・泣いてない
・夜撫でるメノウ
「たぶん」「もう少しだけ」あたりのミディアムテンポ楽曲の引き出しの源流だと思います。
・人間モドキ
後半の丸の内部分が少しトリッキーです。
・キラークイーン
王道進行部分を456〜と突っ切っていますが、まぁ同じ系譜と言っていいでしょう。
・フィクションブルー
良すぎて草。いや、裏拍を強調したAyaseさんのメロの良さが最大限に発揮されてませんか?
・ヴァイオレッタ
・幽霊東京
かなりYOASOBIの路線に影響を与えてると思います。
・よくばり
この系統のシャッフルの楽曲は、提供曲などを合わせても結構レアな気がします。こっちに振り切ってもAyase感が出るのはコードの影響も大きそう。
・ワンダラー
・シネマ
少しYOASOBIに追われたであろうAyaseさんが、「Ayase(ボカロP)」っぽい曲を作っている感じがします。
以上となります。
14曲中11曲。筆者の目に狂いはなかったようです。
ちなみに、
IV→Ⅴ→Ⅲm→VIm→IV→Ⅲ→VIm→Ⅴm→Ⅰ
みたいに、最後にツーファイブワン(オシャレなやつ)を最後に挟むのが結構多いです。
3. わかったから何が良いの
ひとつとして、メジャーとマイナーの中間のような雰囲気が挙げられます。
丸の内進行単体ではマイナー感も結構あるのですが、王道進行進行と合わせるとメジャー感が強まり、独特の暗くも明るくもない空気感を出します。(つまりエモい)
丸の内進行はマイナーかメジャーかという論争は尽きませんが、筆者は「元々のジャズではマイナーだけど、丸ノ内サディスティックなどメジャーの使用も多く、どっちとも取れる(しかし暗さはある)」と考えています
その点で「ラストリゾート(丸の内進行)」や「シニカルナイトプラン(かなり短調に寄っている)」はダークな部分を強く打ち出していると言えるでしょう。
「よくばり」「ワンダラー」「シネマ」などの最近の楽曲で多いのが、丸の内部分の「Ⅲ」で8分音符で刻むメロディを載せることです。
バックのコードも(王道進行から)変えることで、メロディの変化を強調すると言っていいでしょう。
Ayaseさんのメロディの特徴にシンコペーションを多用する(裏拍を強調する)
「じるっひっびっに〜」(ワンダラー)
みたいなリズムがあると思いますが(全体を通してリズムが難しい)、あえて一部分でシンプルなリズムのメロディを乗せることで緊張と緩和が生まれ、味が生まれています。
特に「よくばり」はシャッフル(跳ねたリズム)の印象的な楽曲であり「あ〜な〜た〜に〜」は緩和の部分としていい役割を果たしています。
勘のいい読者はお分かりかと思いますが、Ayase進行の肝は「Ⅲ」です。ここが「Ⅴ」とかだと丸の内部分が崩壊し、王道進行を繰り返したような印象を与えます(悪くは無い)。
特に「ワンダラー」では「Ⅲ7」のコードトーンをなぞることで強烈にハーモニーを打ち出しています。
というか、ここは「無理しちゃいないけれど」という歌詞に情動的なコードが合っていてエモいんですよ。
4. 他の使用例
すみません。白状すると「シャルル」の方が早いです。
シャルル進行と言ってもいいと思います。
https://twitter.com/balloon0120/status/789739250673561600
あと、「金木犀」も「幽霊東京」あたりと同時期ですね。とはいえ、くじらさんがこの進行を使うのはあまり多くはないかなと思います。
https://youtu.be/d3OrMEFbsj4
Ayaseさん以前だと、レギュレーションゆるめで
・私の時間
・夕景イエスタデイ
・ヤンキーボーイ・ヤンキーガール
あたりがパッと思いつきました。
おそらくもっとありますね。
さて、Ayaseさん以降はどうかと言うと、判断が難しいです。
いわゆる「Ayaseフォロワー」であっても、丸の内のみで押し切ってるパターンが多いんですよね。(ここでは「四つ打ち」「ケロケロ系の調声」「カッティングギター」「派手な裏メロ」などを基準としました。)
プラスティック・レイディ(後述の終止もしている)
マオ
天使と悪魔
プールサイド・カルマ
1(判定緩めで……)
……
ダメだ!普段はたくさん見つかるのに、意識すると全然出てこない!
