ライブレポ OOIOO 2024.1.18 代官山「晴れたら空に豆まいて」
OOIOO、ようやく聴けました。ボアダムズとかが音楽メディアで大きく取り上げられてたのは自分が学生時代で、これはその主要メンバーが作ったバンドで結成から30周年!だそうです。ま、メンバーはリーダー以外全員変わっているわけだが。古くからのファンらしき中年層から、ミュージシャンっぽい髪形の若者?まで老若男女が集まっていた。代官山なんてうら寂しい所に来るのはこの店に来る時だけですね。昔からある米屋やタバコ屋はみなシャッターが閉まって落書きされており、暮らしの臭いがしない町。安い食い物がタイ焼き屋の焼き芋ぐらいしかない。
ヨシミのボーカルのカリスマ性みたいなものはライブで見てようやく得心できた。たしかにすごいですね。沖縄やらハワイアンやらシャンソンやらあらゆる国の要素が適時引用されており、無国籍的な奇妙な言語を使う。また英語ではストレートなロックをやるが、その時はかっこよくて勢いがある。日本語は使わない。彼女は言葉の意味にとらわれないロックをやっている。いや、性別すら超えてると言ってよい。女性的ではないが、男性的でもない、その両方ってわけでもなく、こういうタイプのボーカルは他にいなさそうだな。彼女は「ヨシミっていう名のどうぶつ」って感じがする。あえて言えば、他には「ジョン(犬)」ぐらいですかね。「情念」みたいなものが全然感じられず、しかしバイタリティーはかなりのもの。現世の諸々の重力を逃れるべく、ナンセンスに徹している。「自由」のために。こういう音楽がメジャーな会社と契約できたのは1990年代の可能性だったのかもな。
自分はその30年を知らない人間だが、この音楽に込められた要素の意味は何となく感じる。ドラムとベースとギターによる多様かつ多層的なポリ・リズム・フィギュアの活用。それはたとえば、ザッパであり、スリッツであり、アート・リンゼイの「DNA」においてイクエ・モリが生のドラムではやり切れなかった部分であり、jagataraであったり・・。元をたどればアフリカのドラム・アンサンブルなわけで、ドラムセットがアメリカ黒人音楽の異なったリズムを同時に演奏するために発明されたことを考えれば、それは取り立てて「変則的」なことではないんだけどね。それだけ音楽ジャンルが細分化されてしまっており、それを根源にさかのぼりたいってことかも。というわけで最新メンバーによるCDも買いました。
現体制の最大の特色はジャズ出身のmishina(三科律子)のドラムをピックアップした点。ロックとジャズではドラムに求められる「ジャストさ」の定義が異なる。ゆえに、その両方をこなせるミュージシャンというのは普通はいないわけで、ジャズのドラマーがやるロックは重心の安定に欠けたり、タイミングが早すぎたりしてしまうことが多い。反対にロックの人がジャズっぽい演奏をしようとするとチャカチャカしたり、柔軟さに著しく欠けるとか。mishinaはそこを「覚えゲー」といえるほどの修練によって乗り越えている。長年ロックバンドでがんばってきた人、と言われても疑われないでしょう。
ロックといってもこれだけ多彩なパターンを叩かされるバンドは普通ないし、特にベースとの微妙にずらしたり重ねたりの変則的なコンビネーションはないと思うので、恐ろしく困難なことに挑んでますね。それに何より音が鋭く、強く、しかも抜けが良くて心地よい。バンド内でも彼女のドラムを大きく取り上げている。それだけ得難い存在ということで、なかなかこういう異ジャンルとのメンツの出会いはないだろうね。