侠客鬼瓦興業 90話「桃さん登場!!」
「きっちり地獄へ送ってやるよ!」
イケメン三波はそう言うと、手にしていた角材を僕の脳天めがけて振り下ろした。
(うぁー、せっかく戻って来れたのにー!)
僕がこの世の最後を覚悟した、その時だった。
ピュ~ゥ~!ポンポンポンポン!ピュ~ゥ~~!ポンポンポンポンポンポン!
何処からか、美しい笛の音と太鼓の音が僕の耳に響き始めた。
(なっ?なんだ?・・・ん!?)
「あっ、あれー!?」
何と、奇妙な笛の音と同時に振り下ろされたはずの角材が、僕の頭の真上でピタッと止まっていたのだ。
おまけによく見ると、三波はまるで時間が止まったように鼻の穴を大きくおっぴげた状態で固まっていた。
(え?え?・・・どっ、どうして?えー!?)
ピュ~ゥ~~!ポンポンポンポン!ピュ~ゥ~~!ポンポンポンポンポンポン!
そんな中、笛と太鼓の音色はどんどん僕のほうに向かって近づいて来ていた。僕はあたりをキョロキョロと見渡し
「えっ!?」
思わず顔を引きつらせた。
なっ、何と僕の目に超ど派手な着物姿に鬼のお面をかぶったおじさんが、頭の上に薄い衣をまとい、クルクルと舞いながら近づいて来るではないか。
「なっ、何だ~!?」
ピュ~ゥ~~!ポンポンポンポン!
着物のおじさんは僕の驚きなど関係なしに、クルクル踊り続けたと思うと、ポン!!最後の太鼓とともにピタッと足を止めた。そして鬼のお面をさっとはずし、ギロッと大きな目玉で僕を見た。
「えっ?あっ!あれーっ!あっ、あなたは!?」
僕の脳裏に幼い日の記憶が蘇ってきた。
(ふっふふ、父上から頼まれて来たのだが、ほほうどうやら私のことを覚えていたようだね)
派手な着物のおじさんは、キリッと太い眉毛にキラキラ光る大きな目、すっと通った鼻筋にへの字に結んだ口、その超男前のソース顔を僕に近づけながらニンマリと微笑んだ。
「あっ、あの、貴方は・・・、貴方は?本物の貴方!?」
(その通り、私はあの貴方だ。・・・本物の貴方なのだよ)
着物のおじさんは二本の指を額に突き立てると、キリッと眉間にしわをよせた。そしてかっこいいポーズをさっと決めながら一言。
(桃から生まれた、桃太郎!)
大きな声で、そう名乗ったのだった。
「やっ、やっぱり、桃太郎侍!!」
僕は驚きのあまり大口を開けて叫んだ。
天国のお父ちゃんが最後に告げた桃さんの正体、それは僕が小さい頃から父とテレビで見ながら憧れていた伝説の剣士、桃太郎侍だったのだ。
「父ちゃん言った桃さんって・・・、それじゃ、あなたは桃太郎侍の霊!あれ?」
そう言いながらふっと大切な事に気が付いた。
「なっ、なんで?・・・どうして?だって桃太郎侍ってテレビのフィクションでしょ!?だったら霊の訳ないし、それに高橋秀樹さんだって現役でテレビで活躍してるのに!?なっ、なんで~?」
(これは夢か?・・・天国のお父ちゃんとの出会いといい、そうだ、これはきっと夢を見てるんだ)
桃さんはそんな僕にその超男前の顔をぬっと近づけると
(夢ではない息子殿よ・・・、貴殿の愛する女子を守りたいという、誠真実の愛がこのわしを現世に呼び寄せたのじゃ、これは愛の力による奇跡なのじゃ)
「愛の奇跡?僕の真実の愛が?フィクションのあなたを?」
(そうじゃ、真実の愛の力とはそれだけ凄いものなのじゃ)
桃さんはうれしそうに微笑むと、ささっと両手でかっこいいポーズをとった、そしてその男前の眉間にグッとしわを寄せると
(さあ、このような話をしておる場合では無い。さっそく貴殿の力にならねば)
「僕の力?」
(では参るぞ!)
