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今週のニュージーランドの新聞記事より-開業医クリニックのオーナー団体が政府の商務委員会を訴える

ニュージーランドで総合診療科医などをしています。

今回の記事は、ニュージーランドのプライマリケアであるジェネラルプラクティスのクリニックオーナー団体(GenPro)が、ニュージーランドの政府の組織であるCommerce commission(商務委員会)を訴えた、という記事です。

これが元記事です。

多分、ほとんどの日本の方は(ニュージーランドへ来ている方でさえ)、ニュージーランドの医療システムはご存知ないと思います。

簡単な説明はこちらにしてあります。

ニュージーランドでは、政府から、総合診療科であるプライマリーケアの開業医(ジェネラルプラクティス)への支払いは、「キャピテーション」という形で行われます。いわゆる「人頭払い」です。

日本の様に、「サービスひとつひとつに対して、料金を払う」のとは違うシステムです。

下は私が5年前に「nz大好き」というウェブサイトに投稿したコラムの記事です。参考にしてください。

https://nzdaisuki.com/column/nz-medical-care-viewpoints-from-a-jpn-dr/dr-noriko-03

ニュージーランドのプライマリーケアは「かかりつけ医制度」のもと成り立っています。

ある人が、かかりつけ医を決めて、そのクリニックに登録する。
そうすると、政府がそのクリニックに対して、一年あたり一定のお金を払う。
患者さんは、それとは別に、受診料を、受診の度にクリニックに支払う。
クリニックは国から支払われたお金と、患者さんが払ったお金でやりくりする

という仕組みです。


もしも登録する患者さん達が、みんな健康であまり病気に罹らない様なポピュレーション(青年や、若い大人)であれば、クリニックは一度も患者さんを診ることなくても、政府からのお金が入ってくる事になります。

反対に、非常に病気が多く、医療的に手がかかる様なポピュレーション(高齢者で、いろいろな疾病を抱えているとか)の患者さんが多ければ、国からの「人頭払いのお金」は何回も患者さんが診察に来るうちに、尽きてしまいます。

患者さんの払う受診料だけで、実際の診療にかかる費用は賄えないため、クリニックは経済的にやりくりが困難になります。

現在の「キャピテーション」の規定の(政府からクリニックへの)支払い金額は、何十年も前の統計から弾き出されています。

物価は上がり、老人の人口は増えて医療的に複雑な問題を抱えている人が多いのに、キャピテーションはほとんど変わらなかったため、多くのGPクリニックは長い間、経済的に大変な思いをしてきました。
結局、クリニックの収入が少なり、医者や看護婦さん達に払う給料も上げられない。
そうすると、人はもっと給料の良い職や職場に移っていく。
その結果、プライマリーケアで働く人は少なくなり、更に人手不足になり、サービスの量も質も損なわれる。

ジェネラルプラクティショナー(GP 街の開業医)の予約が取れないので、人々は病院の救急外来に行く事になる。
そのため、本当に救急に診られないといけない人たちへの診療が遅れる事になり、その結果、急外の待合室で待っている内に人が死ぬような状況になる。

最近の政府は、GPからの訴えにより、このキャピテーションを4%上げる、と言ったのですが、4%ではインフレーションの変化よりも低いし、長年十分なお金がもらえずにやりくりしてきたGPクリニックは、これだけでは足りない、というのが本音です。

ただGPクリニックには、実際のところ、この「4%」という政府の決定を覆すとか、こちらの意見を通すように交渉する権限がない。

ということで今回の記事にある様に、GPクリニックのオーナー団体が、これは「不公平で、違法である」として、ニュージーランドの政府の組織であるCommerce commission(商務委員会)を訴えた、訳です。

ニュージーランドでは、病院に雇われている医師は組合に入っているのが普通です。
組合が賃金や勤労環境について、かなり交渉力があるため、ある意味では守られています。

街の総合診療科の開業医GP達は、雇用の仕組み上、組合を持つ事ができないので、政府に不満があっても、なかなかそれを強く伝える事ができない状況でした。

このGenProというGPクリニックのオーナーで作られた団体が結成された事によって、もう少し政治的にも影響力がある事が可能になりつつあります。

「医療」は「政治」ですからね。

自分達の時間を削って、ニュージーランドの医療を改善すべく働いている同僚達に、とても感謝しています。

プライマリーケアの医師だけでなく、患者さん達のためにも、そしてセカンダリーケアを含めたすべての医療従事者のためにも、少しずつニュージーランドの医療システムが改善していく事を期待しています。


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総合診療科医のだのり@ニュージーランド
「親も育つ子育て」を広めるために、私の持っている知識、経験、資料をできるだけ無料で皆さんに届けたいと思っています。金銭的サポートが可能な方で、私の活動を応援していただける方は、サポートをしていただけると嬉しいです。