第十七話 あなたの本当に好きなことは?
「自分に合う、かあ‥ 自分のことは、行動してみないとわからないことばっかりだなあ。」
「そうなんだよ。自分の好きなことはこれ、とか思っていたけど、行動したら違ってた!っていうこともよくあるよね。
お金をたくさん使ってようやく自分の好きなことが分かったりとか、たくさん失敗をしたからこそ、自分にとっての正解がわかってきたりとか。大切なのは、その地点から、次は何を選んで進んでいくか、なんだよね」
「失敗するのって、嫌だし怖いよね。でも進まなかったら、歳をとっていくだけ、だもんね。」
マリエさんは小さな声で言いました。
「なんか違うって感じていても、次に進んでもこれ以上良いことがない気がして、そのままにしてしまう。タカシの時だってそうだった。なんか違うって思っていたのに、この人以外に私のことを好きでいてくれる人なんて出てこないと思ってた。」
「うん。いいこともあったし、悲しいこともあった恋愛だったよね。
でも、もう、マリエさんは新しい選択をして進んでる。
マリエさんは、タカシくんとの恋愛で、自分のされたら嫌なこと がわかったよね。視点を変えると、どんなことが好きかってことも見えてくる。ワクワクするようなワンピースも買ったし、もう一度マリエさんの好きなことを紙に書き出すのもいいかもだよ。
あと、雑誌を買って、コレっていうのを切り取って、大きな画用紙にぺたぺた貼るのも楽しいよ。」
「なんか楽しそう。じゃあ本屋さんで雑誌を買って帰ろう。」
あれ、私、行動が早くなってるな。
マリエさんはそんなふうに感じながら、街で一番大きな本屋さんへ向かいました。
本屋さんの棚には、ファッション雑誌やインテリア雑誌、ダイエット、美容、たくさんの雑誌が所狭しと並んでいます。
「まず、目にパッと飛び込んできた雑誌、みてみるといいよ」
「へえー。おもしろいね」
雑誌の棚をサラーっと眺めて、マリエさんの目に留まった雑誌がありました。
それは建築の雑誌で、平屋の特集が組んでありました。
表紙は洋風の白い壁の平屋で、庭には花がたくさん咲いている写真でした。
「こんな家に住みたいな。」
マリエさんはその雑誌を手に取りました。
そしてまた雑誌の棚を眺めていくと、いつも買う働くOL向けのファッション雑誌ではなくて、
ゆったりとしたリネンのワンピースを着て芝生に寝っ転がっている女性が表紙のファッション雑誌がありました。
「楽ちんそう」
‥そんな風にマリエさんは雑誌を選び、アパートに戻りました。
いい香りの紅茶を入れて、袋から雑誌を取り出します。
合計で5冊ぐらい奮発して雑誌を購入したので、お財布はかなり軽くなりましたが、
マリエさんの気持ちはワクワクしていました。
「ワクワクって、いいよね。」
気がつくとリーくんがマリエさんの横にちょこんと座っていました。
「うん。奮発して雑誌買っちゃった。前に買ってた雑誌とか、全然買おうと思わなかったよ。不思議」
「それは、マリエさんが 本当に好きなもの を選択し始めたから、センサーの向きが正確な方向へ変わってきたんだろうね。自分が欲しいものをずっと我慢してると、センサーの感度が鈍っちゃってちゃんと働かないからね。」
「へえー、そうなんだ。なんかわかる。今はふわっとした生地の、丁寧に作ってあるような洋服がきになるよ」
マリエさんはワクワクしながらリネンのワンピースを着て芝生に寝っ転がっている雑誌をめくりました。
大きなカゴバックの中にお弁当を詰めてどこかに出かけそうなグリーンのワンピースをきた女の子や、手にスコップを持って土いじりをしているジーンズ姿の女の子。
ギンガムチェックの可愛らしいガーデニングエプロンとおしゃれな長靴を履いています。
「こんな感じがいいな。畑作って自分で育てた野菜食べたり、お弁当作ってピクニックに行ったり。」
「それが、今、本当にマリエさんが望んでいるものなんだろうね。
僕に出会った時、最初にどんな結婚生活をしたいか書き出したと思うけど、覚えてる?」
りーくんがマリエさんに聞きました。
「うん。覚えてるよ。なんか、夢の生活を書いたよね。」
「そしたらさ、今度はマリエさんが好きなもの、を書き出してみて。
書いたら、前と比べてみてよ。おもしろいから。」
「へえ。なんかの実験みたいね。おもしろそう。」
「マリエさんの口癖もなんか変わったね。おもしろそうって、よく言っているよ」
「なんかね、楽しいことはたくさんあるんだなあ、って最近思えるようになってきたよ。
不思議ね。」
マリエさんはそう言いながら、バックから取り出したノートをテーブルに広げました。
『私の好きなもの、好きなこと』
●丁寧に作ってある上質な洋服
●楽ちんで動きやすくて軽そうな普段着
●いい香りの紅茶
●自分で納得するまで探すこと
●体に良いご飯を自分に作ってあげること
●綺麗にメイクすること
●自然の中で過ごすこと
Etc‥
まだまだたくさん出てきました。
マリエさんはそれを書き出していきました。
たくさんノートに書き出して、ふと、マリエさんは思いました。
「自分を愛するってよく言われてるけど、とても小さなことなのかもしれないね。
おしゃれに生活している女の人のブログとか憧れてよく見ていたけど、自分の楽しいことや好きなことって、なんか、そっちじゃなかったんだなあ。
あ、でも、きれいなものとか、可愛いものは欲しいなって思う。 」
マリエさんは笑って言いました。
「女の子って欲張りだよねー。でも、そんなもんだよ。そんな自分もOKだなあ、みたいな感じで過ごすとなんか毎日楽ちんにすごせるよね」
「人ぞれぞれ、自分の好きなことは違うよね。私は、楽であること、と 丁寧 が好きみたい。今までめんどくさがってしなかったけど、丁寧って、好き。」
リーくんの頭を撫でながら、マリエさんは言いました。
「自分の好きが見つかってくると、婚活って楽になってくるんだよ。ここが実はポイント。
じゃあ、ハッピーウエディングクラブさんに早速電話だね。」
リーくんは気持ちよさそうに目を閉じています。
時計は17時前。
まだ電話しても大丈夫そう、と、マリエさんは早速ハッピーウエディングクラブに電話して、次の土曜日に予約を入れたのでした。