Kawaiiとは哲学である 【週刊新陽 #62】
6月に入り、春から夏へ季節が変わるのを感じますね。
札幌は5月後半に27℃を超える夏日になったかと思ったら、最近は最低気温が10℃程度の肌寒い日が続いています。
寒暖差が激しく体調も崩しやすいこの時期、皆さま、くれぐれもご自愛ください。
Kawaiiと多様性
6月2日(木)の全校集会で、今年度最初の『多様性対談』を行いました。
この対談は、ゲストの多様な価値観や生き方を通していろいろな視点から「多様性とは何か」を考え、新陽高校が掲げるビジョン2030『人物多様性』を実現していこうと、昨年度から始めたものです。
毎回おもしろい大人たちに出ていただき私がお話を聞くスタイルなのですが、今回はアーティスト/アートディレクターの増田セバスチャンさんが登場!
今年ニューヨーク(NY)へ移住し東京と2拠点生活をしているセバスチャンさんと、アシスタントのMikaさん@東京、そして札幌の3拠点をつないだオンライン集会となりました。
「高校時代の自分は、ある意味落ちこぼれだった。将来について悩んで、いろいろやろうとするけどうまくいかなくて悶々とした10代。」
という自己紹介のあと、
「みんな、将来どうしよう、未来はどうなるんだろう…と考える時期だと思う。自分もここまで順風満帆だったわけではなく、むしろいろいろな失敗を繰り返しながらここまで来ました。今日は多様性をテーマに、自分はどういうふうにアーティストになっていったかお話します。」
とプレゼンがスタート。
セバスチャンさんはこれまで、東京・原宿を拠点に世界へメッセージを発信してきました。
ファッションブランド「6%DOKIDOKI」をオープンしたのは1995年、25歳の時だったそうです。それ以降、様々な広告デザインや、きゃりーぱみゅぱみゅさんのMVプロデュース、サンリオピューロランドの25周年ビジュアル&パレードのアートディレクションなど、クライアントワーク(発注者の依頼に従ってデザインを作る)を数多く手掛ける一方で、自分のアート作品も制作し続けています。
活動の範囲は一見バラバラ。でも、これら多様な活動はすべて「Kawaii」でつながっている。自分では一つのことをやっているつもり。と言います。
アーティストとは、『アートを通して自分のメッセージを発信し世の中を変えていくもの』。作品を作るだけではなく伝えたいメッセージを発信すること、そしてそれによって世界を変えたり時代が作られていくもの、というお話をしてくださいました。
戦後の少女文化から発展した「かわいい」は、1990年代に原宿ファッションとの接続で「カワイイ」として確立。2000年代以降はインターネットの普及により海外と繋がり「Kawaii」というカルチャーが広がったそうです。
そして2020年、コロナ禍で各国がロックダウンしている中、セバスチャンさんはKawaiiのファンコミュニティとのオンラインセッションを開催。
様々な地域のKawaiiコミュニティとつながるうちに、Kawaiiがファッションにとどまらず、心の拠り所やエネルギーを与えてくれるものになっていること、そして人種・宗教・年齢・性別・国境などあらゆるボーダー(境界線)を飛び越えて繋がることができる存在になっていることを実感。そこでは、多様性の中でどうやってコミュニケーションできるかがテーマとなっていました。
セバスチャンさんが定義するKawaiiとは
セバスチャンさんの作品はとてもカラフルで個性的なのでひと目ですぐに分かりますが、実はカラフルであるかどうかは問題ではないそうです。
自分がかわいいと思えば全てかわいい!そういう、誰にも邪魔されない世界を持つこと、なにかを好きであることが心の支えになるという哲学。
そしてお互いの小宇宙を許容することがKawaiiの力であり、Kawaiiは平和のアクションである。それが、セバスチャンさんが自分のアート作品を通して発信したいメッセージです。
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最近のお話が大部分を占めたのですが、もっと時間があれば生徒たちにも聞いてほしかったセバスチャンさんのここまでのストーリー。『世界でKawaiiムーブメントが起こる、ちょっと前のお話。(増田セバスチャンインタビュー)』を読むと分かります▼
そして、それよりもっと前、幼少の頃から青春時代の壮絶な半生を知りたい方は、著書「家系図カッター」をぜひお読みください!
経験をエネルギーに
セバスチャンさんのお話を聞いたあと、私からいくつか質問させていただきました。
--Kawaiiはファッションにとどまらず文化であり哲学であるという考えは、どうやって行き着いたのですか?
最初は好きでかわいいものを作っていただけで、必ずしもそれに共感してくれる人が多いわけではなかったんです。でも表現していると「実は自分もKawaiiが好き」と言ってくれる人が出てきました。Kawaiiは力があるものなんだな、と感じるようになり、作品作りの核になっていきました。
たとえば、派手なファッションやポップカルチャーが好きでも周りの目が気になって自分の思うファッションができないでいる子がいます。
でも僕のような大人が「Kawaiiが好きでいいじゃない!男性でも好きでいいでしょ!?」というスタンスを明確にしたことで、「自分も言いやすくなった。」とか「好きでいいんだと思えた!」などのリアクションが多かったのは嬉しかったですね。
--たしかに、自己表現するのは勇気がいりますね。
実は、Kawaiiに関して言うと、特に海外では難しかったと思います。かわいい/カワイイの歴史や文化がベースにある日本と違って、Kawaiiファッションで外を歩くのはとても勇気がいること。周りからすると見たことのないものが急に現れるので、異質なものとして目立ってしまい、街を歩いていて暴行を受ける危険があるような国も。
でも逆に、ファッションだけでなく精神性やカルチャーとして存在することで、すごいと思われるものになり得るのがKawaiiなんです。
海外では、日本のもの、特にアニメやマンガは非常に人気があって、その中でやたらと出てくる「Kawaii」というフレーズがどうやらポジティブな言葉らしい、と認識されています。そして、日本のポップカルチャーをリスペクトする言葉として定着しているんです。
--話は変わりますが、"自由に作るアート作品"と"クライアントの発注を受けて制作するもの"とで、ものづくりにおける違いはありますか。
クライアント企業の商品づくりでは、企業の方からニーズを聞きながら、より多くの人に届くにはどうしたらいいか、を第一に考えてデザインします。商品を通して多くの人にハッピーになってもらいたい、というのがクライアントが僕に発注してくださる目的だと思うからです。
一方、アートはKawaiiが持っている哲学・メッセージをどう届けるかに終始します。だから時にはKawaiiから一見ほど遠い表現を使うこともあります。
それから、アートは基本的に一人で作りますが、クライアントから発注される商品は企業の方々とコミュニケーションしながらチームとなって完成させていくのが基本です。
人と人が一緒にモノづくりをしていくのがチームワーク。良いチームワークを築くには、いろいろな人と会って、話をして、いろいろな経験をすることが大事だと思っています。
--今日はNYからありがとうございました!最後に生徒たちへメッセージをお願いします。
自分の高校時代は、学校やテレビによって成功の形や大人になった時の型があり、その枠にハマれない人がいました。自分もその一人だった。だから、一人ひとり違うことが当たり前で、全員に可能性がある新しい時代を生きている皆さんが羨ましいです。
10代、20代では形にならなくてもいいんです。人生は長いからいつでもチャレンジできます。自分は50代になって初めてNYに移住して、新しい挑戦をしています。
こういう時代だから、考え過ぎずにとにかく色々なことを経験して、その経験をエネルギーに変えていってください。未来を見てハッピーに生きていってほしいです!