第十二話 心と体がつながるために 「ねじれ女子の婚活物語」〜38歳OL マリエさんの場合
(あー 私って、なんか、いつも、こうだよなあ。自分で自分のことがよくわかってないって、どうなのよ?)
マリエさんの、 いつもの自分責め思考です。
「マリエさんは、僕に出会う前より二キロ痩せたよね。最近はウエストあたりに余裕もあるくらいだし」
りーくんが突然言いました。
「あら、そんなところまで見てるの? うん、なんか、体が軽くなったから、前よりも気持ちも軽くなった気がする」
「自分を責めないこと。マリエさんは、何も悪くない。ほら、マリエさんは、本当に欲しいもの、一つクリアしてるよ。
その体の軽さ、気持ちの軽さ、欲しかったものでしょ?
だから、大丈夫なんだよ。欲しいと思って手が届く行動をすれば、おのずと欲しかったものにたどり着くんだよ。大丈夫だから、そのまま前だけ向いて一緒に進んでいこう」
マリエさんは体からフッと力が抜けたような感覚がしました。
自分のことを責め、体にキューっと力が入っていたのが、ゆるんでリラックスできた感じです。
気持ちもなんだか、明るくなってきました。
「そうだね。前より、前進してるよね。前は停滞してた感じだったもの。
新しいファッションビルが駅前にオープンしたみたいだし、行ってみようかな」
マリエさんは氷の溶けたアイスコーヒーを一気に飲み干すと、車を発進させました。
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駅前の新しいファッションビルは、かなりの人で賑わっていました。
マリエさんがよく利用するスタバのテナントも入っていて、マリエさんはちょっと嬉しくなりました。
入り口の自動ドアをぬけると大きなエントランスがあり、カフェスペースにカップルが座っています。
楽しそうに話をしたり、笑い合っています。
(なんか、私は不釣な場所っぽいなあ。居場所がない感じ‥なんか女の子はゆるふわで可愛いなあ。私なんかいつもの格好で、セーターがピンクぐらいで‥)
「大丈夫大丈夫。誰もマリエさんのこと気にしてないから。まずどこからいく?」
りーくんの声が聞こえました。
(誰も気にしてないって‥ 笑っちゃうけど、そうなんだよね。何を気にしてるんだろ、私)
マリエさんは周りをちょっと見渡してみました。
リーくんの姿は見えませんが、どこかで見守ってくれているようです。
(そうだなあ、まずは‥ あ、ゆきこさんがよく買ってるセレクトショップがある!)
会社の同僚のゆきこさんは、パートなのですが、いつもとてもお洒落な格好で出社してきます。
マリエさんは正社員なので制服ですが、いつもゆきこさんの私服はお洒落だなーと思っていました。
ゆきこさんに買っているお店の名前を聞くと全国展開のセレクトショップで、海外のちょっと有名なブランドのものなどもある、と聞いていました。
マリエさんは多少ドキドキしながらお店に入りました。
マリエさんの場合、洋服はほぼ通販を利用しますが、利用する理由の一つに、無理強いする店員さんがいないということもありました。
マリエさんは、断るのが苦手だったのです。
運良く他にお客さんがいて、お洒落な格好をした栗毛の店員さんは、そちらの方に接客をしていました。
(良かった。さて、何みようかな。あ、あっちにワンピースがあるわ)
レジのそばにワンピースのコーナーがありました。
落ち着いたピンク色のワンピースに目が入ったマリエさんは、それを手にとってみました。
デコルテがV字に開いていて、柔らかなシフォンがとてもきれいな、大人っぽいワンピースです。
ウエストシェイプで、スタイルがよく見えそうです。
値段の札をみると、いつも買う洋服の、プラス2万円ぐらいでした。
(プラス2万円かあ‥)
鏡の前でワンピースと自分の姿を合わせてみると、なんだか別人のように見えました。
(もうちょっと、痩せないと、似合わないな)
そんな風に思って鏡を眺めていると、店員さんがこちらに近づいてくるのが見えました。
(あ、やばい)
マリエさんは急いでワンピースを棚に戻すと、そそくさとお店を後にしました。
「買わないの?」
りーくんの声が聞こえました。
「高いし、私には似合わないよ」
「ふーん。‥なんかさあ、マリエさんは、いつもそうやってマリエさんのほんとに欲しいものをあきらめさせてしまうよね。マリエさんの中に、マリエさんを喜ばせようといつも思っているナイトがいたら、買ってあげるんじゃないのかな。」
(ナイト? ああ、りーくんがなんかさっき言ってた、不思議なお話ね‥ )
マリエさんはとりあえずスタバでお茶をすることにしました。
いつもと同じようにレジの下にあるケーキのショーケースを覗きます。
「飲み物はカフェラテと、ケーキは‥チーズ‥」といいかけて、
(ちょっと待って。私は今日は、何を食べたい? なんでも好きなもの食べていいんだよ)
と、心の中でふと自分に尋ねてみました。
すると視線は『ベーコンとほうれん草のキッシュ』に目が止まりました。
「えっと、ケーキじゃなくて、ベーコンとほうれん草のキッシュをひとつ」
スタバの店員さんは爽やかな笑顔で「かしこまりました。」と言いました。
(そう、私、ずーっとチーズケーキとかが多かったんだけど、このキッシュも食べてみたかったのよ。でもなんか、いつも迷っちゃって、だったらチーズケーキでいいや、みたいな感じで決めてたのかも‥)
そんなことを考えながらカフェラテと温めてもらったキッシュを受け取り、その美味しそうな香りは、なによりマリエさんをワクワクさせました。
外の光が入る店の奥のテーブル席に座ると、キッシュの美味しそうな香りが漂ってきます。
フォークでキッシュをそっと切り、口の中に入れます。
(美味しい‥)
「ちゃんと選ぶって、ドキドキするけど、結局ワクワクに繋がるんだよ。ちゃんと自分の好きなもの選べて良かったね。
マリエさんナイトがちゃんと叶えてくれたね」
りーくんの声が聞こえました。
「マリエさんナイト?」
マリエさんは頭の中でりーくんに尋ねました。
「うん。さっき、マリエさんがマリエちゃんの心にちゃんと聞いていたでしょう? 私は今日は、何を食べたい? なんでも好きなもの食べていいんだよって。」
「ああ、自分ナイトって、そういうことなんだね」
「うん。マリエさんの心が望んでいることを、実際のマリエさんが本気で叶えてあげること。これを意識的に続けると、ちゃんと心と体がつながってくるよ」
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