解散解散。
5. Ayase終止
同じくこんな単語は存在しません()
Ayaseさんのコード進行を特徴づけるもうひとつの要素が、これだと思っています。
サビの終わりは「トニック」であるVImやⅠで終わることが多いです。少なくとも、丸の内進行や王道進行を主軸にしたらそうなります。
そこを「ドミナント」で終わるのがこちらの終止。要するに、サビ終わりに緊張感があると思ってもらって問題ありません。
具体的には、「IV→Ⅴ(メジャーっぽい)」や「IV→Ⅲ(マイナーっぽい)」で終わるパターンが、王道進行や丸の内進行を中心としているAyaseさんの楽曲では多いです。
また、早く切り上げるので必然的に小節数が奇数になりがちです。
以下はAyaseさんの楽曲での使用です。おそらくAyase終止であることは間違いありませんが、細かいコードについては大目に見てください。
・先天性アサルトガール IV→Ⅴ
・泣いてない IV→Ⅴ
・ラストリゾート Ⅱ→Ⅲ
デッ デッ
・人間モドキ IV→Ⅲ
・キラークイーン IV→Ⅴ
・フィクションブルー IV→Ⅲ
流れで行くパターンです。この後にAyase進行にそのまま移ります。
・ヴァイオレッタ IV→Ⅲ
・幽霊東京 IV→Ⅲ
デデッ
・よくばりIV→Ⅲ
デッ デッ
・シネマ
バックは「デッ デッ」みたいなキメになることが多いですね。
ちなみに使わないと、「ハッピーエンダー」の「デデッデッデッ」、「ワンダラー」の「デーデッデッデッデッ」みたいにシンプルに終止します。
6. なにがいいの?
もしかしたらこの終止の存在について気づいていない方もいらっしゃるかもしれませんが、インパクトを深層心理に及ぼしているのは事実でしょう。
多く使われるようになってきてるとはいえ未だに多数派ではなく、強い新鮮味を持っているからです。
そもそも、ドミナント(例えばⅤ)でメロディを解決するのは理論的に少し強引なんですよ。それが許容されるのが面白いという話です。
また、メロディが間奏ギリギリになったり食い込んだりすることが多くなります。
例えば「ラストリゾート」だと最後の「(しよう)か」が食い込んでいますよね。
この間奏へなだれ込む特性は、楽曲を続けて聴きたくなる効果を持っていると想像しています。
(一番切りは往々にしてあるので)
7. それ以外の使用
実は、というか当たり前ですがAyaseさんが初めてやった訳ではありません。
DECO*27さんの「乙女解剖」や稲葉曇さんの「ロストアンブレラ」、Eveさんの「ドラマツルギー」、こんにちは谷田さんさんの「初夏、殺意は街を浸す病のように」など、探せばいくらでもありそうです。
(さんさん???)
ボカロ外だと「だから僕は音楽を辞めた」が印象的でしょうか。
その後も
しう、ぴんく、ジンクス(Ruluさんはよくやる)、無重力サイレン、俯瞰、愛を躍る。、金木犀、偽物人間40号、レゾンデイトル・カレイドスコウプ、ヱスケイプ、んっあっあっ。、デウスのテロリズム……Ayaseさんフォロワー的な使用を除いても相当あります。
なおツミキさんは「トウキョウダイバアフェイクショウ」もそうなので、時系列は前後します。もっと言うと「ホワイトハッピー」もこれです。(ソンナコトシテイイノォ!? 部分はコードがないのでノーカン)
あとkemuさんの新曲も該当しそうですね。その前のメロディを繰り返すパターンなので、「ぴんく」「偽物人間40号」等と共通します。(こちらは「幽霊東京」が該当する小節付け足しタイプと言えそう)
面白い例だと「キュートなカノジョ」及び「ダリアダリア」の間奏への導入が、Ayaseさんで言うと「フィクションブルー」的なスムーズな流れになってますね。
(なお本人歌唱の「ギャンブル」は前述の付け足しタイプだったりします。Ayaseさんへの挑戦状とも読める楽曲なので面白い)
(ねじ式さんも、近年はAyaseさんの影響が見受けられますね)
「フォニイ」だと、転調時が似た感じになっています。
(ドミナントは不安定なので転調にうってつけなのです)
「きゅうくらりん」でもかなり変則的ですが、使われていると言えるかもしれません。「Ⅱm→Ⅰ♯」なので、Ⅰ♯をⅤの裏コードと考えれば変則Ayase終止です。
今を生きてるので、つい先日出た曲を。
恐らく453645でフィニッシュだと思われます。Chinozoさん曲だとAyase終止は珍しい……?
余談ですが、コードチェンジの頻度がサビの前半と後半で変わっています。サビの間での緩急を付ける手段として「きゅうくらりん」「マーシャル・マキシマイザー」「アイロニーナ」「テレキャスタービーボーイ」等での使用がパッと浮かぶので、トレンドになりつつあるかもしれません。
フルでどうなるのかなぁと思ったら、突っ込むように間奏に行きました。確かに、「塞ぐふり〜」で解決して締めてしまうと味が失われてしまいそうです(shortなら曲自体がそのまま終わるのでいいのですが)。
435なので少し変則的であるものの、「Ⅲ→Ⅴ」の部分は二拍ずつで変わっているためほぼ同じ終止と見て差し支えないでしょう。
また、小節数をずらさない工夫として、「ラグトレイン」「爆笑」などでは終止の部分が倍の長さに引き伸ばされています。(これはAyase楽曲ではほぼ見られません)
8. まとめ
なにわ男子のデビュー曲「初心LOVE」や日向坂46の「ってか」、乃木坂46の「ごめんねFingers crossed」などアイドル音楽でもAyase進行が使われてるのを見て、時代だな〜と思ってます。
あと、SixTONESの「フィギュア」はくじらさん作曲かつこの進行なので宣伝させて。(4536236がベース)
以上。
他の人のnoteもぜひ。
ありがとうございました!
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