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言葉で、心に光を灯す

「何歳?」
「6月で2歳です」
「今が一番可愛い時期ね」

息子と歩いていると
年配の方に話しかけられ、
この会話をかわすことがある。

次の6月29日で、息子が生まれて2年。
子育ては、その時々で
いつも必死で
時間が過ぎるのがあっという間。
3kgで産まれた息子は、
もう4倍以上の大きさになった。
靴のサイズは、既に15cm。

成人した子供がいる女性に
昨年言われた言葉が
今でも時折心をかすめる。

「億を積んでもいいから、
子供の5歳までを
もう一度過ごしたい」

お金じゃ買えない。
過ぎ去ると
どんなに思っても
戻れないのが時間。

今は、私がトイレへ入っても
号泣するほどべったりで、
求められるのが嬉しくも休めず、
疲労困憊な日々。

でも、10年経てば、息子は12歳。
小学校6年生にもなれば、
当然もう私の方は
見向きもしないだろう。

友達といる方が楽しいだろうし、
好きな子もできるだろうし、
それは彼の世界が広がることなので
喜ばしいことではあるけれど、
想像すると、少し切ない。

手を広げれば、
部屋の端っこからでも
全速力で駆けよって
ぎゅーっと抱きついてくれるのは、
人生の中で今しかない
特別な輝きなんだろう。

昨夜、息子を寝かしつけたあと、
私は腹痛だったので、
目を閉じて、
今、書いている脚本の続きを
頭の中の原稿用紙に書いていた。

音楽に触発されて
物語を広がるので、
何度も何度も
繰り返し同じ曲を聞き、
身体の中で感じるものを
言葉に変換しようとしていた。

もし、1日が48時間あるならば、
24時間は、
しっかりと母親や妻をするので、
残り24時間は、
全部脚本を書きたい。

指先まで詰まっている気持ちを
文字で、台詞で、きちんと出して
少しでも自分の書くもののレベルをあげたい。

それは、本能でもあるけれど、
急いでレベルを上げたいのは、
別の理由もある。
時間はあるけれど、
時間がないとも思う。

だけど、今朝。
息子の着替えをしているときに
気付かなかったひっかき傷が
いくつもあるのを見つけてはっとした。
眠っているときに
痒くて息子が
ひっかいたのだと思う。
乾燥していた部分に
保湿クリームが塗り足りてなかった
母親としての気付かなさに
少しショックを受けた。

創作と育児は、ある意味対極でもある。
物を書くことは、
心を研ぎ澄まし、
突き詰めるけれど
そこに加集中していると
目の前の大切なことに気付かないこともある。

私は、そんなとき
蜷川実花さんが創られたママ向け雑誌
『MAMA MARIA』の巻頭ページを読み返す。

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みんな悩んでます、
みんな大変です、
みんなボロボロです、
もちろん私も。

このことをきちんと伝えたくて、
それでも私達はやっぱり欲張りで、
でも、子供がいるからできないことも山ほどあって、
でもでも、やっぱりお母さんって涙が出るほど素敵で、
全部取るのは無理だけど、
でも、全部取る気で頑張ろうって
思えるような本を作りたかった。

みんなで一生懸命足掻きましょう。

(『MAMA MARIA vol.1』,光文社,2013年, p.5』)

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この部分を読むと、
いつも胸が熱くなり、視界が涙で滲む。
いつか、もし蜷川さんに会う機会があったら、
この部分を読んでいつも顔を上げたことを
最初に話したいくらい、
誰かの言葉は、心に光を灯す、と思う。

そんな文章を、台詞を
書けるようになりたい。

そして、そんな言葉を
息子にかけながら、
育てていきたい。

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