海外から日本へADHDの薬を持ち込む為(また、海外へ持ち出す為)に知っておきたい事
ニュージーランドで総合診療科医などをしています。
ニュージーランドのプライベートのクリニックで、ADHDの診断やマネージメントなどもしています。
今回は、ADHDの薬を日本へ持ち込むために必要な情報です。
(ADHDの薬を日本国外に持ち出す時も、同じです。)
1. 日本で使われているADHDの薬
2024年現在、日本で処方されているADHDの薬は、「コンサータ」、「ビバンセ」、「ストラテラ「」、「インチュニブ」の4種類です。
この中で最初の2つ「コンサータ」と「ビバンセ」は、中枢神経刺激薬で、これらの日本の国境を越えての持ち込み、持ち出しには注意が必要です。
「コンサータ」はメチルフェニデートという薬物。
「ビバンセ」はリスデキサアンフェタミンという薬物です。
「ビバンセ」は、日本では18歳未満の患者さんに処方されており、
日本での18歳以上への処方は、18歳未満の時点で日本で「ビバンセ」を処方されている患者さんに限られる様です。
どちらも、「長時間作用型の徐放製剤」です。
日本ではADHDのための「短期作動型」の中枢神経刺激薬は処方されていません。主な理由は、短期作動型の薬は、悪用、乱用の可能性が高まるからです。
2. 日本と海外での中枢神経刺激薬の分類の違い
日本国外ではメチルフェニデートもリスデキサアンフェタミン、どちらも
ADHDの治療に使う「中枢神経刺激薬 Stimulants」として知られています。
日本ではこの二つの薬は、異なる種類の薬として分類されています。
「コンサータ」メチルフェニデートは「向精神薬」、
「ビバンセ」リスデキサアンフェタミンは「覚醒剤原料」に該当します。
日本でもこれらは中枢神経刺激訳である事は知られているのですが、
日本では「Stimulant」は「覚醒剤」の事を指し、日本には一切持ち込むことができません。
(ADHDの薬として、海外で処方されているものも含めてです。
例えば「デキサアンフェタミン」などは、これにあたります。
医者の手紙とかがあっても、許可されず、
それを知らずに日本に持ち込むと、刑法に問われます。)
「ビバンセ」リスデキサアンフェタミンは、プロドラッグと呼ばれ、
体に吸収された後に、血中で活性体であるd-アンフェタミンに変化する事で、
中枢神経刺激薬として働きます。
そのため「ビバンセ」は「覚醒剤」でなく「覚醒剤原料」とされています。
3.メチルフェニデートの持ち込み
日本では「向精神薬」とされているメチルフェニデートは、
30日分以内かつ、メチルフェニデート総量が2.16g以下であれば、手続きなしで持ち込むことができます。
つまり、リタリンでも、コンサータでも、ルビフェンでも
手続きなしで可能という訳です。
30日分でメチルフェニデート総量が2.16g以下なので
毎日メチルフェニデートを内服している人は、一日に72mg迄の常用量なら大丈夫です。
(1日に72mg以上内服している人は、あまりいないと思います。)
それを超える量であっても、向精神薬を携帯して輸入(輸出)することが、自己の疾病の治療のため、特に必要である事を証する書類、
例えば「処方箋の写し」「患者の氏名及び住所並びに携帯を必要とする向精神薬の品名及び数量を記載した医師の証明書」を所持していれば、可能です。
(「不要」とはされていますが、私なら、許容されている量でも、医師の証明書を用意すると思います。
多くの国で、中枢神経刺激薬は、コントロールドラッグとなっているので
常に、特に国境を跨ぐ時に、「医師が書いた証明書」を所持するのは無難な選択だと思います。)
4. アンフェタミン系の持ち込み
先に書いたように、基本的にアンフェタミン系の中枢神経刺激薬は
日本では「覚醒剤」として認識されるため、日本への持ち込めません。
アメリカでよく使われているアデロールとかは、アンフェタミンなので、医師の手紙があっても日本へ持ち込めません。
