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外に出よう!サテライト多様性対談 【週刊新陽 #194】

少し長めの北海道の冬休みが終わり、新陽高校の授業が再開した1月16日(木)。ひさしぶりに登校してきた生徒たちを校門で出迎え、冬休み明け全校集会はオンラインで実施(生徒は各教室で参加)しました。


海外で挑戦する先生たち

今回、集会をオンラインにしたのには理由があります。一つは朝の体育館が冷え込んでいるためですが、もう一つは「多様性対談」のゲストを海外からお呼びしたかったから。

1人目のゲストは、2022年10月から休職してJICA青年海外協力隊に参加した山本雅茂先生です。研修後、23年1月からケニアへ派遣され、23年3月から25年1月まではNziu(ンジウ村)の高校に勤務していました。任期が終わり、2月中旬から新陽に復帰する予定です。

もう1人は、イギリスに留学中の山上徹先生。昨年8月末に退職し、ウォーリック大学の博士課程に進学しました。

生徒が多様なキャリアや価値観に触れて視野を広げることを目的に不定期で開催している「多様性対談」、今回は山本先生x山上先生x赤司校長の「多様性鼎談」となりました!

▼山本先生の協力隊活動や現地での暮らしnoteはこちら

▼山上先生の留学前インタビューはこちら

ナイロビ・ロンドン・サッポロ

対談が始まったのは、日本の朝9時過ぎ。晴れていましたが雪が積もっていて気温は氷点下です。

山上先生は英国・ロンドンから。時刻は夜中の12時(時差9時間)、気温3度。「今日も曇り、明日も曇り、明後日も曇り・・・ずっと曇りです!」と第一声。

そして、山本先生のいるケニア・ナイロビは夜中3時(時差6時間)、季節は夏です。

冒頭、山本先生に会ったことがない1・2年次の生徒への自己紹介も兼ねて、「JICA青年海外協力隊として2年間、ケニアの高校で先生をしていました。将来的にケニアなどで教育が受けられていない子どもたちの力になりたいと思っていて、アフリカの過酷な生活に耐えられるのか試してみたかった。」と協力隊に挑戦した理由を語ってくれました。(山本先生のンジウでの生活が垣間見えるルームツアー動画はこちら

全く違う環境で暮らして感じたこと

山本先生は、ケニアに行ってしばらく謎の発熱や腹痛に悩まされたそうです。ケニアに行くまでほとんど体調を崩したことはなかったとのことで、環境の変化が余程だったことが想像できます。

山上先生も、イギリスに行って高熱が3回。ずっと体調がすっきりせず、あらためて太陽の大切さを感じているとのことでした。周りから強く勧められビタミンDのサプリメントを飲んでいます。

なおイギリスではサプリは身近なもので、ストレスを軽減するお茶なども一般的。みんな自分の体調を整えるためにサプリやお茶を飲んだり、メンタルサポートが公共サービスとしてあったり、健康を維持するシステムは日本より手厚いようです。

一方ケニアには、健康に暮らすための工夫は特になく、ケニアの人たちは体調を崩すこと自体をそんなに気にしていないようだ、と山本先生。

ンジウの近くの病院は木曜午後から翌週火曜まで医師がいないなんてこともざらで、山本先生が体調が悪く病院に行ったら「来週の火曜日までドクターは来ないよ」と言われて諦めたことも。その時は日本から持っていった薬を飲み、ただただ耐えたそうです。

それを聞いて、山上先生も「日本の医療のありがたさを感じる!」と。イギリスにも公的な国民保健サービス(NHS)はありますが、山上先生が高熱が出た時に電話して診てもらえるか聞くと「2ヶ月待ち」と言われたとか。子どもが熱を出して病院に連れて行ったが18時間待たされた、という同僚の方のエピソードも紹介してくれました。

海外に出たからこそ見えた自分

「休む時は休む」という文化が根付いているイギリスの人たちに対して、山上先生は休みの日も仕事や勉強をしてしまうタイプ。日本ではあまり気にしたことはなかった自分の時間の使い方に気付き、周りを見習って週末は仕事しないと決めて2週間ぐらい試してみましたが、かえって具合が悪くなりそうだったのでやめたそうです(笑)。

