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「勝手にスポーツ大臣」6 小林信也 プロスポーツの『年金制度』を作ろう
プロスポーツ選手の年金制度を立ち上げる
この連載では、各論と総論を順不同に発信します。理路整然と、論文みたいに書いたら退屈だから。脈絡がないところは許してください。
で、今回は「プロスポーツの年金を作ろう」という話。「日米のプロスポーツの差は何より年金だ」とよく言われる。MLBに十年間所属すれば、「62歳から生涯、年額約2200万円が支給される」。5年以上の登録があれば、年数に応じて満額ではないが給付を受けられる。日本選手で満額給付の権利を持つのは、野茂英雄、イチロー、松井秀喜、大家友和。松坂は在籍8年なので8割、上原浩治、田沢純一らは9年なので9割と推定される。たとえ8割でも、年間約1800万円だから、基本的な生活設計を立てることができるだろう。
お笑いタレントに媚を売り、受けを狙うスポーツ選手を見たくない
かつて日本のプロ野球界にも年金制度があった。MLBに比べると少ないが、年間120万円の支給。それが2012年、財源不足を理由に廃止された。
僕が年金制度を提言するのは、「ファンを楽しませてくれたプロ野球選手たちの老後を保障する」基本的な意義に加え、彼らが現役後も誇りを持って、野球の普及・振興に携わり、また彼ら自身がセカンドライフを、腰を据えて構築できるようにと願うからだ。別の側面から言うと、テレビ番組でお笑いタレントさんにバカにされ、こづかれても受けたらOKとばかりデレデレする元スター選手たちの姿を見たくないのだ。根っからお笑い好きで、セカンドライフをお笑いとかタレントに決めているなら止めないが、崇高な活躍でファンを魅了したスポーツ選手が、お笑いタレントにバカにされる姿は見るに堪えない。まるで、「スポーツはお笑いより下」と宣伝しているように感じる。いまはバラエティ番組でタレント性を発揮し、SNSでも話題になることが「五輪のメダル獲得の次にすべきこと」みたいな路線になっている。タレント的価値を高めることでCMが決まり、SNS収入の増加が見込めるなどの判断もあるだろう。でもそれは、本来望んだ生き方だったのか、スポーツの価値はそれで本当に上がるのか? 本来スポーツ選手が果たす役割はもっと他にあるんじゃないか。
でも「そんな誇りとかやせ我慢では暮らせない、将来の見通しが立たない」という現実がある。と反論されそうだ。だから、老後の生活を保障することで、スポーツを蔑む生き方を選ぶ必要がない状態を確保したいのだ。輝いた選手たちが、引退後も毅然とした姿勢で生き、子どもや中高年のスポーツ指導に積極的に参加する光景が増えたら、スポーツの社会的地位も評価も高まるのではないだろうか。
日本代表を率いたアマチュア指導者にも年金を
こうした年金制度は、できればアマチュア指導者にも適用したい。せめて、JOCからナショナルチームのコーチと認められ、4年間以上報酬を受けていた指導者は、毎月の補助金から一定額を積み立てる条件で、将来年金を受ける資格を得るとか、そういう制度があってもいいだろう。
ただし、こうした恩恵があると、不正にその地位にしがみつく者も出る可能性があるので、そこの監視は厳格に行う必要がある。僕が知るところでは、山根会長辞任後の日本ボクシング連盟で、実際にはコーチの職に就いていない連盟役員をコーチと偽り、受給させた実態があった。毎月の報酬に加え、年金までもらえるとなれば、こうした不正も起こり得るので、意識の啓発とチェックは必要だ。
多くのアマチュア指導者は、仕事や家庭を犠牲にし、指導に専心している。彼らに最大限の敬意と感謝を表すのは国として当然だと思う。
財源は、みんなで知恵を出せばいくらでもあるだろう
財源をどうするんだ? これだけ巨額のお金が動くスポーツ界だ。工夫すればいくらでも基金は集められる。要は志の問題。年金がいかに重要か、受給者の生活だけでなく、スポーツ全体の価値の確保に影響すると理解できれば賛同も得られると考えている。
年俸の一部を積み立ててもいい。毎試合の売上の一部を年金資金に納める制度にしてもいい。テレビ局や広告代理店がスポーツで収益を得る時は必ずパーセンテージで収める法律を作ってもいい。わずかなパーセンテージでも積み上げたら確実な財源になる。スポーツベッティングが導入されたら、その売上の一部を充ててもいい。
国が主宰するのか、競技団体や選手会が主体となるのか、それは今後の議論に任せたい。いずれにせよ、「勝手にスポーツ大臣」は年金制度の確立を提言し、必要な助成や支援を行う。
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