死ノ雨ニモマケズーー『ENDER LILIES』で白巫女と穢れと浄化の旅
雨。
ただでさえ憂鬱な気分を加速させる雫。そんな雨が”穢れ”ていたら。穢れに染まってしまったら。死ぬこともできず、狂気に飲み込まれてしまったら。今回は、そんなお話。
📃|『ENDER LILIES』は浄化と真実を知る旅
『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』は2021年1月22日にSteamでアーリーアクセス開始、2021年6月21日に正式リリースされ、ほぼ同時期にNintendoSwitch、Xboxでもリリース。少し遅れて2021年7月24日にはPlayStation4でもリリースされ、現行機ではどれでもプレイ可能となっている。ジャンルとしては2D探索型アクションゲーム、いわゆるメトロイドヴァニアに分類されるものとなっている。メディアによっては何度もゲームオーバーになって、繰り返しプレイをして攻略をするような高難易度アクションを指す「ソウルライク」という言葉もくっついてたりすることもある。2023年2月には、世界販売本数が100万本を超えたことが発表された。
物語の舞台は「果ての国」。平和な国に突如降り注ぐようになった「死の雨」によって住民たちは”穢れ”てしまい、異形で不死の存在である凶暴な生きる屍・”穢者”となってしまった。降り続く死の雨は、ついには国を滅ぼしてしまった。そんな中、とある教会で1人の少女・リリィが目覚め、傍らに立っていた黒衣の騎士と共に滅びた王国の謎を解き明かす旅に出ることになる。細かいストーリーは道中で拾うことができる手紙や書き遺した日記などをつなぎ合わせて、プレイヤーが推測していくような形式となる。
ちなみに、サブタイトルでもある「Quietus of the Knights」は「とどめの一撃」を意味する言葉で、穢者の浄化を示している。
開発はかつて『エストポリス伝記』や『ルーンファクトリー』シリーズに携わっていたネバーランドカンパニーのメンバーが立ち上げたLive Wireと様々な作品に携わっているAdglobe。販売はAdglobeと代表が同じBinary Haze Interactiveだが、かなりやり手の人らしく、インタビューを見てみると凄まじいバイタリティを感じる。
⚠|世界観はダークで、全体的に暗い話
高評価な作品ではあるが、本作は終始暗い雰囲気になっているため合わない人も少なくないと思われる。前述しているが、物語の舞台は死の雨によって滅びた国で、荒廃した世界を歩き回ることになる。異形の姿をした敵は、元々王国に住んでいた人々や騎士たちとなり、ゾンビだったり虫っぽい造形をしている。
作中で語られるストーリーも辛いものばかりで、それらを見るたびに「辛すぎ~」と口にしてしまうような感じ。感動的な話でもあるけども、道中は辛い話を目にすることが多いので、スカッとした話を求めてたりする人には向いていないかもしれないので注意して欲しい。また、視覚的にも暗い場面やビックリさせられる場面が多いので、ホラーが得意じゃないという人も気をつけて欲しい。
⭕|お手本のような快適なアクションとリプレイ性
アクションゲームで最も大事と言ってもいい操作性だが、本作はほぼ満点。攻撃方法はいくつか種類はあるが、初期装備はスピーディでスタイリッシュで使いやすく、序盤から気持ち良さを感じられる。敵の攻撃を避ける際に頻繁に使うことになる緊急回避は即座に発生するため非常に使いやすいし、他の操作性も含めて最後までストレスを感じさせないアクションは素晴らしい完成度を誇っている。
本作の特徴の1つは『ロックマン』のように、敵の持つ特性のスキルを手に入れ、それを利用して進めていくというシステム。最大6種類のスキルを装備することができ、プレイヤーによって構成に性格が出るような感じだ。
また、本作は高難易度の部類になっているため、道中やボス戦で死ぬことが多い。死んだあとはマップの各所にあるセーブポイントでもあるレストポイントに戻されるが、そこから再び操作可能になるまでは早いためサクサク死ねる。死ぬことが前提となっているためか、その辺の配慮がされており、レストポイントが数多く設定されていることに加えて、死んだときのデメリットが「レストポイントに戻されること」くらいしかない。ソウルライクの作品だと、死んだ地点に持っていたアイテムや経験値などがドロップし、再度戻って取り戻さないといけないというようなシステムがあったりするが、本作にはないので死んでも「まぁ、またあそこまで戻せばいいか」とストレスが溜まりにくくなっている。
メニュー画面からレストポイントに戻ることができる機能も地味に便利で、アイテムの回収だけを目的に移動したときなど、中途半端な位置から戻る際には大変助かった。もちろん、これにもデメリットはない。
⭕|親切なマップ表示とファストトラベル
本作の特に優れている部分だと思う。マップ表示自体はメトロイドヴァニアでは標準的にある機能だが、本作では各マップで取得できるアイテムが残っている場合は青色、全て取りきった際はオレンジ色に色付けされる。これより詳細なマップは無いが、一部を除いて大きなステージは無いので問題は無い。それらに加えて各マップに未開のルートの有無の表示があるため、そのマップを探索する際に「右上を目指せばいいんだな」とか、ある程度探索の目星がつけられるのも助かる。個人的には全体のマップをどんどんオレンジ色に埋めていく過程が好きで、新しいアクションができるようになって探索が完了したときに「埋まった!」という達成感が気持ちよかった。
