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第6回 能登2011-24復活の廃寺に蛸みこし 曽良の千手院で「いのちの研究会」——著者から⑤

著者の藤井満さんによる、自著(とその周辺)解説を、5回にわたってお届けします。最終回は、2024年10月に行われた「いのちの研究会」の報告から、能登半島「その後」をお届けします(著者のnote記事からの転載です)。


海臨山千手院で行われた「いのちの研究会」

穴水町曽良の海臨山千手院は住職がいなって檀家はゼロになり、縄文焼きを制作していた新出良一さんが2017年に亡くなったあとは荒れるにまかせていた。この廃寺に2024年元日の能登半島地震後、北原密蓮さんが住職に就任し、穴水町でガソリンスタンドを経営する森本敬一さんが復興ツーリズムの拠点として活用しようとしている。

10月12日には、宗教学やグリーフケア、文化人類学者らが「災害に向き合う」というテーマで「いのちの研究会」をひらいた。雨もりが修理され、きれいな畳がしかれた本堂には約20人がつどった。鎌田東二さんの法螺貝と石笛で幕をあけた。

登壇者たちの語ったこと

島薗進さん(東京大学名誉教授)は、全国の宗教関係者の被災地支援の様子を紹介した。

町田宗鳳さん(比較宗教学者、ありがとう寺住職)は、能登の被災者を「日本のために十字架についてくださった。広島も長崎も、日本のイエスキリストであると思ってきた」「どれだけ絶望的でも、祈りの力を深めていただきたい」

加藤眞三さん(医師)は2011年からはじまったカフェデモンクの経緯をかたり、「病や天災、戦争にあったとき、みんなが苦しみを打ち明け合ってつながる行為が大事」「たわいない話をすることが人と人を近づけ、生きる力をはぐくむ。日本の男性は井戸端会議ができないから心が折れやすい」
上田紀行さん(文化人類学者)は、楽しい村祭りで病んでいる人をいやすスリランカの悪魔払いの例をあげた。

「『おまえなんて関係ないよ』と世界から見られて孤独なときに悪魔が憑く。苦しみがケアされず無視されていることが、二重三重に苦しい。楽しい村祭りをやったら仏さんの世界がかえってくる」「仏教なんて暗いじゃん、という時代がつづいたが、今は時代の転回点。千手観音さまは千の苦しみ悲しみをかんじてきた。苦しみがあればこそ大悲の心を獲得していける。そのなかに人間の美しさがある」

真脇遺跡縄文館の高田秀樹館長は4000年間もつづいた縄文の村について、「真脇は目の前が海で、春から秋まで回遊してくるイルカをとって食べていた。イノシシも鹿も熊も食べた。食料が豊富だからつづいたんです」と解説した。

第2部「能登学プロジェクト」の討論

休憩をはさんで第2部は、金沢星稜大や京都大、東北大の研究者らでつくる「能登学プロジェクト」のメンバーが討論した。

「苦難からたてなおすためには、祈りとわかちあいの場が必要」
「心理学者はインタビュー、宗教人類学は祭りの復興、社会学者は漁村コミュニティの復興……現場の人とともに問題意識をくみあげていくのが大事」
「祭りは生きる力をあたえてくれる。みこしをかつぎあげるとき、今までになかった力がでる。なにかを共有することで力がでる」
「被害者のなかで格差ができるとつらい状況にになる。二次的なダメージがでない制度構築をしなければ」……

ビデオでメッセージをよせた森本さんは「1年休学して能登に滞在する学生を紹介してほしい。泊まるところもあるし、ごはんくらい食べさせますし……」と訴えた。

「蛸みこし」に能登の未来をかんじる

最後は「芸術探検家」の野口竜平が「蛸みこし」を披露した。割竹でつくられた蛸の8本の足をひとりずつもってかつぐのだ。「足がそれぞれ自分で考えて行動している。8人でかつぐと、それが踊りになる。蛸みこしをとおして、タコー(多幸)感につながるかなぁって思うんです」

本堂でおはらいしたあと外にでて、石段をくだる。竹がグニャグニャして右に左にゆれて踊りのよう。最後は海にどぶんをつける。

足を10本にしてイカみこしにしたら、イカでまちおこしをしている能登町にぴったりかもしれない。重いキリコをかつげなくなった海辺の集落で、みこしがわりにかついだらおもしろいかも……

進行役の鎌田さんは「こんな大変な状況で能天気なことやって、って思われるだろうけど、予想をこえる展開はさまざまなことがおきてくる。こういうのが大事なんですよ」

蛸みこしのもたらす笑いは、能登の未来に不思議な期待感をかんじさせてくれた。


~『能登のムラは死なない』刊行記念トークイベントを開催します~

「能登を忘れない—激甚災害を生きのびるための人間学」
対談 藤井満(元朝日新聞記者) × 前口憲幸(北陸中日新聞七尾支局長)

日 時:2月28日(金) 19:00〜20:15
場 所:農業書センター+オンライン(インスタライブ)
人 数:20名程度+オンライン無制限
お申込み:https://nbk-nougyousyocenter20250228.peatix.com/view

農文協・農業書 センター(Instagram)
https://www.instagram.com/nougyousyocenter/

 昨年12月に『能登のムラは死なない』(農文協)を上梓した、元朝日新聞記者の藤井満氏(2011〜 2015年輪島支局駐在)と、地震発生直後から10か月間にわたる被災地の状況を『能登半島記(未完) 』(時事通信出版局)にまとめた、北陸中日新聞七尾支局長の前口憲幸氏による対談イベントを開催します。
 2024年元日の能登半島地震を境に、この地で何が変わり、変わらなかったことは何か。能登半島の「いま・これから」を伝えるお二人の報告を軸に、震災からの復興と地域社会の未来について語り合います。
 そして、どんな逆境にあっても「能登はやさしや」を体現する人々の姿を通して、激甚災害が続くこの日本で、しなやかに生き抜く力を考えます。
※終了後は、お二人によるサイン会も実施します。



プロフィール

◆藤井 満(ふじい・みつる)
1966年、東京都葛飾区生まれ。1990年朝日新聞に入社。静岡・愛媛・京都・大阪・島根・石川・和歌山・富山に勤務し、2020年1月に退社。2011年から2015年まで朝日新聞輪島支局に駐在。奥能登の農山漁村集落をたずねてまわり、『能登の里人ものがたり』(2015年、アットワークス)、『北陸の海辺自転車紀行』(2016年、あっぷる出版社)を出版。そのほか単著に『石鎚を守った男』(2006年、創風社出版)、『僕のコーチはがんの妻』(2020年、KADOKAWA)、『京都大学ボヘミアン物語』(2024年、あっぷる出版社)などがある。

https://note.com/fujiiman


『能登のムラは死なない』
藤井 満 著
定価 1,980円 (税込)
ISBNコード 978-454024159-8
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54024159/

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