ただ「ビバンセ」はプロドラッグなので、「覚醒剤」でなく「覚醒剤原料」と認識され、日本への持ち込みが可能です。
ただ、メチルフェニデートよりは手続が面倒です。
医療用麻薬や覚醒剤原料を「輸入」、また「輸出」するには麻薬取締部へ許可を取る必要があります。許可なしでは持ち込めません。
ここでいう「輸入」は、日本に持ち込む事。
海外の人が海外で処方された薬を日本に持ち込む時は「輸入」になりますが、
日本の人が海外に出て、残った薬を持って日本に帰る時も「輸入」になります。
同じく「輸出」は日本から薬を持ち出す事。
日本の人が薬を持って海外に出るのは「輸出」ですし、
海外からの旅行者が薬を日本に持ち込んで、残った薬を日本から出るときに持って帰るのも「輸出」に当たります。
こちらのウェブサイトか、(もしもリンクが切れていたら)
「携帯による医療用麻薬等の、輸入・輸出手続きに関する手引き」https://www.ncd.mhlw.go.jp/dl_data/keitai/guide_narcotics_jp.pdf
を読んでいただくと、詳しいことが書いてあります。
簡単にまとめると
メチルフェニデート系なら、30日分以内、かつメチルフェニデート総量が2.16g以下なら、そのまま持ち込める。
それ以上なら「処方箋の写し」「患者の氏名及び住所並びに携帯を必要とする向精神薬の品名及び数量を記載した医師の証明書」を所持。
(麻薬取締部からの許可証は不要。)
(かなり多量に持ち込む時は、「輸入許可証」が必要らしいので、上のサイトを参考にして下さい。)
「ビバンセ」に関しては事前に地方厚生(支)局長の許可が必要です。
(以下は先に書いた、労働厚生省 地方厚生局 麻薬取締部のウェブサイトをコピペした情報です。必要書類や申し込み方、かかる時間などが書かれています。 太字でない分は、私の書き込みです。)
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①携帯輸入許可申請書 1部(日本に入国する場合)
②携帯輸出許可申請書 1部(日本から出国する場合)
※「麻薬」と「覚醒剤原料」は、異なる法律によって規制されていますので、それぞれ申請書の様式が異なります。「麻薬」と「覚醒剤原料」の両方について同時に申請する場合、一枚の申請書にまとめることはできません
(今回は、ビバンセについてなので、「麻薬」でなく「覚醒剤原料」です。)
③医師の診断書 1通(日本語又は英語)
患者(申請者)の住所・氏名
麻薬・覚醒剤原料を必要とする理由
処方された麻薬・覚醒剤原料の品名(「リスデキストロアンフェタミン - ビバンセ」ですね)・規格、それらの一日量
※同時に「麻薬」と「覚醒剤原料」の両方について申請される場合は、合わせて1通で構いません。
④携帯する麻薬・覚醒剤原料の品名が確認できる資料
お薬手帳や薬情のコピーなど
※許可書に記載する麻薬・覚醒剤原料の「品名」を確認するための資料です。
⑤宛先を明記した返信用封筒 1枚
長3用以上の封筒(A4サイズを同封できるもの)
送料は自己負担です。簡易書留以上のものを推奨します。
※直接受け取りに来られる方は不要です。
【参考】
返信用封筒の切手の目安
・長3封筒の場合
① 携帯輸入又は携帯輸出許可申請のどちらかのみの申請する場合:84円
② 携帯輸入及び携帯輸出許可申請を両方申請する場合:94円
・角2封筒の場合
120円
※「麻薬」又は「覚醒剤原料」のどちらかについて申請される場合、交付する許可書の基本総量は94円です。両方について同時に申請される場合は、基本総量が140円になります。
申請様式ダウンロード
申請書類の提出先
日本在住の場合は、申請者の住所地(入院中の場合は、病院の所在地)を管轄する地方厚生(支)局麻薬取締部
海外在住の場合は、入国予定の空港等を管轄する地方厚生(支)局麻薬取締部