また、レストポイント間を一気に移動できるファストトラベルは序盤から利用でき、程よい間隔で設置されたレストポイントはアイテム回収をする手間を結構軽減してくれるので嬉しいポイントだった。
⭕|世界観に合った、美しく儚い音楽
本作はピアノを基調とした音楽が特徴的。各マップは大きなエリアで区分けされており、それぞれに合ったメロディになっている。細かい部分では水中ではややこもった感じになったり、レストポイントに近づいたときには音数が少なくなったアレンジに自然と切り替わるなど、音に関してもかなりのこだわりを見せてくれる。
音楽を担当したのは「世界基準の音楽制作集団」を称するMili。数多くのアニメ楽曲や音楽ゲームに楽曲提供をしているのだが、本作にピッタリの会心の楽曲を制作してくれて感謝しか無い。
どれも良いのだが個人的に好きなのは「空気感が変わった」「物語の深くに足を踏み入れた」と感じさせる『Grudge』と、切なく美しい『North』の2曲。メトロイドヴァニアは新しいエリアに入ったときの音楽の切り替わりも楽しみな要素になるので、是非ともプレイして自身の手と耳で体験してもらいたい。
❌|多彩なスキルやレリックを使いこなしにくいゲーム性
本作の特徴として挙げていたスキルだが、20種類以上用意されているのに結局使うのは4種類程度になってしまうのがもったいないと感じた。同じくリリィ自身を強化するアクセサリーのレリックも付け替えできるが、ほとんど代わり映えしないのが残念。
これは、個人的なプレイスタイルが大きく影響しているからだとは思うが、基本脳筋スタイルで攻撃力特化が大好きなので序盤で気に入ったスキルが便利で、それ以外使わないレベルだった。レリックも同様で、攻撃力を上げるものを優先的に装備して、残りはテキトー。レストポイントでしか付け替えられないということも相まって、なかなか新しいものを試すというのも億劫になってしまう。システム上しょうがないとしても、なんとももったいなさを覚えた。
❌|難易度調整が無いため、苦手な人はとっつきづらいかも
私は2Dアクション大好きで、散々やってきたこともあって難易度は「ソウルライク」と聞いていたイメージよりかは簡単に感じた。ボスも含めて攻撃パターンはそこまで多くなく、ボス戦は大体2~3回、一番多くて5回程度チャレンジすれば攻略できる感じだった。ただ、Youtubeでのコメントなんかを見ているとかなり苦戦してる人も多いみたいで、アクションに不慣れだと結構厳しい部分もあるよう思えた。
最近の高難易度ゲームは、割とオプションで「無敵モード」のようなプレイヤー側で難易度を調整するようなものが結構あったりするが、本作にはそういったものが存在しないし、ゲーム側での難易度設定もない。レベルの概念もあるが、レベルを上げてもそこまで恩恵を感じづらい気がしたのでレベルを上げてゴリ押すというのも難しい気がした。そのため、最後までたどり着けない人も少なくなさそうなのが惜しい点だ。
💬|初回クリアは10時間、完全クリアで20時間程度
本作はマルチエンディングとなっている。参考までに、各エンディング時点での私のクリア時間を記載する。基本的に攻略情報は見ずに、クリア時点で探索できる部分はほぼ探索している状態のプレイ時間。探索で無駄に時間がかかっちゃったり、放置して他のことしてたりってのもあるけど、この程度で収まっているのはかなり良い感じのボリューム感だと思う。
🔜|次回作は発売日も決定済み!
次回作は『ENDER MAGNOLIA』。Steamでのアーリーアクセス版はリリース済みで、執筆時点で他のプラットフォームも含めた正式リリースは2025年1月23日を予定している。本作から数十年後の未来の世界となり、舞台は魔法大国「煙の国」。滅びゆく世界というキーワードがあるので、雰囲気は変わらずダークな世界観な感じだ。基本システムは本作から引き継がれつつ、不満点を改善した完全版となりそうなので今から期待大だ。ウィッシュリストへ。
⭐|メトロイドヴァニア入門編としても最適な、肌に合えば突き刺さる良作
評判通り、かなり完成度の高いメトロイドヴァニア。作品の雰囲気が暗めなので人を選ぶ部分はあるが、好みと合えば最高峰のゲームになり得る良作だと思う。個人的にはメトロイドヴァニアは『ホロウナイト』か『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』が最高傑作と考えているけど、本作もそこに届きそうなくらいの完成度であると明言しておく。
ビジュアルと音楽、ゲームとしての面白さ、全てが高水準であり、それが程よいボリュームでまとまっているという総合点が非常に高い作品。道中が厳しい部分があるのである程度アクションゲームの経験があることを前提として、メトロイドヴァニアというジャンルに触れてみたいと思ってる人には入門編としておすすめの一作。
私が特に良いと思ったポイントは浄化の演出方法。ボス級の敵との戦闘後に浄化を行うイベントがあるが、そこで必ずプレイヤーの手で浄化をさせるようにボタンを押させる。こういうのめっちゃ好きで、『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』でも最後のトリガーはプレイヤーに引かせるような演出があったけど、作中で重要なアクションをプレイヤーに委ねるというのはゲームへの没入感を高める最高の演出方法だと思ってる。
メトロイドヴァニアが好きなら絶対に触っておいてもらいたい作品になっているので、機会があったらプレイしていただきたい。PSでは2024年8月のフリープレイ対象にもなっていたので、もしかしたらライブラリに眠っているかもしれない。ぜひ。
それでは。
おわり。