”お腹が空いた”という日本語
スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチに"Stay Hungry"というフレーズが出てくる。和訳すると「常に貪欲であれ」みたいなニュアンスである。
これはHungryが「お腹が空いた」だけではなく「渇望する」という意味もあるため、Stay hungryは「貪欲であれ」と言えることができる。
ではこのHungryが一般的な「お腹が空いた状態」という意味で使われた場合はどうなるだろうか?「常に腹を空かせろ」?「空腹であれ」?
でも私達は日常会話の中で「空腹」という言葉はあまり使わない。「お母さん空腹だよ」ではなく「お母さんお腹がすいた」と言うだろう。
つまり何が言いたいかと言うと、「空腹という人間の基本的な欲求状態を端的に表す日本語(特に形容詞)が無いというのはいかがなものか」である。
hungryという人間活動において最頻出の状態を表現するのに「お腹が空いた」と主語と述語が必要なんて、なんて面倒くさい言語なんだ、と気づき、自分の母語に対して憤りを覚えたのである。
これに気づいたのは日本語を勉強中の妻が「すいた」と言ってきたのでなんのことかなと思ったら、「お腹が空いた」という意味だった、という出来事からである。そりゃそうだ、いちいちHungryを言うのに「お腹が」なんて言う必要が無いのがグローバル的な感覚である。なんて面倒くさい言語。Why Japanese Peopleである。
実際にGoogle翻訳でいろんな言語のhungryを調べたが、たいてい1語だった。アゼルバイジャン語では「ac」だし、ンダウ語では「nzara」だし、
バタクシマルングン語では「loheian」だった。ね、それに比べて日本語は「お腹がすいた」である。なんて長ったらしい。それにしてもGoogle翻訳すごすぎである。
主語とか述語とか書いてて思ったが、「私はお腹が空いた」の主語と述語はいったいなんなんだ。「私は すいた」がSVなのか、「お腹が 空いた」がSVなのか。しかし後者だとしたら「私は」はなんなんだ。
そして私は唐突に思い出す。ひもじいという言葉を。よくおばあちゃんが使っていた。「お腹が空いていない?」という意味で「ひもじくない?」と言っていた。
これだ!hungryに相当する単語が、しかも形容詞でちゃんと日本語にあるじゃないか!
しかし私の実家の九州の方言かもしれないと思い調べる。
・・
諸説ありそうだが、一応標準語だった。問題ない。じゃあなんでこんな便利な言葉が廃れてしまったんだ。誰か教えてくれ!
・・
ググっても出てこなかった。謎のままである。
ここからは個人的な推察。本来そのような意味はないのだが、ひもじいは「貧しい」という意味によく間違われていたそうだ。たしかに昔は「ひもじさ」は「貧しさ」から来ていたのであながち間違いではなかったのだと思う。そのため、ひもじいという言葉のイメージが悪くなり、徐々に使われなくなったのかもしれない。
確かに今の時代に子どもが「ひもじい」と言ってたら、たとえお腹が空いたという意味だったとしても、どうしても火垂るの墓感が出てしまうので、やはり「ひもじい」の復権は難しいのかもしれない。
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