(つまり、成田から飛行機で入国する人は「関東信越」、関空から入国する人は「近畿」の厚生局麻薬取締部に書類を申請することになります。)
※提出方法は「郵送」か「直接の持ち込み」どちらでも構いませんが、持ち込まれる場合は管轄の麻薬取締部へ事前にご確認ください。
(海外在住の場合は、メールまたはファックスで申し込み可能です。
このページに詳細が英語で書いてあります。)
提出期限
出国日又は入国日の2週間前までです。
なお申請から出入国までに時間的余裕がない場合は、必ず地方厚生(支)局麻薬取締部に電話等でお問い合わせください。
留意事項
許可後、日本語の輸入(輸出)許可書と英語の輸入(輸出)許可証明書が1通ずつ交付されますので、入国(出国)時に税関で提示して下さい。
なお、必ず申請者本人が許可を受けた麻薬・覚醒剤原料を携帯して下さい。この許可を受けても、知人等に麻薬・覚醒剤原料を託したり、別途郵送したりすることはできません。
許可申請に関しては、tokyoncd@mhlw.go.jpへお問い合わせください。
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先ほど書いた、英語で説明してあるページ
によると
海外から入国する時に必要なのは、
1. 発行された許可証
日本にいるうちに、持ち込んだビバンセを飲み切らずに、日本を出国する場合は(例えば、日本の後に別の国を旅行するとか)
「輸入」と「輸出」の両方の許可証を忘れずに申し込んでください。
2.医師からの診断書
あなたの名前
現住所
この薬をあなたが必要とする理由(病名など)
薬のリスト(用量などの詳細)
医師の署名
診断書を書いた日時
を書いてもらって下さい。
電子署名の時は、その旨も書いて下さい。
最近はナースプラクティショナーなど、医師ではないけれど、医師の代わりに医療をするプロフェッショナルが存在する国が多くあります。
この診断書の署名に関しては、医師の署名であることが必要です。
3.薬のパッケージの写真(用量などがわかるもの)
5. いくつかの注意事項
本人が携帯することが必要
覚醒剤取締法により、覚醒剤原料の携帯輸出は、「自己の疾病治療の目的で携帯して輸出」する場合に限られているため、本人以外の者(本人と一緒に行動する付添人、介護人などを除く。)が携帯したり、渡航先へ郵送したりすることはできません。
⒉ 「輸入」と「輸出」の両方の許可証が必要な可能性があること
ビバンセを、飲み残し等の理由により帰国時に持ち帰る予定がある場合には、「医薬品である覚醒剤原料携帯輸出許可」と同時に、あらかじめ「医薬品である覚醒剤原料携帯輸入許可」を受けておく必要があります
3.旅行時に出入りする国の全ての持ち込み条件をクリアしておくこと
日本からの持出し、日本への持込みとは別に、渡航先の国への持込み、渡航先の国からの持出しについて、その国による規制がある場合があるため、事前に渡航先の国の大使館や領事館等に照会して、書類が必要であれば用意しておいて下さい。
6. 最後に
日本はニュージーランドに比べて、ADHDの薬に関する縛りが厳しいのだと
改めて感じました。
日本でADHDに関して処方される薬がとても限られているだけでなく、海外でADHDの薬を処方されている人が日本に入国するのは、薬によってはちょっとハードルが高いですよね。
もちろん、それなりの理由がある訳で、事前に計画的に薬を変えたりすれば日本に来るのは不可能ではないです。
他にも、「こんな事も情報として載せておいた方が良い」とか、ご自分の経験から「こんな事も知っておいた方が良い」ということがありましたら、コメントを下さい。
この記事は、十分に調べて書いていますが、もしもこの記事通りにしたために何かの不都合があった場合、私は一切責任を負いません。
ご自分の責任で、更に確認の上、安全なご旅行を楽しんで下さい。