サーバントのお供をした桃太郎
サーバントの姿をもう少し具体的に理解するために、ひとつの物語を紹介します。あの桃太郎のそばに寄り添った幻のサーバントのお話です。
桃太郎の誕生
昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。一生懸命働いて、幸せに、正直に生きていました。
その日、いつものとおりおじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。すると、川の上の方からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました。びっくりしたおばあさんは腰をぬかしてしまいました。そこに、サーバントが現れました。
「何かお手伝いしましょうか」
「おじいさんを呼んできておくれ」
サーバントは山へ行っておじいさんを連れて来ました。いざ、桃を割ろう、ということになったのですが、こんなに大きな桃を切る包丁はありません。サーバントは、ひもをかけて切ったらどうか、と提案しました。それはいい、とおじいさんが納戸の奥から長いひもを持ってきます。ひもをぐるっと回しかけると、すんなり桃を割ることができました。
するとなんと、桃の中に赤ちゃんがいるではありませんか。おじいさんとおばあさんはびっくり。そして、悩み始めました。年寄りの自分たちにこの子が育てられるだろうか。村の人々は変な噂をしないだろうか。たくさんの問題があって、頭を抱え込んでしまいました。
「何が一番大きな問題だと思いますか?」
サーバントが尋ねると、村の人々が変なふうに思うだろう、と気にしていることがわかりました。
「二人ができることは何ですか?」
おじいさんとおばあさんは知恵を出し合いました。今までズルをしないで正直に生きてきたのだから、今回も正直にすべて話そう、という結論になりました。信じてもらえても、信じてもらえなくても、桃から生まれた「桃太郎」を育てる決心をしたのでした。
成長する桃太郎
おじいさんとおばあさんは、愛情をこめて桃太郎を育てました。高齢になってからの育児で、成長していく桃太郎に追いつかず、困ったり、不安になることも多くありました。サーバントは、定期的におじいさんとおばあさんのもとを訪れては、何かできることはないかと声をかけ続けました。二人にとって、気にかけてくれる人がいることは、もうそれだけでとても心強いことでした。
サーバントは、実際にも助けてくれました。わんぱくな桃太郎の遊び相手を探してくれたこと、同じように孫の面倒を見ているママ友ならぬババ友を紹介してくれたこと、おじいさんと一緒に剣道をやるように勧めてくれたこと、どれもサーバントの助けでした。こうして桃太郎は、おじいさんとおばあさんのもとで立派に成長していきました。
桃太郎の未来
桃太郎にとっても、サーバントは良き相談相手でした。桃太郎は成長するにしたがって、サーバントの来訪を心待ちにするようになりました。サーバントと話をすると、自分が将来何をしたらよいのか、大きなヒントをもらえるような気がしたのです。
中でも、桃太郎の心をとらえて離さなかったのは、サーバントが語ってくれる鬼ヶ島の鬼の話でした。村の人々は鬼の存在におびえ、非常に苦しめられているのだと言います。それを聞くたびに、桃太郎は悩みました。自分が戦いに行くべきではないだろうか。でも、そんな大それたことができるだろうか。サーバントは桃太郎の葛藤に耳を傾け、寄り添いました。
「私がどう思っているか、お話ししてもいいですか」
桃太郎がうなずくと、サーバントは言葉を続けます。
「私には、もうすべての状況が整っているように見えますよ。あとはあなたの決断だけではないでしょうか」
桃太郎は、ジーッと考え込みました。そして、思い切ってこう言います。「鬼ヶ島に、鬼を退治しに行こう」
桃太郎は、サーバントにも鬼ヶ島の戦いについてきてほしい、と頭を下げて頼みました。
鬼退治に出かける桃太郎
こうして、桃太郎とサーバントは連れ立って鬼退治に出かけることになりました。おじいさんとおばあさんは、とても心配しました。サーバントは「私もできるだけの助けをしますから」と言って、安心させました。
いよいよ出発の日、おばあさんは桃太郎に手作りのきびだんごを持たせます。
「これを食べて力をつけて、村の人のために鬼をやっつけてきておくれ」
「ありがとう」
桃太郎とサーバントが鬼ヶ島へ向かう途中、道端で犬に出会いました。サーバントは立ち止まり、犬の頭をなでて話しかけます。犬はサーバントにとてもなつきました。どうやらサーバントは、犬と会話ができるようです。
「桃太郎と一緒に鬼を退治しに行こうとしているんだよ」
「私もついて行きたい」
同じように、木に登っていた猿も、池で水を飲んでいたキジも桃太郎の仲間に加わりました。
桃太郎は、犬、猿、キジに、きびだんごを分けてやります。桃太郎を中心にした、鬼退治のチームが出来上がりました。
サーバントの道案内に従って、いよいよ一行の目の前に鬼ヶ島が姿を現しました。戦いのときも間近です。
戦いに挑む桃太郎
サーバントは、桃太郎たちにここで待っているように言いました。自分が先に行って様子を見て、どう攻めればいいかを探ってくる、というのです。サーバントは一人で出かけていきました。
サーバントは帰ってくると、鬼たちの様子を伝えました。力の強い鬼がたくさんいること、島の南の門のところだけは守りが手薄なことなど、下調べしてきたことを彼らに伝えます。
すると犬が、キャンキャン吠えてかみつくことができる、と言います。キジは空を飛んで頭上から攻撃することができる、と言います。猿は身軽な身のこなしで鬼を翻弄する、と言います。そして、みんなで桃太郎のほうを見て、最後のとどめを刺すように頼みました。
「みんなで力を合わせれば、必ずできるはずだ」
きびだんごを食べて力をつけ、鬼ヶ島の戦いに挑みました。
それからの戦いの様子は、読者のみなさんがよくご存知のとおりです。桃太郎と犬と猿とキジは、見事に鬼ヶ島の鬼を退治しました。そして、村の人々の財宝を山ほど車に積んで持ち帰りました。村の人々は歓声をあげて桃太郎を迎えます。おじいさんもおばあさんも涙を流して喜んでいます。こうして、桃から生まれた桃太郎は、村の英雄となったのでした。
えっ、サーバントはどこへ行ったのかって?桃太郎たちの勝利を見届けたサーバントは、彼を必要としている次のヒロインのところへ、ひっそりと向かって行きましたとさ。おしまい。
サーバントの姿を思い浮かべることができたでしょうか。自分のすべきことを見つけて、適切に行動に移していましたね。与えて、仕えるように関わるのがサーバントの特長です。