自立と共生を学ぶシチズンシップ教育 - ピースフルスクールプログラムとはなにか
変化が激しく複雑性が増し、共創がキーワードとなっている21世紀。
この社会で幸せに生きるために必要な「自立と共生」する力を、幼稚園や学校での集団生活を通して身につけることのできる「ピースフルスクールプログラム(PSP)」のワークショップに参加しました。
PSPとは、こんなプログラムです。
・子どもの自尊心と自制心を育て、他者への共感力を高めることで対立を子ども自身で解決するコミュニケーション力を養う
・いじめ問題に対して被害者や加害者だけでなく傍観者にならない力を身につける
・日々の生活でリフレクションを行うため自分の行動や発言を省みてより良い行動につなげることができるようになる
今回は幼児向けプログラムを中心としたレクチャーのあと、「自立」と「共生」のレッスンを体験させていただきました。
自立編には、自分で意見を持つ、意見を伝え聴き合う(対話)、などを経験するレッスンが組み込まれています。
賛成・反対だけでなく、「わからない」のも一つの意見であることや、意見が違っても友達でいてよいこと、自分の意見を(人の意見を聞いてから)変えてもかまわないこと、などすべてPSPの前提。
当たり前のようでいて、大人同士でもちゃんと確認したことない・・・ですよね?
こういった前提を共有し、心理的安全性が守られていることで、子どもたちは主体的かつ創造的に集団に参加することができるようになるのだと思いました。
共生編では、主に、対立したときの対処法を学びます。
対立したときの解決法として、ケンカがだめなのは大半が納得するところだと思いますが、我慢する(譲歩する)のもNGという認識あるでしょうか。
我慢する子、褒めちゃってませんか?
PSPでは、対立の原因やいじめの構造を理解し、「いやだ、やめて」と言える子を育てます。自分の感情を知り伝えるトレーニングをするのです。
悲しいとか怒りとか恥ずかしいなど、ネガティブな感情こそ認識することが大切と、講師の熊平美香さんはおっしゃっていました。
こういった練習によって、子どもたちは’意見’と’感情’を整理して伝える力を身につけ、実際のもめごとの時も話し合いで解決します。
とはいえ当事者同士で冷静に話し合うのは簡単じゃない。というわけで、PSPを実践している小学校では「メディエーター」という存在が重要な役割を担います。
メディエーターはだいたい最高学年の6年生。彼らは仲裁のトレーニングを受けていて、手順に従って校内で起こったケンカの解決を支援しているのだそうです。
メディエーターがまさに仲裁している様子の動画を見せていただきましたが、大人でもあんな風にできるかしら・・・と思うほど冷静で、きちんとルールにのっとった進行をしていてすごかった!
ともすると、子どもは未熟な存在だからいろいろ教えてあげないと、と思ってしまうけれど、実は「みんなで仲良く生きる」ことは幸せだと本能的に知っていて、だからこそ自らの願いを叶えるために必要な「自立と共生」する力を身につける、というPSPのコンセプトはものすごく納得感がありました。
【補足】
PSPは、オランダ発の教育プログラムです。
オランダは、1970年代の経済後退の後に構造改革に取り組むなか、90年代にはいじめや子どもの問題行動が増加。この問題を国全体で解決するため、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標としたシチズンシップ教育プログラムの開発が計画されたそうです。
そして1999年、ユトレヒト市が、ユトレヒト大学のミシャ・デ・ウィンター教授の協力のもと、独自の教育プログラムとしてPSPを開発。幼児・小学生を対象として広がり、現在はオランダ全土の約15%(1,000校)で導入されているとか。
※オランダは「教育の自由(設立・理念・教育方法)」が保障されていて、教育の多様性が認められています。
PSPの定義では、シチズンシップ教育は3段階に類型されます。
レベル1: 個人的な責任を持つ市民
レベル2: 参加的市民
レベル3: 社会的正義を守る市民
社会的正義を守る市民とは、社会的・政治的・経済的な構造に対して批判的に判断し、より良い社会にするために、新たなアイデアを生み出すことができる、またそのアイデアを実行に移すことができる、というレベル。
その学習目標は、OECDのキーコンピテンシーや、文科省の幼稚園教育要領や学習指導要領で定めているものとも共通する点が多くあります。
つまりPSPを日本で導入することは、変化の激しい21世紀の社会において、能動的に社会と関わり、自ら幸せに生きる市民を育てる方法として、とても有効だと感じました。