感想【バンコクジャパニーズ列伝】
著;皿井タレー
ワールドカップに釘付けの夫が私のビールを飲んだ。最後の一缶である。
けれど良いのだ。何も騒ぎ立てる必要はない。仕事に疲れて帰ってきた夫が束の間のひととき、W杯とビールで一杯やるのを止める事は出来ない。二日酔いでもう二度と酒は飲まないと誓った舌の根も乾かぬうちに、サッカー観戦中の夫を尻目に、私はラムをジンジャーエールで割った物を飲みながらこの感想を書く事にする。
現在ほろ酔い気分ではあるが、酒は暖かい地方で飲むのが一番美味いと思っている。日中の酷暑を乗り切った自分へのご褒美ビールほど美味いものはない。九州然り、東南アジア然り。北海道は寒いからビールが進まないのだ。ビールジョッキについた水滴が恋しい。あぁ、タイに行きたい。旅行に行きたい。
さて、タイ沼にハマりたての頃、どんなことでも良いからタイの情報が知りたくて、とにかく本を読み漁った。けれどコロナ禍の折、なかなか新刊としてのタイ関連書籍は見つけられなかった。そのため2000年〜2017年頃の少し古めの本を読んでいたのだが、ふとある時手に取ったこの「バンコクジャパニーズ列伝」はぶっ飛んだ人達ばかりが紹介されていて面白かった。学生時代にこの本を読んでいたら、もしかすると私も突っ走っていただろうか。…いや、無理だ。いかんせん当時の私はちゃんと大学を卒業して、ちゃんとした企業に就職して、適齢期には結婚して、30までに子供を二人産んで…と、ある種強迫観念にも似た思いを抱きながら生きていた。だからだろうか、自分の欲望に忠実に従える人達を私は心底尊敬しているのだ。
この本は12人のタイに魅せられた人間を皿井タレー氏のインタビュー形式で紹介している。その中でも特に目に留まったのは「高田胤臣」さんという方である。高田さんは死体が見たくてタイに渡ったそうだ。そこでレスキューボランティアに参加し、死体も見れて徳も積める一石二鳥の生活を手に入れているようだった。
レスキューに興味を持った私は高田さんの発信する情報を元に一次創作小説を書いた。もちろんBLだ。舞台はタイである。
ただ、やはり完全にそのシステムを理解しているかと問われると自信がない。そんな折、バンナー星人さんのTwitterで高田さんとバンナー星人さんが交流しているのを見つけ、驚いた。そことそこは繋がっているのか、と。
驚いた勢いで横からコメントを入れてしまったところ、なんの僥倖か高田さんからフォローして頂けた。こんな事なら小説を書く前に直接色々と聞いておけばよかった…と後悔しつつ、今は高田さんの「バンコクアソビ」を読んでいる。
「バンコクジャパニーズ列伝」は自分がいかに常識の枠に囚われているかがわかる貴重な本である。会社を辞めようか悩んでいる方にはうってつけかもしれない。