映画制作に本気で挑戦〜『叫びたいくらい青色の、』完成記念インタビュー 【週刊新陽 #84】
NPO法人映画甲子園が主催する全国の高校生の自主制作映画コンクールeiga worldcup 2022に、新陽高校の生徒が制作した映画『叫びたいくらい青色の、』が出品されました。
今週の『週刊新陽』は、この映画の企画・監督・脚本そして主演を務めた新陽3年生の今井柊斗さんロングインタビュー。
ぜひお読みいただいたあとに、映画予告編、そして本編をご覧ください!
静かでせつなくて、爽やかであたたかい。
終わったあとに心地よい余韻の残る映画です。
きっかけは、自分のための映画
--今井くんは俳優志望ですよね。今回なぜ自分で制作しようと思ったのでしょうか。
俳優という小学校の時からの夢に向かって進む中で、自分をプロモーションできる作品がないことが不安でした。演じている経験が足りない、ならば演じる場を自分で作ろう、というのが始まりです。
それから、制作側を体験してみたい気持ちもありました。昨年の映画甲子園の最優秀作品『今日も明日も負け犬。』を観たときのショックが大きくて。同じ高校生なのになんで自分は映画を作っていないんだろうと、行動に移せてない自分がすごく悔しかったんです。
-- 制作と主演、やってみてどうでしたか?
演じるのがとても楽しくて、やっぱり自分は演じるのが好きなんだと分かりました。
それから、誰かが監督や脚本をやってくれて演じることに集中できるのはどんなに幸せなことか、と実感しました。制作しながら、どんどん変わる状況に合わせて脚本を書き直したり、キャストのスケジュール調整やロケ地の手配をしたり、考えることややることが多すぎて役に集中できない時もあったので。他の出演者たちは演技だけできていいなと思ってました(笑)。
ただ、自分の想いを映画にする楽しさは演じるのとは別の喜びがあることが分かったので、実は2本目の映画を撮りたいと考えて脚本を書き始めています。
高校生で作る。高校生だから作れる。
-- 『叫びたいくらい青色の、』は高校生たちの青春群像劇ですね。このアイデアはどのように生まれたのですか?
最終的に様々な恋愛を描いた44分の映画になりましたが、実は最初の構想は全く違いました。青春ムービーというよりはもっとセンシティブな短編映画の予定だったんです。
主題歌はどうしようか、と考えていた時に、札幌の高校生バンド・ブラメア(平岡高校軽音楽部)の曲を聴いて、これだ!と。
直接の知り合いではなかったのでまずインスタをフォローして、そこから連絡取るようになって、仲良くなってからようやく「自分で映画撮ってて、主題歌に使わせてもらいたいんだけど・・・」と言ったら即OKをくれ、すぐにデモ音源が届きました。
ポップで爽やかな曲のわりにパワフルな歌詞と歌声がすごく印象的で。
同じ時代に同じ地域で高校生やってるのに違う青春を味わっているんだな、と思ったら、主人公だけじゃない色々な物語を描きたくなりました。もしかすると、新陽で多様性について聞いたり考えたりすることも影響しているかもしれません。
ただ、ジェンダーをメインテーマにする映画も多い中、自分たちはどれも「色々ある恋愛の一つ」として扱いたかった。様々な恋愛のあり方を、僕たちなりに表現したかったんです。
-- 色々なキャラクターが登場するのも、この映画の魅力だと感じました。
「多様性という名の普通の物語」にしたいと考えていました。
ただ、キャストを集めるのには苦労しました。「出るよ」と言ってくれた友だち数名で撮るしかないと、当初は15分くらいにおさまる映画の脚本を書いていました。
そんなとき、劇団フルーツバスケットの団員の一人が連絡をくれたんです。ブラメアを通じて僕たちを知ってくれたとのことでした。しかも、その子がこの企画を劇団の他の子たちに話したところ、10名近くが「参加したい」と言って来てくれて。せっかくだから全員出てもらおうとオーディションをして役を決めていきました。
一方、規模が大きくなるにつれて、大変なことになってきたな・・・とも。出演者が多いと日程調整も一苦労。高校生って結構忙しくて、撮れるところから撮っていったり、来られるメンバーに合わせて脚本を書き直したり。結局、脚本が完成したのは撮り終わった時、でしたね(笑)。
企画を作ったのが3月で、最初の脚本は4月に書いて、札幌はGWまで雪が残っているので6月から9月に撮影、10月に出品、というスケジュールを組んでいました。でも7・8月は学校祭や部活が忙しくて、コロナもあって何も進まなかったので、9月に入って部活を引退してから一気に撮りました。
毎週末撮影して、編集して、脚本書き直して・・・バイトもしながらだったので最後の方は睡眠2〜3時間の日が続きました。こんな撮り方、体力的にも精神的にも、きっと高校生じゃなかったらやらないですね(笑)。
--今回、札幌の高校生で作ることにこだわったんですよね?
主題歌や出演者のほか、助監督も撮影も札幌の高校生です。撮影の(河瀬)翔太は、コースは違うけど中学生の時に新陽のオープンスクールに参加した時から知り合いで、カメラマン志望で学校のイベントの撮影もやっていたので最初はポスター用のスチールを撮ってもらおうと思って声をかけました。
どんな映画か話しているうちに共感してくれて、気合入れて本格的な機材を持ってきたので、本編も撮ってよ、という話に。映像(動画)は初めてだったらしいのですが、翔太の撮り方は独特というか、独学のテクニックやセンスが良いんですよね。
撮っているうちに翔太がどんどん上手くなっていくのもあって、映画の規模も大きくなっていきました。
何気ない日常にあるもの
-- 高校生だから、という点で言うと、コロナ前とコロナ禍での日常は今の高校生にしか分からないのかなと思いましたが、意識しましたか?
