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第十四話 自分が居心地の良い結婚相談所とは? 「ねじれ女子の婚活物語」〜38歳OL マリエさんの場合

「えー、ほんとに?マリエさんだったら、サークルとか、なんか合コンとかがあれば全然大丈夫だと思うよ。
焦らなくても大丈夫だよ。まだいろんな人と会って、その中から決めればいいじゃん」

「いやいや、この間説明を聞きに行ったんだけど、もうほんとに、私の年齢だと婚活市場的には厳しいんだって。
すごくリアルにおしえてもらったのよ。」
「婚活市場?なにそれ?? えー。でもマリエさんがそんなのだったら、私なんかどうなるの?」
ゆきこさんはおかずの卵焼きを箸で挟んだまま動けないようです。
結構ショックを受けているのがわかりました。

「うーん、なんとも言えないっていうか‥興味あったら、ゆきこさんも聞きにいくといいかもよ。」

「結婚相談所って結構高いでしょ。いくらぐらいかかるの?」
ゆきこさんが詳しく聞いてきました。
興味がとてもあるようです。

「いろんなコースがあるみたい。他の相談所もいろいろ検討して、一番いいと思ったところに入るつもりなんだ。」

「そうなんだ。また詳しく教えてよ。あ、そういえば、今度本社から山本部長がパート社員の更新面接にくるんだって。」
ゆきこさんはようやく卵焼きを口に入れ、モグモグと口を動かしながら言いました。

「へー、そうなんだ。そっか、パート社員は半年更新だもんね。ゆきこさんは長いから社員みたいだけど」

「うん、女性キャリアのトップだもんね。かっこいいよね。なんで結婚しないんだろうね。」
ゆきこさんの言葉で、マリエさんは、美人でやり手な山本部長を思い浮かべました。

年齢は50歳ぐらい。
長い黒髪に、いつもビシッとスーツを身につけて、テキパキと男性社員にも指示をする女性幹部です。
ずっと独身で、会社に身を捧げている人だと男性社員が話しているのを聞いたことがありました。

「そういえばさ、昨日のドラマみた? 展開がやっぱり、って感じだよねー。‥‥」
ゆきこさんが人気恋愛ドラマの話をはじめたので、お昼休みはその話で締めとなりました。

その週の土曜日。
マリエさんは予約をしていた結婚相談所に出向きました。
いくつか支店がある相談所です。
料金が安いのが魅力的だと感じたマリエさんでした。

街中にあるビルの二階で、明るい雰囲気のオフィスです。
入り口にはウエディングドレスがディスプレイしてあります。

(ドレスかあ‥)
そんな風に思いながらマリエさんはドアを開けて中に入りました。

「こんにちは。予約していた者ですが‥」
と受付の若い女性に話しかけると、

「あ、はい、お待ちしておりました。担当の田口です。」
と受付の女性が笑顔で立ち上がり、
「そちらのお部屋へどうぞ」
と、マリエさんを促しました。

(若いなあ‥! 20代かな?)

可愛らしいピンク色のソファに座り、テーブルの上に置いてあった【幸せいっぱいBOOK】という冊子をペラペラとめくっていると、コーヒーを持った先ほどの田口さんが入ってきました。

「本日は、お越しいただきありがとうございます。」
笑顔で可愛らしい田口さんは丁寧に挨拶をして、マリエさんの前に座りました。

資料の上においてある左手の薬指には結婚指輪はありません。

「今日は、入会というよりも、いろいろお話を伺いたくてきました」
マリエさんは先日のハッピーウエディングクラブで言ったことと同じように田口さんに伝えました。

田口さんはにっこりとして、資料をマリエさんの目の前に広げました。

そこには「会員同士のイベント盛り沢山」というタイトルと写真や、「婚活パーティー開催」などの内容が記載されていました。

その記事をマリエさんが読んでいると、
「最近、バーベキューもしたんですよ。これは社内で作っている会員様用のフリーペーパーなんですけど」
と、田口さんが遠くから撮影していて顔がわからない状態でバーベキューを楽しんでいる写真が大きく掲載されたA4サイズぐらいのフリーペーパーを差し出しました。

「会員さんは、若い人が多いんですか?」
とマリエさんが聞くと、
「そうですね、20代から30代の方が多いです。うちはイベントが多いので、そこで仲良くなって、っていうのも結構あります。婚活は平行してお付き合いすることが可能でもあるので、最初から一人に絞らず、何人かと平行してお付き合いして決める方が多いです」

「平行して、ですね‥」
マリエさんがボソッと言うと、
「大丈夫ですよ。きっといい出会いがあります。」
と、田口さんは笑顔で言いました。

「田口さんは、まだご結婚されてない、ですよね?」
「はい、そうなんです。でもこの仕事がとっても好きでやりがいがあります。あ、では、うちのシステムとかいろいろ、ちょっとだけご説明しますね。」
そう言って、田口さんは資料をみながらマリエさんに説明をはじめました。

(丁寧な感じはするんだけど‥ここは、なんか、違う気がする。まず結婚していないカウンセラーさんで私より若いっていうのは、なんとなく、恋愛迷子の私にはちょっと厳しい‥)

田口さんは笑顔のとても素敵な方でしたが、なんとなく違和感を感じたマリエさんでした。


「是非、ご検討よろしくお願いいたします。不明な点は、なんでもお電話で聞いてくださいね」

玄関先まで出迎えてくれた田口さんにお礼を言って、マリエさんは階段を降りました。

「エレベーター使わないね。えらい!」
りーくんの声が聞こえました。

「階段は運動になるからね。うーん‥ここは、合わない感じがしたかな。担当の方は良い方だったよ」
リーくんと頭の中で会話をしながら、マリエさんは階段を下りてビルを出ました。

自分に聞くようになってくると、なんとなく、自分の感覚を信頼してもいい、信頼した方が上手くいく、というような感覚がマリエさんの中にありました。

「まちブラしようかな。スタバでも行こうかな」
マリエさんは頭の中で独り言です。

「この間洋服見に行ったところも歩いていけるんじゃない? ちなみにさっきのところは、どんなところが合わなかったの?」
りーくんがマリエさんに尋ねました。

「なんか、まだ結婚に余裕がある人が行く感じ、だった‥言葉にすると‥」

担当の若い田口さんはまだまだ恋愛に夢見ている感じもあり、見せてもらった資料の写真は若い男女の大学のサークルみたいな感じだったのでした。

「うん。そうだね。年齢層が若い相談所だったよね。マリエさんはそこに入会したら年齢的に苦戦する感じ、かな。」
りーくんが言葉を選んでマリエさんに伝えてくれているのがわかりました。

「うん。自分のことを大切に扱ってくれるところに、私は入りたい。」
自分を大切にしてくれる場所。これが自分が望んでいる場所なのだ、とマリエさんは思いました。

「そうそう。マリエさんが無理しないでいい場所。気軽になんでも相談できる人がいるところ。そんなところを探そう。
明日は大手の相談所に行くんだったよね。今日はゆっくりスタバだね」

「明日も街中だけどね。そうね、この間行ったビル中のスタバに行こう。もう一回洋服もみたいし。」
マリエさんは先日行ったファッションビルにとりあえず歩いていくことにしました。
ここから約15分ほどの距離です。

マリエさんはまた、あのシフォンのワンピースを思い出していました。

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