令和最新版のレトロゲーム? ”あの頃”を思い出させる『Sea of Stars』で星の海を渡れ
90年代前半。スーパーファミコンが登場し、数々の名作が生まれていった。スクウェアとエニックスが2大巨頭となり、今後のゲーム業界にどれだけの影響を与えていったのかは計り知れない。
今回は、その2大巨頭が1つになることを知らない時代のゲームに非常に影響を受けた作品。
📃|『Sea of Stars』はレトロゲーム?
『Sea of Stars』は2023年8月29日にリリースされたRPG。太陽の力を持つゼイルと月の力を持つヴァレアの2人が至点の戦士に選ばれ、各地に存在する「棲まう者」を倒すための冒険に旅立つという、比較的王道な物語。開発はカナダのSabotage Studioで、過去にはアクションゲーム『The Messenger』を開発していた実績がある。KickStarterでの資金調達では目標金額の10倍以上を集金し、大成功に至った。
▲『The Messenger』のトレーラー
⭕|往年の名作を感じさせる映像や音楽や演出
本作の特徴は美しく描かれたドット絵。レトロ感のあるビジュアルだが、究極的に描き込まれたキャラクターや背景、様々なオブジェクトは素晴らしい存在感を放っている。また、序盤を進めたところで90年代からのゲーマーは「おや?」と感じることは間違いないほど、明らかに『クロノトリガー』や『スーパーマリオRPG』の影響を受けていることがわかる。これはただのパクリとかそういうものではなく、非常にリスペクトされてることがわかる上に、ちゃんと本作の特色としてシステムに組み込まれている。最新のゲームであり、名作の良さもちゃんと汲み取って昇華された「最新のレトロゲーム」と呼んでも過言ではないだろう。
⭕|フルボイスじゃないという良さ
登場するキャラクターは魅力的で、これだけ気合が入った作品ならフルボイスにしてしまいがちだが、本作はそうなっていない。そういうところからも往年の名作たちをリスペクトしていることを感じさせられる。昔ながらのタラララというような文字が表示される効果音でキャラクターが話しているような表現をしており、それぞれ音の高低で違いを付けている。懐かしさを感じる表現方法。ただ、やはりキャラクターが魅力的なので声を聴きたかった気持ちもある。
⭕|レベル上げなんていらない? 最後まで緊張感のある戦闘
RPGでよくあるレベル上げの作業だが、本作ではほぼしなくても良い仕様になっている。道中ではシンボルエンカウントとなっており、避けられる戦闘もあるがほとんどの敵と戦闘することとなる。レベルは若干上がりづらいが、個々のレベルではなく仲間全員のレベルというような概念で、経験値が貯まると全員のレベルが上がる。基本的なパラメーターアップと別に、4択(もしくは3択)から任意に1つ選んでさらにパラメーターを上げられる。
敵は1度倒すとワールドマップに出るまでは復活しないため、レベル上げするにはかなり手間がかかる。しかし、そんなことをしなくても進めることは可能なバランスになっている。むしろ、下手にレベル上げしない方が本作の戦闘をより楽しむことができるかもしれない。
レベル上げの作業が不要と言ったのは、戦術をメインに据えたシステムだからだ。敵は「ロック」と呼ばれるパネルのようなものを発現させて強力な攻撃を放ってこようとするが、従来のRPGでは防御やステータスアップなどで対策をすることが多いところを、本作では「ロック」に対応する属性の攻撃をすることで威力の軽減や攻撃自体のキャンセルをさせることができる。そのため、攻撃の順番やMPのやりくり、対応できない場合の対処が重要になってくる。脳内で攻撃順を思い描き、その順序で上手く立ち回るというのは半ばカードゲームのようにも感じた。
⭕|「秘宝」という妙案
本作では装備品とは別にゲームのシステムに影響を与える「秘宝」というアイテムがある。これはゲームの難易度をプレイヤーに調整させるようなシステムで、それはステータスをアップさせるようなものからプレイを快適にするもの、やり込み要素として難易度を異常に底上げするようなものまで多岐にわたる。多くの作品では最初に難易度を選択して、ゲーム側で調整されたバランスで遊ばせるようになっているが、プレイヤー側が調整できるというのは良いなと思った。
ちなみに「秘宝」を使用したところで特にストーリーには変化はないし、特にデメリットも無い。特別こだわりが無いのであれば有益なものは全部使用したほうがいい。一部トロフィーは高難易度化する「秘宝」を使用しないと取得できないが、関係あるのは2周目以降になるので基本的に気にしないで問題ない。
⭕|上手くできているローカライズ
海外の作品が日本で販売される場合、日本向けに翻訳される。「ローカライズ」は販売地域の文化や習慣などを考慮したうえでの翻訳になるので、モノによっては良し悪しがあるが、本作は良くできていた。担当は小川公貴で、過去には『Coffee Talk』や『Spiritfarer』も担当してた方。上手く日本語にされたゲームの用語やダジャレのようなユーモアもしっかりとしている。難しめな表現や漢字が使われたりする上にフリガナも無いので、若干雰囲気で察することになる人も少なくないのかもしれない。
💬|クリアまでの時間はそこそこかかる
本作は通常のエンディングと、クリア後に一定条件を満たすことで真のエンディングが用意されている。参考までに、私のクリア時間を紹介させてもらうと、大体50時間程度で通常エンディングまでいけて、真エンディングまではそこからプラス3時間程度となっていた。ちなみに、通常エンディングまでは攻略情報は一切見ず、自力で隅々まで探索し、クリア後は攻略情報を見ながら足りない部分を回収して真エンディングに到達した。
