ルールと約束。本質的な対話のちから 【週刊新陽 #149】
今年の2年次冬季スポーツ学習は札幌国際スキー場でした。スキーかスノーボードか選んで、日帰りでの活動を2回行います。
さすが道産子、プロ並みの生徒もいれば、初めてスキーに挑戦したり高校2年になってスノーボードに乗り換えたりする生徒も。教員やインストラクターさんに指導を受け、初心者でも2日目を終える頃にはずいぶん滑れるようになります。
2月21日(水)、今シーズン最後のゲレンデでの授業を終えました。道路の雪もだいぶ解けてきて北海道の長い冬も残りわずか・・・と思ったら、また寒波が来て吹雪に。春はもう少し先のようです。
校則を見直し続ける
2月20日(火)、年明け初の『中つ火を囲む会(通称:中つ火)』を実施しました。今回の対話テーマは「校則が変わったことで生徒と先生に起きた変化」、裏テーマは「生徒の自律を促す教員」です。
新陽高校は2022年4月から学校生活規則というルールに則っています。
スクールビジョン『人物多様性』の実現に向けて、「新陽の多様な生徒および教職員がお互いに自由かつ安心安全に学校生活を送る」ことを目的に、生徒自身が考えて行動し、自律していくことを目指しています。
この規則には、見直しについての記述があります。
ルールは守るもの、と同時に変えて良いもの、という前提を規則の中にしっかりと置いておくことが大事だと考えたからです。
見直しはいつしても良いし、生徒からも教員からも声を上げることができるようにしていますが、先月、学校生活規則リフレクションと題して全校生徒と教員にアンケートを取りました。
変化についてのリフレクション
「学校生活規則の中で追加・削除・修正すべきところはありますか」という問いに、生徒(回答率54%)の96%が「ない」と答えている一方で、自由コメントや生徒会役員の生徒に直接聞いてみると「マナーが悪い生徒がいるのは気になる」「多様性を尊重というより乱用している気がする」という意見もあり、もっと厳しいルールにした方がいいのでは、と考える生徒もいるようでした。
ただ、それはルールで解決すべき課題なのだろうか、校則とは別問題かも・・・という意見もあったようです。
正直なところ教員も、モラル・マナーの指導などについて「たった一つの正解」はなく、日々悩みながら生徒と関わっています。
そこで今月の中つ火で、先生たちが抱えるモヤモヤの共有や知見の伝達などができたらよいと考え、メインファシリテーターの熊平美香さんと相談して、4つの問いで対話を深めていくことになりました。
特に対話が深まったと感じたのは「問い3:変化のリフレクション」。意見・経験・感情・価値観の4点で、「校則改定が先生と生徒の関係性を変えたかどうか」を個人で振り返った後、グループで話し合いました。
意見としては「変わった」「変わらない」どちらもあり、さらに変化の中でも
・会話の質が変わった
・ネガティブなコミュニケーションが減った
・ポジティブなコミュニケーションが増えた
・距離が近くなった気がする
・意識的にコミュニケーションを取るようにしている(規則違反を指導するというコミュニケーションが減った分、会話を増やす)
・生徒が自分を表現しやすくなり教員はそれを認められるようになった
・こんな一面があったんだ、と気付いた
と良い変化を感じている意見も多い一方で、関わり方が難しくなった、明確な基準がなく指導しづらい、など苦労しているという素直な声も出ました。
そして、この意見の元となる経験や感情を通して見えてきた先生たちが大切にしている価値観は以下の通り。
・一人ひとりと向き合うことが大事
・生徒の想いや個性を尊重した関係構築が重要
・生徒と教員である前に人と人として向き合う
・本質的な対話をしたい
・自分で考えられるようになってほしい
・自由と責任を学んでほしい
・生徒が社会に出て生きていけるように
どの先生も、目の前にいる生徒を大切にし、将来に向けて自律を促したいという願いを持っているのをあらためて感じました。そして、だからこそジレンマや葛藤があるんだな、と。
校則の見直しと同様、この対話に終わりはありません。熊平さんからは、今後のために「生徒に守ってほしい判断基準とは」や「教員の関与の仕方における見守りから介入の移行のライン」など更なる問いのサンプルや事例が示され、最後に、オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の『ルールと約束』について紹介いただきました。
最後の問い「今後のアクション」のJamboardにも、「生徒と中つ火」「生徒と一緒に考える」「対話を重ねる」といった付箋がたくさんありました。これからもっと、生徒と本質的な対話を重ねていけるといいなと思います。
外から見る「中つ火」
最近、中つ火を視察したいという依頼が増え、今月は大阪と御殿場から高校の先生など計9名のお客様をお迎えしました。
視察で来た方も中つ火は参加が必須。オブザーブはお断りしています。会が始まると、ゲストは一人ずつ散らばって新陽の先生が3〜4人いるグループに入っていただきます。
説明するより体感してもらう方が分かるというゲスト向けの理由もありつつ、他校や学校外の方との対話を通して新陽の先生がメタ認知したり新しい視点を持ったりする機会となっているとも感じます。
中つ火が終わった後のゲストの皆さんからの反応は・・・
「めちゃくちゃ楽しかった!やる前は2時間半も…と思ってたんですが、あっという間でむしろ時間が足りませんでした。もっと話したい。」
「地域や学校が違っても悩みや感じていることは共通だと分かって安心しました。たくさんヒントをもらいました!」
「意見を言って良い、という心理的安全性を感じました。不安も正直に話せる職員室って良いですね。」
「新陽の先生の対話力が高い!論理的で、感情を脇に置いて相手の意見を聴いているし自分の視点と俯瞰した視点の両方を持って対話している。」
「1つ目の問いからフルスロットルで、えー!準備運動無しでいきなり世界大会に参加しちゃった!感じでした(笑)。それを当たり前にやっているのがすごい。」
あらためて外部からのフィードバックを受けて思ったのは、3年やってきて新陽の先生に対話のスキルが身に付いていること。
例えば中つ火ではお馴染みの4点セット。今ではみんな「意見」「経験」「感情」「価値観」に分けてリフレクションしていますが、最初の頃は意見と価値観が混ざってしまったり感情が言葉にならなかったりしました。やがて一人ひとり違うメンタルモデルを持っていることを前提に互いの意見を聴くようになり、対話の質が変わったように思います。
一方で、対話のスキルが上がったからこそ、意見がはっきりとぶつかることも増えてきました。意見の対立を乗り越え、共創的な対話へ。私たちの挑戦は続きます。
ちなみに、中つ火の日は生徒は午前授業で部活無し、教員もノー残業デーで17時15分に終業、17時45分には完全退校です。
中つ火の余韻に浸ってそれぞれに感想を述べたり質問したりしていたゲストの方々ですが、17時45分が近づいた途端、急にデスクの上を片付けて続々と帰っていく新陽の先生たちを見てさらに驚いていました(笑)。