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子供でもアユが面白いように釣れた時代|編集者のこぼれ話②
『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』の編集を担当しました、農文協 編集部の馬場です。第二話は子供時代のアユ釣りの話から。
*本連載の第一話はこちら↓よりご覧ください*
普段着のアユ釣り
1980~90年代、私は長良川水系で毎日のように釣りをして育ちました。『釣りキチ三平』が愛読書で、学校が終わると川へ行き、暗くなるまで竿を振りました。父が買ってくれた旧式の重たいカーボン製の長竿で、アユの友釣りもたくさんやりました。
友釣りは、ナワバリをつくるアユの習性を利用した釣りです。高価な道具で大人がやるものと思われがちですが、当時は短パンにサンダル姿の子供でも面白いように釣れました。夕方、ガツン、ガツンと入れ掛かり(次から次へと掛かること)になると大興奮でした。釣ったアユは、塩焼きにしたり、ザラメと醤油で赤煮にしたり、家族で川に感謝していただきました。「こんなに美味い魚はほかにいない」。今もそう思っています。
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釣れなくなったアユ
しかし、アユがよく釣れたのは1992年、14歳の夏まででした。93年は記録的な冷夏と増水、94年は「平成の大渇水」で、アユの不漁が続きました。同じ時期、「冷水病」という魚の感染症が全国の川に広がり、長良川水系でも問題になります。さらに、身近な釣り場だった長良川支流で河川整備が進められ、慣れ親しんだ絶好の釣り場が消えていきました。この頃から、全国的にもアユが釣れなくなったと言われています。
そして、94年に長良川河口堰が完成し、95年から堰の本格運用(湛水)が始まりました。河口堰の運用による長大な汽水域の消滅は、事業者にとっては予定されていた出来事でしたが、そこに棲む多くの生き物にとっては「死」を意味しました。
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釣りから見えること
岐阜県の太平洋側には、「木曽三川」と呼ばれる木曽川・長良川・揖斐川の三大水系が隣接して流れ、伊勢湾に注いでいます。地元の高校・大学に通いながらアユ釣りを続けましたが、長良川水系でアユが釣れなくても隣の揖斐川では当時それなりに釣れたため、揖斐川で釣ることが増えていきました。そんなこともあり、全国的にアユが不漁と言っても、長良川のアユの減り方は極端に感じられました。アユがたくさんいる川には活気があり、川底の石が磨かれ、川が明るいのですが、長良川は火が消えたようでした。
長良川のことを一番よく知っているのは、長年、川を見つめてきた熟練の釣り師や漁師たちです。彼らは川の変化について同じことを深く感じていました。
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民衆知と科学知の結合
長良川のアユと生態系に、いったい何が起きているのか。釣り師や漁師の知恵と科学者の知恵、民衆知と科学知が結びついたとき、川の中の真実に近づけるのではないかと思っていました。『長良川のアユと河口堰』は、それが実現した本です。
太古の漁法を継承してきた鵜匠の岩佐昌秋さん、夜川網漁の最後の守り手である中山文夫さん、サツキマス漁で知られる大橋亮一さん、若手漁師で体験型舟旅も提供する平工顕太郎さんのお話から、川やアユの変化が浮き彫りになります。
そして、各地でアユの研究・保全に取り組む高橋勇夫さん、私の母校・岐阜大学の魚類学者の古屋康則先生と向井貴彦先生、河川工学者の原田守啓先生が、さまざまな角度から科学的にその謎を解き明かしていきます。本書のゲラ(校正刷り)を読まれた河川工学者で新潟大学名誉教授の大熊孝先生は、「その過程は推理小説のようで、引き込まれた」と書評に書いてくださいました(『季刊地域』2024年春号に掲載予定)。
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私には現在4歳の娘がいるのですが、川遊びが大好きです。子や孫の世代にも、豊かな川で遊ばせてあげたい。本書が新たな議論の土台になり、長良川を起点として私たちの社会が川との関係を結びなおすことに繋がればと願っています。
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2024年3月11日発売
『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』
蔵治光一郎 編
定価 2,420円 (税込)
判型/頁数 A5変型 232ページ
ISBNコード 9784540231278
詳細はこちら https://toretate.nbkbooks.com/9784540231278/
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54023127/