第14回:暮らしを「まかなう」こと(湯澤規子)
人文地理学者の湯澤規子さんと景観工学者の真田純子さんの、「食 × 農 × 景観」をめぐるおいしい往復書簡。人と地球との間で「まかない合う」ことで維持されてきた「暮らし」について考えます。
土木学会110周年記念講演で感じたこと
この手紙のやり取りで、私たち二人が大きなものよりも身近で小さなもの、暮らしに根差したものを大切に感じるという感性という点で共鳴しあっていたことを知り、先日開催された土木学会110周年記念シンポジウム(https://committees.jsce.or.jp/jsce110/110th)の基調講演という大役を真田さんが私に任せてくれた意味をようやく理解することができました。
とはいえ、今考えてみても、真田さんはなんと思い切りのよい人なんだろう、と思います。普段は「専門外」という言葉をめったに使わない私ですが、今回ばかりはどう考えても「専門外」からの発言となるわけだったので、恐る恐る講演に臨んだのでした。
ところがいざ登壇してみると、それは杞憂だったということがわかりました。土木学会自体が未来への指針を大きく転換しようとしている雰囲気があり、その一つの軸に「暮らし」というキーワードが据えられ、興味をもって聞いて下さる人がとても多いと感じたからです。安堵すると同時に、それは驚きでもありました。今、何が起こっているのでしょうか。この辺り、今度じっくり話してみたいところです。ともあれ、当日は、若い人たちの生き生きとした発表を聞くこともでき、時代の潮目が確かに変わりつつあることを実感することができた、そんな経験になりました。
暮らしの中から自分を、地球を「まかなう」
「暮らし」は卒業論文以来、いや、よく考えてみると子どもの頃からでしょうか、私はなぜかこの概念に魅力を感じてきました。「生活」よりも幅広く奥行きがあるように感じるので、好んでこの言葉を使ってきたのです。真田さんとこの往復書簡で考えようとしている「まかなう(賄う)」という概念も、「暮らし」とひと続きの世界だと考えています。私たちは暮らしの中で地球から得たもので自らをまかない、地表面を手入れしながら地球をまかなう。この「まかない合い」がいわゆる人間と環境との関係ということになるのだと思いますが、あえて「まかない」という言葉を使うことで、今まで論じられてきた「人間と環境の関係」の枠組みを越えていきたいという思いがあります。そのあたりについては、また具体的な経験を共有しながらお話できればと思います。
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さてさて、もうすぐ今年(2024年)が終わります。真田さんは一年の終わりをどのように過ごしますか? 私はここ数年、「やったことがないことに挑戦する」というテーマを掲げて、「自分らしさ」という枠を超えるスリルを味わっています。今年は普段全く触ることのないテレビゲームを年末の数日間徹夜を覚悟でやり続ける、という経験をしてみたいと思っています(コントローラーもまともに触ったことがないのに)。自分にはできないこと、知らない世界がまだまだたくさんあるのだということを実感することは大切ですよね。荒療治的娯楽、という趣向です。
真田さんも健やかな年末年始をお過ごしください!
プロフィール
◆湯澤規子(ゆざわ・のりこ)
1974年大阪府生まれ。法政大学人間環境学部教授。博士(文学)。「生きる」をテーマに地理学、歴史学、経済学の視点から、当たり前の日常を問い直すフィールドワーカー。編著書に『食べものがたりのすすめ―「食」から広がるワークショップ入門』、絵本シリーズ『うんこでつながる世界とわたし』(ともに農文協)など、「食べる」と「出す」をつなぐ思索と活動を展開中。