最初、企画を考えた時にコロナの概念はありませんでした。そういうのと関係なく誰かを好きになる気持ちをストレートに描こうと思っていたからです。
でも書いているうちに、コロナ禍で当たり前だった日常が当たり前じゃなくなり、マスクをつけたり修学旅行に行けなかったり、そういう自分たちが経験したことを入れないのは不自然だと感じて。撮影のことだけ考えると、マスクしてると音声が録りづらいので無い方がいいんですけどね。
この先、コロナがあけたら明るい未来があるかもしれないし、あるいはもっと酷い日常が待っているかもしれない。でも、これからの希望も含めてコロナ禍の日常を描こう、と思いました。
タイトルにある「、」は終わりじゃなくて通過点。続いていく日常を表現しています。
-- コロナというパンデミックの中だけど、ドラマチックというよりは物語が淡々と進んでいく印象がありました。
地味だけど愛おしい、何気ない日常の物語にしようと思いました。
だから万人受けするような起承転結がはっきりしたストーリーではなく、複数の人間の日常や恋愛を同時に走らせて観てる方がそのシーンの前後を想像してくれるといいな、と。たとえば最初のシーンもそうですし、場面転換の時も会話の途中から始まるような脚本にしました。(インタビューではもっと詳しい場面ごとの解説が今井くんからあったのですが、ネタバレになるので書きません。ぜひ映画を観てどのシーンの話か想像してみてください!)
何気ない人の何気ない一言で自分の心が動くことってあるじゃないですか。言った方はなにも考えていないけど言われた方は響くとか、偶然その場に居ただけなのが後に大きな出会いになるみたいな。生きているとそういうことって意外と多くて、それを入れたり、逆に伏線のようでいて結局回収しなかったり。
-- かなり意図的にシーンが作られていたんですね!(ごめん・・・笑)
はい、一応いろいろ考えてます(笑)
なるべくリアルを追求したかったので、ラーメン屋さんやカラオケ店もロケ地交渉して許可をいただいて撮りました。高校生が作った映画というと学校でのシーンを思い浮かべるかもしれませんが、行事などハレの日の青春じゃなく日常なら学校外も欠かせないんで。
ラーメン屋は父と一緒に行っていたお店が絶対いい!と、まず助監督と2人で食べに行って。様子を伺いながら「実は映画を撮っていて・・・」と切り出したら、「空いている時間ならいいよ。」と貸し切ってくださいました。
カラオケ店も「撮影での利用、応相談。」とあったので聞いてみたら、そう書いてあっても依頼されることはほぼなかったようで、珍しがって快諾してもらえました(笑)。皆さんの協力なくしては撮れなかったシーンばかりで、本当に人に恵まれたと感謝しています。
校内でのシーンも先生たちが協力してくれました。担任の中澤先生は撮影場所の確保や許可を取ってくれたり、星先生が急な出演依頼に応えてくれたり、新陽じゃなかったら作れなかったと思います。
映画を撮ること自体許されないような高校もあるのに、新陽はTikTokで宣伝までしてくれるんですから・・・こんな高校無いです(笑)。
「平凡な日々のまま大人になるー。」
-- 映画甲子園に出品するという目標は達成しました。これから、この映画がどうなったらよいですか?
最初は"自分のため"に作ろうとして、仲間たちと制作するにつれて"自分たちのため"の映画になっていきました。ただ、作っている時はそこまで。「この映画が誰かに届く」なんて考える余裕も自信もなかったので。
正直に言うと、制作しながら規模がどんどん大きくなるにつれて不安も大きくなって。映画甲子園に応募する前にSNSでプロモーションしている映画はうちしかなかったので、こんなに宣伝しちゃって大丈夫かな・・・みたいな。
出品する前日もまったく眠れなかったんです。自分たちが作ったものを人に届けていいんだろうか、と足がすくむような感覚でした。
それが、完成して、家族や友達を越えて色々な方に観ていただき感想を受け取るのに伴って、制作した意味を自分なりに考え始めました。
『今日も明日も負け犬。』を観て制作者にダイレクトメール(DM)をしたのが1年前。今度は、自分が色々な方からDMをもらうようになっています。
憧れの俳優さんたちのようになりたくて、表現者としての自分の幅を広げたくて始めたことが誰かに届いている。こんな自分でも何かを人に与えられているのかもしれない、と思いました。できればもっと多くの人に届いてほしい。特に同世代の人に観ていただきたいです!
それから、実はもっと描きたかった部分があって、でもそれを入れたら90分くらいの長編映画になってしまうので(映画甲子園は45分以内というルールあり)泣く泣くカットしました。いつか90分バージョンも編集して公開したいですね。
-- 最後に、今井くんのこれからについて教えてください。
この経験を俳優である自分の糧にして、表現者として成長していけるようこれからも挑戦していきます。
同時に制作にも興味が湧いてきました。きっと、その時にしか書けないもの、撮れないもの、演じられないものがあるんじゃないかって思うんです。これからも、届けたい想いがなくなるまで永遠に作り続けたいです。
今回の作品、自分たちなりに分析してダメだったところや課題は感じています。知識もないし経験もないから怖いものもなくて無茶できて、撮れた初々しさとか生ぬるさもあると思います。きっといつかこの作品を恥ずかしく思う時も来るんだろうな、と。でも、このデビュー作を愛し続けたいです。
ポスターに入れた『平凡な日々のまま大人になるー。』というサブタイトルは僕自身のことでもあります。
ありきたりですけど、この半年は「青春!」でした。特別な数ヶ月間という日常だった。だからこそ、これから自分が大人になっていくなかで平凡な日常を大切にし続けたい、と思っています。
本編動画URL: https://youtu.be/NPGoc6O2XAg
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