3の街-眠らない街- (1/2)
眠らない街、未来都市リズヴェルタ。ここでは、昼も夜も関係なく、人々が絶え間なく活動している。高層ビルが空に向かってそびえ立ち、ネオンの光が街を鮮やかに彩っている。交通は空中の高速道路をロボットタクシーが走り、地上では自動運転車が行き交う。
そんなキラキラと眩しい世界に足を踏み入れた途端、緑のコートの少女は少し躊躇う。
「うわぁ・・こんな所はじめて来た」
来た道を引き返そうかと思った。それぐらいここの景色は見慣れない物が多く、少女の知っている世界とはかけ離れていた。
「でも、行かなきゃ」
覚悟を決め、更に足を進めていく。案外入ってしまえばなんてことは無く、進んでいくと、噴水広場や色とりどりの花壇も見られた。最先端テクノロジーのお店があるかと思いきや、小さな手作りの雑貨屋さんもあったりと、どこを見ても不調和で、可笑しく、興味を惹かれた。
キョロキョロ辺りを見回していると、ドンッと通行人にぶつかってしまった。小柄な身なりをしている少女は、ぶつかった衝撃で倒れてしまった。
「あいたっ」
「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」
「あ、いやこちらこそ、よそ見してしまって。けがはないです・・か?」
見ると、そこに立って少女に手を差し伸べているのは、ぱっとみただけでは人間と間違えてしまうほど艶やかな髪と、柔らかそうな肌を持った美しい女型のロボットだった。
「いえ、私は大丈夫なのでお気になさらず。中身は繊細ですが、体は丈夫に作られていますので」
にっこりと笑ったロボットはそのまま少女を起こし、それでは、と立ち去って行った。
「うわぁ・・これが最先端の力。人間にしか見えない」
しばらく、去っていくロボットや道行くロボットに見とれていると、どこからか叫び声が聞こえた。
「助けてください!!誰か、あの人を捕まえて!!」
声の方を見ると、少女と同じぐらいの年齢だろう男の子が、倒れているロボットを起こしながら周りの人に助けを求めていた。
指さす方向には走り去る男性。ふぅ、と気合いをいれた少女は靴紐をきゅっと強く縛り直すと、
「持ってて!」
と、男の子にギターと荷物を託し、勢いよくスピードを上げて男性を追いかけた。男性は最先端テクノロジーである浮遊するボードに乗り、何かを手に握りしめながら超スピードで逃げていく。その差は中々縮まらない。
「最近体使ってないからなぁ・・ちょっとなまってるな」
そう言い放ち、足元にぐんと力をいれると、少女は思い切り宙へジャンプした。男が走っている道から逸れ、建物から建物へ跳びうつりながら男を見失わないように追いかける。
上から見ると、ここから先の道は一本道らしい。少女が後ろから追いかけて来ないのを確認し、男は路地裏に入っていく。
にやっと少女は笑みを浮かべる。狭い路地に入ってしまえばこっちのもんだ。この中に男の住処があるのか、狭くてうまく操縦できないからか、男は浮遊するボードから降り自分の足で走る。曲がり角に差し掛かり、そこを曲がろうとする。
と、曲がった先に少女が待ち構えていた。
「お兄さん、油断したんじゃない?もううちょっとだったのに」
「な、なんなんだお前はっ」
「ただの旅人ですけど?何を盗んだか知らないけど、返してもらうよ」
少女は緑色のコートを脱ぎ捨て、戦闘態勢に入った。