「参るって、えっ?ちょっと・・・」
突如、僕をめがけて突進して来たと思うと、ドガッ!っという大きな衝撃と共に何と僕の体の中にニューっと入り込んで来たのだ。
「うぐあー、何だ~!」
その直後、僕に大きな異変が!
何と得たいの知れない底知れぬパワーが、体中にみなぎり始めたのだった。
「うおおおおおーーーーー!」
あふれるパワーを押さえきれず僕は雄たけびを上げた。
「あっ!、兄貴?・・・吉宗の兄貴?」
僕の大きな声に大口を開け倒れていた鉄が、ぷるぷると首を振りながら立ち上がった。そして僕の脳天をめがけて振り下ろされた三波の角材に気がつき思わず大声で叫んだ!
「兄貴、危ない!!」
鉄の叫びと同時に今まで僕の頭上で静止していた角材が再び音を立てて落下してきた。
「うわぁー!」
瞬間、僕の両腕が無意識にすさまじいスピードで反応した。
ガシッ!!
「なっ、何!?」
目の前の三波は鼻の穴をおっぴろげたまま僕を見ていた。
「えっ?」
完全に頭をかち割られた・・・、そう思ったにもかかわらず、まったく頭は痛くない。僕は三波を見た後ハッと驚きの顔を浮かべた。
なっ、なんと僕は、振り下ろされた角材を脳天の真上で、まさに真剣白刃取りのように、みごとに受け止めていたのだった。
(えっ?なんでー!?)
と驚くのはまだ早かった。
その直後、僕の口が勝手に動き出し
「許さん!」
そう言うと、すさまじい無意識パワーで角材もろともイケメン三波を吹き飛ばしてしまったのだ。
「うわあーーーー!」
三波は大またをおっぴろげたまま天高く舞い上がると、そのまま地面に打ちつけられ、まるでぺしゃんこになったカエルのようにその場で動かなくなってしまった。
「うわー、おい三波?三波ー!?」
(どっ、どうして?)
僕は驚きで自分の体ををキョロキョロ見回した。そこでハッとさっきの桃さんとの不思議な体験を思い出した。
(もしかしてこれって憑依?僕の体に桃さんが・・・、桃太郎侍が入っているのか?)
「す、すげえ兄貴、半端ねえ、すげえ~」
金髪の鉄が涙を流しプルプル振るえながらじっと僕を見つめていた。
「兄貴、やっぱすげえよ~!半端ねえすげえよ兄貴~」
「いやっ鉄、違うよ、これは僕じゃない、僕じゃなくて桃さんが・・・、あっ!?」
「そっ、そうだ、めぐみちゃん!!」
僕は彼女の危機を思いだしあわてて保育園バスを見て思わず青ざめた。
「うっ!」
なんと園バスの入り口に、うれしそうに笑いながら僕を見ている悪鬼西条の姿があったのだ。
「ほう、三波がさっき言うとったがほんまやのう、兄ちゃんなかなかやるやないけ」
西条は片手に木刀を握り締めゆっくりとバスから降りてきた。
「め、めぐみちゃんは、めぐみちゃんはどうした!」
「お前の女か?なかなかええ味やったで、あそこもええ具合やったし、あえぎ声も可愛くてのう・・・くっくくく」
「きっ、貴様めぐみちゃんを~」
「おう、たっぷり楽しませてもらったわ、あの姉ちゃんもワイの一物がそうとう良かったみたいや、中で満足顔でボーっとしとるわ、はははは」
「ぐおぉ!この野郎~!!」
僕のパンチパーマが再び逆立ち始めた。
「何やその目は、性懲りずにもっぺんワイにぶちのめされたいようやの。ただ今度はさっきの様に甘くはすまさんで」
西条は片手で木刀をぶんぶん振り回すと、その先端を僕に向け
「今度はきっちり、いわしたるからの」
恐ろしい悪鬼の目で睨みすえてきた。
「ひ~、もしかして、こ、これが・・・、銀二さんが言ってた西条!?」
後ろにいた鉄が思わず足をすくませた。
僕はそんな鉄を横目に、カエルのように倒れている三波の手から角材を拾い上げた。そしてその角材をさっと上段に構えると
「貴様は絶対に、絶対に許さん!!」
眉間にしわを寄せ、悪鬼西条を睨み据えたのだった。
つづく
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このお話はフィクションです。中に登場する人物、団体等はすべて架空のものです。
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