僕の夢物語3 名人の系譜2 ~第2話 アマチュア名人位獲得~
南海棋戦には県下全域から毎日一日中を将棋に過ごす猛者たち52人が参加していた。
私などとても勝てる相手はいないと委縮していると大山十五世名人の幻影の声
「恐れるに足らず」
第1局は、アマチュア4段の強豪。相手は自信に溢れ、余裕綽々に笑みを浮かべながら初手、76歩と大きな駒音を立て駒を盤に打ちつけた。ところが、指し手が進むうちに次第に笑みは消え、苦渋に満ちた表情になっていった。局面は段々に僕の優勢から勝勢になり、あえなく4段強豪の投了。
2回戦3回戦も県内強豪を危なげなく打ち破り、準々決勝は昨年まで南海王将として君臨してきた最大の難敵である。
相手居飛車に私の四間飛車の展開で、序盤から相手の攻めを巧みにかわし、終始優勢を保ち、随所に受けの妙手を繰り出しながら完勝した。
最大の難関を下した勢いのまま、準決勝・決勝戦とも圧倒的内容で勝ち切り、南海王将への挑戦権を勝ち取った。
いよいよ次は、現在の南海王将との3回戦である。
現在の南海王将は、昨年、長年南海王将として君臨していた強豪を倒し、10代の南海王将誕生と話題を振りまいた学生チャンピオンである。
私は、予選終了後も将棋ソフトやインターネットでAI将棋とも対戦を繰り返し、短期間の内にますますその力を向上させていた。
スポンジが水を吸うようにという表現があるが、まさに一局一局の対局が知識として蓄積されていくことを実感していた。
南海王将戦当日には、すでにプロ4段以上の棋力があるのではないかというレベルに達していた。
果たして、3番勝負、第一局は80手という短手順で勝利し、続く2局目も序盤からの優勢な局面を一度も崩さず、まさに完勝であった。
大山十五世の夢見から始まった将棋再開であったが、驚くことに、もはや地方のアマチュアレベルの棋力ではなくなっていた。
南海王将になったことで、その年の全日本アマチュア将棋名人戦参加資格を得た。
次なる目標のアマチュア名人を目指して、それからの2か月も将棋三昧の日々を送った。
退職により時間は有り余っている。興味のできた将棋にすべてを注ぎ込み、それこそ寝食を忘れて将棋に没頭した。
あっという間に全日本アマチュア将棋名人戦当日がやってきた。
全日本アマチュア将棋大会は、全国の予選を勝ち抜いた参加者64名で予選リーグを行い、各ブロック上位2名による決勝トーナメントで名人位を争うものである。
参加者の中には、奨励会経験者も多数おり、プロはだしの実力を持つ者も含まれている。
僕の予選は、東京、福岡、山口の代表との4名のブロックなった。初戦の東京代表との対局は一進一退の熱戦になったが、最後は、大山十五世張りの受けの妙手が出て、勝ち切ることができた。
この勝利の勢いに乗り、残り2局も勝利し、予選を全勝で勝ち抜け、決勝トーナメントに進出した。
決勝トーナメントも熱戦の繰り返しであったが、最後には受けの妙手が出て、全日本アマチュア将棋名人戦を制し、見事、アマチュア将棋名人位を獲得した。
アマチュア将棋名人戦で残した棋譜は、まさに大山十五世を彷彿させる受け将棋だった。