南仏で異例の大雪被害に見舞われる
- 2018/02/28 -
この日は朝から一段と寒かった。
学校に着いて1限目が始まり、しばらくすると窓の外で雪がちらつき始めた。
クラスメイトのコロンビア人の子達は雪を自国で見る機会がないらしく、とてもはしゃいでいた。
ちなみに、コロンビアは年中夏のような気候らしい。
今回の渡仏では、私も初雪だったのでちょっとテンションが上がった。
午前中の授業が終わって窓から顔を出すと、見慣れた景色が一面銀世界になっていて感動した。
私は夏生まれで寒さがとても苦手だけど、雪がしんしんと降る美しいフランスの街並みは、寒い冬に足を運んででも見る価値は絶対にあると思う。
この日は実は午後の課外授業に参加する予定があり、初雪とともにウキウキしていた。
課外授業の内容は、“カフェでアフタヌーンティーを楽しむ”と言うもので、紅茶やお茶菓子が好きな私にとっては、かなり魅力的なアクティビティだった。
集合時間に、学校前で引率の先生と他の参加者の学生たちと合流して予約しているカフェへ向かう。
学校の校舎を出て初めて気がついたけれど、道が完全に雪に覆われていて歩道と車道の境目さえ分からなくなっている...。
ソリを持ち出して遊んでいる子どもや、傾斜の緩い坂道をスキーしながら下ってくる人もいた。
カフェに向かう途中で(大人同士の)雪合戦の中を通った時に、雪玉を当てられるかと思って内心ドキドキだった。
こんな状況を、大人子ども関係なく全力で楽しむのがフランス人なんだな、と冷静に実感した。(でもさすがに、公共の場で周りを気にせず満喫するのはやめてほしい)
滑って転ばないように雪道を気をつけながら歩き、無事にカフェへ着いた。
参加者の中には、日本人の女の子が1人いたので、隣の席に座って軽く話した。
他の人はそうでもないように見えたが(どうやって濡れずに来たのか…?)、私たち2人は服も髪も雪でびしょびしょになっていたから、凍えながらのお茶会スタートとなった。
茶器として、ポットではなく南部鉄器が出てきたのが印象的だった。
ヨーロッパで流行っているらしい。
日本人の現役大学生の女の子は真面目で優しい雰囲気の子で、私が来る前から語学学校に在籍している。
クラスが私よりもずいぶんと上なので、席の近い別の国の学生さんと軽くおしゃべりしていたけれど、私はというと会話が全く聞き取れないので彼女に通訳してもらって話を理解するのがやっとだった。
それでも、お茶やお菓子は美味しかったので参加してよかったなぁと、のほほんとしていた。
アフタヌーンティーが終わり、いざ帰ろうとなって気がついたが、どうやらトラムが動いてないらしい。
カフェから学校の方へ歩いて行ってみたが、私たちが悠長にお茶会をしている間にしっかり雪が降り積り、広場から人々もすっかり居なくなっていた。
一緒にお茶会をしていた学生の子たちもどこへ散ったのか、気づいたらあたりはとても静か。
私のホームステイ先は歩いて帰れる距離ではないため、トラムが動いていないとなると帰ることが出来ない。
ここに来て、初めて事の重大さに気が付いた。
暢気にお茶なんてしてる場合じゃなかった。
ひとまず、ステイ先のマダムへトラムが止まっていて帰れないことを連絡。
学校の先生たちに相談しようと思ったが、すでに午後の授業等はすべて中止になっており、校舎にも入れなかった。
どうしようかと迷ったが、学校近くの学生寮に住むクラスメイトの日本人の方に慌てて連絡した。
事情を話すと、一晩泊めてもらえることになって心底安心した。
もちろん迷惑を承知でお願いしたが、困ったときや非常事態でどれだけ人を頼れるか(恥を忍んで甘えられるか)が、海外で生活していく上で非常に重要なんだと思った。
私は人に頼るのがもともと苦手で、頼るよりも自分でなんでも完璧にできなければいけないと思いながら日本で生きてきた。
でもそんなのは実は独りよがりで、本当は自分なんてとてもちっぽけで、うまくやれてるように見えていたのはすごく狭い世界の中だけだったんだな、とフランスで生活してみて痛感した。
ありがたいことに私の寝床はなんとか確保できたのでよかったが、一緒にいた日本人の女の子はどうするのか聞くと「歩いてステイ先へ帰る」と言い出した。
彼女のステイ先も方向は違えどそれなりに遠く、徒歩で1時間以上かかる場所だった。
真っ白な雪がしっかり被っていてトラムの線路は全く見えないし、歩いたこともない道を吹雪の中1時間以上も歩くというのはかなり心配だった。
その上彼女は、この日に限ってスマートフォンを家に忘れて来ていて、私の電話を使ってステイ先の人に連絡するのでやっとの状態。
(たまたま電話番号をメモした紙を持っていたので連絡できた)
彼女は気を使って大丈夫と笑っていたが、手元にGoogleマップもない状況ではさすがに安心して送り出すこともできず、一緒になって学校近くのホテルに空き部屋がないか聞きまわった。
でも、この異例の大雪のせいか部屋代が思ったより高く、雪を凌ぐためにたった一泊するのには出したくないような金額だった。
結局悩みに悩んだ末、2人で私のクラスメイトの学生寮へお邪魔し、お願いして泊めてもらうことになった。
何時間も寒い中にいたので、暖かい部屋に入れてもらった時は心から安心したし、大げさに思えるかもしれないけれど、無事でよかったと本気で思った。
寮の部屋は1Kなので、3人で寝泊まりするにはかなり狭かったけれど、家主の女性は本当に優しくしてくれて、感謝してもしきれない。
あれからずっと、未だに仲良くしてくれている彼女は私の恩人であり、大切な友人だ。
その夜は、温かいポトフをご馳走になり、3人で身の上話をしながらゆっくり眠りについた。
- 2018/03/01 -
残念ながら翌日もトラムは止まったままで、泊まらせてもらった寮から学校には行けたけれど、帰りの不安は消えなかった。
ちなみに、私の契約していたホームステイは丸1ヵ月だったので、3月3日の正午には寮への引越しを予定していた。
2晩連続でクラスメイトの家に泊めてもらうわけにはいかないし、万が一このまま今夜もステイ先へ帰れなかったらどうしようと気が気じゃなかった。
朝、担任の先生に状況を相談していたところ、たまたま同じ方向へ帰る先生がいて「一緒にどうぞ」と声をかけてくれたと、放課後に教えてくれた。
途中まで迎えに来てくれた、その先生の旦那さんの車に同乗させてもらったが、道が凍結している上にチェーンのついていないタイヤで運転しているので、何かのアトラクションかというくらいスリルがあって、文字通り背筋が凍った。
旦那さんが必死に運転しながら「こんな大雪が降ったのは30年ぶりくらいだよ。みんな雪に慣れてないんだ。でも本当のモンペリエはこんなに寒いところじゃないから!どうか嫌いにならないでね。」と困ったような顔で言っていたので、ちょっと心が和んだ。
なんとかステイ先の近くまで送り届けてもらい、ショートブーツが埋もれてしまうほどの雪に足を取られないよう気を付けながら歩いて帰った。
気を抜いたら、滑って転びそうだ。
モンペリエは、”365日のうち300日は晴れ”と謳われているほど、気候に恵まれた街。
そんな場所で、こんな大雪に見舞われるなんて思ってもみなかったけれど、これはこれである意味貴重な体験だったのかもしれない。
やっと2月が終了。
次回は、1ヵ月間お世話になったホームステイ先にさよならする話。
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