働き方は、ケニアと日本にも違いがあるようです。ケニアの人たちは時間になっても来ないのが普通で、「雨が降ってるから遅れて行こう」「もう行かない」は良くあること。山本先生は最初はそれに合わせようか悩みましたが、山上先生と同じく自分の価値観を貫くことに。ジャパニーズスタイルのオンタイム(時間通り)で2年間やり切りました。

先生が授業の開始時間にクラスに行くのが当たり前ではなく、生徒が自習となる時間も多いケニア。生徒の学ぶ時間を大切にすべきと考える山本先生は、勤務していた高校の先生たちにも時間を守るよう厳しく言い続けました。その結果、赴任の終わりにもらったフィードバックには「strict」と「serious」というワードがたくさんあったそうです。

ちなみにケニアの「時間通りに始まらない」レベルは10分や20分ではないそうで・・・例えば9時開始で予定されているイベントが実際に始まるのは12時くらい。その分終わるのも後ろ倒し。山本先生も、授業以外のルーズさには順応したようで「日本に帰って大丈夫か心配。僕が12時ぐらいに出勤したら注意してください・笑」と話していました。

海外に行くと必ずと言っていいほど体験する価値観の違い、擦り合わせた方がいいものもあるし、違うものとして認め合う場合もある、というお二人の経験談でした。

外から見える日本と新陽高校

トークは「時間」の話から「評価」に関する話へ。

イギリスも時間にはそこまで厳しくない、と話す山上先生によると、少なくとも大学では、かけた時間や出席していることよりもパフォーマンスやアウトカムが重視されるとのこと。逆に言えば、良いパフォーマンスをするために準備に時間を取ったり余裕をもって動いたりするため、結果として設定の時間に遅れることが珍しくないのかもしれません。

なお、大学院ではライティングのアサインメント(課題)だけで成績がつくそうです。極端な話、一度も授業に出ていなくてもライティングが良ければ良い成績がとれます。

かたやケニアでは、大学入試に推薦試験や総合型入試はなく、日本の共通テストのような全国一斉の(11月に1ヶ月かけて高校に行っている生徒全員が受ける)ペーパーテストのみで評価されます。

この全国テストの結果でAから順に成績が付き、大学に行けるのはC+以上。成績上位者は、お金がある家庭でそれなりの教育を受けられた子がほとんどで、貧富の差がそのまま教育の差となり将来に影響します。貧しい家に生まれたら抜け出すのは難しいケニアの現実を、山本先生は痛感したそうです。

新陽高校の学びを外から見て、生徒へ伝えたいこと

新陽の単位制カリキュラムを2年半経験した山上先生からは、好きを極めて!

「学びのビュッフェ」とも例えるように、好きなものを選べる教育課程。特に2年次以降、自分で自分の学びを決められることを活かして、やりたいことを突き詰めてほしい。尖ってて良いじゃないかという風潮が日本の大学や社会にも少しずつ広がってきている。今は実感できないかもしれないけど、大学に行ったり社会に出たりした時、突き進んでいけた価値を感じるだろうから、信じて進んでほしい、と話してくれました。

山本先生は、多様な学びがあること、選択肢があることは、めちゃくちゃ幸せなこと、自分が置かれている環境を活かして進んでいってほしい、と。

ケニアの人たちにとって、私たちが想像する以上に高校3年生で受ける全国共通テストが人生にそのまま影響する。ケニアに生まれていたら学力一本で決まっていたけど、日本にいて新陽に通っているみんなは、自分が掴もうと思ったら他の国や他の学校ではできない経験ができると教えてくれました。

最後に、山上先生から「コンフォートゾーンから抜けて初めて気づくこともあるし、自分が置かれたありがたみも分かる。だから旅行でもいい、外に出ましょう!」と生徒たちにメッセージをもらって、多様性鼎談を終了しました。

【編集後記】
山本先生と山上先生お二人のお話を聞いた生徒たち。「国によって医療や文化の違いがあまりに大きくてびっくりした」「気候や環境が体調や生活に影響を与えると知った」「海外に興味があったので面白かった。もっと聞きたい」など様々な声が聞かれました。また、山上先生には「大好き!」「がんばって!」などの応援メッセージも送られました。画面越しでも本気で挑戦する先生たちの姿は生徒に伝わったようです。私たち教職員も、お二人の話に刺激を受け、励まされました!


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