侠客鬼瓦興業 88話「鬼神対悪鬼!彼女は僕が守る!!」
「ぐっ、ぐぉー!だっ、騙したのか!」
「俺の大切な顔にこんな事しておいて、黙って返すわけねえだろ・・・くっくく」
イケメン三波はボロボロの顔に不敵な笑みを浮かべると、僕の首へ回した腕にさらに力をこめてきた。
「く、苦しい…は…な…せ…」
「クックック、だんだん虫の息になって来てるぞ、おい、さっきの威勢はどうしたんんだ」
「…あぐ、あぐぁ…」
そんな僕の危機に気付かず、めぐみちゃんは少し離れた場所で、あたりをきょろきょろ見渡していた。
「吉宗くん大丈夫よ、あの人いないみたいだから急いで・・・?」
小声でささやきながら振り返り、ハッと驚きの顔を浮かべた。
「ど、どうしたの!?」
「はぐあ…はが…」
「あーっ!?ちょっと何してるんですか三波先生!?」
「何って見りゃわかるだろ、お前の大事な吉宗君を絞め殺そうとしてるんだよ」
「ど、どうしてそんな」
「どうして?さっき言っただろ、お前に逃げられたんじゃ困るってよ、それにこのまま逃がしたんじゃ、おいしくいただくこともできねーしな、お前をよ」
三波は不適な笑みでつぶやくと、突然夜空に向かって大声で叫び声をあげた。
「西条さーん、やべえっすよー、女が逃げますよー!」
「ひっ、ひどい、また騙したのね!?」
「今頃わかったのか、まったくとろい女だ」
「西条さーん!西条さーん!」
三波は何度も叫びながら、僕の首に回した腕をさらに締め上げてきた。
「ぐえっ!」
「よっ、吉宗君!」
めぐみちゃんはあわてて駆け寄ろうとした。僕はそんな彼女に
「来るなー、にっ、逃げろ、逃げろ!」
「何言ってるの!?」
「逃げろー、ぼく…はいいから、早く逃げろー!」
かすれた声で必死に訴え続けた。
「吉宗君を置いて逃げれるわけないじゃない!」
めぐみちゃんは大粒の涙を流すと
「放しなさい、三波先生、その手を放しなさい!」
必死に叫びながら僕の元へ近づこうとした。
「だめだー、来ちゃ駄目だ、ぼっ、僕は…いい…から、君は…逃げ…ろ…」
その時だった。
めぐみちゃんの背後に一人の大きな男の影が・・・、男はニヤニヤ笑いながら僕を見ると
「ほう、こらぁ美しい愛の姿やな、真実の愛ちゅうやつかのう、ふふふ」
「あっ!!」
めぐみちゃんは振り返ると青ざめた顔で振るえはじめた。それは西条竜一だった。西条は不気味な笑みを浮かべながら、その大きな腕でめぐみちゃんの肩に手を回し、ぐっと力任せに引き寄せると、恐ろしい目で僕を見た。
「ほう、これがお前の男のようやの、なかなか男前やないか」
「・・・・・・」
「さっきまで、お前に手出すのはよそう思うとったが、何やこの小僧見て気が変わったわ」
血走った目で舌なめずりをすると、めぐみちゃんの肩を押さえた反対の手で彼女のあごをぐっと鷲づかみにした。そして大きな顔を近づけると、まるで爬虫類のようにべろっと彼女を頬をひと舐めした。
「やっ、止めて、止めてください!」
めぐみちゃんは青ざめた顔で脅えていた。
そんな光景に僕の怒りは再び頂点に達しようとしていた。
「むおー!貴様ー、何て事をー!」
僕は三波に締め上げられたまま必死に西条を睨むと
「放せ!めぐみちゃんを放せ!この悪党!」
かすれた声で訴えた。
西条はムッとした顔を僕に向けると
「あー?なんや兄ちゃん、放せこの悪党やて、誰に言うとるんや、こら」
すさまじい形相で睨みすえてきた。
「うぐ!」
僕は一瞬ひるんだ。しかしその直後
「うおあああぁー!!」
気がつくと、鬼のような西条に対して大声を発しながら、必死に睨み返したのだった。
過去の僕だったら、恐怖に脅え言葉も出せずおしっこをチビってしまっていたはず。ところが今の僕は違っていた。
愛するめぐみちゃんを救いたい、その愛の力に加え鬼瓦興業に入社してからの数日、この間に起こった数々の事件が、何時しか僕を逞しく変えていたのだった。
僕は締めつけてくる三波の腕をぐっと握りながら
「めぐみちゃんから手を放せ、放さないと、ただで済まさないぞ!!」
必死に西条を睨んだ。
「あー、何やその目は?このガキが」
「放せ、めぐみちゃんに手を出したら絶対に許さない!許さない!」
「ほう、許さないって、どない許さんつもりや?」
西条はめぐみちゃんの肩を強く抱いたまま、赤鬼のような真っ赤な顔で僕に向かって近づいてきた。
「おもろいやないか小僧、どない許さんか先に見せてもらおか・・・。おい三波、そのガキ放したれや」
「えっ?放すって」
「ええから、そのガキ放せや」
「はっ、はい」
三波は僕の首に回した手を放した。同時に西条はめぐみちゃんの背中をドンと押して
