2の町-星降る夜の魔法-《連作掌編》
砂漠をぬけ、汗だくになりながら少女は進む。こんなに暑くて、疲れて、しんどくて、身体中痛かったら歌える歌もありゃしない・・。そう心の中で悪態をつきながら久しぶりに見た道を進んでいくと、町が見えてきた。
「やった!やっと休める」
緑のコートを着た吟遊詩人の少女は、喜びのあまり心から飛び出すほど大きな独り言を放ってしまう。
「ふふ、お疲れのようですね、旅のお方」
町の入口で何かの準備をしている女の人が、少女の心から盛大に漏れた独り言に返事をする。
「うっ、あ・・あの」
別に人見知りでも所謂コミュ障というわけでもない少女だが、恥ずかしさのあまりどもってしまう。
「お見苦しい所を・・そうなんです、ちょっと砂漠から来まして、疲れてしまって」
「そうだったのですね、それならどうぞこの町の宿に泊まっていってくださいな。ちょうど今夜、町のお祭りがあるんですよ」
「お祭り・・」
疲れていて、お腹も空いた、しかも今日はお祭りらしい。こんな時に泊まらないわけにはいかない、と、少女はすぐに宿を取り、この町に留まることにした。夜までまだ時間はある、シャワーを浴びて、腹ごしらえをしたら少し仮眠を取っておこう。いきなりの楽しみに少女は心を踊らせた。
-夜-
「よしバッチリ」
しっかりと仮眠を取り、万全な状態で宿を出た。
町の中心は、昼間に来た時には想像のつかないぐらいに人々で賑わっていた。
焚き火の周りで踊る踊り子、出店では美味しそうな料理が売られている。ギターを持っていたからか、踊り子たちに手招きされ、少女も一緒に歌って、在りし日の歌を歌う。焚き火がゆらりゆらりと揺れ、幻想的な雰囲気を醸し出す。満月が、とても綺麗だ。そこで少女はふと気がつく。
「あれ、ところでこれって一体なんの祭り・・」
周りにいた人に質問しようとしたその時、あたりがふっと暗くなり、静かになる。
「え?何だ?何がおこった・・」
「やぁみなさん、ご機嫌はいかがかな?」
暗闇から声がする。これはまずいのでは・・とコートの下から護身用の短剣を取り出そうとする、と。いきなり暗闇の一部が光り、その光の中心には1人の魔法使いと、猫がいた。周りの人々は、恐れることなくその魔法使いを見つめていた。
「さあ見るがいい!僕のこの魔法を!」
満月に重なるように、魔法使いが大きな魔法の塊を空に放つ。それからは一瞬の出来事だった。パチンと魔法使いの指がなるとその魔法の塊が弾け、無数の流れ星となって広がっていく。それは、この世の終わりのような、世界の美しいものを全て集めてきたかのような、なんとも言えない景色だった。
「これが、この町のお祭り、《星降祭》。年に1度の楽しみです」
昼間会った女性が、涙を浮かべながらにっこりと笑う。
「本当に、綺麗だ」
この町に、この日に偶然来れて良かったと少女は歓喜した。
「やぁ、旅人さん」
祭りも終わり、路地を歩いていると低い声の持ち主に声を掛けられた。
「・・さっきの」
そこには、先程メインイベントである大魔法を放った魔法使いがいた。青いローブ、銀色の髪、整った顔。足元には首に鈴を付けた黒猫。
「なにか、用ですか。」
訝しげに魔法使いを見ると、彼は楽しそうに笑った。
「いやいや、珍しいものを見たなって。君、僕と同じ匂いがする」
「・・私はただのしがない旅人ですけど」
「そっか・・それは失礼したね。でも、またいつか、どこかで会うかもしれない。僕の名前はレノ。覚えておいて」
言いたいだけ言って、魔法使いは消えた。
「いったいなんなんだ?」
少女は首を傾げながら宿に戻る。楽しかった思い出は、同じ主のせいで心に影が残る思い出に変わっていた。