伯父のはなし
母の長兄である伯父は、田舎の造り酒屋の長男だったが、若い時サウジアラビアに渡ってビジネスを起こし、ギリシャ人の女性と結婚、随分羽振りの良い生活を送っていたらしい。
その後、仕事も結婚もうまくいかなくなって日本に戻ってきた伯父が熱中したのは、「姪の教育」である。
小学生だった私と姉を「名門中学に合格させる」という目標を勝手に掲げ、毎週水曜日ウチに来るようになった。
私たちが学校から帰ってくる時間に合わせて3時ごろにうちにくる。お茶を飲みながら勉強を見てもらったりして、晩御飯を食べて帰る。私の友達が遊びにくると「女のヒトは胸とお尻が大きくなくてはイカンのだ」などと手振り身振りでアラビアの常識をベラベラと喋るので、穴があったら伯父を埋めてしまいたいと思ったが、1年もすると飽きてしまったのかあまり顔を見せなくなった。
『シンドバッド』に出てくる太った王様そっくりで、派手で見栄坊で、自分のことを上げる棚は広く取ってあって、他人はみんな嘘つきか泥棒で、指先の怪我でも「救急車を呼べ!」と大騒ぎするわりに自分でその電話をかけることができない人であった。と、シミジミ感傷的な心持で記憶をなぞるのだが、伯父は80半ばの今もバリバリ元気なので、私のシミジミなどドカンドカンぶっとばしてしまう。