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あいうえおミステリー(を・ん抜かし)『愛を詰め込むあなたに愛を』
こちらは昨年他のところで掲載していたものです。
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「2020年はあいうえお作文でミステリーを書く」という目標を立てていました。
なのでそれに挑戦しました。
「を」と「ん」を使うと永遠に書き上げられないので、そこは許してください。
そして初ミステリーなので、どうか温かい目でお読みいただけたら幸いです。
『愛を詰め込むあなたに愛を』
朝七時。
いつもこの時間から始まる。
唸りながら私の元へゆっくりと近づいてくる。
偉く沈んだ表情を浮かべるママは、確かに私を愛してくれている。
大きな溜息を一つ二つ吐き。
体を時折ふらつかせながら、いつものように探し物をしている。
気づかない振りをしたって意味がないことを知っている。
鎖を引きちぎり、逃げたいと思ったことさえある。
けれど私には、ただ待つことしか出来ないのだ。
声を上げれば近所迷惑になると、そう何度も聞かされていた。
「最悪だ…」と呟くママは、どうやら探し物を見つけたようで。
しっかりと握りしめているその手には、強い嫌悪感が表れていた。
捨てたら良いのに。
正解は一つじゃないんだよ。
そう思うけど、それが出来ないのだから、私に全てぶつけてくるんだ。
大丈夫、私はもう慣れたよ。
ちょっと辛いけど、ママの為に耐えるから。
強く私の頬を引っ張り、無理やり口をこじ開けさせられる。
手も出せず、私はされるがままだ。
とにかく力任せに、ママは探し物を私の口にねじ込む。
なんとかいつもギリギリ吐かないでいられている。
苦い液体も無理やり飲まされるが、不思議とまだ生きている。
ヌルッとした粘り気には、まだ慣れそうにはないけれど。
願いが叶うのならば、この粘り気を無くしてほしい。
喉にこびりつくのが不快なのだ。
吐き出さず、何とか全て飲み干す。
一つでもこぼしてしまえば、またママは無理やりねじこんでくるから。
普通なんだよね、これがきっと。
屁理屈も時には現実逃避に役に立つ。
本当はこれからが一番苦しいんだけどね。
「ママだってもう嫌なのよ、こんなの…」
水が穴という穴から体内に流れ込んでくる。
無理と言える訳もなく、どうにか僅かでも酸素を吸えるようにもがく。
目からも水が溢れそうだけど、そんなのお構いなしなんだよね。
もしここで意識を失うことが出来たのならば、どんなに救われるだろうか。
やっぱり私はいつものように意識を保ったまま、水を全て飲み込んだ。
ゆっくり動き出す私を見て、安堵の表情を見せてくれたママ。
良かった、少し気が晴れたんだね。
楽な日なんてないけれど、苦しい日ばかりだけど。
立派に私は生きていけてるのかな。
留守番ばかりで、一人で寂しいなって思う時もあるよ。
冷蔵庫を開けることも許されてないから、ご飯も食べられなくて。
ろくに栄養を摂れないからか、それとも苦い液体や大量の水を飲みすぎたせいか。
私の頭が朦朧としてきて、体も動かせなくなってきている。
あぁ、これが死ぬってことなんだね。
嫌だなって思ったけど、何が嫌なのかも分からなくなってしまったな。
うん、私はずっとこの時を待っていたんだ。
永遠に覚えていてくれたらいいな。
大人だから大変なことがいっぱいあるんだろうけど、私はママの味方だからね。
ガタンと音を立てて、私は意識を手放した。
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きっといつか、こんな日が来ることは分かっていた。
結構な長い時間いたぶってきたのだもの。
こうなるのは必然なのだ。
「最悪だ…」
しんどい。
すごくしんどい。
洗濯機が壊れた。
「そんなぁ、パパの洗濯物溜まってるのにぃ」
大体さ、パパがいつもあちこち脱ぎ散らかして、私の目の手の届かないところにパンツとか放置するからいけないのよ!
ちょっとはカゴに入れなさいよ!
ついついそんな小言が出てくる。
でも洗濯機が全部綺麗に洗ってくれるから、私の荒んだ心まで洗ってくれてたようで。
どんな洗濯機を買おうか悩んでいた時に、家電量販店の店員さんがお勧めしてくれたもの。
中々いいお値段であったが、この洗濯機じゃなきゃダメなんだって思ったのよね。
人間、フィーリングというものがある。
ぬいぐるみなんかも「この子は私の友達!」と、フィーリングで感じとって買ってもらうものなのだ。
値段はまぁ、洗濯機とぬいぐるみでは比べ物にならないんだけど。
脳みそが「この洗濯機にしなさい」って訴えてきたのだから仕方がないじゃない。
「はー…」
一人分の洗濯物なら、多分まだ壊れなかったよね。
二人暮らしのはずなのに、パパのせいで二人分以上の量を洗ってくれてたんだもんな。
変な話かもしれないけれど、頑張ってくれていたこの洗濯機を手放したくないと強く思った。
後書き
叙述トリックに逃げました。
その叙述トリックすらもちゃんと出来ていたのか、自信はありません。
ミステリーを書くのが初めてなくせに、何故か「あいうえお作文で書いてみよう!」と己の首を絞める縛りをつけてしまいました。
あれこれ考え、普通に書くだけでも難しいのにミステリーなんて無理じゃね?って思ったんですけども。
でも叙述トリックを使えば案外いけるかも?
叙述トリックを使えば、それもうミステリーじゃね?
こんな屁理屈の上、『愛を詰め込むあなたに愛を』を書き上げました。
読んでくださった方、ちゃんと騙されていただけたでしょうか?
そしてちゃんとミステリーになっていたでしょうか?
あいうえお作文に関してはね、「を」と「ん」を使わなかったので何とか形になったかなと。
結果はどうあれ、無事に「2020年はあいうえお作文でミステリーを書く」という目標を達成しました。
かなり楽しかったです。今後も挑戦したいなと思っています。
次はどうしようかなー。
そして冒頭の米に気づいたあなた。
特に何もないです。
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