「運動後のお楽しみや、大事に捕まえとけよ」
彼女を三波の前に突き出した。
三波はうれしそうにうなずくと、めぐみちゃんの体を後ろから押さえつけ、哀れむような目で僕を見ながら
「どうやら、今日がお前の命日のようだな、くっくくく」
ニヤニヤと笑い続けていた。
僕はそんな三波を睨んだあと、目の前に立っている西条に目を移した。
「よう言うたの兄ちゃん、我も男や吐いたつば飲まんとけよ」
「・・・!」
「そうや、一つだけ教えといたるがの、ワイは我のようなケツの青いガキがこの世の中で一番むかっ腹が立つ生きもんなんや、てめえ勝手ですき放題しよる、お前ら見とるとぶち殺したくなるんや、ぶち殺したくな」
「じっ、自分勝手で好き放題はなのはあなたじゃないですか、まるで悪魔だ!」
「悪魔?ふふ悪魔でけっこうや、ただその悪魔をマジで怒らせた兄ちゃん、きっちり覚悟は出来とるんやろうな」
西条は見る見るうちに、恐ろしい悪鬼の形相へと変わっていった。
「うぐっ!」
僕は恐怖に一瞬青ざめたあと横目でめぐみちゃんを見た。そこには目にいっぱいの涙をためながら心配そうに僕を見ている彼女の姿があった。
(守らなければ!僕がめぐみちゃんを守らなければ!守らなければ!)
何度も何度も心で叫んでいるうちに、僕の中に不思議な勇気が沸き起こってくるのを感じた。そして目の前の悪鬼西条を力いっぱい睨みすえると
「うおぉおおおおおおおぉおー!!」
天に向かって、雄たけびを上げてた。
「なんや?お前は、月もでとらんのに狼男にでもなったつもりか、ははは」
「めぐみは僕が守る!絶対に守る!」
「よっ、吉宗くん!」
「守る、絶対に僕が守るんだ!」
僕は何度も何度もそう叫びながら両手の拳を握り締め、恐怖の心と闘いながら西条竜一を睨み続けた。
「このガキが生意気な目しやがって、我のような小僧がこの女を守るってか?おもろいやないか、守れるもんやったら守ってみい!」
「守る!…絶対に守ってみせる…」
横目でめぐみちゃんの姿を見た…そこには涙を流しながら真剣に僕のことを見つめている彼女の姿が…
(僕が守る…守るんだ…守るんだ…)
心の中で何度もそう叫びつづけていた僕の体は、何時しか燃え上がる愛のパワーでみなぎりはじめていた。
そして、気がつくと僕の10ミリ4ミリのパンチパーマはメラメラと逆立ち、真っ赤に燃え上がる背景を背に再び鬼神の姿へと変貌していた。
「なんやこいつは?真っ赤なツラしおって」
さすがの悪鬼西条も鬼神と化した僕に一瞬戸惑いの顔を浮かべていた。
「守る…めぐみは僕が守る!」
メラメラ…メラメラ……
「西条さん気をつけてください!そいつ見た目より強いっすよ!」
鬼神と化した僕の恐ろしさを知る三波はあわてて叫んだ。
「よっ、吉宗くん・・・」
「君は僕が絶対に守る!」
めぐみちゃんに一言そう告げると、握り締めた両手を力いっぱい広げ
「うおおおおおおおおおおおおーー!!」
夜空に向かって雄たけびをあげながら、まるで天狗のごとき跳躍で天高く舞い上がり西条をめがけて飛び掛っていった。
「ぐおっ、なんやー?」
西条は一瞬驚きの顔を浮かべた。
がっしかし・・・それも一瞬
「フン!」
すぐに冷めた笑みを浮かべると
「アホらしい」
勢いよく飛びかかる僕をさっと体を反らせて交わし、その大きなひざを僕のみぞおちめがけて蹴り上げた。
ドゴッ!!
「ぐはっ!」
どてっ腹に強烈な膝をまともに受けた鬼神の僕はその場で悶絶、西条はそんな僕にとどめを刺すように、今度はそのひじを僕の首筋めがけて落としてきた。
ガゴッ!
「ぶおぁーー!」
たった2発。西条の強烈なひざ蹴りとひじ打ちによって僕はその場に崩れ落ちてしまった。
たとえ愛の力で鬼神と化した僕でも、西条竜一という男には歯が立たなかったのだった。
「吉宗くん!!」
「め、めぐみしゃん・・・」
僕は地べたにはいつくばり苦悶の顔を浮かべながらめぐみちゃんを見た。
「めぐみちゃんは、僕が・・・僕が・・・」
彼女の顔を見ながら必死に立ち上がろうと頑張ったが体に力が入らず、僕はその場に這いつくばったまま顔を上げると、西条の顔を必死に睨み続けたのだった。
つづく
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このお話はフィクションです。中に登場する人物、団体等はすべて架空のものです。
続きのお話「吉宗くん三途の川への旅立ち」はこちら↓
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