侠客鬼瓦興業69話「デンジャラス!堀之内ハメリカンナイト!」
お大師さんの境内からしばらく歩くと、昨夜僕がスケート場と間違えて入ろうとした競馬場があり、その先の大きなガードのある交差点で僕は緊張と恐怖につつまれながら、めぐみちゃんと信号待ちをしていた。僕たちの目的は、お慶さんの喫茶店に行くと言う事、ただそれだけなのに、なぜ恐怖を感じているか?
それは・・・
「兄貴ー、またお慶さんのうまい料理が食えると思うと、たまらねーっすね、ゲヘヘヘ~!」
「そ、そうだね・・・、て、鉄」
ひさびさに登場、この金髪の鉄がなぜか僕とめぐみちゃんに同行しているからだった。
(この信号を渡った先には堀之内ハメリカンナイト・・・、鉄のやつ余計なこと言わなければいいんだけど)
僕は緊張しながら鉄を見た、すると奴は得意の不気味フェイスで笑いながら
「なんか悪いっすね兄貴・・・、せっかく、めぐみさんと二人でラブラブなのに、俺が邪魔してるみたいで、ゲーヘヘヘヘ」
(悪いと思ったらついて来るなっていうの)
僕は恨めしい顔で鉄を見た。
「あっ、怒ってる?兄貴怒ってるんすか?」
「怒ってなんかないよ、仕方ないじゃないか銀二さんがまた女の人とでかけちゃったんだから」
そう、実は銀二さんは、お祭りの後突然あらわれた、お尻の軽そうなレディース風の女の子と、またしても消滅してしまったのだった。
「でもさあ吉宗君、銀二さんってもてるよね」
めぐみちゃんが少しあきれ顔で振り返った。
「うん」
「いいよなー銀二兄い、今頃あのヤンキーお姉さんとズッコンバッコン気持ちいいことしまくってんでしょうねー、ゲーヘヘヘヘ」
「ズッコンバッコン!?」
めぐみちゃんは真っ赤になって鉄を見た。
「バ、バカ!な、何言ってるんだよ鉄」
「え?何で?俺なんか変なこと言いました?」
(だめだ、この男と一緒にいると僕の寿命が縮まってしまう)
そんな思いも知らず、鉄は再び無神経にとんでもないことをしゃべり始めた。
「それにしても兄貴、銀二兄いってタフっすよねー」
「え?」
「だって昨日に続いて連チャンっすよー、連チャン、ゲヘヘヘー」
「お、おい!て、鉄」
「昨日に続いて?」
めぐみちゃんが再び鉄を見た。
(ぐおー、や、やばい!)
と、そのとき信号が赤から青に変わった。
「あー、ほら信号が変わった。急いで渡らないと、さあ、めぐみちゃん」
僕はそう言うと同時に、めぐみちゃんの手をぎゅっと握り、強引に彼女をひっぱった。
「あっ?吉宗くん・・・」
めぐみちゃんは突然の行動に、恥ずかしそうに僕を見て
「うん」
うなずくと、いっしょに走りはじめた。
「あー兄貴ー、めぐみさん待ってー!!」
(待ってって冗談じゃない、あんな男と一緒にいたんじゃ大変なことになってしまうよー!!)
僕はめぐみちゃんの手を引きながら夢中で交差点を渡った。同時に僕の目に見覚えのあるピンクの建物が飛び込んできた。それは昨夜僕が始めて入ってしまったソープランド、ハメリカンナイトの建物だった。
(ま、まずいよ・・・、こんなところでゆっくり歩いていたら、また鉄がどんな事を言い出すか知れたもんじゃない)
「さあ、急ごう、急ごう」
僕はがむしゃらにめぐみちゃんの手を引いて、そのピンクネオンのデンジャラスゾーンを通り過ぎようとしたその時だった。
「あっ!ちょっと吉宗君、待って」
「え!?」
「待って、待ってってば吉宗くん!」
「な、何?」
「ごめん、私の靴!」
めぐみちゃんは困った顔で、ピンクの建物の入り口を指差した。
そこには小さな女性ものの靴が一足、ぽつんと落ちていたのだった。
「ごめん、靴、脱げちゃった・・・」
「な、なんでー!?」
(どうしてー!よりによって、あんなとんでもない場所にー!!)
「だって、吉宗くんが急に引っ張るから」
「あ、ご、ごめん、待ってて」
僕は握っていためぐみちゃんの手を放すと同時に猛ダッシュでハメリカンナイトの入り口に向かって走った。そしてめぐみちゃんの脱げた靴を拾い上げたその時、ピンクの建物の中からひょっこり出て来た見覚えのあるオールバックの黒服男と遭遇してしまったのだった。
(ぐあーー!!)
