見出し画像

「勝手にスポーツ大臣」14 小林信也 「25歳までの競技環境」を誰が整備する

小林信也スポーツライター塾、開講! 詳しくはHPをご覧ください。
https://nobuya2.wixsite.com/mysite/blank
 
高校野球が終わると大半の球児が硬式野球から離れる、それを放置してきた
野球はいちばん顕著だが、小学生から徐々に競技人口が減り、高校野球を終えた時点で激減する。あれほど野球に没頭していた高校球児の中で、高校卒業後も硬式野球を続ける割合は1割前後ではないだろうか。10人がひとりに減っても平気な顔で、なんら対処して来なかった野球界はいかに驕っていたというか、危機感もやさしさもなかったと今更ながら言えるだろう。
日本では小学校、中学校、高校と、まるでサバイバルゲームのように、その時点で活躍できている選手だけが残り、あまり活躍できていない選手は次の世代のチャンスを与えられないし、自分も諦める例が多い。でも、野球という競技はなかなか複雑で、小中学生のころ周りより成長が早く背が高い子がその年代で活躍する例がしばしば見られる。「天才」とか「怪童」と呼ばれた彼らが、高校生になって友だちが成長し身長で追い越されると「普通の選手」になってしまう例は珍しくない。
それは高校、大学、プロでも同様だ。硬式野球はある程度身体ができてからが勝負だ。プロ野球で活躍する選手を見ても、早熟な一部選手を除いて25歳くらいで活躍する選手が多い。
 
25歳くらいまでは野球を楽しみながら競技できる環境を準備する
だから、なんとか25歳まで野球を続ける環境を作り、25歳までは技量を断定せず、あきらめさせず、とにかく楽しんで野球を続ける環境を用意することが大事だと僕は思っている。
ところが、日本にはそのような仕組みが乏しい。大学で野球部に入れる選手も限られている。リーグ戦の上位校は、野球推薦で入った選手でなければ入部もできない大学も多い。入部しても選手としての扱いは受けない伝統がある。大学を卒業した年代はさらにプレーする場所が限られる。最近はクラブチームも独立リーグもあるが、僕がイメージするような、伸び伸びと野球を楽しめる、それでいて真剣に上を目指せるといったチームはどれほどあるだろう。
それは本来、プロ野球の務めではないか、と考える。
プロ野球チームが、現在の育成組織よりもっと門戸を開いた形で、プロを目指して野球を続けたい選手を基本的に受け入れ、プレーできる環境を整えたらどうだろう。最近はジュニアチームの運営は各チームが始めているが、18歳から25歳くらいの選手こそ、そのような受け皿を切実に求めていると僕は自分自身の指導経験もふまえ痛感している。

遅咲きの才能を無きものと断定し、「未来」を摘むのは損失だ
野球以外の競技も同様ではないだろうか。競技によっては、30歳を過ぎてから活躍するスポーツもある。20代、30代で競技に出会い、遊びの延長上で取り組める環境があれば、そこから国際舞台で活躍する選手が生まれる可能性も十分にある。
多くの実業団選手やプロ選手は、契約前にそれなりの実績があるから企業に入社できるし、プロとしての支援を受けられる。そうではなく、実績がない選手が、わずかでもいいから支援を受け、競技する環境を得られることが大事だ。その受け皿が日本のスポーツ界にあるとは言い難い。それは、日本のスポーツ界をリードしている人の大半が「勝ち組だから」かもしれない。多くのリーダーたちが、元王者、元メダリスト、勝負の世界を勝者として生き残ってきた人だから、敗者や、勝負もできないまま消えて行った未完の大器への思いはそれほど持っていない。彼らのことは負け組と上から目線で見ている可能性もある。
僕はどうしても、若いころには伸びきれなかった遅咲きの才能や、ケガや挫折を経験し遠回りした才能の持ち主に復活戦の機会を与えたいと思うから、そういう選手に気持ちが向かう。
「いま、この時点」の結果ばかり評価の基準にして、開花していない才能を無視する愚かさは繰り返してほしくない。才能は、大切に育ててあげなければならない。その環境を国が支援するのは大切な取り組みだと思う。
 
新刊《武術に学ぶスポーツ進化論》~宇城憲治師直伝「調和」の身体論~
発売中です。ぜひご購読ください!
https://www.dou-shuppan.com/newbookdvd/


いいなと思ったら応援しよう!