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自由に選択したからこその幸せ 【週刊新陽 #114】
6月19日(月)、全校集会で『多様性対談』を行いました。
『多様性対談』とは、私が独断と偏見でお呼びした魅力あるゲストからお話を伺う、という企画です。生徒が多様な生き方や価値観に触れ、いろいろな視点で「多様性とは何か」を考えるきっかけになれば、と2021年から年に数回のペースで実施しています。
今年度最初の対談のお相手は卒業生の軍司かりんさん。2年前に卒業し、自ら道を拓いている先輩の話を生徒たちに聞いてほしいと思い、登壇をお願いしました。
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来てくれた稲垣さん(左・同じく探究コース卒業生)
大学進学やめることに決めました。
現在は通信制の短大で心理学を学んでいるかりんさん。私が校長になる直前の2021年3月に探究コースを卒業されました。新陽高校の事業アドバイザーとして学校に関わっていた時期に何度かお会いしたことがあります。
探究コース1期生は、「本気で挑戦」というスローガンを地で行くようなパワフルで個性的なメンバーが多かったのですが、中でも彼女は行動力がある頑張り屋で、後輩からも憧れられていました。
印象に残っているのが卒業式の日。式が終わり、当時の校長の荒井ゆたかさんと私が校長室で話をしていると、かりんさんが同級生と一緒にやってきました。
そして晴れやかな表情で「私、やっぱり現時点で大学に行くのやめました!」と言ったのです。
台湾の大学に留学する予定だったのですが、いろいろ考えて、卒業式の前の日に決心したのは「行かないこと」だったそうです。日本では、高校を出たあとの進路として大学や就職など「どこへ行くか」を決めるのが一般的ですが、あえて「行かないことを決めた」のが新陽生らしいな、と思ったのをよく覚えています。
最初から上手くいくことなんてない
「この学校が大事にしていること、一人の卒業生のリアルな道を通して知ってほしい」と始まったかりんさんのプレゼン。
新陽のスクールポリシーの中にある『出会いと原体験』について、自分自身の体験から話をしてくれました。振り返ると、ボランティアや課外活動、地域交流、留学など、順調に体験を積み重ねていたように見えますが、実は入学当初はむしろ消極的で指示待ち人間だったそうです。
でも「変われるチャンスがあるなら変わりたい。」そう思って新陽に入学し、ある先生との出会いが一歩踏み出すきっかけになりました。(2021年9月のインタビュー記事に詳しく書いてあります。)
色々な人との出会いが背中を押してくれる、仲間が増えると挑戦できる、それが自分の成長につながる、それが3年間たくさん挑戦して分かったことです。
もちろん、上手くいくことばかりではなく、弱音を吐いたり葛藤したりしたことも。「簡単に上手くいくものなんて一つもなくて、失敗や不安の方が圧倒的に多かったと思います。それでも、挑戦しないと得られない経験を重ねて、最終的にやり遂げる達成感を味わうと、また挑戦したくなります。」と、かりんさん。
「何していいかわからない人、勇気が出ない人も、自分のペースで一歩踏み出してみてください。とりあえずでいいんです。」と、在校生の背中を押してくれました。
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ギャップイヤーを経て後輩へ伝えたいこと
進路については、とにかく悩んだのだそうです。やりたいことがなかなか見つからない中、「大学生になることが正しい道」だとなんとなく思っていました。いろいろ調べて台湾の大学に進学したいと思うようになり予備校にも通いましたが、前述の通り、高校卒業直前に出した結論は「まだ大学には行かない」というもの。
「自分にもっと向き合う時間にしたい、その後に自分の道を決めよう。」という想いだったそうです。
それから2年、いわゆるギャップイヤー的な時期を過ごしました。ギャップイヤーとは欧米の大学などで入学前に設けられている仕組みで、留学やインターンシップ、ボランティアなどの社会経験を積むための期間です。
この2年はコロナ禍でいろいろな活動の制限があった時期で、「何もできなかった」と思っている人も多いはず。でもかりんさんは、いろいろな機会を見つけては動き、自らチャンスを作り、挑戦し続けました。
今年に入って久しぶりに会った時に近況を聞かせてもらい、「学びたいことが見つかったんです!」と報告してくれた彼女の表情は、あの卒業式の日と同じ晴れやかさと、あの時よりさらに自信と希望にあふれた輝きがありました。(その場で『多様性対談』の登壇をオファーしました!)
2年間自分と向き合った結果、学びたい分野と方法が定まり、この4月に通信制の短大の心理学科に進学したかりんさんは、「今、学ぶことが楽しくて仕方がない。」と言います。
「学校が嫌いだった私が変われたことも、ワクワクしながらも悩んだり葛藤したりしながら様々な決断をしたことも、いろいろな出会いと原体験を積み重ねて身につけたものや周りの助けがあったおかげ。」と振り返りながら、在校生へアドバイスをくれました。
とりあえずやってみる。行動してみる。
出会いと原体験は積み重ねることで繋がるものがある。
進路の選択肢は1つじゃないからこそ自分と向き合い続けてみる。
人と違う道を選んでもワクワクする道は存在する。
最後に「自分と向き合って選択した世界で、生きたいように生きられている私は幸せです。これからも自分の人生を創り続けたいと思っています。みなさんも、素敵な出会いと原体験を積み重ねていってください。」と語りかけたかりんさんの言葉を聴く在校生の表情も真剣でした。
【編集後記】
集会が終わったあと「先輩とお話したいです!」と言う生徒もいたので、放課後まで学校に残ってくれて、いろいろお喋りしていたようです。
かりんさんは新陽で進めているいくつかのプロジェクトに参加する予定で、これからもときどき学校に来てくれます。ぜひ在校生のみんなと引き続き交流してもらえたら嬉しいな、と思っています。
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