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アイヌがテーマのPBLに挑戦した新陽の生徒と先生たち 【週刊新陽 #31】

先日、ウポポイへ行ってきました!

ウポポイ(民族共生象徴空間)は昨年白老町にオープンした、アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターです。

アイヌ文化を振興するための施設であるだけでなく、『我が国の貴重な文化』であるアイヌ文化を復興・発展させる拠点として、また、先住民族の尊厳を尊重し『差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会』を築いていくための象徴として位置づけられています。

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国立アイヌ民族博物館の展示や様々な体験プログラムなどからアイヌについて学ぶことができました。

この日は薄曇りの穏やかな天気で、ポロト湖(アイヌ語で「大きな沼」)に映る紅葉がとても美しく、ベンチに座って眺めながら、しばし伝統芸能の歌や踊りの余韻に浸りました。

「アイヌ×〇〇=?」

新陽高校では今年度、1学年全員と2学年探究コースの総勢264名の生徒が、アイヌ文化をテーマにしたPBL(Project-Based Learning)を実施しました。

期間は3ヶ月。
全員、全教科で。
インプット学習とアウトプット学習の2部構成。

新陽では、PBLを『答えがたった一つではない問題を、仲間と協働して解決に導くプロジェクト』と考えています。この『正解が一つとは限らない問い』を生徒たちが立て、調べたり、考えたり、作ったりしながら、自分たちなりの『解』を導きます。

探究コースでは繰り返されてきたPBLですが、コースを超えて一つのテーマで、そして全ての教科で取り組むのは本校で初めてです。

総合コース・田渕先生&櫻庭先生、進学コース・山本先生、探究コース・細川先生というコアメンバーを中心に多くの先生が関わる大規模なプロジェクトになりました。

そして細川先生が、最初の授業で生徒たちに伝えた言葉がこちら。

慣れない学習方法で戸惑うことも、上手くいかないことも多々あると思います。ただ、このPBLで身に付く資質・能力は、みなさんが社会に出たときに必ず役立つスキルです。
失敗覚悟でこの3ヶ月、本気で挑戦し、自ら道を拓きましょう。

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細川先生は昨年、探究コース2学年(現3年生)でアイヌPBLを実践。生徒が今年の1年生が着るYOSAKOIの法被にアイヌ文様をデザインするなど、様々なアウトプットが生まれました。

今年も「歴史」「風習」「食」「言葉」「建築」など多様な切り口で「アイヌ×〇〇」の学びが展開したようです。

学びの成果を全員が発表

10月27日は、約3ヶ月の学習の集大成を披露する成果発表会の日です。

それぞれのコースで学習を進めてきた生徒たちは、全部で54チーム。

まず午前中は、コースをシャッフルした部屋割りで、すべてのチームがプレゼンを行っていました。1年生同士とはいえ、コースが違えば普段まったく交流がない生徒を前に発表し、質疑応答するのはなかなかのプレッシャー。

各教室、いつもとは違う緊張感がありましたが(先生たちも少し緊張気味でしたね)、それでも各チームしっかりとプレゼンし、質問にも自分たちの言葉で答えていて立派でした。

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午後は各クラス代表の8チームが、全員の前でプレゼン。探究コースの3年生も加わり体育館で見守る中、スライドに高度なアニメーションが組み込まれていたり、パフォーマンスが凝っていたり、中身はもちろんのことプレゼンにも個性が溢れていました。

それぞれテーマ設定やアウトプットに、コースごとの特徴がなんとなく見られたのも興味深かったです。

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北海道の先住民族であるアイヌ民族の歴史や文化を通して、生徒一人ひとりが「多様性」への理解を深めること、それが今回のPBLの目的です。

・多文化共生という視点で、言葉の持つ伝える力に着目したチーム
・立場が違うと歴史の見え方が違うことから、問いを立てたチーム
・逆に、違うものを比較し、その共通性から仮説検証しようとしたチーム

などなど、多様性への取り組み方も様々で、同じアイヌというテーマでも一つとして同じ『解』がないことを皆で確認できました。

ちなみに、午前も午後も、プレゼンが終わるたびに生徒たちはパソコンを開き、一斉にタイピングを始めます。

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何をやっているかというと、今聞いたプレゼンについてのフィードバック。