❌|ザコ戦すらギリギリな戦闘の大変さと面倒さ
少し前に戦闘が戦術メインと書いたが、逆にここが上手くできなかったり、攻撃パターンに対応できないタイミングが続くと苦戦が強いられる。ゲームに慣れていないと、この戦術の部分は難易度高く感じると思う。後半のザコ戦は1回戦闘が終わるたびに回復地点まで戻らないと不安な部分が多く、1回1回の戦闘が結構重い。攻撃も守備も連打だけでは時間もかかるので真面目に向き合った方がいいのだが、神経を使うので連戦になると疲れがち。もう少し楽にして欲しい気持ちと、ボス戦でのヒリヒリ感が良いという気持ちがあり、その両立をお願いしたい気持ちになった(強欲)。単純に、ザコ敵をもっとザコにしてくれたら嬉しい。
❌|作り込まれているが故に感じる不便さ
グラフィック、戦闘システム、シナリオとかなり作り込まれていて、名作へのリスペクトも十分に感じるのだけど、そのリスペクトっぷりが過ぎているのか、不便な面も感じる。その中で、個人的に感じた不便さを一部挙げさせてもらう。
移動速度が遅い
遅い。とにかく遅い。マップが複雑で、走り回ることが多いのに遅い。自分のプレイスタイルもあって、遅さをすごく感じた。おそらく『クロノトリガー』くらいの移動速度なのだろうけど、遅い。『クロノトリガー』全然記憶にないけど、たぶんそう。遅い。
マップが広い割に移動が大変
ダンジョンや街、全てが広いマップになっているけど、かなり複雑な作りになってたりするので、移動が大変。前述した移動速度の話もあって、端から端まで移動するとか、ダンジョンで取り忘れたアイテムを取りに行くとか、かなり大変。ゲーム中はワールドマップ以外のマップは特に用意されていないので、プレイヤーの記憶力でどうにかするしかないのも大変。ファストトラベル的な機能があったら嬉しかったな。
戦闘が長い
長い。前述したとおり、戦闘のシステムはよくできていて、面白さとしては間違いないんだけど、1回1回の戦闘の重さが結構しんどい。新しいダンジョンのザコ戦なんかでは結構強い敵が出がちで、戦闘が続くと疲れてくる。少なくとも、レベル差で弱い敵とかは”SMAAAASH!!”して戦闘に入らずに撃破できてもよかったのかな。
「ホイールズ」が運ゲーすぎる
本作にはいくつか細かいミニゲームがあるが、その中でもオリジナリティのあるゲームが「ホイールズ」。スロット形式のルーレットを停止させて、揃った出目によって攻撃や防御をするというようなゲーム性なのだが、戦略性と運のバランスが2:8くらいで、ほとんど運によるものが大きい。防御無視で、とにかく片側のコマを最優先で攻撃させるような出目が出るとあっさり勝てる。逆に出目次第では何度も敗北してしまう。もしかして目押しできるのかな。もう一歩技術介入できるような要素が欲しかった。
⭕|音楽が本当にすごすぎて、まじですごい
これは本当にすごい。作曲は同スタジオが製作した前作『The Messenger』でも携わったEric W. Brownと『クロノトリガー』や『ゼノギアス』などでも有名な|光田康典《みつだやすのり》の2人。まず曲数がエグい。その場面毎に合うものを細かく作ってる感じで、戦闘曲も地域によって微妙にアレンジされていたりとプレイしていて思わず唸ってしまうほど。そして、もう1つすごいのが「昼」と「夜」とで2面性があるというところ。ゲーム中では昼夜を任意に操作して謎解きをしたりするのだが、昼夜で音楽がシームレスに変化するのが面白い。昼間は陽気、夜はちょっとしっとりとした感じで、どちらもメインは同じメロディだけどアレンジが違うことでこんなにも感じ方が変わるんだなと驚かされた。
▲昼夜で違いのある曲の一例
サウンドトラックは複数バージョンに分かれており、「Solstice」がメインの曲や昼間のバージョンの曲が収録されている。「Eclips」は夜のバージョンと本編終盤あたりの曲が収録されている。「Pirate」はゲーム中に海賊が演奏していた楽曲がまとめられている。
名曲だらけだが、個人的に好きなのは後半のボス戦で流れる『Encounter Elite! v2.1』。曲名の表記からわかるように『Encounter Elite!』という曲のバージョン違いという感じで、よりエレクトロに仕上がっていてめちゃくちゃにかっこいい。ボス戦は長丁場になりがちだけど、この曲のおかげで死闘っぷりも気持ちよく、倒した瞬間にガッツポーズが出てしまうほどだった。
⭐|名作なのは間違いないが、レトロゲームに思い入れが無いとちょっと古臭く感じるかもしれない
本当によくできた作品。「インディーゲーム」という枠に収まらないほどの、ものすごいクオリティだし、影響を受けた作品へのリスペクトを十分に感じる。シリアスな場面とユーモラスな場面がいい塩梅で散りばめられており、思わず声が出てしまうこともあった。各キャラクターの魅力を自然と引き出していくストーリーテリングは素晴らしく、特にガール絡みは前のめりになりがちだった。
ただ、リスペクトが行き過ぎて不便なままだったり、古臭いと感じる部分があるのも事実。世界中を飛び回るストーリーは王道で最後まで楽しかったが、最後の最後がちょっと個人的に「うーん」と思ってしまう部分があったり、ストーリーの消化不良感もあった。
ビジュアルを見て、ピンと来た人の期待は裏切らないはずなので、気になったらぜひとも手を出してみてもらいたい。
それでは。
おわり。
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