第十一話 私の本当に欲しいものは 「ねじれ女子の婚活物語」〜38歳OL マリエさんの場合
「どこにいるの?」
マリエさんはその頭に聞こえる声に、頭の中で聞き返しました。
「今はね、空の上。マリエさんのおばーちゃんと一緒にマリエさんのこと見てる」
「え、ばーちゃんもそこにいるの?」
「いるよー よくがんばった、マリエ って言ってるよ」
マリエさんはなんだか泣きそうになりました。
「ばーちゃんと私は、話ができるの?」
「それは、ちょっと無理なんだ。僕が通訳をするから、大丈夫だよ」
なんとも不思議な話ですが、そもそもリーくん自体が不思議なので、もうそっちは考えないようにしようと思ったマリエさんです。
「君のことは、たくさんの人が空から応援してる。だから、心配しないでって、ばーちゃん言ってるよ。」
「応援してくれている人、というか、なんか不思議な存在がたくさんいるってことなのね。」
「そうだよ。みんな、そんな応援してくれる存在がいるんだよ。それに気がつかないだけ。マリエさんはラッキーだね。ちゃんとそれに気がついたんだもの。だから大丈夫。まず第一関門突破だ。リラックスして、何かマリエさんのしたいことをしようよ。」
(私のしたいこと?)
マリエさんは考え込みました。
したいことって、頭にすぐには浮かびません。
いつも何も考えず、ただ仕事して、家に帰って、テレビ見て、ご飯食べて、また起きて‥
その繰り返しの毎日です。
「なんか、やってみたいこととか、欲しいものとかないの?あるでしょ?たくさん」
りーくんの声が聞こえます。
「あるけど‥ 例えば、ネイルとかやってみたいけど高いし、洋服、買ってみたいものあるけど高いし、バックも‥」
「たくさんあるじゃん! マリエさん、なんでいつも欲しくないものばっかり買うの?」
「安いから、かな。お買い得って書いてるし‥」
そういえばマリエさんは、本当に欲しいものはどうせ無理だ、私の手には入らない、という思い込みがあることに気が付きました。
「本当に欲しいものは、買えないの?」
「買えないこともないけど、贅沢かな、とか、思っちゃって‥」
「そーなんだね。うーん、あのね、自分ナイトを動かす法則って、知ってる?」
ふいにリーくんが言いました。
「自分ナイト?知らない。なあに?それ?」
「マリエさんの中にいる、男性のマリエさん、すなわちナイトを動かして、お姫様であるマリエさんの願いを叶えていく法則だよ。マリエさんが美味しいお菓子を食べたいって思ったとする。いつものマリエさんだったら、コンビニとか、安いスーパーで大箱お菓子とか買っちゃうかもしれないけど、ここを、自分ナイトを動かすんだ。美味しいお菓子を探させるんだ」
「なにそれ?自作自演?みたいな?」
「そうともいう。けれど、これはすごい効果が出てくるんだよ。自分は、自分の希望を叶えられる力があるんだ、っていうのがわかってくる。自分ナイトを成長させていくと、男性にも同じように希望を伝えていけるようになる。自分の望みを、本当のナイトが叶えてくれるようになるんだよ」
「へえ‥」
「いつも欲しくないものばかり、マリエさんがマリエさんに与えてるんだ。そうじゃなくて、自分の思いを一生懸命叶えてあげるんだよ。まあ、やってみるとわかる」
確かに、いつも一番に欲しいものは買わずに、その横にあるセールの札が貼ってあるようなものばかり買っていました。
本当に欲しいものは、いつも手に入らない。
欲しくないものばかり、山のようにクローゼットにある‥
いつしか、それが普通になっていて、欲しくないものが山積みになっていても、感覚が麻痺していたのかも、とマリエさんは思いました。
(私の 本当に欲しいものがない、という生活 は、いつからだったっけ‥?)
「何が、欲しい?」
りーくんの声が聞こえました。
「婚活に着ていく、洋服かな」
マリエさんはすぐに答えました。
「じゃあ、今からそれを見に行こうよ」
りーくんのはずんだ声が聞こえました。
(婚活に来ていく洋服かあ‥ 欲しいなあ~って思ってるお店の通販ページは見てるけど、買ったことないなあ‥)
「いつも見てるだけって、どうして買わないの?」
「どうしてだろう。自分でもわからないの。理由が。
全く買えないわけでもないのよ。すっごく高いわけでもないのに。
お店に入って、店員さんが近づくと逃げちゃう。で、結局店員さんが寄ってこないようなお手頃な価格のお店で買うのよ」
「そうなんだね。じゃあ、本当に欲しいもの、ってなんだろうね?マリエさんにとって」
「本当に欲しいもの、かあ。そもそも、本当に欲しいものって、なにかもよくわかってないかも‥」
マリエさんはりーくんの質問に答えながら、考え込んでしまいました。
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