「プレゼンテーションの完成度」「発表の仕方」「アイヌ民族のとの関連性・文化・歴史とそれに対する調べ度合い・準備について」の3観点での5段階評価と、自由記述式の感想をフォームに入力しているのです。

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後で集計したシートを見せてもらうと、プレゼンについての感想だったり、内容についての賞賛や改善提案など、かなりしっかり書き込んでありました。

成果発表会自体がさらなる学びの場になっていて、プレゼンする側も聴く側も、ここでまた一歩先へ進んだのだろうな、と感じました。

PBLを支えた先生たちの学び

前述の通り、学年全体且つ全教科横断というPBLは初の取り組みで、先生たちも大きな挑戦だったと思います。

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チームワークよくプロジェクトを進めてくれていた先生たちに「印象に残ったこと」を聞いてみました。アンケート回答をご紹介します。

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グループごとで活動している際は、班ごとに進め方も異なるので、口出ししたくてたまらなくなる。しかし成果報告会では、じっくり話し合いを深められたか否かを彼ら自身が痛感していたように感じました。
生徒同士で違和感を感じる瞬間があったかと思うが、その「気づき」を与えられたことが、今回の学習で有効だったことであると感じました。

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アイヌという非常に難しいテーマでPBLをすることに、正直かなり厳しいと思っていました。しかし、自分が想像していたよりも生徒が積極的に調べてスライド、ポスターを完成させ、大勢の前で堂々と発表することができる姿を見て、入学してから大きく成長したと感じることができました。

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「アイヌの人たちを自分たちのアウトプットで傷つけたらどうしよう」と活動に参加できない生徒がいたが、そのあとアイヌの魅力を学び、アイヌ=差別ではなく、アイヌ=素敵な文化と捉えて、楽しくアウトプットしている姿が印象的でした。

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授業の冒頭で、「アイヌ文様の刺繍は、かつて女性が結婚を決めた男性に贈っていたもの。大切な人を想って一つひとつ手縫いしていた。」というエピソードを話しました。その印象が強かったようで、生徒たちは完成したものを「おばあちゃんにプレゼントしても良いですか?」「妹のために作ってあげても良いですか?」等、大切な人のために作っている様子が多く見られました。

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オンラインで砂澤ビッキさんについての授業で、作品ができた経緯をビッキさんの人生を踏まえて解説しました。生い立ちから出会った人物、住んだ場所、旅をした土地などから刺激や影響を強く受けていること、アイヌ文化のみならず、環太平洋にわたる文化の精神性に近いことなどを説明すると、とても興味深く感じたようで、zoomの画面からも食いつきの良い眼差しを向けてくれました。

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2年生との合同だったので、リーダーシップ、プロジェクトの進め方などを中心にたくさんの刺激を受けているように見えました。一方で、進めていく中でギクシャクしたり、うまく協働できなくなっている部分が出たりもしていました。効率を求めて分担作業になっているチームもチラホラ…。あえて声がけせず『協働』の意味をフィードバックコメントに残すようにしました。

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アイヌにおける差別問題についてメディアの取り上げ方とアイヌ当事者の意見を提示して生徒に自由に考えてもらいました。答えのない問いに対してモヤモヤしていました。全くワークシートが埋まらず唸っている様子。困って周りの生徒の意見を見にいく様子が興味深かったです。

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アイヌを調べるとなった時に、同じようなテーマの調べ学習で止まってしまうグループが複数ありました。教員が介入してモチベートしようと思っても、「この程度で良いや」という感覚が拭い去れない生徒も。生徒が主体的に学ぶきっかけづくりを私たち教員が意図的に作らないとならないことを痛感しました。

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以上は、ほんの一部です。本当は、ぜんぶ紹介したいほど一人ひとりとても丁寧に振り返ってくれたコメントがあり、今回のPBLが先生にとっても貴重な経験となったことが伺えました。

【編集後記】
新陽高校の前身・札幌慈恵女子高校が創設された当時、教鞭を取っていた田村(旧姓:福田)すゞ子さんは、アイヌ語およびバスク語を専門とする言語学者でした。アイヌ語教育の草分け的存在で、その後、早稲田大学で教育研究を行い、名誉教授にまでなっています。
今も新陽には、アイヌに触れ学ぶ伝統が息づいています。


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