僕は思わず、その場で顔をひきつらせて立ちすくんでしまった。
オールバックの黒服男は、片方の眉をぴくっとつりあげながら僕の事を見た。
と、そこへ・・・
「兄貴ー!なんすか急に走りだしたりして、ハア、ハア、置いて行かないで下さいよ、ハア、ハア」
息を切らせながら僕の前に鉄が・・・
オールバックの黒服男は、鉄を見た瞬間またしても片方の眉をピクピクッと釣り上げた。
そう、その黒服男こそ、他でもないこのハメリカンナイトのマネージャーだったのだった。
(お願い、何も言わないで・・・、僕たちのこと知らない振りをして・・・)
僕は心でそんな悲痛の叫びをあげながら、オールバックのマネージャーに必死に目配せをした。
マネージャーは僕の心の叫びを感じ取ったのか、ふっと通りの先で僕たちを見ているめぐみちゃんを横目で見ると、その薄い眉毛をピクピクピクっとすごい速さで動かした。
(あ、この人、僕の危機的状況を分かってくれたんだ。さすがだ・・・)
僕はその場から、さりげなーく、そろーりそろりと離れてめぐみちゃんの元へ近づいていった。
「めぐみちゃん、はい、靴」
「ごめんね吉宗くん」
めぐみちゃんは僕から靴を受け取ると、照れくさそうにしゃがんだ。
「僕のほうこそ、あわてて引っ張ったしちゃったから、ははははは」
僕はこわばった笑顔でこっそり、後ろのハメリカンナイトの入り口を振り返った。そこには黒服マネージャーの姿はなくなっていた。
(さすがは高級店のマネージャーだ)
感心しながらそこから目線をうごかした。
が!一難さってまた一難、僕の目にとんでもない光景が・・・
(ぐあー!?)
なんと金髪の鉄が頬をピンクに染めハメリカンナイトの入り口をじーっと見つめてたたずんでいる姿があったのだった。
(バカ、鉄ー!何やってんだよー、ここにめぐみちゃんが居るんだぞー!!)
僕は必死になって鉄に悲痛のテレパシーを送った。
しかしやつには、それを察知する脳みそは無かった・・・
鉄は明らかに昨日の快楽を思い出しているだらしなーい顔で、ちらちら光るハメリカンナイトのネオン看板を見つめていたのだった。
(鉄やめろ、やめてくれー!)
僕は必死に心で叫んだ、しかし危機察知脳みそゼロの鉄は、よだれまみれの口でもごもごと語り始めた。
「よかったな~、ここ・・・」
(うわー、ばかーー!)
僕は額に青筋をたらしながら、しゃがんで靴を履いているめぐみちゃんを見ると、彼女も不思議そうに鉄の様子を見ながら
「よかったなーって、鉄君の知ってるところなのかな?」
ボソッとそうつぶやいた。
「さ、さあ?」
「でもよく見るとすごい色の建物だね、いったい何屋さんだろう?」
「そ、そうだね・・・、何屋さんだろうね、ハハハ、そ、そんなことよりお慶さんのお店に急がないと」
僕はしゃがんでいるめぐみちゃんにそっと手を差し出した。
「うん」
めぐみちゃんは小さくうなずくと、恥ずかしそうにう僕の手をつかんで立ち上がった。
「あれ?」
「え?どうしたの、めぐみちゃん」
「吉宗君の手、汗でびっしょりになってる」
「え!?あ、ごめん」
僕はあわててめぐみちゃんの手を離すと、シャツでごしごし拭いた。
「べつに私はかまわないのに、大好きな吉宗くんの汗なんだから」
「め、めぐみちゃん!」
僕は彼女の言葉に、感激で目をうるうるさせた。
「でも以外、今日の吉宗くん」
「え?」
「だって、さっきも私の手を強引に握ったりして、なんていうか男らしいっていうか、えへへへ」
「あっ、それは・・・」
「それは?」
めぐみちゃんはきょとんとした顔で僕を見つめた。
「いや、なんでもない」
「変な吉宗くん、でも、はじめて手を握って歩いたんだね私たち」
「あ、そう言えばそうだね」
「はい、続き」
めぐみちゃんはそう言いながら、恥ずかしそうに僕の前に手を差し出した。
「せっかく吉宗君と手をつないで歩いてたのに、靴が脱げたせいで途中になったじゃない、だから続き」
「あ、うん」
僕は感激で目頭をうるうるさせながら、めぐみちゃんの手を握りなおした。
「吉宗くんったら、どうしたのそんな顔して」
「めぐみちゃん、だ、だって、うれしくて」
僕は肝心なことをすっかり忘れた状態で、めぐみちゃんを見つめていた。
そんな僕の耳に、その肝心なこと、そう今置かれている危機的状況を思い出させるとんでもない言葉が聞こえてきた。
「ほんっとに良かったな~、夕べのキャサリンさん・・・」
「ぐぇ!?」
それは鉄がハメリカンナイトを眺めながらつぶやいたひと声だった。
(今の言葉、めぐみちゃんの耳には・・・?)
僕は恐る恐る目の前のめぐみちゃんの様子を伺った。
「夕べ?」
めぐみちゃんは僕を見ながらそうつぶやくと、ハメリカンナイトのピンクの建物の前で幸せそうにたたずんでいる鉄を見た。
(どわー!、やっぱり聞こえてしまっていたー!!)
「ねえ吉宗くん、今鉄君が言った夕べって?」
「え?なになに?鉄がなんか言ったかな?はははは」
「たしか、今」
「僕には何も、き、聞こえなかったけど」
「おーい鉄ー!急がないと置いて行くぞー!」
僕はあわてて鉄に叫んだ。
同時に僕はめぐみちゃんの手を握りなおして、あわててその場から立ち去ろうとした、その時だった
「あらー!あなたたち?」
ハメリカンナイトのピンクの建物から、僕たちに向けて大きな声が・・・
「ぐおあ!?」
僕は突然の出来事に声の主を見ることも出来ず、めぐみちゃんの手を握ったままその場で金縛りにあっていたのだった。
つづく
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^
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