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海賊体験記。❴ラム酒と葉巻❵

  私は幼稚園の時代、密かに海賊に憧れた。
家にあった宝島や海底2万マイルの影響が大きかったように思う。
近くの公園の池で棒切れを持つことで海賊になれたのだ。

     

  時は経ち、大学生2〜3年頃。
ふと海賊になりたかったことを思い出した。
あの頃は池で棒切れを持つことで終わっていたが、もう成人している。
海賊と言えばラム酒。
海賊と言えば葉巻。
オウムを肩に乗せるのは家で飼ってたインコで満足することにした。一つ達成だ。



  目についたドンキーホーテに入り、ポップな踊る骸骨のパッケージのラム酒を手に入れた。
安売りのポップが浮いていた。
友達の家で宅飲みする予定だったので缶のラム酒を片手に友達の家に歩いて行く。

余談だが、私はアルコールが得意ではない。
体調によっては5〜6杯飲める時もあるが、ハイネケンの缶半分でトイレの前に横たわる事が出来る時もある。

友達の家につき海賊になりたかった思い出話を話しながらラム酒を開けた。
友達は興味津々でこちらを見ている。
動画も撮っている。
私はパッケージの骸骨と同じ踊る気分で口に含んだ。

思いの外の味が襲ってきた。
ゲホゲホと咽る。
友達は大笑い。動画はインスタグラムに上がり、程なくして私はトイレの前に横たわった。
ラム酒味のチョコレートは問題なかったのに何故……。 と思いながら。
缶のラム酒で海賊になることは出来なかったようだ。



  ラム酒がダメでも次は葉巻だ。
しかし、喫煙者ですらない私は何一つわからない。インターネットで学ぶことにした。
どうやらチェーン店の葉巻バーで最低2-3千円ほどするようだ。
また紙巻きと違って燃焼剤が入っていないので吸わないで置いておくと火が消えてしまうらしい。

  チェーンの葉巻バーに行ってみることにした。
銀座の葉巻バー。チェーン店と言えども入りずらい空気を醸し出していた。
入り口少し前まで友達についてきてもらい、1人で入店する。(友達はそのあと予定があったのだ)
入店するだけだが、なかなか踏ん切りがつかない。

今日のために革ジャンを新調したのだ。
革ジャンのためにも行くしかない。

革ジャンに義理立てて、南無三と入店した。
開かない電車での腹痛と同じ。知っている限りの神様に祈りながら入った。

「いらっしゃいませ」
バーテンダーのような出立ちの男性に迎えられて流れるように席に案内。
置かれるメニュー。写真はなかった。
ネットで見た初心者おすすめの葉巻は……。
2千円くらいの葉巻を頼んでみた。
葉巻の名前はロミオYジュリエッタ NO.2。
あとコーヒーも追加。かっこいい気がしたから。

落ち着かず周りをキョロキョロソワソワ。
銀座のママらしき人と恰幅の良い男性が葉巻を嗜んでいる。吸い慣れている感じがして格好が良い。しかし落ち着かない。
  モゾモゾしている間に注文の品が届いた。
バーテンダーが葉巻をカットし、火をつける。 
「火が消えてしまったらオイルランプの火から直接ではなくこちらに一度火を移してからつけてください。呼んでいただければこちらでもお着けします。」
薄っぺらいペラペラの木の板みたいなものを沢山机に残して去っていった。

初心者おすすめのマイルドで甘味のあるペティコロナ。キューバ産。

吸ってみる。

腐葉土。腐葉土を焼いてる。カブトムシの幼虫。
マイルドな甘味?? もう少ししたら感じられるだろうか?
葉巻は1本を30分から2時間程度かけて吸うらしい。味を感じられる可能性はあるはずだ。

吸ってみる。

う〜ん。熟考。 もう一度トライだ。
うわ、火が消えているぞ。
炙るように火をつけるはずだったな。こうかな?
おっと片側だけ燃えてしまった……。もう片方も同じだけ焼いてみよう。
お、今度は大丈夫だ!

などとワタワタしている合間に燃え尽きた。
腐葉土以外を感じ取れなかった。

悔しい。もう一つ頼もう。
次の葉巻はモンテクリスト NO.5。3千円くらいだ。あとチョコレートとナッツの盛り合わせ。
事前に調べた情報によると合うとの事。

デイタイム向けシガーのベストセラー。心地よいカカオやウッディーな香りの変化が愉しめます。味わいはミディアムボディーで、スパイシーなミディアムローストのナッツと、柑橘類の皮の風味です。

盛り合わせはとても上品な量であったのでチョイチョイとつまむことにした。

吸ってみる。

腐葉土。さっきのより少し香ばしい秋の腐葉土。

やはり美味しさはわからないなあ。
盛り合わせのチョコとナッツをたまに放り込む。先ほどの練習の甲斐あってか少しスムーズに火をつけられるようになった。
良かった。

中盤に差し掛かる。
香ばしさがより強く変わった。香ばしいからチョコとナッツに合うのかなぁなどと考えながら吸っては食べる。繰り返し。

すると雷に打たれた。衝撃波。
急にチョコと葉巻の香ばしさが絶妙にマッチして脳髄に浸透した。

……。めちゃくちゃ美味しい!合うとはこのこと!
初めて葉巻が美味しいと思えた瞬間だった。

吸い終わり、席を立ち、諭吉と英世が飛んだ。
店の外に香る煙草の匂いが好きになっていた。
また吸いたいなぁ。

しかし葉巻は高い。お金を燃やしている嗜好品。
おいそれとは買えなかった。
紙巻きタバコを吸ってみたがモンテクリストで刷り込まれた私の脳には全くの別物で美味しく思えなかった。

              

  現在、私は大きな仕事が終わり等の自分を祝い労うときのみ葉巻を嗜む。
モンテクリスト NO.5しか吸わないだけの部分的喫煙者。年1〜2回程度。
海賊にはまだ慣れない。
しかし、生活に少しだけ豊かな香りを添えることができている……かもしれない。



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