大事なのは教師のマインドセット〜「総合的な探究の時間」公開授業研究会レポート 【週刊新陽 #92】
昨年末の12月22日(木)、國學院大学教授の田村学先生(元文部科学省視学官)をお招きして総合的な探究の時間の実践をテーマに公開授業研究会を行いました。
午前中は授業公開、午後はオンラインと対面のハイブリッドで開催した協議会。少し時間が経ってしまいましたが、多くの方々と一緒に「探究」について深く考え対話した1日をレポートします!
ちょっと変えてみる、をみんなで。
教育関係者以外の方のために少しだけ解説すると、『総合的な探究の時間』とは2022年度から高校の学習指導要領で定められた新科目です。これまでの『総合的な学習の時間』が高校においては名称変更され、探究や課題解決に取り組む力を育むことに焦点が置かれるようになりました。
新陽でも、総合的な探究の時間の授業をより充実したものにするために、公開授業研究会の開催を決定。講師はぜひ田村先生にとお願いすると、快諾くださいました。
教務部のメンバーが何度も打ち合わせを重ね、田村先生とも事前に課題感や研修の目的を共有して迎えた当日。
道内外から多くの教育関係者の参加が見込まれたこともあり、やや緊張気味の教務部の先生たちでしたが、田村先生の言葉で笑顔が戻りました。
「先生たちはみんな頑張ってますよ。だから一人が大きく変えようとしなくていいんです。今よりちょっと探究を意識してみるとか探究に取り組む時間を少しだけ増やす、そういう少しの変化をみんながやれば学校は大きく変わるから大丈夫。」
主体的・対話的で深い学び
協議会のメインは、『「主体的・対話的で深い学び」と「探究」〜資質・能力の育成とカリキュラム・マネジメント〜』と題した田村先生のご講演。
・学習指導要領の改訂と令和の日本型学校教育の構築
・「主体的・対話的で深い学び」と子どもの姿
・「探究」の価値と授業改善
について、授業のフィードバックや事例紹介を交えながらお話いただきました。
なお午前中の授業の間、田村先生は生徒たちの様子を観察するだけでなく生徒に声をかけ話を聞いてくださっていました。
「先生の説明はありがたいけど長いと眠くなる。」
「もっと活動や体験したい」
「先生の話を聞くのが嫌なわけじゃない。でも、聞くだけじゃなくて意見交換とかもしたい。」
どれも生徒の本音です。
「子どもたちはやる気になって頑張ろうとしていると思います。あの子たちはもっともっといけます!」
そう力強く言ってくださった田村先生の言葉が胸に刺さりました。
協議会の後半は、田村先生と赤司の対談です。と言っても、せっかく様々な方が来校して参加してくださっているので、聴衆も巻き込んで話を進めていきました。
「授業がもう少し活性化するにはどうしたら良いか」「新陽では、学びの共同体に取り組んでいるが、もう一歩先に進むにはどんな工夫ができるか」など日頃感じている課題を共有しながら、田村先生や参加者の皆さんからもヒントをいただきました。
最後のQ&Aのパートでは、「探究活動がうまくいくには?」という質問が。
「色々あるんだとは思いますが」と前置きした上で、「やはり一番は教師のマインドセットだと思います。」と田村先生。
教科指導を長くやってきて教え込むことに全力投球だった先生が、子ども主体にしようとすると授業観を180度変えなければいけない。まして、その先生たちは教え込む授業で育ってきた。その経験をトレースしたくなるのを我慢してアンラーンできるかが肝、というお話でした。
このマインドセットが変わるには、ポイントが3つあるそうです。
インパクト
手立て
手応え
インパクトとは、変わらなければと思うような衝撃的な事実。既に、社会の変化や求められる人材像、大学入試の変化など、挙げたらキリがないほど十分あると思います。
手立ては、変わるためのアイテム。例えば思考ツールなどはその良い例です。まずは教師主体ではない授業にするために、生徒が体験したりアウトプットしたりできる機会を作ること、そのためにツールを使ってみるのがおすすめ、とのことでした。
そして手応えとは、手立てを講じた時に見られる生徒の変化です。実際、生徒の姿勢が前傾になったり発言が増えたりするのが明らかに見て取れることがあります。また、授業後のリフレクションのコメントなどを読んでも、主体的に学び深く思考しているのを感じる文章に出会います。
講演の冒頭、田村先生が仰った「生徒の目線に合わせながら、彼らがもう少し学びに向かえるような状況をどう作っていくか考えていきましょう。」という言葉のとおり、生徒の視点に立った授業観のシフトチェンジこそ、探究学習が活性化する第一歩だと感じました。
多様性はストロングポイント
午前中の公開授業の合間に、田村先生は1年次メンターの小崎先生から相談を受けていたそうです。協議会の対談で田村先生がそのことに触れられたので、小崎先生にマイクを渡してみました。
単位制である今の1年生にはクラスがなく、ハウスという大きな単位をベースに、各科目の授業やホームルームでメンバーが変わります。また、教室は4人一組の島型のレイアウトになっていることが多いです。(新陽の単位制についてはこちらをお読みください。)
小崎先生は「1年次では生徒たちが交流する場面を意識的に作っています。ずっと固定のメンバーではなく、定期的にグループを変えるなどして様々な人と関わることで、話す力と同時に聴く力も育つのではないかと思います。4月からやってきて生徒の変化もみられる一方で、深い学びにはもう一歩改善が必要だと考えているので、今日学んだことを実践していきます。」と話してくれました。
それを受けて、田村先生からは「小崎先生とも話していたのですが、この学校(新陽)の持っている圧倒的なストロングポイントは多様性。」とのコメントが。
他の高校からみると、明らかに子どもたちが多様な新陽。一人ひとり違うからこそ活動の質が上がる、異なるからこそ学びが豊かになる。違いがあり、そして違いが尊重される状況があることは強みだと言ってくださいました。
生徒の多様性を活かすにはまず聴き手を育てること。そのためのアドバイスもいただいたので、早速先生たちと一緒にやっていきたいと思います。