花柄のワンピースと水族館
秋の風が窓を吹き抜けて カーテンを揺らす
重たい瞼をこすり、久しぶりの快晴の土曜日に
洗濯物を済ませておかなくてはと、スイッチを入れる
小さな部屋の小さなベランダから これまたビルとビルの間に
小さく切り取られた青空を見ている
駅前に高く伸びているオフィスビルが、ガラス張りの壁面いっぱいに
青空を反射して、雲がゆったりとその背景を動いていく
物干しにゆれる、花柄のワンピースに目を落とす
9月の終わりに
久しぶりのデートのために新調したもので
前日、ファッションビルを上から下までうろうろして
迷いに迷って買ったものだった
待ち合わせ前に、
やっぱりもう少し色が濃い方がいいかもと
慌てて買い足したグレーの靴下も、洗濯バサミにくわえられて
ワンピースの横に、たらんと揺れている
理由は分からないけれど、もうその人から連絡は来なくて
私はまた、自分のなにがいけなかったのだろうと
永遠に合わない答え合わせをしている
いつだって、問題が出されるだけで
正解を教えてくれないまま、人は去っていくから
悲しい記憶に結びついてしまった服が
クローゼットにまた増えてしまう
きっとしばらくしたら、その子のことも
好きかもしれないと思った気持ちも
きれいな自分で会いたいと、準備をした時間のことも
忘れていくだろうけれど
まだ夏の暑さの残る日の午後、水族館、待ち合わせ、
ワンピース、靴下、かばん、
カワウソ、ペンギン、アロワナ、
大きな水槽の前の段差に座りながら
眠いなら肩に頭をのせたら?と言ってくれたときのこと
あのとき、あの人は私のことを好きだったのだろうか?
それとも、ちっとも好きじゃなくてもそういうことを人は言うのだろうか
という疑問
そんな断片が、くだけて波間にゆられて角がとれた
ガラスのかけらみたいに、
心のどこかにまた溶け残るのだろうと思った。
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